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第27話 方舟の闇

王都に戻りギルドへ向かう。

扉を開けて中へ入るとバタバタとハービットが俺を出迎えた。


「リューゴくん!!大丈夫!?アイツらに何されたの!?!?」


「あァ?」


ハービットは血相を変えて俺の身体をペタペタと触りまくる。


「おい、やめろ、どこもケガなんてしてねェよ。」


「へ…!?で、でも『ノアの方舟』のギルマスから"私達の力が足りないばかりにリューゴ殿にご迷惑をお掛けした。"ってメッセージが…」


「(フン、女狐が…乗ってやるよ。)ああ…気にすんな。これは貸しだ、次会う時に色つけて返済してもらう。」


「そっかァ〜…さすがリューゴくんだね!!あの南方の五大ギルドの一角を以てしても敵わない相手を倒しちゃうなんて!!」


「………まァな。」


「うわわ!?」


俺は手放しでハービットに褒められるも、嘘をついてることもあり居心地が悪く、ハービットの頭をワシワシ撫でるとサッサと食堂に歩いて行った。


「リューゴさん!おかえりなさい!すぐにエールお持ちしますね!」


「ああ、頼む。」


俺が特等席に座ると、ミーナとオーナーが同時に動き始める。


「お待たせしました!ごゆっくりどうぞ!」


俺はミーナからエールを受け取ると、一気にジョッキを空にした。


「やっぱ戦った後はこれだぜェ…」


「リューゴさん。」


「あん?」


そこにはクロエが立っていた。


「今回の件大変お疲れ様でした、まさか南方ギルドがここまでの強硬策に出るとは…私の考えが浅はかでしたすみませんでした。」


そう言ってクロエは頭を下げようとしたが俺はそれを止めた。


「やめろ、俺ァ会話もできねェザコとやるより俄然楽しかったぜ。おめェのおかげだクロエ、よくやった。」


「………フフ、そう言って頂けると幸いです。」


クロエは少しの間呆気に取られると綺麗に笑って、頭を下げると行った。


今日の夜はいつもよりゆったりとした時間が流れている気がした。


ーマーセルsideー


「……マーセルよ…」


「は、はい…」


私は額を地べたに付けてただただ震えていた。

身体のあちこちに青アザや切り傷ができている。

見目麗しい黒髪の男がギルドマスターの椅子に座り、両肘を着いて私を見下ろしてくる。


「私は言ったはずだな?…王都で最近勢い付いている目障りなハエを"消せ"と。」


「ッ…はい…」


「ならこれはなんだ?」


そう言って手にヒラヒラと1枚の手紙を持つ。


「なになに、『此度は我々南方ギルドの力及ばず、リューゴ殿に多大な迷惑をお掛けして誠に申し訳ない。また改めて謝罪と此度の活躍に対する報酬をお支払いしたい。』…ね。」


