第18話 焔の剣、再び
どんどんと速度を上げて駆けていく。
俺が今日中にラージア高原に着きたい理由はたった一つ。
メシを持ってねぇからだ。
「まさかそんなに距離があると思わねぇからなァ…」
ボヤきながらも走り続ける。
そしてふとハービットの精霊化していた時に使っていた飛行能力を思い出す。
「…やっぱ飛べんの良いよなァ…」
誰にも聞かれる心配もない故に素直に羨ましがる。
だが事実、こういう時の移動も飛ぶ能力は道なりを無視して真っ直ぐ行ける分負担が減る。
「俺も飛ぶ能力欲しいぜ……跳んでみるか。」
俺はスピードを落として立ち止まると、膝を曲げて深くしゃがみこむ。
「今の俺が思い切り跳ねたらどれだけのものか…ゥオラッ!!」
ドンッと砲弾を撃ったような音と共に俺の体は遥か高みまで飛んで行く。
そして近場に村を見つけた、しかもこの跳躍のちょうど着地点になりそうだ。
しかしどうやら襲われている、それに気づくと俺は顔を顰める。
「何だってんだ…異世界に来てから襲われてねぇ村を見たことがねェ。」
最高高度までたどり着いたらしい、体が重力に従ってゆっくり落ちていく。
そして落下速度はどんどんと上がっていく。
そして俺は村のど真ん中に墜落した。
。
村の中心にどデカい人型の穴が空く。
盗賊も村人もみな何が起きたか分からず、呆然としている。
俺は穴の縁に手をかけて這い出した。
「あァ〜…着地を考えてなかったぜチクショウ…」
俺は周りを見回す、盗賊の割にしっかりした装備をしている。
「こりゃァ…親玉は期待できそうだなァ。」
俺がそんなことを独り言ちっていると盗賊団達はみるみるうちに顔面が蒼白になり、脱兎のごとく逃げ出した、興味深い叫びを上げながら。
「ひぃぃ!!なんでアイツがいるんだよぉぉ!!!」
「ボスに報告するんだ急げぇ!!物資はぜんぶ捨ててとにかく身を軽くするんだぁ!!!!」
「あァ?」
どうも俺のことを知ってる連中っぽいな…
そんな考え事をしていると少なくなったが割と若い連中が前に出てくる。
「よおよお、俺たちが誰か分かって降ってきやがったのか?」
1人がニヤニヤしながら聞いてくる。
すると別のヤツも話しかけてくる。
「センパイ達はビビり過ぎなんだよなぁ…あの最強の剣士たるボスを1発で倒す3mを越える大巨漢ってどんな夢見てたんだっつーの!ギャハハハハ!!」
そう言って周りのヤツと一緒になって笑う連中。
剣士…俺が1発で倒した…?
いたかそんなヤツ…?
