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第33話 商王ラムダ

見ただけで分かる…この優男、強ェな…さっきのヤツらと比べれば、だが。


「おや…こんな夜遅くに珍しいお客さんだ。」


部屋の中を見るが、クロエの姿はない。


「今日おめェが捕まえた女はどこだ。」


「ふむ…それは黒髪の彼女のことかな?」


「ソイツだ。」


「フフ、教えられないな。だが、これだけは言っておこう。彼女はもうここにはいない。」


男が答えた瞬間、俺を中心に雷が迸り、魔力が吹き荒れる。


「こ、これは…!!」


男の表情が崩れる。


「今すぐクロエの居場所を教えろ、じゃなきゃァ殺す。」


「フフフ、舐めるなよ…僕はこれでもむぐっ!?」


男が喋り終わる前に顔を掴む、そして地面に叩き付けた。


「ゴハァッ!!」


「早く答えろ、クロエはどこだ。」


そう言いながら俺はまた顔を掴んだまま優男を持ち上げる。


「さァ答えろ……次はさっきより強くいくぜ。」


「ひゃ、ひゃめ!」


部屋が揺れる程の衝撃が起こる。

優男は半ば意識が飛んでいるようだ。


「あ…が…」


「これが最後のチャンスだ、死にたくねェなら答えろ…クロエはどこだ。」


「ら…ラムダ…さんが…連れ…て…行きました…」


俺は顔から手を離す。

優男は安堵した雰囲気を見せる。


「ご苦労。」


俺はそう言って鬼哭を横たえる優男の顔面に振り降ろした。

部屋全体にヒビが入るほどの一撃を受けて顔が変形した男は気絶した。


「チッ…2割くらいじゃ死なねェか、悪運の強いヤツめ。」


ラムダ…ド派手な服屋もラムダ商会云々ってリジットが言ってやがったな…裏じゃ奴隷商なんてやってんのか、それとも奴隷商も事業の一つなのか…

俺はそう考えながら魔力を探る。

伸びている優男の魔力はさっき感じたほどではなかった。

デケェ魔力は優男(コイツ)じゃなかったのか…

だがまだハールヘイムの街の中から魔力を感じる。

俺は思い切り屈んで、跳んだ。

天井を突き破り、地面を突き破って地上に出る。

俺は空中から街の外へ出ようとする荷馬車を見つける。


「逃がさねェよ…!!」


俺は咄嗟に空中に魔力で足場を形成する。

そして馬車の向かう門に向かって雷を纏って跳んだ。

門のちょうど外側に陣取るように着地する。

御者が急いで馬車を止めると、荷台から1人の男が降りてきた。

シルクハットを被り、商品なコートを着込んでいる。


「おめェがラムダか…」


「おやおや!私のことをご存知でしたか!今話題のスーパールーキー『鬼神』リューゴ殿にお見知り置き頂けるとは…光栄ですな!!」


「今日、治癒士の優男から引き渡された女を返せ。」


「む?治癒士…と言うとニックさんのことですな…するとその女性と言うのは黒髪の涼し気な表情の君でかな??」


俺は無言で肯定の意を示す。


「なるほど!少々お待ちください!」


するとラムダは荷台の中に戻り、クロエを連れて降りてきた。


「この方でお間違いありませんか?」


「ああ、返せ。」


するとラムダはニッコリと笑うと指をパチンと鳴らした。

すると、クロエを縛っていたロープと口に巻かれていた布が消える。


「あ?」


俺は一瞬思考がフリーズする、開放されたクロエも困惑しながら俺の側に走り寄ってくる。

そんな俺達を他所にラムダは話し出す。


「此度の騒動、お互いに何か勘違いがあるような気がしてましてな。」


「…勘違い?」


「ええ、私はニックさんから正式な書面を通してそちらの女性を商品としてお預かりしました…ですが、貴方ほどの大物が出張ってくると言うことは、こちら側に何かしらの逸脱行為があったのでしょう?」


