第42話 鬼神と雷神とそれから忍
宿に着くとすぐに部屋を2つ取り、俺はエマをベッドに放り投げて酒場へ来ていた。
ジョッキになみなみと注がれたエールを一気に飲み干す。
そしてまだ手を付けてない分厚いステーキにフォークを突き刺すとそれを一息に口に収める。
「……ンガァ、モグモグ…」
そしてステーキを飲み込むと金貨を数枚置いて酒場を出る。
俺は宿に戻らず再び倉庫街に来ていた。
エマとあの男がヤりあったあの場所だ。
「……最近は後ろを付け回されることが多いなァ…」
俺はそう言ってこの街の売店で見つけたタバコを咥える。
指先に黒纏を纏って指パッチンをした。
火花が散りタバコに火がつく。
「……フゥー…俺が1人になっても出てこねェあたり、俺の首が欲しいってわけじゃなさそうだなァ…だが」
その瞬間、俺は地を蹴って宙高く跳ぶ。
見つけた…どうやら俺のことら見失ってるらしい。
俺を尾行してきたヤツはキョロキョロしている。
俺はそのマヌケの真後ろに着地する。
頭を目以外黒い布で覆っている。
まるで忍者だなコイツ。
「なっ!?」
「よぉ…探し物は見つかったか?」
「クソッ!!」
忍者はすぐに逃げようとするが俺が首を掴んで持ち上げる。
「ぐあっ!」
「……今から手ェ離してやるが逃げようとすんな。もし逃げようとしたら足を折る、いいな?」
「うっ…わかった…」
俺は首から手を離す。
「声を聞いてから薄々思ってたが、触れて確信したぜ。おめェ…女か?」
「……そうだ、私の名はモミジ。」
「で、俺を尾行けてた理由は?」
「それはッ……言えない…!!」
コイツの反応で俺に害をなそうとしてるわけじゃねェってことは分かった。
「そうか、分かった。」
「は!?」
「あ?なんだよ。」
「いや、そんなあっさり…」
「別におめェが何してこようが捻り潰せるしな。」
「……『鬼神』リューゴ殿…是非、我が主とお会いして頂きたい…!」
「…おめェ、東の大陸から来たのか?」
「な、何故それを…!?」
「おめェみたいなのをたまたま知ってただけだ。」
「左様ですか…深くは聞きませぬ。」
「ちょうど俺達も東に渡ろうとしてたとこだ…良いぜ、着いてってやる。」
そのやり取りの後俺達は宿へ戻り、部屋に入るとエマは既に起きていた。
「あ!リューゴさん!どこ行ってたんで…す…」
俺の後ろにいる忍に気付いたエマは固まる。
「……どこの女ですか?」
「…よく女だって分かったな。」
「匂いで分かります!さぁ!吐いてください!アナタはいったいどこの馬の女ですか!?」
「な!?失敬な!!私はヤマト国のさるお方に仕える者だ!どこの馬の女とはなんだ!それを言うならどこの馬の骨だろう!!」
「東の大陸に連れてってくれるって言うからよ。」
「そ、そんな…!この泥棒猫!そうやってリューゴさんを垂らし込んだんですね!?」
「き、貴様!先程から何を言っている!?私とリューゴ殿はそんな関係ではない!!」
「顔が赤くなってます!ますます怪しい!!絶対に譲りませんよ!!リューゴさんの正妻の座は私のものです!!」
「リューゴ殿!!なんなのだこの女は!!ちょっと怖いぞ!?」
「一応俺のツレだ。」
俺は2人のやり取りを見て珍しく後悔する。
俺は判断を間違えたのかもしれない…と。
「早朝、私がお迎えに上がります故。女、お前は留守番でも構わんぞ。」
「なんですって!?この泥棒猫!!」
「うるさいぞ!!この騒音女!!」
「「ガルルルルル…!!」」
「いつまでやってんだ、いい加減俺ァ寝るぜ。」
そう言って俺は隣の部屋に入ってベッドに横になる。
「あァ〜〜今日はマトモに動いてねェから不完全燃焼だぜ…」