そして俺は思い至る、この世界に来たばかりの時に。
「あァ…おめェらあの火の剣士ンとこのヤツらか…」
「気付いてもおせぇよ!!死ねぇ!!!」
いつの間にか戦闘態勢だった連中の刃を全て身体で受け止める。
いつもの光景に俺はあくびをする。
「ふあ〜ぁ…終わりか?」
「なぁ!?お前ら!距離を取って囲めぇ!!!!」
意外にも機敏な対応で俺から距離を取る。
「俺たちの全部火属性エンチャントの武器だぞ!?どうなってんだ!!」
「俺が知るかよ!!!!」
「もしかして…センパイたちの話…ホントだったんじゃ…」
連中がギャーギャー喚き、1人の根暗そうなヤツがボソッとそんなことを言うとその場は静まり返った。
「に、逃げろぉ!!逃げるんだぁぁあ!!!!」
センパイたちの話?とやらがホントだと分かるや否や俺に背を向け走り出す。
だが、逃がしはしねェ。
「1度向き合って、あまつさえ俺に攻撃してんだ…俺からの攻撃を受けんのが礼儀だろうが。」
そう言って一瞬で先頭を走るヤツの前に移動すると、頭を掴んでそのまま握り潰した、先頭の男は声を出す間もなく絶命する。
「う、うわあああ!!」
「ひいいい!!」
今度は散り散りになって逃げ始める、だが魔力感知をモノにした俺には関係がない。
1番近いヤツの背中に追い付き片手で上から叩き潰した。
「ギャッ」
次もまた近いヤツに急接近する。
今度は普通に横から殴った。
「うぎっ」
最後の1人になったヤツの目の前に一瞬で現れる。
生き残っていたのは根暗そうなヤツだった、こいつラッキーだな。
「ひィィい!!!」
完全に恐怖で心が折れ錯乱している。
これじゃァ話も聞けねェな…
そう思い、トドメを刺すために頭に手を近付ける。
「ちょいと待ってくんねぇか、旦那。」
この声、来たか。
そう思い振り返ると、いつぞやの盗賊団の頭ではなく歴戦の猛者の雰囲気を纏った男が立っていた。
目は片方が傷で潰れ、身体もあちこちに無数の傷ができている。
武器も大剣から刀になっている。
服装も前回は鎧だったが、今は動きやすさ重視の胸当てと篭手や具足程度だ。
「随分なイメチェンじゃねェか…見違えたぜ。」
「アンタからそう言われるたぁ嬉しいね…こっちに来てくれ戦いやすい場所を用意してある。」
俺は大人しくついて行こうとする、その瞬間男は思い出したように言った。
「おっと、忘れてた。」
そう言って先程回収させた男の首を一太刀で撥ねた。
驚くべきことに俺の目を持ってしてもその一太刀は速いと言う感想を抱かせた。
「ヘェ…」
俺はその光景を見ながらニヤリと笑う。
男が振り返り俺に事情の説明を始めた。
「実は今回な、俺たちの団を自浄するための襲撃だったんだよ。最近勝手なことをする若い衆が多くてな、俺直属の部下に見張らせてたんだが…まさかアンタが現れるとはな。」
しばらく歩くと、この盗賊団の野営地のような場所に出た。
中心にかなり広いスペースを取ってある、中心で盗賊団の部下同士で組手をやっていた。
周りには他のヤツらがギャラリーとしてヤジを飛ばしている。
「闘技場を思い出すぜ…」
「ハハッアンタなら絶対行ってると思ったよ。アンタに負けて以来、コロシアムをイメージして毎回襲う場所の近くにこんな野営地を作るようにしたんだ。」
なるほどなァ…だがコイツの団は取るに足らねぇザコばかり、コイツにこんな傷を負わせるだけのヤツはいねェ。
「その目は俺に傷を負わせた奴のことが気になってんな?アンタの想像通り、この団は俺より強ぇ奴はいねぇ…だから他の盗賊団を襲ったんだ。アンタに負けて、高みを知った…それから俺は強ぇ奴との戦いに明け暮れた。」
そう言って男は闘技スペースの真ん中に立つ。
「さぁ、構えろよ。今回はしっかりお互いの命を懸けて戦ろうや…!!」
俺は近くで男の部下が飲んでいるまだ開けたばかりの酒をひったくると瓶の上をデコピンで弾き飛ばし、それを飲み干した。
「ぶはァ〜……おめェの名前を聞かせろ。」
「…エンジ、エンジ・サカズキだ。」
「(エンジ・サカズキ…サカズキ・エンジ…なァ…)リューゴ・シシハラだ。」
「アンタ…!!俺と生まれが同じなのか…!?」
「いや…違ぇ。俺はおめェのとこよりもっと遠い国の生まれだ。」
「そうか…なら、始めようか…!」
「おう。」
そう言ってエンジの周りに灼熱の炎のような赤い魔力が立ち上る。
そして俺の周りには蒼白い稲妻のような魔力がバチバチと迸る。
次の瞬間、お互い同時に前に出る。
そして拳と刀がぶつかった瞬間、魔力の余波で周りのヤツらはほとんどが気絶した。




