第41話 倉庫街の決戦
日は沈み通りに人が1人もいなくなった夜、俺達は倉庫街までの道を歩いていた。
「エマ。」
「なんでしょう?」
「おめェは魔力纏衣は使えねェのか?」
「あ、ザックと戦った時に仰ってたやつですね。端的に言って無理です、その技術もリューゴさんから聞いて初めて知ったくらいですし。」
「やっぱそうなのか…」
リーが言ってたもんなぁシンの国の技術だって。
だがコイツほどの才能なら…
「今から基礎だけ教えてやる。」
「えっ!?ホントですか!?!?」
「おめェはキッカケさえあれば自力で成長するタイプみてェだからな。」
「が、頑張ります…!!」
「…おめェはその篭手を着ける時どうする。」
「え?それはもちろんバンテージを巻いて、その上から…」
「それだ。」
「え?」
「その篭手の上から更に篭手を着けるイメージを持て。」
「や、やってみます…!」
すると腕に少しずつだが魔力が集中し始める。
「よし、その魔力を今度は足に流れるようイメージしろ。」
「はい…!」
…!コイツは驚いたな…我ながら説明が上手いとは言えんと思ったんだが、ちゃんとできてやがる。
「そこまでだ、後は実戦で磨け。」
「ふぅ…これ結構集中力使いますね!」
「慣れれば寝ててもできるようになる。」
「ご指導ありがとうございます!」
「フン、おめェはいずれ俺と張り合えるぐらいになるんだろうが。」
「へへ、期待しててください!」
「…行くぞ。」
「はい!」
そうして指定された倉庫街の開けた場所に来る。
そこでは1人の男が腕を組んで仁王立ちしていた。
「来たか…待ってたぜ。」
エマは男の前に立ち拳を構える。
俺は戦いの場全体が見渡せる高い位置を陣取って座る。
「さて…酒の肴になりゃァ良いんだがな。」
俺はそう言って酒を飲む。
下では今まさに戦闘が始まろうとしていた。
ーエマsideー
今、私は港町を牛耳る人攫い組織の頭と対峙していた。
「さて、戦いを始める前に賭けをしねぇか?」
「賭け…ですか?」
「そうだ、俺が勝ったらお前は俺の女になれ。」
その言葉を聞いた瞬間、ビキビキと私の額に青筋が浮かぶ。
この男…言うに事欠いて…
「では私が勝ったら東の大陸に渡る手段を用意してください。」
でも私は冷静に努めた。
偉いぞ私、すごいぞ私。
「決まりだな、じゃぁ精々足掻けよ冒険者。」
そう言って男は下卑た笑みを浮かべる。
私は拳に魔力を纏う。…よし、いける。
「…!?(なんだ?急にこの女から放たれる圧が増した…?)」
「…参る!!」
私は地を蹴って接近する。
そのまま真正面から正拳突きを放つ。
「はは!バカ正直な攻め方だなぁっ!?」
私の正拳突きをガードしようと守りを固めた、けど男の腕は吹き飛ばされ、体勢が崩れる。
すごい…これだけの体格差でも通用する。
これが魔力纏衣…!!
「【雷牙】!!」
魔力を纏ったもう片方の拳が男の腹に突き刺さる。
そしてその瞬間、男の体内にバチバチと膨大な電流が流れた。
だが強靭な精神力で耐え破れかぶれの反撃をしてくる。
「がああああ!!」
私はそれをかわしてステップで距離を取る。
「は…ははは…舐めてたぜ…!さすが『雷神』と言ったとこか。」
「正直、私如きがあの人と同じ神の二つ名を名乗ること自体が烏滸がましいんですけどね。」
私はそう言ってお酒を飲んで上機嫌になっているリューゴさんを見る。
「なに…?ははッ『鬼神』はそれ程の男か…」
「アナタみたいに楽して欲を満たそうとする人には足元どころか一生彼の姿は見えませんよ。」
「言うねぇ…そんな憧れの男の前でお前がどんな風に鳴くのか楽しみだぜ!!」
そう言って男が駆け出すと同時に姿が溶けるように消えた。
「!!」
『はははは!俺の【迷彩皮膚】は不可視の攻撃、防ぐ術はねぇ!!』
それと同時に私のお腹に衝撃が走る。
「カハッ!」
膝を着いてはダメだ、心が折れる。
私は地面に倒れ込まないように踏ん張る。
『顔は狙わないでおいてやるよ…俺の女になるんだしなぁ!!』
今度は右頬に衝撃が走り弾かれたように吹っ飛ぶ。
『おっと…悪ぃ悪ぃ、ついつい顔狙っちまったぜ!まぁ躾の一巻ってことでよ、はは!』
そうして私は一方的に嬲られる。
なんとか致命傷は避けているが、段々とダメージが蓄積されていく。
そうして攻撃を受け続け、心が折れそうになる。
嫌だ、負けたくない、リューゴさん以外の男になんて絶対嫌だ。
挫けそうになった時リューゴさんの声が倉庫街に響いた。
ーside outー
俺は酒を飲みながらエマの戦闘を眺めていたが、エマが一方的に嬲られるのを見兼ねて俺は胡座をかいたまま大声を出した。
「エマァ!!目に頼るなァ!!!!」
俺はそれだけ言ってまた酒を煽る。
見ているとエマは更にガードを固めた。
「やっと集中してきたか…」
俺はそう言ってニヤリと笑った。
ーエマsideー
『目に頼るな。』
私はそれを聞いてガードを固めて目を瞑る。
分かってる、こんなのおかしいって、自殺行為だって。
でもリューゴさんはいつだって正しかった。
言葉足らずでも意味の無いことは絶対に言わなかった。
なら、きっと今回も意味はある…!!
