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第52話 覚悟

作戦会議が終わってからモミジはずっとグルグル部屋を歩いている。


「おい、やめろみっともねェ…」


「うっ、すまない…どうも落ち着かなくてな…」


「気持ちは分かりますよ。」


エマは苦笑しながらフォローを入れる。


「もう決めたんだろ、ならオドオドすんな腹括ってどっしり構えてろ。」


「そう、だな…その通りだ…ありがとう、もう大丈夫だ。」


俺は徐に立ち上がって窓を開ける。


「…?どうしたのだリューゴ殿。」


そして次の瞬間俺の手には矢が収まっていた。


「なっ!?」


「弓将ですか…!?」


「多分な…ま、今日はもう何もしてこねェよ。」


「何故分かる…?」


「コイツは挨拶みてェなもんだ、どうやら弓将とやらはかなり自分の力に自信があるらしいなァ…!!」


俺は意図せず獰猛に笑う。


「あ、弓将終わりましたね。」


「リューゴ殿をやる気にさせてしまったか、南無三…」


コイツら急になんだ…?


「エマ、リーは強ェぜ。」


「承知の上です、拳王とまで呼ばれた男ですからね。」


「リューゴ殿は戦ったことがあるのか?」


「2回ある…が、2回目はアイツが本調子じゃなかったからなァ…それに槍も使ってなかった。」


「何故ここに来て槍を…?」


「もしかしてリューゴさんを意識してるんですかね?」


「さぁな、もっと強くなってくれてりゃ御の字だぜ。」


俺はニヤリと笑う。


「いずれにせよ、明日で全てが終わる…頼むぞ、2人とも!」


「任せてください!」


「バカ殿も強けりゃいんだがなァ…」


そう言ってお開きになり各々の部屋に戻る。

俺は窓の外から天守閣を眺めていた。

正確には()()()()()()()()()()()を眺めていた。


「随分と熱烈なアプローチしてくるじゃねェか…!」


俺は口角が上がるのを抑えきれなかった。

俺は瓢箪の中身を一気に飲み干すと窓を開けたまま眠った。


まるで()()()()()()()と言わんばかりに。


ーテミスsideー


「私の【不可視の矢(インビジブル)】を掴むなんて…噂以上にデタラメな男みたいね。」


天守閣の上から不可視の矢で狙撃するもあえなく失敗、しかも私の居場所までしっかり把握されてしまった。


「身体能力に胡座をかいてる手合いなら感知は疎かになるはずなんだけど、どうも強さに貪欲なタイプみたい……厄介ね。」


あ、窓開けて寝ちゃった…

ホントに大胆不敵を絵に書いたような人ね。


「ふふ…明日が楽しみよ…鬼神さん。」


そう言って私は唇に指を這わせ、熱っぽい視線をしばらく送っていたが一応の上司であるカゲミツ様に報告するために城の中へ入る。


「ただいま〜。」


「おお!戻ったかテミスよ!して…どうだ!?勝てそうか!?」


「まぁやれるだけのことはやってみますよ。」


「そうかそうか!頼むぞ!それで〜どうだ?ずっと袖にされ続けておるがそろそろ余の夜伽に…」


「すみません、明日のために集中力を高めておきたいので〜!」


私はそう言ってそそくさと部屋を出た。

まったく…男はなんでみんなああいう下心丸出しで近付いてくるのかしら?

