第49話 三武将
俺が屋敷を半壊させてしまったのもあり、急遽宿をひとつ貸切そこにモミジの家臣団も含めて泊まっていた。
「──てことで、おめェのとこのに成り済ましてたのは魔人族とやらだった。」
「ちょちょちょっと待って欲しい!!魔人族!?しかも『虐殺妖精ギムレット』と言えば、この国から真反対にある西の大国ジスターヴの元Sランク冒険者の特級賞金首じゃないか!!!!」
「へェー…」
「ふーん…」
「2人とも何故そんなに興味無さげなんだ!!」
「死んだヤツに興味がねェ。」
「リューゴさん以外に興味ないです。」
「なるほど………って違う!!そうじゃないだろう!?」
「おめェの父親は謀殺された、そんでおめェの所に魔人がいた。それにその特級賞金首が人知れず大陸を渡る、なんて真似が単独でできんのか?」
「そうか…!カゲミツ…あの痴れ者…!!父上を謀っただけでなく斯様な賊と手を組むなど…!!」
「決まりだな。」
「ですね。」
「……2人ともこれは我が国の問題だ、本来貴方達には何ら関わる理由はない。」
モミジは申し訳なさそうに俯く。
そんな折、話を聞きながら飲んでいた瓢箪の中身が空になる。
「興味ねェな、そのカゲミツってヤツがあのクソガキより強ェといいんだがなァ…細けェ話はお前ら2人で詰めろ。」
俺はそう言って宿の部屋を出ていった。
ーモミジsideー
「さて、じゃぁどうするか決めましょうか。」
エマはなんでもないように話を進めようとする。
「えっ!?今のそんな軽い感じでいく流れか!?私は友である2人を巻き込まないように暗に帰れと言ったんだが!?」
「はいはいじゃぁ帰りません。で、どうします?」
「おい!!流すな!!ちょっと傷付くだろ!!」
「フフ、モミジは元気な方がらしいですよ。」
そう言ってエマは微笑む。
くそぅ…なんか上手く乗せられている気がしてならん…
「分かった!ならばもう最後まで付き合ってもらうぞ!!帰りたいと言ってももう遅いからな!!」
「あはは、リューゴさんも私も最初からそのつもりですよ。」
「まったく…どれだけ戦うのが好きなんだお前達は…」
「私はリューゴさんの足元にも及びませんよぅ。」
そう言ってお互いに笑った。
だが一呼吸置いて互いに真剣な顔付きになる。
「ではこれからのことを話させてもらう。」
「最終的な目標はカゲミツの首を取るってことでいいんですね?」
「ああ、既に私の部下に討ち入りの噂を華町以外に流してもらっている。」
「動きが早いですね、ということは討ち入りは今日にでも?」
「いや、討ち入りは明日の丑三つ時だ。本当ならギムレットと奴が通じていた確たる証拠が欲しいところだが、リューゴ殿のあの強烈な一撃を受けたとあっては塵一つ残ってはいないだろう。」
私は苦笑しながら言う。
「まぁリューゴさんを怒らせたんですからさもありなんですね。」
「まったく頼もしい御仁だよ。…討ち入りの面子は私とリューゴ殿とエマの3人だ。」
「少数精鋭、大将の首だけを狙うってことですか?」
「ああ、なるべく被害は減らしたい。だが中には父上を裏切りカゲミツに付いた不届き者もいる。」
「そちらの処理は任せます、気を付けておくべきことは?」
「カゲミツが連れてきた三武将がかなり手強い。エマとリューゴ殿なら問題ないとは思うが、私では太刀打ちできない程には強い…!」
「名前と外見的特徴を。」
「まずは元は人斬りだった者をカゲミツの根回しによって召し抱えられた刀将『イゾウ』見た目は流浪の剣士と言った感じだ、そして恐らくカゲミツが外…つまり魔国ジスターヴから連れてきたであろう弓を得意とする弓将『テミス』、彼女は浅黒い肌に銀の挑発と紫の眼をしている。最後にこの男は別格だ、槍を得意とする槍将『リー』シンの国の装いを纏い、長さ1丈はある大槍を使うらしい…密偵の報告によれば生まれであるシンの国で指名手配されているらしい、重要な任務を失敗したとか。」
「リー…?もしかしてその男リー・フェイロンという名ですか?」
「いや密偵の報告によるとリーとしか…」
「なるほど…恐らくその男は昔リューゴさんに破れた男です。更なる力を付けたと考えると間違いなく脅威ですね…ですが、リューゴさんが戦った時は拳のみで戦っていたみたいなので当人かどうかは今のところ断言しかねますね。」
「"敵を知り己を知れば百戦危うからず"相手の情報が少しでも増えるならそれにこしたことはない、密偵に先の情報を共有しておこう。」
気が付けば外はすっかり暗くなっていた。
「少々気になっていることがある。」
「何故城下町、言わば懐に自分に不都合なことを知るモミジがいるのに刺客を差し向けて来ないのか…ですか?」
「ああ、カゲミツは元来小心者だ。町に必ず2人は隠者を潜ませている…なら当然カゲミツはここを特定しているはずだ、それなのに何故刺客が現れないのか…」
このタイミングで廊下を歩く足音が部屋に近付いてくる。
襖が勢い良く開くとリューゴ殿が手に恐らくカゲミツの放ったであろう忍を首根っこを掴んで連れてきた。
「宿の周りをずっとウロチョロしてるヤツらがいたから適当にぶちのめして1人連れてきた、なんか知ってんだろ。」
そう言って忍を床に転がし、リューゴ殿はそのまま空いた場所に寝そべるといびきをかいて寝始めてしまった。
「本当に豪胆な人だな…」
私は呆れたような声を漏らすも口角が上がるのを抑えられなかった。
「リューゴさんのおかげで情報源を捕らえられましたね。」
「いや、まだ油断するには早い、この手の者は奥歯に即効性の劇毒を仕込んでいる。情報を漏らさんように自害する為にな。」
「うわぁ…ドン引きです。」
私は気絶している忍の口の中を見て毒薬の仕込まれている方を確認すると手を突っ込み奥歯を掴みそのまま力任せに引き抜いた。
「がああああ!!?!?」
痛みで忍が目を覚ます。
そして口からダラダラ血を流したがら私とエマの顔を見ると真っ青になってすぐに自決しようとするが歯がないことに気付いたようだ。
「なっ!?クソッかくなる上は…!」
「エマ!口を開いたまま閉じさせるな!!」
「嫌だけど分かりました!!」
エマが上顎と下顎を持ち前の剛力で固定する。
「あがァ!?はが…!!」
「これから貴様が情報を話すまでたっぷり拷問させてもらう、無論話さないならそれでいい私の楽しみが増えるだけだ。」
そうして私はリューゴ殿の獰猛な笑顔を参考にして笑うと忍が小さくヒッと喉から声を出した。
「夜は長い、精々祈るといい…明日の朝日が見られることを。」
そう言って口に布を挟んで首を手刀で叩き気絶させる。
「ひとまず、私の屋敷の地下へこの者を運ぶぞ!」
「モミジ、アナタ拷問好きだったの…?」
「なっ!?ち、違う!あれは嘘に決まっているだろう!?」
必死に弁明するも屋敷にたどり着くまでずっとエマは私から一定の距離を取っていた……別に悲しくなんかないぞ…ないったらないもん…