「申し訳ございませんッ…()()()()()()()…」


「いいやお前は反省していない…真の意味での反省とはこの失敗を踏まえて次にそれをどう上手く活かすか、だ。そうだろう?マーセル…」


「仰る通りです…」


怖い…リューゴ殿と対峙した時とは違う、心を削られる恐怖。

今になって思う、私は入るギルドを間違えたのだと。

だが、それに気付いた頃には、副ギルドマスターに上り詰めた時にはもう…私の手は汚れ切ってしまっていた。


私の目から一筋の涙が流れ落ちる。

その瞬間、涙が凍る。


「うあっ!?」


「何を泣いている…?私がお前に悪いことしてるようじゃいか…これはお前が望んだ結果、お前が望んだ未来だ。」


目から顎にかけて氷のラインが入る、冷たく刺すような痛みを感じる。


「次は無いぞ、マーセル…行け。」


「はい…失礼します…」


執務室を出てからの記憶があやふやで、気付けば自宅の洗面台の前にいた。

ふと鏡を見る、目を腫らし、頬に氷の線を入れた、酷い顔の女がいる。

お湯を出して顔の氷を溶かそうとする。


「フフ…因果応報なのかもな……ふっ…ぐ…グス…」


とめどなく涙が溢れてくる、今までこんなことは無かった。

ずっと心を殺し、盲目的にギルマスの指示に従って様々な汚れ仕事をやったきた。


「グス…何故…こんなことになってしまったのだろうな…」


鏡の中の自分に問いかける、無論返事はない。

憧れて入った五大ギルド、いつか各地方ギルドに名が知れるくらい大物になってみせる…そう意気込んで門を叩いた。

だが、いつからかこんな風になってしまっていた。

幸い、殺しをやったことは1度もない…だが、直接手を下したことがないだけで間接的には何人も殺したことになっているんだろうな…


「………助けてくれ…リューゴ殿…」


自分を歯牙にもかけず、圧倒的な強さを振り撒いていったかの御仁を思い出す。

そしていつの間にか私の口はそんなリューゴ殿に助けを求めていた。


だが、そんな呟きは水の音に流されて消えた。


ーside outー


翌日、ギルドに顔を出す。

するとクロエが俺を見つけると小走りで走り寄ってきた。


「リューゴさん、こちらギルマスからの伝言とAランク冒険者証です。」


サラッとランクが上がったことが知らされる。

手紙と言うよりメモ書きに近い伝言を読む。


『リューゴくん!ボク今回も頑張っちゃったよー!!君は晴れてAランク冒険者!!うちのギルドのエースになったわけだ!そして第一級冒険者になった君には二つ名が送られます!!おめでとう!!これから期待と応援してるからね!!!!

P.S 何とかして連絡手段を手に入れて欲しい。』


「……二つ名も書けよ…まァいい…それよりも連絡手段、ねェ…」


「フフ、ひとまずAランクおめでとうございます。では、古い冒険者証はこちらでお預かりします。」


「おう。」


俺はBランクの冒険者証を外してクロエに手渡す。


そして通信手段の方に意識を向ける。

確かにこの世界に来てから気にしてもなかったが、みんなどうやって離れたとこと連絡取ってんだ?

俺は隣にいるクロエに尋ねる。


「おい、クロエ、遠距離通信用の魔法とかあるのか?」


「はい、御座いますよ。【通信(メッセージ)】と言う生活魔法の一つです。」


「使い方教えてくれ。」


「簡単です、メッセージを飛ばしたい相手の顔と名前を思い浮かべて唱えるだけです。」


「なるほどなァ…【通信】、おい、ハービット聞こえるか。」


『うわぁ!?何急に!?え!リューゴくん!?』


「クロエに教わって覚えた、こりゃァ便利だなァ…」


『試しにでボクにかけないでよ!ボクギルマスだよ!?忙しいんですけど!!』


「おめェが連絡手段なんとかしろって言ったんだろ。」


『え!?もしかして…一番最初に連絡ボクにくれたの…?』


「おう。」


『え、え〜〜?そんなぁ〜うへへへ…はっ!コホン、とりあえず分かったよ!これからはギルド内に君がいない場合はこの方法で連絡するからね!』


「おう、じゃあな。」


そう言って通信終了する。

俺はこの魔法について素朴な疑問をぶつける。


「なあ、この魔法は知らねぇヤツからも連絡くんのか?」


「いえ、その心配はありません。お互いに顔と名前を認識していないと使えませんよ。」


「そりゃァ安心だな。」


俺はそう言って食堂に向かう。

そして今日も大量に食った後、ミーナが嬉しそうに話しかけてきた。


「何かいいことあったんですか?いつもよりいっぱい食べてましたね!」


「……Aランクに上がったから…かもな。」


「えーーーー!?第一級冒険者じゃないですか!!おめでとうございます!!」


俺は内心驚いていた。

俺自身、思ったよりも嬉しかったのかもな。

そう思っていると横から筋骨隆々な腕に支えられた大皿に料理が山盛りに盛られて出される。

目を向けるとオーナーが立っていた。


「奢りだ…食え…」


それだけ言って厨房に引っ込んで行く。


「フン、粋なマネしやがる。」


俺はニヤリと笑うと祝いの料理を堪能した。

ちなみに味はうまくないわけがなかった。




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― 新着の感想 ―
[一言] ☆感想にコメントありがとうございます! マーセルは良心とギルマスからの圧に板挟みにされていたのか…。 んで、知り合ったばかりの(しかもコテンパンに負けた相手でもある)人に助けを求めちゃう辺…
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