第40話 港町ハーフェン
「──という感じで私はAランクにまで上り詰めたんです!」
「へェ…」
俺の瞳に爛々とした光が灯る。
「フフ、いつかリューゴさんと張り合えるぐらいになりますから待っててくださいね!」
エマはそう言って無邪気に笑う。
ザックとの決闘?の後俺たちは今、ヤマトへ向かう途中だ。
その間エマは俺に助けられた後から今に至るまでを語った。
エマは思った以上に戦闘センスがあるらしい。
コイツは将来が楽しみだ…
「そういえばリューゴさんは何をしに遥々ヤマトまで行くんですか?」
「…服と靴を新調しにな。」
「なるほど!東の国の服飾は綺麗なものが多いですもんね。」
「まぁな…」
日本に近い文化形態であるなら俺好みの服もあるだろうっていうザックリした考えだがな。
「おい、このままチンタラ歩いてたら埒が明かねェ…走るぜ。」
「へ?きゃあっ!」
俺はエマを脇に抱えると俺自身とエマを魔力で覆い駆け出した。
しばらくの間走り続けていると街が見えてくる。
「あ!リューゴさんあの港町から出る船に乗って行くんですよ!」
「思ったより早く着いたなァ…」
「長いのらここからですよ!船旅で3日ほどです!」
「まぁ…急ぐ度でもねェしな。」
「はい、どうせなら楽しみましょう!」
そして俺達は門の前にたどり着いた。
門の前でエマを降ろす。
「とりあえず船の確保、それからメシだ。」
「了解です!」
エマはビシッと敬礼すると街の中に走っていった。
俺はその背中を見つめながら嫌な予感がしていた。
俺の勘が告げている…どうもエマからはトラブルメーカーの匂いがする…
「……アイツを連れてきたのは早まったかもしれねェな…」
そう思いながらも市井を見て周りながら歩く。
さすが港町だけあって新鮮な魚介が並んでいる。
「やっぱり俺の見たことのねぇ魚や甲殻類ばっかだなァ…」
俺は目に付いたロブスターのようなものを手に掴んで店主のオヤジに金貨を指で弾く。
そしてそのまま殻ごと喰らう。
ボリボリと言う豪快な音を立てながら咀嚼する。
「お、前の世界より食える身が多いし、うめぇじゃねェか。」
「あんちゃんすげぇな、ソイツはハードロブスターつって普通なら関節に沿って刃を入れなきゃ傷一つ付けられねぇのによ。」
オヤジは感心したように言う。
俺は気にも止めずにバリバリとロブスターを貪っていた。
すると俺より先に街の中に向かって行ったエマが帰ってきた。
「リューゴさーん!今戻りましたー!」
「…なんか収穫はあったか。」
「船はまだなんですけど、この港町には冒険者ギルドと商業ギルドの両方があるみたいです!」
「商業ギルドか…」
「行きますか?でも商業ギルドの連中は冒険者を頭を使えないと見下してきますよ。」
エマは露骨に不機嫌になる。
「ハッハハハ、体験済みか。」
「はい、その時はまだ冒険者になりたてって言うのもあってかなり足元見られました…」
「まぁ…今は商業ギルドに用はねェ、早いとこ船確保して海渡るぞ。」
「はい!」
そうして俺達が向かったのは酒場だ。
ここなら漁師の1人2人はいるだろ。
扉を開けて酒場の中に入ると一斉に視線がこちらに向く。
俺達は気にすることもなくカウンターに着く。
「エール。」
「私はミルクで!」
「あいよ、兄ちゃん達この街は初めてかい?」
「…分かるか?」
「分かるとも、そんな別嬪連れて歩いてんのはこの街のことを知らねぇ旅人くらいのもんさ。」
「別嬪なんてそんな〜!」
ニヤニヤしながら喜びが隠しきれないエマ。
俺はそれよりも引っ掛かりを覚えた。
「女を連れてたら何かあんのか…?」
「本当に何も知らねぇんだな、最近この街で人攫いが横行していてな…子供か若い女がターゲットになってんだ。」
「許せませんね…」
「くだらねェ…」
そう言って俺はエールを飲み干すと立ち上がる。
「り、リューゴさん?」
「行くぞ。」
「えっ!?は、はい!」
俺とエマが店出るとそれに合わせて数人の男達も後を追うように店を出た。
「エマ。」
「はい?なんですか?」
「小声で話せ、尾行られてる。」
「!!分かりました、早速件の悪党どもですね。」
「ああ、俺達の後ろに4、屋根伝いに3だ。」
そう言って俺達は路地裏へ入る。
すると早速4人の男が道を塞ぐように俺達の後ろを陣取った。
屋根の3人も前に降りてくる。
