第21話 命を以て誅す
村を出てからも歩き、日も中頃まで昇った。
くそ、思った以上に時間かかっちまったぜ。
「ここがラージア高原…」
辺りを見回す、見渡す限りの青々とした草原。
付近にはちょっとした山もある。
「えーと…どいつをぶっ飛ばせばいいんだっけか。」
そう言いながらゴソゴソとマジックバッグを漁り、依頼書を取り出す。
「ん〜…まずはカマキリ行ってみるか。」
そう言って歩き出す。
ただ歩き回るのもつまらねェ、確か盗賊どもからかっぱらったモンの中に酒があったはず。
そう思い、俺はバッグから酒を取り出して飲みながら探し歩くことにした。
……あれから何時間経った…?
一向に見つかる気配がねェ…クソ…クロエのヤロー適当言いやがって…もうバッグの中の酒をほとんど飲んじまった…
「たかがカマキリの分際でふざけやがってェ…ヒック。」
だが、俺がふらふら歩いているとやけにデカいカマキリの群れを見つけた。
「あ?カマキリって群れんのか?まァいいか…とりあえず1番強そうなヤツの首持ってけばいいだろ…ヒック。」
俺は群れの中で1番デカく強そうな侍みてェな甲冑の甲殻に身を包むヤツに目を付けた。
「散々探し回ったんだ…楽しませねェとぶっ殺すぞオラァ!!!!」
拳に魔力を纏い黒くしようとするが、できなかった。
「あァ?何でできねェんだよォ!!!!」
むしゃくしゃしてカマキリに拳を振るう。
カマキリは生意気にも鎌で迎撃してこようとしたから俺はその鎌を掴み握り潰した。
カマキリは鎌を潰されて何やらキーキー鳴いているがそれが頭に響いて更にイライラした俺はカマキリに全力で攻撃した。
「うるせェよ!!!【拳岩】!!!!!」
カマキリを地面に叩き付けるように打った一撃はそのままカマキリもろとも巨大なクレーターを作った。
そしてその場にはカマキリのもう片方の鎌だけしか残っていなかった。
「あァ!?なんだってんだ!!とんだ期待はずれじゃねェか!!!あれだけ探し回ったんだぞ!?クソォ!!!!」
俺はボーッとする頭で次を考える。
「カマキリが終わっちまったぜ…クソ…あとは猿と…バジリスク?とかいうヤツか…次も期待できねェなァ…」
そう言いながら俺の足は山へと向かう。
猿=木登り=山という図式が俺の中で成り立っていた。
山に入ると同時に、雷鳴のようなどデカい鳴き声が聞こえてきた。
「ゴギャアアアアアアア!!!!」
俺はその鳴き声を聞いてニヤリと笑った。
「強そうな雄叫び上げてるヤツがいるじゃねェか!!」
そして走り出す。
文字通り真っ直ぐに、木々を薙ぎ倒して進む。
そして、声の主らしきモンスターを見つけた。
どうやら他のモンスターと戦ってるようだ。
「あんだァ?あのモンスターは…」
ソイツはデケェニワトリみたいな見た目をしてやがる…でも牙が生えてんな…尻尾もなんかトカゲみてェだし、それになんか毒吐いてやがる…うわ、木が溶けた。
「なんか危ねェニワトリだなァ…」
俺が声の主と目星をつけたモンスターを見る。
そこに居たのはまるで龍の鱗のようなものを纏った大猿だった。
「こいつァラッキーだぜ、討伐対象の猿はアイツだな!?」
俺は2匹のケンカに混ざって行った。
ニワトリがこちらに気付くと口から灰色の煙のようなブレスを吐いてきた。
俺の勘が危険だと察知し全身に当たらないようにかわし、手を煙に突っ込んでんみる。
すると、手が石化していた。
たが力を込めるとどうやら石化していたのは表面だけですぐに砕けた。
「なんだこりゃァ…ただのコケ脅しじゃねェか。」
ニワトリはその俺の様子を見て危険だと思ったのかさっき以上に警戒心と殺意を剥き出しにする。
だが、俺に注視したのが良くなかった、大猿がそれを見逃さなかった。
ニワトリの尻尾を掴むと思い切り引っ張って自分の方へ引き寄せ、ニワトリの顔面に向けて口から火炎弾を吐き付けた。
肉が焼ける音と匂いがする。
「(ニワトリなだけあってちょっと美味そうな匂いだな)」
そんな呑気なことを考える。
だが気を抜き過ぎていた、大猿に押さえつけられ大暴れするニワトリの尻尾に思い切り脇腹を打たれ俺は吹き飛ばされた。
木をクッションにしながらある程度まで飛ばされると俺は木を足場にして思い切り横に跳んだ。
俺は額に血管を浮かべて怒髪天を衝いていた。
「舐めたマネしやがってェ…酔いが覚めちまったぜ…ぶっ飛ばしてやる!!」
魔力を拳に集中させると今度はちゃんと蒼白い光沢のある黒色に変わった。
俺はその拳を大猿の顔面に叩き付けた。
「グギャア!?!?」
自分より一回りも二回りも小さい人間に殴り飛ばされ驚いたようだ、大猿は妙な悲鳴を上げた。
だが大猿が殴り飛ばされたことで自由になったニワトリが俺に向けてあの毒液を飛ばしてきた。
ヤベェ空中じゃかわしきれねェ。
俺はモロに毒液を食らってしまった。
「ぐっ!?ガハッ!!うぐあああああ!!!!」
全身に刺すような痛みが走る、呼吸をすれば肺と粘膜が焼けて溶け落ちているようだ。
何だこりゃァ!?あんのニワトリ野郎…!!!!絶対に許さねェ!!!!!!