「…クロエ(こいつ)は中央ギルドの受付嬢だ。」


「なんと!?そうでしたか…ニックさんの書面では借金で首が回らなくなった街娘と記されていました。まさか、長年贔屓にして頂いていた方に騙されるとは…これはこちらの不手際です。誠に申し訳ありませんでした。」


そう言ってハットを胸に当て、深々と頭を下げるラムダ。


「…おめェは知らなかったんだな。」


「ええ、今回は視察も兼ねてこちらにお邪魔させてもらっていたに過ぎません。ラムダ商会がいくら大きいと言っても私は1人しかいませんから…」


そう言ってラムダは困ったように笑う。


「…分かった、今回はクロエを自由にして、それで手打ちだ。」


「いいえ!それではいけません!私たち商売人は信用が命!このような不手際は二度とあってはいけません!そして、その被害にあった方にも相応の誠意を見せて然るべき、ですよ。」


そう言いながらラムダはクロエを見る。

するとクロエは俺の服の裾を握る、その手は少し震えている。


「でしたら、中央ギルド『真実の太陽(ファクト・ソレイユ)』にヒールポーション類とキュアポーション類を一式頂ければ…」


クロエはおずおずと申し出た。

それを聞いてラムダは目を丸くする。


「そんなことでよろしいのですか!?勿論、お贈りさせて頂きます!そしてもしよろしければ、今後ともポーション類を買う際はラムダ商会をご贔屓に。」


そう言ってラムダはニッコリ微笑む。

こんどはクロエの方が驚いていた。


「よ、よろしいのですか!?私たちのギルドは言ってしまえば弱小です…それでも良いのですか?」


するとラムダは優しい目でクロエを見つめる。


「クロエさん、貴女は誠実な方です。ラムダ商会のネームバリューに(あやか)れるこの機会を不意にしてでも私どもの心配をしてくださる…そしてリューゴ殿はそんなクロエさんを助けるために奔走してここにたどり着いた。」


「フン、たまたまだ。」


俺がそう言うと、クロエは俺を見て嬉しそうに微笑む。


「フフ、私はこれでも人を見る目には自信があります。ニックさんの件がありましたので説得力は無いかもしれませんが…」


そう言ってラムダはトホホ…と肩を落とす。

だがラムダはですが、と続ける。


「そんな私どもの商品で良ければ是非、今後に活用して頂きたい。」


そう言ってラムダは手を差し出す。


「この大きな商業案件を私達だけで決めてもいいものか測りかねますが…私はラムダさんの真摯な提案を受けたいと思っています、よろしくお願いします。」


そう言ってクロエはラムダの手を握った。


「あ、そうだラムダ。」


「はい、なんでしょう?」


「ハールヘイムのお前が切り盛りしてる店、店員の態度が絶望的に悪かったぜ。」


俺が軽い告げ口のつもりでそう言ったらラムダの雰囲気が変わる。


「それは…本当ですか…?」


「おう。」


「ご報告感謝します…失礼、私は少し寄るところができました。」


低く唸るような声でそう言ったと思えばパッと人当たりのいい笑顔になるラムダ。


「では!またお会いしましょうご両人。」


そう言ってラムダは荷台に乗り込むと馬車はUターンしてハールヘイムへ戻って行った。


「……店員の再教育に行ったか…にしても、ラムダ…か。思ってたのと違ったなァ。」


「はい、正直意外でした。でも、ラムダ商会の奴隷は擦れた性格の方が少ないという噂は聞いたことがあります。」


「…アイツなら奴隷にもちゃんと人として接してそうだもんなァ…」


「はい、その噂の真意を垣間見た気がします。」


「…じゃぁ今日は宿取って明日帰るぞ、王都に。」


「フフ、分かりました。」


そうして俺達は2人で夜の道を歩き出す。


「リューゴさん。」


「あ?」


「ありがとうございます。」


「………ああ。」


今日は月のおかげか、夜道がいやに明るかった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 前回の感想で“強キャラじゃん…”ってコメントした奴が序盤でやられてて予想外すぎて面白かったです(笑) ラムダさんは、いい人…なんでしょうか。 もしかすると、ラムダさんがマーセルさんのいるギル…
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