第55話 狂気の槍
ーエマsideー
城へ向かう途中私は常に緊張の糸を張り詰めていた。
何もない、なんてことは有り得ない。
相手は東の大国ヤマトの現武将擁する三武将…リューゴさんが負けることは無くてもきっと何か動きはあるはず…
「ッ!!きた!!!!」
私は少しの揺らぎを感じた。
何かが真っ直ぐこちらに向かってくる…それも物凄い速度で…!!
建物を縫うように向かってくる炎の龍の姿が見えた。
「な、なんだあれは…!?」
モミジもかなり慄いている。
私も内心はビビりまくっている。
でも…
「リューゴさんに任されたんだ…!!やってやります!!【雷霆・纏】!!!!」
全身を雷の魔力が覆う、これが私が『雷神』と呼ばれるようになった所以の魔法だ。
私はモミジを巻き込まないためにあえて龍と距離を詰める。
『グルルルアアアア!!!!』
「!!」
この魔法意思がある!!
一体弓将はどれだけ膨大な魔力と緻密な魔法を練ったんですか!!?
私は手に雷の魔力を収束させる。
「【雷牙】!!!!」
雷の魔力を相手の中に放出する正拳突き、正直魔法で作られた龍に意味があるのか分からないけど…やれることをやるしかない!!
真正面から私の拳と龍がぶつかるがテミスの放った魔法は予想以上に強力だった。
私の拳を受けてもまるで勢いが衰えず、モミジの元へ向かおうとする。
「くっ!【電磁網】!!!!」
私は搦め手に出た。
普段なら絶対使わない行動阻害系の上級魔法を発動させる。
雷で形成された網を龍の前に幾重にも張る。
炎の龍はそれすれ食い破って突き進む。
マズイ…!!この速度ならもう5分もしないでモミジまでたどり着く!!
嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!
「もう…形振り構っていられないですね。」
私は移動に専念して龍の前に先回りする。
もう後ろにはモミジの姿が見える、モミジは私の方を見て意を決したように腕を組んで仁王立ちしている。
そんな姿を見せられたら…意地でも応えたくなるじゃないですか…!!!!
「【神雷女帝】!!!!」
私に極大の落雷が落ちる。
そしてそれは私に纏うように収束していく。
「……美しいな…」
後ろでモミジのそんな呟きが聞こえた。
雷の全てを吸収、纏った私の姿は大きくスリットの入った雷のドレスに雷の籠手、そして雷のブーツと…ツバの広い雷の帽子を被ったおおよそ戦場に似つかわしくない貴婦人の姿になっていた。
「私は『雷神』の二つ名を賜ってますけど…実はもう一つの二つ名、いえ三つ名を持ってるんです。」
炎の龍が迫り来る。
私は右手の人差し指と中指を立てて龍に向け、銃を構えるかのように左手を添える。
「【雷滅砲】。」
指先から放たれるのは私はおろか龍すら呑み込む程の巨大な閃光。
真正面から龍を打ち破り外れにある山すら吹き飛ばした。
私は指先をフゥっと吹いてモミジに笑顔で振り返る。
「【雷の貴婦人】って呼ばれてます!」
「す、すごいな…」
私は『雷霆モード』を解除するとモミジに走り寄って頭を下げる。
「すみません、この大通りを使って民家を巻き込まないようにしましたけど…」
私はそう言って地面を抉り山を吹き飛ばした痕跡をチラリと見る。
「ふふふ…あははははは!!気にするな!!討ち入りが成功した暁には全て不問とする!!」
「ホントですか!!なら余計に頑張らないとですね!!」
「その必要は、ない。」
「ッ!?」
瞬間、私はお腹に痛烈な衝撃を感じて吹き飛んだ。
「エマ!!」
「ほう、咄嗟に魔力纏衣で受けたか…存外やる。」
「ゲホッゲホッ…アナタが…槍将リーですね…?」
男を見やると身の丈を軽く超える槍を持っている。
そして全く気配を感じ取れなかった今の攻撃…間違いなく私の人生の中でリューゴさんの次に強い…!!
「如何にも、俺が槍将を賜っているリー・フェイロンだ。」
「門番さんが門から離れて良いんですか?」
「フッ…先程の巨大な雷の光線を目の当たりにしては様子見に来ざる負えんだろう?」
しまった…まさか門からここまで来ると思わなかった。
「もしかして用があったのはリューゴさんに…ですか?」
するとリーの眉がピクリと動く。
「まぁ単刀直入に言えばそうだ、先程の雷撃ももしかしたらと思ってここまで来ただけだ。」
「アナタは現将軍がどうなろうと知らない、と?」
「ああ、むしろ是非頑張って欲しいくらいだな。復讐の先達として応援しているよ。」
「なら、通してくれるのか!?」
モミジが大きな声を上げる。
「いや?それはできんな。将軍の首を取ればリューゴが俺と戦う理由が無くなってしまう、それはダメだ。」
その時のリーの目を見と異様な雰囲気を見て私とモミジは一歩下がる。
「故に、お前たちを相手する必要は無いんだが…あ、そうだ。」
リーは思いついたように声を出すと私たちを見比べて私の方を見据えた。
「お前はリューゴのコンビだったな。お前を殺せば俺が国から追われた絶望の万分の一でもリューゴに味わってもらえるかな?それにお前を殺せば俺と戦わざる負えないだろう?」
そう言ってリーは濃密な魔力と殺気を放った。
ーside outー
俺はエマの攻撃を見たあとしばらく横になっていたが、ゆっくりと起き上がり瓢箪を傾けて酒を飲み干し、勢いで瓢箪を投げ割る。
「よし、いくか。」
そう言って合流しようとした瞬間、濃い魔力と殺気を感じ取る。
「クソッ!リーが動いたのか…!?」
俺は急いで駆け出す。
死ぬんじゃねェぞ2人とも!!!!




