第22話 覇砕棍・鬼哭
目を覚ますと見知らぬ天井だった。
腕を持ち上げると、完全に動かせないようにギブスがされている。
だがその中で指が動く感覚がある、俺はギブスの中で拳を握る。
そしてそのままギブスは俺の筋肉の隆起に耐えられなくなり弾けた。
扉が開いて見知った顔が入ってくる。
ハービットが起きている俺に気付くと声をかけてくる。
「やーやー起きたかい寝坊助くん!もう腕の方は良さそうだね!!」
「……俺ァどのくらい寝てた?」
「リューゴさんが回収されたのが一昨日ですので、2日程度…ですかね。」
「もー心配したよー!何であんなとこにいたのさ!」
クロエが俺に答えた後、エレノアの発言に俺は引っかかった。
「あんなとこ…?どういうことだ?俺ァ依頼されたヤツらをぶっ飛ばしてただけだろうが…」
「リューゴくんがバチバチにやり合ってたあの2匹のモンスター討伐対象じゃないよ!?!?」
「……は?」
「リューゴさんが倒したモンスターですが、鶏のような容姿をしていた方がバジリスクドラゴンですね、もう一体の大猿がドラゴンエイプです。両方ともSランクモンスターですね。」
エレノアの驚く声、俺もエレノアの言葉を聞いて一瞬放心する。
そしてクロエが補足するように説明を入れた。
「そういうことか…道理で強ぇわけだ。」
「さて!リューゴくん、今回は依頼とは違うとは言えかなり凶悪で手が付けられないモンスターを倒したからね。これを低ランクで遊ばせておくのは良くない、と言うことで!Bランクに昇格でーす!!」
ハービットがワーッと喜んで、クロエとエレノアが後ろでパチパチと控えめな拍手をする。
だが、俺は素朴な疑問を投げかけた。
「アイツらSランクなのに一つしか上がんねェのか?」
「あ〜…はは…ごめんよ、ボクもそう思って会議で君をSランクにすべき、もしくはAランクにすべきって言ったんだけどね…Aランクはギルドのエース級、Sランクはもう国の英雄レベルだからね。他所のギルドはそれが面白くないみたい…ギルド間の関係って基本的に商売敵同士だからさ、Sランク冒険者の在籍数とかそういう小さいことで優劣を付けたがるんだよね。実はね、この王都冒険者ギルドは昔が昔だったから、多少マシになったとは言えまだまだ底辺ギルドなんだよ。」
「フン…権力争いか、くだらねェ…」
「ホントにね、みんなで手を取り合えばできないことなんてないのにね。」
そう言ってハービットは苦笑いする。
ハービットの後ろに立っているクロエとエレノアも困ったように笑っている。
コイツらには日頃から世話になってるし、今回は命も助けられたからなァ…
「良いぜ、俺がなってやるよ。」
俺がそう言うとハービットはキョトンとする。
「え?えっと…何に?」
「だから、俺が国の英雄レベルになりゃァ足元見てくるヤツらにデケェ顔できるだろうが。」
俺は楽しみで仕方なかった。
Sランクには俺を死の際まで追い詰めるようなモンスターがいる。
ならもっと強ぇヤツらがいるかもしれねェ、そう思うと今すぐにでも依頼を受けたい衝動に駆られる。
呆気に取られていたハービットが気を取り直して俺に告げる。
「ありがとうリューゴくん…でも君、1週間は安静にしてないとダメだからね。」
早くも挫けかけた。
だが、俺の回復力は凄まじいらしく3日経った頃には完全に調子を取り戻していた。
だが、唯一俺の片目だけが治っていなかった。
どうやらバジリスクドラゴンの毒液の影響が出てしまっているらしく、俺の右目はほぼ見えなくなっていた。
「いやはや〜…正直、バジリスクドラゴンの毒って不治の病よりも危険なものってイメージだったんだけど…両腕も一部炭化してたのにすっかり元通りだし…」
「フン、メシ食って酒飲んで寝てりゃァ治る。」
ハービットが呆れたように言うが俺はこともなげに返す。
そしてハービットが俺の目を見て言う。
「本来なら1週間絶対安静だったんだけど!君の人間離れした回復力を鑑みて主治医からは退院許可をもらいました!!」
「退院って…ここギルドの医務室だろ?」
「そう!だから治療を担当したクロエとエレノアの許可。」
なるほど、と変に納得する。
だがハービットの表情が少し暗くなる。
「…ごめんね、その目は治せなかったや…」
ハービットはそう言っておずおずと黒の眼帯を渡してくる。
俺はそれを受け取って着ける。
「……似合うか?」
「うん!とっても!」
俺はハービットにニヤリと笑いかける。
そんな俺を見てハービットは嬉しそうに、だが哀しそうに笑い返した。
俺は医務室を出て、まずは宿に戻ることにした。
ギルドの食堂でメシ食って帰るか…と考えているとギルドの扉が開く。
そこに居たのは、鍛冶師のガーランドだった。
ガーランドはすぐに俺に気付くとこちらまで歩み寄ってきた。
「よお、待たせたなあんちゃん。武器ができたぜ、明日にでも取りに来な。」
ガーランドがそう言う、だが俺は我慢ができなかった。
目の前にあるパスタとステーキをあっという間に平らげ、金をミーナに押し付けると立ち上がる。
「いや、今から行くぞ。何してやがる案内しろ!」
そしてガーランドの工房に移動した。
どうやら俺の武器が完成してからすぐに俺を探しに来たみたいだ。
そのまま鍛造室に置かれていた。
一言で言うならトゲのない金棒、六角形のバット、と言ったところだ。
俺はそれを手に取って軽く素振りする。
軽く振っただけでブワッと風圧が起こる。
重く、硬く、手に馴染む。
俺は口角が上がるのを抑えられなかった。
「……完璧だぜ。」
「ったりめェよ!銘は『覇砕棍・鬼哭』だ!」
「良いじゃねェか……いくらだ?」
「いや、金はいい…ただ、残った銀龍の鱗を譲っちゃくれねぇか?」
「あ?そんなもんでいいのか、好きにしろ。」
「!!ほんとか!恩に着る!!」
どうやら銀龍の鱗は鍛冶師からしたら余程興味を惹かれるらしい。
俺達はお互いにホクホクしながら別れた。
後に『ガーランド武具店』は大陸一の鍛冶屋として有名になるがそれはまた別の話だ。