「おいおい、どうした?亀みたいに丸まってちゃ勝負にならねぇぜ?」
「………」
「チッ…これはもっと躾が必要だなぁ!!!!」
…ッ!!見えた!!!!
私は目を開き咄嗟に顔を避ける、すると右頬を何かがスレスレに通過したのを感じた。
「見えない…でも感じる…!!」
「あ?マグレか…?ならコイツはどうだァ!!!!」
お腹への蹴り、私はそれを足を上げてガードする。
「【雷槍】!!!!」
そしてそのまま急接近して雷の魔力を纏った蹴りを放つ。
男の腹に足がめり込む、まだだ。
私は身を屈めて悶える男の脳天目掛けて踵を落とした。
「【顎】!!!!!」
落雷の落ちるような音と共に男の脳天に踵落としが決まった。
男はそのまま白目を剥いて前のめりに倒れた。
「はぁ…はぁ…危なかった…」
終わったと思ったら男はゆらゆらと立ち上がる。
「はぁ…はぁ…嘘でしょ…」
男は懐に手を入れると明らかにジャケットの大きさに不釣り合いな禍々しい剣が出てくる。
内ポケットにマジックバッグでも隠して持ってたのか、しまった…
「許さねぇ…てめぇは殺す…この剣は吸血剣ダーインスレイヴ…コイツでてめぇの四肢を切り落としてから与えられるだけの苦痛と羞恥を与えてから殺す…!!!!!」
私は朦朧とする頭で中指を立てて口を開く。
「やってみなさいよ…この…外…道…」
そして私の意識は闇に落ちた。
ーside outー
武器を持ち出したか、本来あの気持ち悪ぃ剣がアイツのメイン武器なんだろうなァ…
俺は倒れたエマを見て少し笑う。
「負けちまったが…ま、よくやった方だろ。」
俺はそう言って酒を一気に飲み干すと飛び降りる。
土煙を巻き上げて着地する。
「おい、終いだ。」
「ああ!?この女は許さねぇ!!絶対に殺す!!!!今更しゃしゃり出てッ!?」
男は顔がみるみるうちに青くなっていく。
「…もう1回言うぜ?終いだ。」
俺はエマに一歩一歩歩み寄る。
男はそれを見て一歩また一歩と後ずさる。
俺はエマの横に来るとエマにポーションをぶっかけた。
「ま、おめェもメイン武器使わずによく健闘したなァ…」
「……」
「今回は見逃してやる、行けよ。」
「ふ…ふざけんなあああああ!!!!」
男は激昂しながら気持ち悪ぃ剣を振りかぶって斬りかかってくる。
「このバカが。」
俺は右手に黒纏を纏うと男の剣を受け止め、握り砕いた。
男は事態が呑み込めずフリーズする。
「な…は…?」
「見逃したのに向かってきたおめェに慈悲はねェよ。」
思い切り顔面のど真ん中を拳で撃ち抜く。
男は倉庫街の一角を吹き飛ばして海に吹き飛んで行った。
俺はそれを見てからエマを背中に背負った。
「あ、渡航手段を確保すんの忘れてた……ま、いいか。」
そう言って俺はエマを背負って宿までエマを起こさないようにゆっくり歩いて帰った。