「よう、兄ちゃん彼女可愛いね〜俺達にも分けてくれよ〜!」
「まぁお前ボコして彼女は頂いてくんだけどなぁ?」
「うわ…あの…リューゴさん…」
「言うな、分かってる…」
「なんだぁ?ビビっちまったかぁ?ギャハハ!!」
「おいおい!彼女の前なんだからカッコ付けなきゃよぉ!!」
「はぁ…三下もいいとこだなァ…」
俺はそう呟くと1人を残して全員に魔力を放った。
すると俺の魔力にアテられたヤツらら呆気なく意識を刈り取られる。
「ヒィ!?な、なんだ!?」
「おめェ…この街に巣食ってる人攫いの一味か?」
「そ、そうだよ!テメェら俺達に手を出してタダじゃうわぁ!?」
俺は喚く三下の胸倉を掴んで宙に浮かせる。
「いいか、今から言うのは頼みでもなんでもねェ…命令だ。おめェらのボスの所に案内しろ。」
「へ、へへ…言うかよバカが!あんまり舐めんなよ…!?」
「そうかよ。」
俺はそう言って魔力を全開にする。
すると下っ端の男は顔がみるみる青くなっていく。
「そ、そんなバカな…この威圧感、圧迫感…ボスよりも…!!?!?」
そのまま下っ端は泡を吹いて気絶した。
「「あ。」」
俺とエマが同時に声を出す。
「リューゴさんが聞くより私の方が適任だったかもしれませんね。」
そう言ってエマは苦笑する。
「……次はおめェがやれ。」
「あはは!機会があればですけどね。」
俺が先に歩き出すと、エマは楽しそうに笑って着いてくる。
そのまま路地裏から出ると、そこには俺達を出待ちしていたかのように大人数の男達が待ち構えていた。
「……早速ひと仕事だな。」
そう言ってニヤリとエマに笑いかける。
「あちゃ、口は災いの元でしたね。」
そう言ってエマは困ったように笑う。
だが俺の前に立ち、拳を構える。
その姿は堂に入っている。
「ほお…サマになってんじゃねェか。」
俺は胡座をかいて座り込みバッグから酒瓶を取り出す。
その様子を見ていた周りの連中は困惑する。
「お、おい…アイツ酒盛り始めやがったぞ…!?」
「あの女…そんな強ぇのか!?」
「ひ、怯むな!数で押せぇ!!」
そう言って下っ端どもはエマを取り囲むように布陣する。
「『数で押せ』は愚の骨頂ですよ…?」
そう言うとエマの身体から魔力が溢れ出す。
次の瞬間、エマの姿が消えた。
「なっ!?消えた!?」
「どこ行きやがぶへぁっ!!」
「ひ!?何が起こってぐふぁ!!」
次々と下っ端が伸されていく。
俺はそれを肴に酒を飲んでいた。
「ハッハハハ、賊に襲われてビビり散らしてたヤツと一緒とは思えねェな。」
そう言って酒瓶の中身を飲み干す。
「で?おめェがアイツらのボスか?」
俺は音もなく後ろに立つ男へ声をかける。
「…部下が戻らんと思って来てみれば、まさかこんな大物に出くわすとはな。」
俺は立ち上がり男を見ると目線が同じ高さで合った。
オールバックの銀髪に黒のジャケット、そして何よりその佇まい…港町の小悪党にしては強ェな。
「……下っ端どもの質は悪ぃのにおめェは随分強そうだな。」
「フッ…そう言ってくれるな、所詮アイツらは雑兵に過ぎん。そもそも人攫い稼業だからな、俺以外は素人に毛が生えた程度のヤツらしかおらんよ。……さて、お相手願えるかな噂の『鬼神』よ。」
「悪ぃが、おめェの相手は俺じゃねェ。」
そうこう話しているうちにエマの方は片付いたようだ。
最後の一人をノッグウンした。
「フゥー…終わった終わった。でもなんだか物足りないなぁ…」
「おい、エマ。」
「なんですかリューゴさん?」
「メインディッシュだ。」
そう言って俺は顎でボスの男を示す。
「わっ!強そうな人ですね!」
「これは驚いた…今回は相手が悪かったらしい、まさか『雷神』に手を出しちまうとはな。」
「『雷神』だァ?」
「わーー!!やめてくださいよーー!!リューゴさんにその二つ名は絶対知られたくなかったのにーーー!!!!」
「『鬼神』と『雷神』…まさか中央ギルドのスーパールーキーの筆頭である『双神』が出張ってくるとはな…」
「えーーー!?リューゴさんの二つ名『鬼神』なんですか!?!?お揃いですね!!嬉しいです!!」
「フン、くだらねェ…」
「ご両人、ここでヤるのは騒ぎが広がる。今夜、港倉庫街に来い…そこで存分にヤろうや。」
そう言って男は空気に溶けるように消えた。
「へェ…!」
「わぁ…!」
俺とエマは同時に歓喜の声を出し、今晩に胸を踊らせた。