第51話 最後の作戦会議
どうやら俺がイゾウと遊んでる間に情報を仕入れていたらしい。
エマとモミジが城の見取り図を広げる。
「ここが正門、ここが裏門、そしてここが大広間だ。」
「…将軍の寝室のような場所はないんですね?」
「いや、ある…だが父上を亡き者にした後に寝室の場所を移したらしい、そしてその場所を誰も知らんのだ。あるいは三武将の誰かなら知っていようが…」
「…イゾウはバカ殿のちゃんとした部下じゃ無かったぜ。ただ強ェヤツと戦いたいがために手を貸してただけだってよ。」
俺は背中から聞こえる会議に横槍を入れる。
「そうか、それなら………ん?」
「…リューゴさんなんでそんなこと知ってるんですか?」
「さっき外でバッタリ会ってな。」
「そんな久々の友人に会ったからみたいなノリで敵の幹部と戦わないでくださいよぅ…」
「まったくだ、それでイゾウはどうしたのだ?」
「さぁな、顔面に鬼哭を全力で振り抜いたから運が悪けりゃ死んでるだろうな。」
「それで生きていたならもはや笑うしかないな。」
「でもとりあえず三武将の一角を落とせたって認識で良いんですよね?」
「ああ、俺とアイツのケンカは終わった。これ以上余計な茶々は入れてこねェだろ。」
「それは重畳、後は弓将テミスと槍将リーか…」
「弓が厄介ですね〜…私たちの中で飛び道具持ちいませんもんね。」
「遠くからチマチマ撃ってくるようなヤツとはやりたくねぇなァ…絶対つまらん。」
「しかし現状テミスに対抗できるのは尋常じゃない防御力を誇るリューゴ殿くらいだぞ。」
「………」
「そんなに嫌そうな顔をしないでくれ…」
「そうですよリューゴさん、私とリューゴさんで残りの二武将を討ち取ったら本丸を落としたも同然なんですから。」
「わァったよ…」
俺は渋々了承し寝転がった。
「よし、これで弓将は落ちたも同然だな。」
「勝手言いやがる…」
「モミジも段々リューゴさんがどういう存在か認識できてきたってことですよ。」
いやどういう意味だよ…とは思ったがおおよそ予想がつくので口には出さなかった。
「残る槍将リーの相手をエマに頼むわけだが…いけるか?」
モミジが心配そうに尋ねる。
エマは自分の拳を見つめギュッと握る。
「リューゴさんの仲間として、そしてモミジの友達として、今回の戦いに勝たねばならない、なら勝ちますよ。」
エマはそう言ってニヤリと笑った。
「…ふっ、頼もしいな。」
「俺のために残しといても良いぜ。」
「リューゴさんが来る前に終わらせてみせます!!」
「フン、言うようになったじゃねェか。」
「よし、ならば明日の討ち入りの作戦の第一目標は残る三武将2人の撃破、そして後に裏切りの将軍カゲミツの首を取る!!」
俺とエマはそれを聞いて頷く。
さて…弓将テミス、多少は粘ってくれりゃァ良いがなァ…
ーリーsideー
俺は『ノアの方舟』の件を国に報告した結果、国を追われた。
こうなることを予想してなかったわけじゃない。
だが、これまで国のために冒険者として、そして拳王の名を持つ英雄として尽くしてきたつもりだ、もしかしたらチャンスを貰えるかもしれないという淡い期待をしていた結果がこのザマだ。
今俺の目の前にはヒョロ長く病気のように色白で蒼白な男が苛立ちを隠そうともせずに怒鳴り散らしていた。
「イゾウはどこをほっつき歩いておるのだ!?俺の守護が一番重要な任であろうが!!!!」
そう言って周りの物に当たり散らす。
…こんなのが将軍か…確かに行く宛ても無く野垂れ死ぬしかなかった俺を助けてくれた恩はある…が、この男カゲミツは知れば知るほどクズだった。
聞けば根無し草だった己を拾ってくれた前将軍を謀殺し、今の地位を手に入れたと言うではないか。
そして今は前将軍の忘れ形見である娘を消そうと刺客を向かわせるもあえなく失敗、イゾウもどこかに消えた。
恐らくイゾウは負けた…と思う、あの化け物のような男に…
カゲミツがこれだけ取り乱しているのは前将軍の娘が己の命を狙っているからという理由ではなく、その娘のそばに望外の怪物が控えているからだ。
『鬼神リューゴ』…今やその名は海を越えたこの地にも轟いている。
そして俺の人生を狂わせた張本人…
「…珍しいわね、貴方が感情を見せるなんて。」
俺の斜め後ろから鈴を転がしたような声がした。
気付かぬうちに俺は膝の上に置いた拳をキツく握り締めていたようだ。
「俺とて人間、憤ることもある…」
弓将『一射必中のテミス』、エルフの里から抜け出し弓の腕を磨くうちに人を射抜くことに快感を見出してしまった狂人…か。
「憤る?カゲミツ様に?」
「…忌々しい過去を思い出しただけだ。」
「あらそう…ふふ、今の表情の貴方の方が素敵よ?」
「黙れ…!」
「まぁ怖い…さて、私はそろそろお仕事に行ってくるわね。」
「…しくじるなよ。」
「誰に言ってるのかしら?私の弓は外れないわ。」
テミスは語気を強め目が鋭くなる。
カゲミツの前ではいつも猫を被っている…女狐め。
テミスは未だ癇癪を起こし荒れ狂っているカゲミツを一瞥して天守閣へ登って行った。
「…一射必中、か。」
聞いたことはある、エルフの中に寸分違わずありとあらゆる物を射抜ける天才がいると。
その噂も数年前の話、あの女はエルフでありながらまだ20そこらの年齢だろう。
エルフで言えば赤子も同然だ、故に精神が未熟…それが吉と出るか凶と出るか…
「はぁ…はぁ…はぁ…」
カゲミツの癇癪がひと段落ついたようだ。
「殿、僭越ながら申し上げる。そこまでお怒りになることはないかと、私とテミスだけで十分です。」
「ふ、ふふふ…ふふ、そうであったな、余にはお前達がおる、イゾウがおらずともなんとでもなる。あの小娘もそれに付き従う山猿どもも取るに足らぬわ!!」
なんとも調子の良い…だが今回は願ってもない。
リューゴ…お前は俺が討つ…なんとしてもな…!!
俺の瞳にはかつてない程の暗い炎が灯っていた。




