第57話 死徒顕現
俺はもう少しで2人の姿を視界に捉えられるというところで急激な戦況の変化に立ち止まる。
「なんだ…?エマの魔力がリーよりデカくなった…?」
しかも前より全然強ェ感じがビシビシ伝わってくる。
リーは城門のとこまでぶっ飛ばされたっぽいな…
俺は再び駆け出す。
そして大通りに出るとモミジがへたり込んで城門の方をボーッと見ていた。
「おい、何があった。」
「…ハッ!リューゴ殿!無事だったか!!」
「俺が負けるわけねェだろう。」
「確かに!いやそれよりもエマがすごいのだ!!」
「やっぱりありゃァエマなんだな。」
城に向かって大通りの真ん中を悠然と歩く白い長髪の女、周りに白い雷が踊っている。
「ああ、リーに殺されかけた瞬間にあのような姿になった。」
俺はリーが羨ましくて仕方なかった。
この目で見てハッキリ分かった、今のエマは守護龍より強ェ…!!
「(リューゴ殿嬉しそうだなぁ…)」
「とりあえずエマが勝ちそうなんだな?」
「いや、あれ程の力だそう長く維持できるとは思えん。」
「…一応手伝いに行ってやるか。」
そう言って俺はエマの背中を追うように門に向かって歩き始めた。
ーリーsideー
「ッハァ!!」
瓦礫の山の中で目を覚ます。
…俺は気絶していたのか…!?
「(有り得ん…!一体なんだあの力は!?)」
俺はあちこちが痛む体に鞭打って立ち上がる。
「チッ…左腕は折れてんな…」
黒纏で覆ったにも関わらずこのダメージか…
さっきまでアイツは明らかに俺より数段格下だった。
それがどこでスイッチが入ったのか姿が変わり急激に強くなった。
「クソッ…なんの悪い冗談だ…!!」
「生きてましたか、直撃だったと思ったんですけどね。」
俺の背後から声がする。
俺は急いで距離をとろうと地を蹴る。
「ダメですよ、アナタは逃がしません。」
またしても背後から声がする。
そして次の瞬間背中から突き抜けるような衝撃が走る。
「ゴハァ!?」
俺は何度も地面をバウンドして再び瓦礫の山に埋もれる。
「クククク…とんでもないな…お前…」
瓦礫を吹き飛ばして立ち上がる。
今の一撃で内臓もいくらかイッた、このままでは俺が勝つのは絶望的…か。
「まだ何か手があるような口振りですね。」
女は構える、するとそれに呼応するように纏う白い雷が激しさを増す。
「これは禁呪の一つだ…この呪いを発動すれば俺は死ぬ。だが、俺が死ぬまでにこの国は地図から消える。クククク…さぁ…足掻いてみせろよ。」
そう言って俺は黒纏で右手を覆うと自分の心臓に手を突き刺した。
「何を!?」
「ゴボッ…カッカッカ…お前らの苦しむ姿を拝めないのは遺憾だが、絶対に生かしては帰さん。【禁呪・死徒降臨】…!!」
俺の心臓をから全身に黒い痣のようなものが広がっていく。
「ぐああアアアア!!!!」
全身が灼けるように痛い、細胞の全てが沸騰しているようだ。
さすが禁呪の中でも秘中の秘…意識が…もう…
ーside outー
ぶっ壊れた門を抜けて城の中庭に入る。
エマを見つけるが何かを食い入るように見つめている。
俺がエマの視線を追うとそこには黒い繭のようなものがあった。
「…エマ。」
「リューゴさん!ご無事で何よりです!」
「そりゃこっちのセリフだ、よく耐えたな。」
そう言って頭をポンポンと軽く叩くとエマの変身が解け、膝から崩れ落ちる。
「おっ…と…」
「す、すみません…流石に限界でした…」
やっぱり時間制限付きの力か…けどこの力を自由に使えるようになりゃァ…ハッハハハ、将来が楽しみだぜ。
俺はエマを脇に荷物のように抱える。
「で、ありゃァなんだ?」
俺は黒繭の方を顎で指す。
「私の持ち方に多少不満がありますが…ま、今はいいです。…リーが自分の手を左胸に突き刺したと思ったらアレになりました…」