あれじゃ下半身を露出して迫ってきてるようなものじゃない。

そんなのお猿さんと一緒じゃないの。


「はぁ…撃っていいなら今すぐ撃ってるのに。」


幸いなことにイゾウくんとリーはそういったことに無頓着なようで2人とも私がいようがいまいが常に模擬戦をしてた。


「そう言えばイゾウくんどうしたんだろ…?ま、いっか!別に死んでたら死んでたでも。」


私はそう言って明日の戦いに胸躍らせ、鼻歌を唄いながら誰もいなくなった通りを歩いた。


ーside outー


朝になり俺たちは討ち入りの準備を進めていた。

モミジは緊張した面持ちで武器の手入れをしている。


「……」


「モミジ、大丈夫ですか?」


「!」


「酷い顔してますよ、ちゃんと寝れてないのでは?」


「ああ…すまない、いよいよだと思うと寝付けなくてな…」


「そんな状態だといざという時大変ですよ。」


「分かってはいるんだ…頭ではな…」


「無理を承知で言いますが、危険だと思ったら下がってください。」


「……善処する。」


俺は2人のやり取りを聞きながら窓から天守閣を見ていた。

今はテミスの姿は無いが、あそこからこの窓に向かってピンポイントで矢を射るのにとてつもない技量が必要なのは想像にかたくない。


「近寄らせねェ戦い方か、それとも近接もこなせるヤツか…楽しみだぜ。」


俺はテミスの戦い方を考えてニヤリと笑う。


「リューゴさん、モミジのコンディションは最悪です。気にかけてあげてくださいね。」


「知らねェな、これはアイツが望んだ戦いだろうが。手前(てめ)ェのケツも拭けねェようなヤツが復讐なんぞするんじゃねェ。」


「それは…!そうなんですが…」


「………チッ…死なねェ程度にお守りはしてやる。」


「!!ふふ、ありがとうございます。」


エマは嬉しそうに微笑む。

ったく…調子狂うぜ…

俺は武器の手入れを続けるモミジの元へ向かう。


「おい、モミジ。」


「?」


「おめェが道半ばで死なねェように見といてやる、だが戦いに手は貸さねぇ ェ…カゲミツはおめェがやれ、いいな。」


「!!…願ってもない!感謝する…!!」


「それとだ…いい加減腹ァ括れ、もうおめェだけの戦いじゃねェ。俺たちにも背負わせろ。」


「!!」


「エマ、俺ァメシ食いに行ってくる。」


「はい、お気を付けて!」


「リューゴ殿!!」


モミジは立ち上がって俺を呼び止める。

俺は立ち止まるが背中を向けたままモミジの言葉を待つ。


「ありがとう…!!」


「フン、全部終わった後に取っておけ。」


俺はそう言って宿を出ていった。


そして通りに来るとあの親子の店に入る。

朝イチのせいか客は俺以外にいねェ。

席に着くといつものように大量に注文をする。

オヤジは俺を見て、何かを察したのか何も言わずに台所に入る。

しばらくして、大量の料理が俺の前に並ぶ。


「あの!」


そして俺がメシを食っていると娘が意を決したように声をかけてきた。


「あ?」


「今日、何かなさるんですか…?」


「…どういう意味だ?」


「い、いえ!なんかよく分からないんですけど…今日のお兄さんの雰囲気見てると何かピリピリしてるというか…」


…モミジの目も当てられねェ姿を見てイラついてたか?

それを気取られてビビらせちまったか。


「…今日の夜、将軍の首を取りに行く。」


俺はメシを口に運びながらなんでもないように言う。


「はぁ…将軍様の……え!?」


「オヤジに話すのは構わねェが他はやめろ。」


「い、言えませんよぉ!!と言うよりなんでアタシに話しちゃったんですかぁ!!!」


娘は涙目で抗議してくる。


「ハッハハハ、それだけおめェらのことを気に入ってると思っとけ。」


「複雑です…」


「…おめェ名は?」


「今更過ぎる…コホン、キクって言います、父はトウジです。」


「覚えとくぜ、俺ァリューゴだ。」


「お連れの方が呼んでらしたんで知ってますよ。」


「この店に迷惑はかけねェ、将軍の首取ったらまた寄らせてもらうぜ。」


「ならそういうことこの店で言わないでくださいよ…」


呆れたように言うキク。


「ハッハハハ!違ぇねェな。」


俺はいつもよりゆっくり味わいながら、決戦前の最後のメシを楽しんだ。

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