だが意外と気疲れしていたのか目を瞑ると俺の意識はすぐに闇に落ちていった。
ーエマsideー
リューゴさんが部屋に戻られた後、目の前の黒ずくめの女と腹を割って話すことにした。名はモミジさんと言うらしいです。
なんでも東の大陸からの使者だとか。
「で、アナタはなんでリューゴさんに近付いたんですか?」
「それは…言えない…」
「そうですか…では次です。東の大陸に渡るための手段とは何ですか?」
私がそう聞くとモミジさんは懐から巻物を取り出す。
「これは従魔の巻物、中には私が契約した魔物が封じられている。」
「なるほど…その魔物とは?」
「飛竜だ。」
「飛竜…ワイバーンのことですか?」
「うむ、この中央の大陸ではそう呼ばれているな。」
「ふーむ…良いでしょう!アナタは使えます!リューゴさんの側室として認めましょう!」
「なっ!?やっぱりそっちに持っていくのか!?…コホン、まぁいい、いや良くないが、今はいい…で、そんなことを聞いてどうしたいんだお前は。」
「……ハッキリ言って、私はアナタのことを疑っています。」
「まぁ…当然だな。」
私と彼女はお互いに真面目な顔で向き合う。
「ですが…私は貴女に少なからず好感を持ってもいます。」
「へ…?」
「先のやり取り、アナタは無視しても良いのに私のくだらない言いがかりに正面から応えてくれました。」
「そ、それは…」
「私のこの疑念はアナタとの付き合いが浅いものからくる言わば"知り合い"という関係からなるものに他なりません。明日からの旅でモミジさん、アナタと"友達"になれるのを楽しみにしてますね。」
そう言って私はモミジさんに笑いかけた。
「……私は貴様、いやエマ殿のことを見誤っていたようだ。数々の非礼、許してもらいたい。」
彼女はそう言って床に拳をついて頭を下げる。
「や、やめてくださいよ!そこまでしなくても大丈夫ですよ!!」
「これは私からの誠意だ。……"友達"になるための。」
最後の方は小声になってましたが…フフ、彼女はホントに嘘がつけない方のようです。
「誠意と言うなら今後は私のことはエマとそう呼んでください。」
私の言葉を聞いてモミジさんは顔を上げる。
「しかし……いや、分かった…それならば私のことはモミジと呼んでくれ。」
「分かりました、明日からよろしくお願いしますね、モミジ。」
「ああ、こちらこそよろしく頼む、エマ。」
私たちは互いに笑いあった。
ーside outー
「ンガッ!……あ?…朝か…」
俺はのそのそと体を起こす。
するとタイミングよく扉がノックされる。
扉を開けるとエマとモミジが立っていた。
「リューゴさん!いざ東の大陸へ、です!」
「リューゴ殿、今日はよろしく頼む。」
「ふぁ〜あ…」
俺は大きくあくびすると頬を張った。
破裂音のような音が部屋に響く。
「で、どうやって東へ渡る?」
「あ、それなら心配なく!ちゃんとモミジが通行手段を用意してくれていました!」
「はい、私の従魔である飛竜に乗って行きます。」
「飛龍…?守護龍みたいなのか?」
「と、とんでもない!守護龍など恐れ多い!飛竜はあくまで魔物の一種です。」
「そんなもんか…」
そんなやり取りの後、3人で再度倉庫街に訪れる。
ここは人目がねェから使い勝手がいいなァ…
「では、飛竜を喚び出します。」
そう言ってモミジ指の腹を噛み切るとそのまま広げた巻物に走らせた。
すると巻物に血が吸われるように染み込むと飛竜が現れた。
その口と背には手綱と鐙が着けられている。
モミジが背に飛び乗り、手綱を握る。
それに続いて俺とエマも飛び乗る。
「よし、それじゃァ行くかおめェら!」
「「はい!」」
モミジが手綱を振るうとワイバーンは空高く飛び立った。