「てことはありゃリーか…?」
「い、一応…」
俺はエマを中庭の隅に座らせる。
「ここで見てろ、すぐに終わらせてやる。」
俺は黒繭の目の前に立ち拳に黒纏を纏う。
そしてそのまま拳を振り下ろした。
「ま、待て待て待て!!!」
黒繭に拳が当たる直前で止まる。
声の方に顔を向けると城の上の方の部屋からヒョロガリのなよっちい奴が顔を出していた。
「あァ?」
「貴様らここを何処だと心得ている!!ここは我が城!!将軍である俺の城だぞ!?!?」
コイツが現将軍カゲミツ…だったか?ってヤツかァ…反吐が出るほど弱ェじゃねェか…
俺がそんなことを考えているとモミジが追い付いてきた。
「俺の城だと…!?貴様よくもぬけぬけと…!!!!」
「ひっ!?な、何故貴様が生きている!?テミスは!?リーは!?三武将はどうしたのだ!?!?」
「生憎全員喰っちまったよ。」
俺はそう言って獰猛に笑う。
「ひいいい!?そ、そんな馬鹿な…く、くそっ!曲者だ!!みなそ奴らを斬り捨てい!!!!」
そう言いながらカゲミツは何やらハンドベルのようなものを鳴らす。
するとワラワラと侍が現れ、刀を抜いて構える。
正直侍たちの目は戦意があるとは言えないものだった。
「……おめェら今退けば見逃してやる。」
「な!?舐めるな!!我らは武士ぞ!!後退など有り得ん!!!!」
「大層ご立派だが…刀は脅しの道具じゃねェぜ?」
俺がそう言って魔力を放つ。
魔力の奔流は次々と侍たちの意識を刈り取っていく。
出てきた侍たちはみな気絶してしまった。
「戦意も無けりゃ実力もねぇじゃねェか…」
「ひぃ!?そそそそんなぁ!?!?」
あのバカ殿…ホントにどうしようもねェヤツだな…
俺は鬼哭を取り出して振りかぶる。
「【怒屠滅鬼】…!!」
雷と黒纏を纏った鬼哭を城に向かってフルスイングした。
瞬間、城の下部が粉々に吹き飛び城が傾く。
その衝撃でカゲミツが落ちてくる。
「ああああああ〜〜!!!!」
俺は着地寸前で襟首を掴み、そのままモミジの前に放り投げる。
「うげっ!」
「貴様ァ…父上の仇!!今こそ!!!」
「うわあああ待て待て待て!!!」
カゲミツは顔を涙と鼻水でグシャグシャにして必死に逃げ回る。
「何を今更!!見苦しいぞ潔く死ね!!!!」
「あの計画を考えたのは俺じゃないんだよぉ!!!」
「は…!?」
その一言でモミジが止まる。
こりゃァ驚いたな…誰がなんの目的でそんなことを…
「俺は元々貧民の出で贅沢な暮らしができるってんでその話に乗ったんだよ…でも蓋を開けてみりゃお家転覆の国盗りだったんだ…気付いたのが将軍様が殺されちまった後でよぉ…」
「…嘘はついてねェ。」
「ッ!!……お前が首謀者ではないと言うのは分かった。」
カゲミツはそれを聞いてホッとする。
「だが将軍の座は降りろ、お前に為政者の才は無い。」
「分かったよ…でも次の将軍に誰を指名すりゃいい?」
「……私を指名しろ、前将軍の娘である私なら納得もできよう。この荒れた国を再び立て直すのにお前も力を貸せ。」
「へ?…良いんで?」
「お前が国を腐敗させた罪は死罪では生温い、一生身を粉にして働け。」
「よ、喜んで手伝わせてもらいまさぁ!!」
そんな話をしているとパキリと何かが割れる音がした。
「あァ〜忘れてたぜ…」
俺は黒繭の方を振り返る。
すると黒繭に入ったヒビがどんどんと広がっていく。
「おめェら死にたくねェなら下がってろ。」
俺がそう言うとモミジは即座にエマのそばに走り寄り、カゲミツも情けない声を上げながらモミジの後を追った。
繭が割れ中からドス黒い魔力が溢れ出す。
そして繭裂いて中からリーだったものが現れる。
紫の鱗のような肌、黒い眼に赤い瞳、頭に1本の黒いツノ、そして尻尾。
そこには一体の悪魔が立っていた。




