第32話 クロエの行方
北方ギルド『アスガルド』、完全実力主義を謳い強ければ大抵のことは許されるらしい。
俺は今、その北方ギルドの中にいた。
そこは大衆酒場のようになっており、このギルド所属であろう連中が大量に屯していた。
「……クロエはいねェっぽいな。」
じゃあいいか、と思い帰ろうとするが俺は通信魔法を思い出す。
「…試しに使ってみるか。【通信】、クロエ聞こえるか。」
『んぐっ!(ガタッ!ゴトゴト…ガタン!)』
返事は無く、物が倒れるような音がするだけだ。
「あ…?」
『んむー!んんー!!』
『おい!大人しくしてろ!何だ急に暴れだして…!!』
ぐぐもった唸り声に男の声、俺はすぐに察した。
クロエは捕まっている。
俺はギルドの外に出てからクロエに声を掛ける。
「……待ってろ、すぐに助けに行く…絶対にだ。」
俺はそれだけ言って通信を切る。
クロエは元Aランク冒険者、それを捕縛できるってことはかなり強ェヤツが出張ってきたってことだ。
俺は魔力感知をこの街全域に広げる、だがクロエの魔力を捉えられない。
「…チッ、魔力を遮断するモンでも被せられたか…」
俺はすぐにハービットに通信魔法を飛ばす。
「【通信】、ハービット、クロエが捕まった。場所も相手も分からん。俺はこれからクロエを助けに行く、何かあるか?」
『分かった、北方ギルドにはこちらから伝えて…』
「いや。」
『えっ?』
「もしかしたら『アスガルド』の連中も一枚噛んでるかもしれん。」
『な!?…なんでそう思うんだい?』
「クロエは元Aランク冒険者だろ。」
『なるほど…確かに…分かった!中央ギルドのギルドマスターとしてクロエ・エレノーラの捜索を命じます!!…頼んだよリューゴくん!』
「了解だ、ギルマス。」
そう言って通信を切ると俺はクロエの手がかりを探すために、まずは北方ギルドの受付嬢に聞いてみるか…
俺は再びギルドに入りカウンターで暇そうにあくびをしているギャルっぽい受付嬢の元へ向かう。
「おい、クロエってヤツを知ってるか。」
「んぉ?クロエっち?それなら、さっきまでギルマスの部屋にいたけどぉ…なんか治癒士のとこに行くって言ってたよ?」
当たりだ、初っ端からデケェ情報だぜ。
「ありがとよ、これはチップだ。」
俺はそう言って、受付嬢に多すぎるほどの金貨を渡した。
そしてすぐに踵を返してギルドを出る。
「えぇっ!?お、お兄さんこれ多いってー!!」
そんな声を背に受けながら俺はギルドを出て、治癒士の店を探すため再び魔力感知を使う。
「見つけたぜ…デケェ魔力がギルドの中以外にももう一つ。」
すぐに魔力を感じた場所へ向かう。
そこはこじんまりとした病院だった、前世の言葉で言うならクリニックって感じか。
店の扉には
【0:00~6:00】
【 CLOSE 】
と木の札が下げられている。
まだ日を跨ぐには早ェ…こいつァ決まりだな。、
俺は問答無用で扉を開ける、こんなチンケな扉じゃァ暖簾と同じだぜ。
中に入るが、誰もいないのか静まり返っている。
扉をぶっ壊しても誰も出てくる気配がない。
「……」
不審に思うも俺は中を捜索する。
そもそも何故クロエが治癒士の元へ…?
ケガでもしたのか…?
