第28話 極凍の山
時を少し遡る。
俺は数日前にバジリスクドラゴンの毒で目が片方見えなくなった、それはいい…いや良くねェが。
クロエとエレノアにはこの目は治せなかったとハービットが言っていた。
片目でも別に不便はしてねェ…だが、やはりあったもんが無くなると違和感と言うか、居心地の悪さと言うか、やっぱねェと不便だな、うん。
俺はメシを食いながら考える。
この世界は魔法の世界だ。
クロエとエレノアは本来治療は門外漢のはず、それでも俺の身体を目以外は治してくれた。
「まァ…俺の回復力もバケモノ染みてるらしいが…」
治癒専門の魔法使いならこの目を直せるか…?
いつもより遅いペースでメシを平らげていく俺にミーナが心配そうに声をかけてくる。
「リューゴさん?どこか悪いんですか…?」
「いや…この目をどうにか治せねェもんかってな…」
「でしたら!北方ギルドのある街『ハールヘイム』に行ってみたらどうでしょう?北方ギルド『アスガルド』は完全実力主義を掲げてるのもあって、私闘が多いらしいんです。だから治癒魔導師は重宝されて良質の教育が施されるとか…この間、北方まで行かれた冒険者さんが言ってました!」
「そいつァ良いこと聞いたぜ、次の目的地は決まりだなァ…」
「お気を付けて!目、治ると良いですね!」
「ま、なるようになるだろ。」
そう言って俺はメシを食うペースが戻り、全てを平らげた後カウンターで作業しているエレノアの元へ向かう、今日は珍しくクロエがいねェな。
「おい、俺ァ目を治しに北方に行ってくる。」
「お!いやーいつかはそういう日が来るかなって思ってたけど、思ったより早かったね!!ちょうどクロエも北方の街に商業ルートの確保に向かってるから良かったらデートでもしてきなよ〜!まーもしかしたら入れ違いになっちゃうかもしれないけどね!はい!これいつもの北へのルート!」
ニヤニヤと地図を手渡しながらエレノアは言う。
「くだらねェ…」
俺はそう言って冒険者ギルドを出た。
北方…北…北といやァ前の世界の記憶じゃ過酷な環境のイメージが強ェ…その上完全実力主義の国…
「ハッハハハ、期待させる要素ばかりだな。」
俺は王都の北門を出てある程度歩くと、そこから足に魔力を纏う、足が黒く変化する。
「拳で威力が上がんなら足はどうだ?」
俺はニヤリと笑って思い切り地を踏み締める。
バチバチと蒼白いスパークを残して周りの風景が俺の後ろへどんどんと流れていく。
「ハッハハハァ!こいつァ良い!!」
街道を行く馬車も冒険者も追い抜いていく。
数時間のそ調子で走り抜ける、すると段々と流れていく景色に白が混ざり出してきた。
俺はそこで一度足を止めて、周りを見る。
「ここが北の国か…都市の名前はなんだっけか、まァいいか。」
俺はそのまま歩を進めようとする。
だが、唐突に遠方の切り立った山の方からとてつもない殺気を感じた。
「……活きのいいヤツがいるじゃねェか。」
俺は山に向かって走り出す。
目は後回しだ…まずは俺にケンカ売ってきたヤツのツラを拝みに行くとするかァ!!
俺は再び足に魔力を纏って駆け出す。
山は遠方とはいえ既に視界に収まる程に近かったためすぐに麓までたどり着いた。
山の木々は全て凍りついている。
そしてこの山から感じる圧は…俺はふと銀龍のことを思い出す。
「もしかしていんのか…?銀龍のお友達がよ。」
俺は思わず口角が上がる。
こいつァ思った以上に当たり引いたかもなァ…
そう考えていると再び山の頂上の方から殺気が放たれる。
「!!…野郎…そんなに俺と遊びてェか…!!」
俺は駆け出す、凍った木を薙ぎ倒してズンズン進んでいく。
すると俺を覆い隠す程の影が差す。
「バオォォ!!!!」
マンモスだ…!!初めて見たぜ…デケェ、小せェ山くらいはあるんじゃねぇか…?しかもコイツ…!気配の感じからマーセルよりも強ェ!!
「ハァーッハハハハァ!!ホントに最高だなァおい!!!!」
俺は拳を黒く染めて殴り掛かる。
マンモスの右脚をぶっ潰してやろうとした。
だが、マンモスは俺の拳が当たる前に右前脚を持ち上げて俺ごと地面を踏み抜いた。
「うおおお!?」
地面が俺を中心に放射状にヒビ割れる。
この象牙野郎…俺の行動を先読みしてかわしやがった!
あの感じは魔力感知を使ってやがる!
「本当に最高だなおめェ!!!!」
俺は押さえつけてくる脚を掴んでマンモスを振り回そうとした瞬間、マンモスの鼻が俺の腹に炸裂した。
俺は木々を薙ぎ倒して吹き飛ばされる。
「効いたぜ…コイツ…魔力を纏うのもできんのかよ…」
しかもコイツの鼻黒くなってなかったか?
マンモスは余裕の足取りで近付いてくる。
「あ?…さすがに調子に乗り過ぎだなおめェ…」
ここで俺は初めてこのマンモスに舐められていることに気付いた。
ビキビキと額に青筋が浮かぶ。
バッグから鬼哭を引きずり出す。
「もっと遊んでも良かったが…やめだ。」
俺から魔力とは違う圧倒的な威圧感が放たれる。
マンモスはそれに気付くと目の色が変わる。
「バオオオオオ!!!!」
鼻に魔力を集中させて振り降ろしてきた。
「バオォッ!?!?」
だが、俺を叩き潰すには至らなかった。
俺の足元にクレーターができる、だが片手で鼻を受け止める。
そして、瞬時にマンモスの頭上まで移動する。
「終ェだ、【天落・洛陽】!!!!」
鬼哭に魔力を纏い、それを天に掲げ振り降ろす。
たったそれだけだがその一撃はマンモスを叩き潰し、
巨大なクレーターを作り、
辺りを更地にした。
俺は着地すると鼻を鳴らす。
「フン、面白ェヤツだったが、生意気だったな。」
そして山頂へ向けて再び歩き出した。




