第25話 罠
やっちまったなァ…
「なんでこんなに弱ぇんだよクソ…」
俺はボソッと悪態をつく。
「すまないな、うちのギルドの冒険者は君を相手するには役不足のようだ。」
凛とした声が響く、声の方を向くと青い長髪の女が立っていた。
「誰だおめェ。」
俺がそう言うと気絶を免れたヤツらが動揺する。
「お、おいあんた!【海魔】のマーセルを知らねぇのか!?うちのギルドマスターだよ!!」
「あァ〜…知らねェ、悪ぃな。」
「アッハッハッハ!私と対面してそうハッキリ物が言える男は初めてだ。気に入ったよ、リューゴ殿。改めて、『ノアの方舟』のギルドマスター、マーセル・フリューゲルだ。よろしく頼む。」
マーセルは楽しそうに笑って手を差し出してくる。
「おう、さっきみてェなザコしかいねェかと思ったら全然良いのがいるじゃねェか。」
そう言いながら握手に応える。
コイツ、さすがギルドマスターだけあって強ぇ…
「いやはや、お恥ずかしい。何分規模の大きなギルド故、ああいった手合いも多くなってしまう。」
マーセルは困ったように笑いながらそう言う。
「俺に絡んできたらああなるって言うのを周知してくれりゃどれだけケンカ売ってきても構わねェぜ。」
そう言いながらさっきのヒョロガリを見る。
「ん…?あぁ…ヘンリーか…奴は問題児でな…実力はあるんだが如何せんランク差別の傾向が強くてな。」
「ハッハハハ、じゃあ今回はいいクスリになったろ。」
「フッ、だと良いんだがな。」
マーセルはそう言って苦笑いする。
「では、作戦の説明をするためにまずは寝坊助どもを起こすとしよう、【水球】。」
そう言って気絶しているヤツら全員の顔の上に寸分違わず水の球を作り出す。
コイツとんでもねェ魔力操作技術してんな。
マーセルの魔法で全員が目を覚ます、さっきよヒョロガリもだ。
「ん…あれ…俺なんで痛ッ!?」
ヒョロガリは目を覚ますと俺が小突いた鼻を押さえて呻く。
「ヘンリー、お前は遥々王都から来てくれたそこの御仁に喧嘩を売って敗北したのだ。」
マーセルはヘンリーに殺気レベルの圧を放って言う。
俺はそのマーセルの姿を冷静に観察する。
「うっ、ぐ…すみませんでした…」
「たわけ!!謝る相手が違うだろう!!!!」
「うっ……悪かった…」
目も合わせねェ…反省の色も見えねェなコイツ…もっかい今度は本気で殴ってやるか…?
そんなことを考えているとマーセルが声をかけてくる。
「すまない…これは私の監督不行き届きだ。」
真面目だなァコイツ…でもなんか臭うなァ、エンジと同じ臭いがしやがる…まァいいか、向かってきたらぶっ飛ばせばいいし。
「おめェの態度に免じて許してやる、ほら、レイドの説明するんだろ。」
「ああ、ありがとうリューゴ殿。」
マーセルは優しく微笑むと、この広間に集まっている者の見える位置に立つ。
「全員ッ!傾注!!!!」
覇気のある声が轟く、やけにマーセルの声が響いてくる。
コイツ…声の振動に魔力乗せてやがる!!
スゲェ技術だ、俺も戦闘で使えねェかな…
「これより我々は中央ギルドから来てくれたリューゴ殿と共に!!Sランクモンスター"アダマスドラゴン"の討伐に向かう!!リューゴ殿の実力はみな先程その身で経験してくれただろう!!故に!!彼には今回先発組を担ってもらう!!!!」
ギルドマスターのその言葉に南方ギルドの面々はどよめく。
「静粛に!!リューゴ殿、構いませんか?」
マーセルが俺に目を向け問いかけてくる。
「願ったり叶ったりだぜ。」
そう言って俺はニヤリと笑う。
マーセルはそれを見てコクリと頷くと再び視線を戻す。
「諸君!!アダマスドラゴンのいるラグナ海岸洞窟の前に各自で向かってもらう!!」
なんだ、こっから全員で行くわけじゃねェのか。
まーた別の場所で集合かよ、めんどくせェ…
「アダマスドラゴン…ねェ…ドラゴンエイプやバジリスクドラゴンより強ぇと良いなァ…」
そう呟いて俺は先に海岸洞窟へ向かった連中の後を追った。
海岸洞窟の入口はかなりデカかった。
洞窟の奥も見えねェ…
「みないるな!?では私とリューゴ殿で先行する!!行くぞ!!!」
俺は言われるがままマーセルについて行く。
どうやら洞窟自体はほぼ一本道の造りみてェだな。
そして数時間歩いた辺りで俺は違和感を感じていた。
「(モンスターが少ねェ…これだけデケェ洞窟でか…?)」
広くデカい割にモンスターが少ない上に、マーセルの歩みに迷いが無さ過ぎる…
「(こりゃァ…ハメられたっぽいかァ…?)」
そう思っていると最深部らしき場所に着く。
だがそこにはレイドで挑むべきモンスターの姿は無かった。
そして、俺の後ろでガチャガチャと俺の道を塞ぐように南方ギルドの連中が布陣する。
やっぱりか…と思いながらも俺は聞いた。
「こりゃァ…いったい何のマネだ…?」
「フ…フフフフ…アーハッハッハッハ!!のこのことこんな所まで着いて来るとは随分なマヌケらしいな、リューゴ殿よ。」
「やっぱり罠か…」
「フン、気付いていたような口振りだな。」
「そりゃァな…これだけの規模の洞窟にモンスターが少ねェ上に、おめェの道選びに迷いがなさ過ぎんだよ。」
「チッ…中央の期待の星を消せる喜びの余り気持ちが逸ったか…まぁいい、どうせ貴様はここで死ぬ。中央のギルドマスターにはこちらから上手く言っておこう。総員!構え!!!!」
南方ギルドの連中は各々武器や魔法の準備をする。
俺はそれを冷ややかな目で見ていた。
ホントにテメェらは…
「救えねェなァ!!!!」
広間の時の比ではない膨大な魔力の奔流が渦巻き、連中の意識を次々と刈り取っていく。
マーセルも余りの魔力の激しい渦に目を瞑る。
意識があり、かつ戦闘意欲の残った者はマーセルを含め数える程しかいなかった。
「な…!?なんなのだこれは…!?!?」
「ギルマス…!!コイツはヤベェ…マジでヤベェ…!!」
マーセルが目を開けた時にはもはや戦闘を続けられる状態ではなかった。
マーセルの隣でヘンリーも真っ青な顔で震える。
「……おい、まだやんのか?」
俺がそう言うとマーセルは額に青筋を浮かべて激昂した。
「舐めるなぁ!!私はSランクだぞ!!このまま終われるものかああああ!!!!!」
マーセルが青い槍を振るうと、足元の海水がマーセルの周りに舞うように巻き上がる。
そしてマーセル身体にまとわりついたと思ったら次の瞬間、鎧に変わった。
「【海神の鎧】。覚悟するがいい…海上では私が最強だ!!!!」
そう叫び、マーセルは海水の上を滑るように迫ってくる。
マーセルのその力を見て俺のワクワクは止まらなかった。
「最高じゃねェか…!!期待ハズレだったらぶっ殺す!!」
そう言って俺は両腕を黒く染めて俺も飛び出す。
俺とマーセルの拳と槍がぶつかり、衝撃の余波で洞窟が揺れた。