疑問は尽きねェが、今はそれよりもクロエの居場所だ。
そもそもこの誘拐が複数によるものなのか単独によるものなのか…恐らく前者だろうなァ…
俺は再度魔力感知を試みる、デケェ魔力を確かにこの店から感じる。
だが人の気配がねェ…
「……!!地下か!!」
俺は鬼哭を取り出し、両手で握る。
「悪ぃがチンタラ探してる暇ァねェんでな。【鬼薙】!!」
両の足を踏ん張り思い切り鬼哭を振りかぶって、強振する。
すると治癒士の店は粉々に吹き飛んだ。
周りを見ると、すぐに地下への入口を見つけることができた。
地下への入口は店の扉と比べるべくもなく厳重に鉄製の分厚いものでできていた。
だが、俺にはこれでようやく普通の扉くらいだぜ。
俺は鉄の扉の取っ手に手を掛けると、それを思い切り引き剥がした。
ベキベキメキメキと音を立てて周りの地面ごと抉り取れる鉄の扉。
中には地下へ続く螺旋階段があった。
「『真実の太陽』の人間に手を出したことを後悔させてやるよ。」
そう呟いて俺は階段を降りていく、最下層まで降りると扉があった。
魔力感知を使うと、かなり多人数で待ち構えてるらしい。
「バカが、1人残らずぶん殴ってやる。」
俺は扉を鬼哭で吹き飛ばす。
早速、扉に巻き込まれて数人がダウンした。
俺が部屋の中にはいると、俺の顔を見た何人かの顔が真っ青になった。
「お、おい…嘘だろ…!?」
「なんでコイツがここに!?」
「もしかして、さっきニックさんが連れてきた女って…」
そんなことを口々に言うザコどもの最後の呟きにだけ俺は答えた。
「…おめェらが手ェ出した最後の一人は俺の身内だ。」
「そ、そんな…」
「おい!なんなんだよ!このデケェヤツは何者なんだよ!!」
事情を飲み込めてないヤツが喚く、すると俺を誰か知ってるであろうヤツらが顔を青くして呟く。
「…3mはある身長に六角の金棒…その強さは既にSランク最強とも言われてる…Aランクの『鬼神』リューゴ…」
「はっ!大層な肩書きじゃねェか…でもここにいるのはほとんどがAランクとBランクで固められた精鋭だ!たった1人で勝てるわけねぇだろうがぁ!!!!」
そう言いながら剣を振り下ろしてくる、俺はそれをつまらなそうな顔でそのまま受ける。
すると案の定、剣は折れた。
「は!?」
「馬鹿野郎!!その男は単独で守護龍に勝ってんだよ!!」
青い顔で激昂する男がそう言うと同時に、折れた剣を見て呆然としている男に鬼哭が振るわれ、上半身が消し飛んだ。
部屋にいるヤツらはみな呆気に取られている。
「悪ぃなァ…今の俺は機嫌が悪ぃ…加減はできねェが、どうする?」
俺は感情が昂り、両眼が金色に輝く。
「聞いてねぇ!こんなの聞いてねぇよ!!俺は降りる!!!」
「俺もだ!死にたくねぇ!!」
「うわああああ!!!!」
連中はパニックになるが、俺が鬼哭を地面に突き立てると静かになる。
「……ここを出たら自首しろ、でなきゃァ俺が見つけて殺す。」
俺がそう言うと連中は取れるんじゃないかというくらい首を縦に振った。
「行け。」
そう言うとほぼ全員が地上に上がって行った。
だが2人だけ残っていた。
「くくくく…バカどもが…噂や肩書きに踊らされおって…」
「まったくだ、守護龍などという与太話も信じてしまうとは…くだらん。」
液体の滴る鉤爪を装備する腕の長い痩躯の男と、大剣を背負う、筋肉隆々の男がそれぞれ武器を構える。
俺はそれを見てウンザリした表情になる。
「はぁ…おめェらは今日死にてェってことでいいか?」
「俺の毒でお前が死ぬんだよぉ!!!」
「この一撃!貴様に耐えられるか!!」
同時にかかってくるが、遅せェ。
爪の男は空中に跳び上がったところで頭を掴み、握り潰した。
大剣の男は大剣が俺に当たると再び剣が折れ、そのまま俺の鬼哭で叩き潰した。
「……親玉はなんでこんなザコ雇ったんだ…?」
俺はそう呟いて奥の部屋の扉を剥ぎ取った。
中に入ると、白衣を着てそれを肘まで袖捲りした、人当たりのよさそうな笑顔をうかべる男が立っていた。