俺は怒りで全身の激痛を耐えながら立ち上がる。
「ふざげやがっでェ…ブッごろじでやる…!!!!」
クソ、この毒液…気化して内側にまでダメージを与えてくんのか。 とことんまでふざけたモンぶっかけてきやがって!!
俺は抉れる程地面を踏みしめニワトリに急接近する。
ニワトリは再び毒液を吐こうとするが俺の方がタッチの差で早かった。
ニワトリの顎を蹴り上げた。
「グルァ!?」
「がぐごじろよデメェ…!!!!」
俺は首に抱き着くと思い切り力を入れてハグした。
メキメキメシメシとニワトリの首から嫌な音が聞こえてくる。
「グルッ!?グッブ…グブァ…ブクブク…」
ニワトリは泡を吹いて意識を失う、だが、テメェはダメだ許さねェ、俺は更に力を込めていく。
「ヴヴ…オラァ!!!!」
そしてニワトリの首がちぎれ飛んだ。
そのまま力なく横たわるニワトリの首無し死体。
だが俺は油断なく大猿を見据えると、野郎…今の今まで次の攻撃の準備してやがった!!
口の中にバチバチと音を立てて魔力がどんどん集まり巨大な光源となっている。
そして次の瞬間、大猿の口から極大の熱線が放たれた。
俺は全力で両腕に魔力を集中させ、そして真正面から熱線を受け止める。
「ぐっ…ヴおおあああああ!!!!」
手も身体も焼けていく、だが退かない。
逃げるくらいなら死を選ぶ。
「俺が…ざいぎょうだああああ!!!!!」
大猿の熱線が止む、溜めた魔力を放ち切ったようだ。
俺の腕は焼け焦げ、毒液のせいで目も霞む。
クソ…とんだ厄日だぜ…俺は今日ここで死ぬかもしれん、だが、それはテメェの攻撃じゃねェ…!!!!
瞬間、俺は地を蹴って大猿の喉笛に噛み付く。
俺の2倍以上デカいヤツの喉に俺が噛み付いたところでだろうが構いやしねェ…ここで勝たなきゃ俺は死ぬ。
なら!!絶対に!!勝ちゃァ良い!!!!!
「ヴヴヴヴヴヴヴ!!!!!」
俺が大猿の喉を噛みちぎらんと顎に力を込める。
「グギャアアアアアア!!!!!」
大猿が悲鳴のような声を上げた。
俺はさらに大猿の喉をキツく噛む、そうしているとブツンという音と共に俺の噛んでいた場所から大量の血が噴き出た。
どうやら俺はヤツの動脈に食らいついていたらしい、そのまま大猿の身体はゆっくりと地に倒れた。
俺は大猿の喉から口を離し仰向けになる。
両腕は感覚が無いし呼吸もしづらい、目もほとんど見えん…まさに満身創痍ってヤツだ。
「だが…がっだ…ヒュー…ヒュー…」
ハハハ楽しかった、コイツらめちゃくちゃ強かったな…
今日は大金星だぜ。
そのまま俺の意識はゆっくり闇に落ちる、直前にハービットの顔が見えた気がした。




