第31話 北方都市ハールヘイム
山を降り、俺は今休憩も兼ねて湖に来ている。
もちろん凍っているが。
俺は拳を水面に叩き付ける、どんどんヒビが広がり湖を覆っていた氷が砕ける、俺は眼帯を外して水面を覗き込んだ。
片目だけだが金色の瞳、縦割れの瞳孔…
「ホントに龍の眼になってやがる…」
白龍のヤツもよくこれを簡単にくれたなァ…
目を瞑り意識を集中し、目を開けて周りを見る。
「ほーこれが龍の見てる世界か。」
周りを見回すと、魔力がオーラのようになって目に見える。
こいつァ面白ェ。
「……ま、とりあえず街目指すか。」
そう言って足に魔力を纏うと俺は街に向かった。
走ってから数時間で街へはたどり着けた、だが白龍との戦闘もあり街へ着く頃には日が沈んでいた。
いつものように門で兵士に止められる、中年の門兵だ。
「お待ちを、身分証をお持ちで…やや!これは失礼しました!Aランク冒険者とは露知らず…お通りください!」
「(もう止められるのも慣れたなァ…)」
そんなことを思いながら中に入っていく。
周りからジロジロ見られる、まァ今の俺は上は裸で靴も履いてねェしなァ…毎回服を用意してくれてる宿屋の親父には感謝しても足りねェな。
中に入り、ギルドを探す前に服屋を探す。
そうして気付いたがこの街は縦と横に大通りを敷いて街を4分割する造りをしている、そして街の中心にギルドがあるようだ。
俺は一番目を惹く服屋に入る、内装も売っている服もかなりド派手だ…正直俺の趣味じゃない。
しばらく品を見て回る、実際に触ってみる。
なんだァ…?ここは…外見だけド派手に繕って全部粗悪品に見えるぜ…俺が前世の感覚を引きずってんのかァ?
それなのに客の入りはかなり多い…俺は違和感を感じていると店員が俺に声をかけてきた。
「いらっしゃいませお客様!どのような品を…」
そこまで言いかけて店員はジロジロと俺を舐め回すように見る。
「……アンタ金はあんのか?」
店員の態度が急に変わる。
なるほどなァ…金が第一、客自体は二の次か…
フン、典型的な悪徳店って感じだなァ…
「…店員の教育もなってねェような店に落とす金はねェな。」
「なっ!?てめぇ!!冷やかしか!?」
俺が事実をそのまま伝えたら店員は烈火のごとく怒りだした。
とことん器が小せェ野郎だなァ…と考えていると店の奥から屈強な男が2人出てくる。
「おい!お前ら!このデカブツをつまみだせ!!」
「へい…おい、店の外に出ろ。」
男の片方が俺の肩に手を置いた瞬間、とてつもない殺気が男を襲った。
「ッ!?」
「…おい、1回だけ言うぞ…俺に触んじゃねェ。」
「あ、え…わ、悪かった…」
男は手を離し、後ろへ後ずさる。
もう片方の男も俺と男を交互に見るだけで触れてこない。
「おい!!何やってんだよ!?早くコイツをつまみ出せよ!!!!」
店員の男がギャーギャー喚く、あまりにうるさいから俺は店員の胸倉を掴んで俺の目線の高さまで持ち上げる。
そして、店員としっかり目線を合わせてお話する。
「おめェ調子に乗るなよ…?死にてェのか?」
「ヒィ!?」
店員はその場で失禁する。
店員を投げ捨てると俺は店を出ようとすると、様子を見ていた方の男が殴りかかってきた。
「はァ…バカが。」
俺は拳を手のひらで受け止め、優しく握る。
だが男が手を引こうとしてもビクともしない。
「ぐっ!?クッ!!離せ!!!」
「最初に言っただろうが…」
ジワジワと男の拳を握る手に力を入れていく。
次第にメキメキと音がしだした。
「!?ガァ!?離せ!!離してくれ!!頼む!!!!」
「悪ぃが俺は寛容じゃねェ、1回目が最大の譲歩だ。」
そう言い終わった瞬間俺は手を思い切り握った。
「ぎゃあああああ!!!」
男は手首を押さえてへたり込む。
店員ももう1人の男もそれを呆然と見ていることしかできない。
「おめェら…こんなことしてたらいつか後悔するぜ?今日みたいになァ…」
そう言って俺は店を出て行った。
そういや服買うのすっかり忘れてたぜ。
俺は店の外に出ると、さっきは気づかなかった小せェ店が向かい側にあるのを見つけた。
その店は年季は入っているが服も内装もしっかりした造りをしていた。
「…ま、ここでいいか。おい、誰かいるか!」
俺が店の奥に呼びかけると奥からパタパタとスリッパで走るような音が聞こえてくる。
「はいはい!お待たせしました!洋服、帽子に小物まで!スワローズ洋服店へようこそ!」
奥から出てきたのは若い女だった。
「服が欲しい、俺のサイズはあるか?無ければ作ってくれ。」
すると女は驚いた顔をした。
「お客さん、向かいのラムダ商会の店に行ったんじゃ…」
「あそこはダメだ、どれも粗悪品ばかり…店員も小便くせェガキだしなァ…」
俺がそう言いながら渋い顔をすると、女は声を上げて笑いだした。
「あはははは!お客さん言うねぇ!!…分かった!お客さん程大きいサイズは無いけど、アタシが手ずから作ったげる!!」
「時間は?」
「2時間ほど待っときな!」
「ああ。」
そして女は2時間で本当に仕上げてきた。
俺は手渡された服を早速着る。
七分丈のVネックの黒いTシャツ、身体にフィットするような着心地、それに派手過ぎねェ…良いじゃねェか。
「気に入った、代金は。」
「今回、奮発して特殊な素材使っちまったから値は張るんだけど…構わないかい?」
「かまやしねェ、どうせメシ以外に金使わねぇしよ。」
そして代金を払って店を出ようとすると女が声を掛けてきた。
「ねぇ!」
「あ?」
「アタシはリジット!アンタの名前を聞かせとくれ無いかい?」
「……リューゴだ。」
俺はそれだけ言うと店を出て行った。
店の外に出て気付く、全然寒くねェ。
「……悪くねェ。」
俺はそう呟いて、ギルドまでの道を歩き出した。




