第4話 エルフの戦士
宛もなく森の中を突き進む俺は今からになって後悔していた。
「しくじった…地図なりなんなり頂いてくるんだったぜ……あ、この世界を知らねェから地図見ても同じか…クソ。」
そう、迷子になってしまったのだ。
真っ直ぐ進めばどこかに出るだろうと高を括り歩いてきたはいいものの、この森は意外に広大なようでなかなか人の住まうような場所が見えてこなかった。
その上、モンスターもかなり多く生息していて俺の歩いてきた道程には大小数多なモンスターの死骸が転がっている。
「あァ〜…酒が飲みてぇなぁ……そういや結局あの時コンビニで酒買えてなかったんだよなァ…」
そう愚痴りながら歩いていると空を切るような音が聞こえて来た…が、避ける必要なしと判断する。
すると、頭の横に何かが当たり次の瞬間空気と共に炸裂した。
音に驚くもダメージはない、足元を見るとそれは1本の矢だった。
「…あ?炸薬でも着いてたのか…?いやでも矢は無事か………これも魔法か…?」
俺の胸中に期待の感情が湧き出てくる。
まだ見ぬ魔法、しかも今度は矢に付与する類ときた。
昔読んだ小説だと弓矢と言えばエルフのイメージだが果たして…
「おい、貴様!」
俺がしゃがみ込んで矢を眺めながら物思いに耽っていると後ろから若い男の声がした。
声の方向に顔を向けると俺の予想は大当たりだった。
耳は鋭く長く、髪は金の糸のように透き通る長髪でそれを後ろで結っている。
間違いねぇ…エルフだ。
「この森で何をしている!ここは我らエルフの住まう神聖な森…貴様のような野蛮な者が足を踏み入れていい場所ではない!!」
コイツと戦いたい…ならやることはひとつだ。
「ハッハハほざけもやし野郎が、軟弱な矢しか打てねぇ種族なんざ俺が滅ぼしてやるよ。」
エルフの男に嘲るように言う。
案の定プライドの高そうなこの男は食いついた。
「貴様ッ…!!良いだろうそんなに死にたいならここで殺してやる!!!!」
手に持っていた弓を構えると風が鏃に収束していく。
「なるほどなァ…さっきのはその風の魔力が破裂した音か…」
そして風の魔力を蓄えた矢が放たれるが、俺はその矢を軽々キャッチするとそのままへし折った。
「なっ!?バカな!!」
「そりゃァさっき見た。もっと別のヤツにしろ。」
「くっ…!」
エルフは後ろに飛ぶと何やら大層豪華な矢を取り出し弓を構える。
「私は里最強の防人…この宝を使うのは甚だ遺憾だが、貴様は危険すぎる…!!!!」
弓を引き絞ると先程とは比にならないレベルの圧が放たれる。
「!!ハッハハハハ!!良いなァ!!!!」
俺は狙いやすいように射線上に仁王立ちした。
「なっ!?貴様ァ…どこまでもコケにしおって…!!あの世で後悔するがいい!!【暴嵐の矢】!!!!」
矢が放たれるとそれは木々を巻き込み地を抉りながらこちらに迫ってくる、それはさながら風のドリルだ。
俺はそれを真正面から受け止める。
纏った風が障壁になり矢を掴むことすらできない。
俺はジリジリ後ろに押し込まれる。
こいつはスゲェ…けど、負けたくねぇ!!!!
「ウオ…オォオオオオ!!!!」
じわじわ後ろに下がっていた足が止まる。
完全に俺の力と矢の力が拮抗した。
だが、次の瞬間にはその均衡は破られた。
俺の手が矢を掴んだのだ。
そしてそのまま握力に物を言わせ矢を握り潰した。
「ハッハハハハァ!!!スゲェ!!こんなすげぇ矢があんのかエルフの里ってのは!!!!!」
俺は嬉しくなってそう言いながらエルフの方に目をやるとエルフは完全に放心し、絶望の表情に染まっていた。
「あ、有り得ない…全てをアダマンタイトで拵えたものだぞ…?それを…無傷で…そんなあっさり……」
エルフはそう言いながら膝を着いて項垂れる。
「フン、無傷じゃねェよ。ちょっとだけ手の皮切っちまったぜ。」
俺はそんなエルフの様子を見て白けて、鼻を鳴らしながらほんの少しのフォローを入れる。
「手の皮…?必殺の矢を正面から受けて手の皮1枚……?」
男は地面を見ながら完全に意気消沈してしまった。
「チッ…その感じだとこの矢は同じものが2つとねェ代物か。」
それが分かると俺は先程のエルフへの興味が嘘のように薄れていく。
つまらねぇ…コイツも対等じゃなかった。
しかも、あの大剣野郎と違ってコイツの心はアッサリ折れやがった。
「おい、デケェ街の行き方教えろ。」
俺はエルフの胸倉を片手で掴み上げてそう言った。
「うぐっ…それならこの方向を真っ直ぐ行け…1週間も歩けば街道に出られる…そこから馬車で3日ほど行けばすぐに大きな都市に着く…」
俺はそれを聞くとパッと手を離す。
そしてその方向に歩き出す。
だが、急にエルフは顔を上げると焦るように叫んだ。
「ッ!?ま、待て!!お前は我々の里に用があったんじゃないのか!?」
「あァ?別にお前らに用があったわけじゃねェよ。俺は俺と対等にケンカできる奴を探してる。戦いの中で生き、戦いの中で死ぬ。これぞ男のロマンだろ。」
そう言い切ると俺はこれでホントに用はないと言わんばかりにエルフから視線を外し街道に向けて歩き出した。
俺の背を眺めながら
「戦いの中で生き…戦いの中で死ぬ……」
と羨望の色が混じった声で呟くエルフには気付かなかった。




