第47話 伝えられる凶事
メシを食い終わったあと台所から店主のオヤジが出てきた。
「ふー…まったくとんでもねぇ兄ちゃんだな…お前さんに喧嘩を売った俺が恨めしいよ。」
そう言ってオヤジは苦笑する。
「お客さんほんとに良い食べっぷりだったよ、是非また来ておくれよ!」
娘の方も興奮冷めやらぬって感じだ。
「さぁな…オヤジ、酒を瓢箪に入れてくれ。」
「お、兄ちゃんイける口じゃねぇか。」
そう言ってオヤジは瓢箪を受け取って再び台所に向かう。
俺はその間に娘にこの国のことを聞くことにした。
「おい、この町だけかなり栄えてるみたいだがどうなってんだ?」
俺がそう言うと娘は頬をかいて困ったように笑った。
「あ〜…将軍様がね、『私の住む都が豪華絢爛でなくて何とする。』だって。」
「将軍とやらは思った以上に頭が空っぽみてェだな…」
「アタシ達にはかまやしないけど外でそんなこと言わないようにね。」
「悪口言っただけでしょっぴかれんのか。」
「うん、この国の政は全てが将軍様中心なの。だから、悪口や批判的なことを言おうものなら翌日にはみな消えてしまうんだよ。」
「消えてしまう…?殺されるってことか?」
「さぁねぇ…みんな文字通り消えちゃうのさ、姿だけじゃなくてここで生きてたってのが嘘だと思うくらいに痕跡すら残さず綺麗さっぱり。」
「へェ…」
「噂じゃぁ将軍サマの腹心に人を丸呑みできるほどのでけぇ蟒蛇がいるとかなんとか、くだらねぇ話が出回ってらぁ。」
娘から話を聞いていると戻ってきたオヤジが興味深いことを言う。
「蛇…」
俺がそう呟くと同時に外から町人の男が飛び込んでくる。
「おい!オヤジ!外出てみな!翡翠色の飛竜に乗ってえらい別嬪さんがこの町に落ちてきたんだよ!!」
「別嬪さんが落ちてきただぁ?この真昼間から酒でも飲んでんのか?そのすっとぼけた頭覚まして来やがれ!」
「いやいや酒なんて飲んでねぇって!いいから来てみろよ!今みんなが通りに集まってんだ!!」
それだけ言って男は出て行った。
翡翠の飛竜…屋敷で何かあったのか…?
「リューゴさん!」
「分かってる、行くぞ。」
俺はお代を置いて店を出る、そしてすぐに人集りを見つけた。
「ど、どいてくれ!私は彼に伝えなければならぬことがあるのだ!!」
聞き覚えのある声が必死に叫ぶのが聞こえる。
「どけ。」
俺がそう言うと俺の前にいた町民達は一瞬俺に視線を向け、サッと道を開けた。
「あぁ…!リューゴ殿…!!」
モミジは俺を見つけると駆け寄って来て服にしがみつく。
そして顔を上げると決壊したダムのように目から涙が溢れ出す。
「私が甘かった…!!ヤツらは既に私の里を乗っ取っていたんだ!!タジマは既に殺されていた…!!少年のような姿をしていたが、あれは物の怪の類だ!!厚かましいのは重々承知で頼む…!父上の…そしてタジマの仇を取ってくれ…!!!」
矢継ぎ早に様々な情報が入ってくる。
タジマは殺されていた…この言葉から察するにあの俺達を追い出したジジイは偽物ってことか。
いや…今はそんなことはどうでもいい。
俺はモミジの頭に手を置く。
フワフワの髪の感触が伝わってくる。
「……待ってろ。」
俺はそれだけ言うとモミジの屋敷に向かって歩き出す。
我ながらガキの泣き顔に弱過ぎると思う。
だがまぁ…ガキの泣きっ面拝んで食うメシがうめェわけがねェんだよ…!!
ー???sideー
うーんお姫様には逃げられちゃったしなぁ…
この里の掌握は済んだし兵力を整えておきたいところだね。
「僕があの大男に感じた違和感はなんだろう…?」
魔界でも子爵の貴族位を与えられた僕が本能的に何かを察知した。
だから追い出すことにした。
「あの時は焦って追い出しちゃったけど手元に置いておいた方が良かったかな…?ま、いっか。」
僕は考えるのをやめて今日はどの人間を壊して遊ぶかに思いを馳せた。
僕たち悪魔は基本的に人間のことを嬲ればいい声で鳴くオモチャ程度にしか考えていない、昔それを変わり者と言われる悪魔に咎められたが今はどうでもいい。
「おっと、いけないいけない…姫様がいない間はきちんと日課をこなさないとね♪」
タジマの姿に変身していつものように臣下に軽い挨拶をして回る。
「(人間って単純だな〜姫様がいない間に少し面倒見てやっただけで姫様の連れてきた人間を言われるがまま追い出しちゃうんだもんな〜クククク…)」
僕はタジマの姿で、声で、今日も臣下を労う。
ーside outー
エマはモミジの精神状態を鑑みてそばに居ることにした。
華町の外れまで来ると黒姫を呼び出し、その背に胡座をかく。
「全力で飛べ。」
俺がそれだけ言うと、黒姫はタメを作る。
そして次の瞬間、弾丸のように地を蹴った。
黒姫は翼を広げ、大きく一度羽ばたくと更に加速する。
黒姫の飛行速度は音すらも置き去りにした。
「どんなふざけたツラしてんのか見てやるよ…!!」
俺の周りをバチバチと赫い雷が迸る。
俺は額に青筋を浮かべてモミジを泣かした野郎へ叩き込むための拳に力を込めた。




