第17話 ラージア高原へ
翌日、俺は宿を出て冒険者ギルドに顔を出す。
すると俺に気づいた冒険者の1人が声を上げた。
「おっ!お前ら!期待の大型新人が来たぜ!!」
「ほんとだ!ねぇ!Cランクからスタートってほんと!?」
「マジかよ!?2ランク飛び級ってことか!?」
「俺と同じランクだ!仲良くしようぜ!!」
ソイツが声を上げると、他のヤツらも気付き俺のことをワラワラと取り囲んで口々に言う。
鬱陶しいと思う反面、やはり少し嬉しかったりする。
「ああ、よろしく頼む。」
ぶっきらぼうにそう一言だけ言って、カウンターまで歩く。
そんな俺の背を見つめていた冒険者達は顔を見合わせて笑ってたのには気付かなかった。
「よう、クロエ、早速依頼を受けてェ。なんかあるか?」
「リューゴさん、おはようございます。そうですね…」
挨拶もそこそこにカウンター内をゴソゴソとするクロエ。
ふと隣を見ると今日はエレノアがいなかった。
「そういや、エレノアは?」
「今日は新米冒険者の教習ですね、2階の講義室にいますよ。」
「そんなこともやってんのか…俺は受けなくていいのか?」
「ほんとなら受けて欲しいところですが、ギルドマスター曰く『リューゴくんは殺しても死なないから大丈夫じゃない?講義とか嫌いそうだし。』だそうです。」
「ハッハハハハハ!!よく分かってんじゃねェか!!」
「だと思いました……こちらの依頼はどうでしょう?ロックエイプの討伐、ソルジャーマンティスの討伐、バジリスクの討伐、です。」
「見事なまでに討伐依頼ばっかりじゃねェか。」
「リューゴさんは採集が苦手かと思いまして。」
「おめェもよく分かってんなァ…全部受けるぜ。」
「フフ、そう言うと思って全て同じ地域の依頼にしておきました。では、依頼を受けて完了するまでの説明をさせて頂きますね。」
「ああ、頼む。」
「まず依頼は基本的にあそこに見えるボードに張り出してあるものを取ってカウンターに持ってきて頂く場合と、今回のように私達受付嬢が適正のあるものを見繕わせて頂く場合の2種類に別れます。採集と討伐は依頼品、あるいは討伐対象の証明部位をカウンターまでお待ちください。探索依頼の説明は今回は割愛させて頂きます、説明は以上になりますが、大丈夫ですか?」
「ああ、問題ねェ、今回のヤツらの証明部位は?」
「ロックエイプは尾、ソルジャーマンティスは鎌、バジリスクは爪になります。」
「分かった、地図くれ、すぐに出る。」
「かしこまりました。では、こちらがこの地方の地図です。王都西門から出てお向かいください。目的地までのルートをマーキングしておきましたので、お気を付けて。」
そう言ってクロエは恭しく頭を下げる。
「おう。」
ぶっきらぼうにそう言って、俺は手をヒラヒラと振りながら冒険者ギルドを出ていった。
そう言えば俺は正式な依頼は初めてだな、そう思ってワクワクしながらギルドを後にする。
俺は受け取った依頼書を見る、場所は…
「ラージア高原…まァ当然、名前聞いたところで分かんねぇな…ん?……ミュルズ針樹林の反対側か。」
そう言って俺がこの街に来た時のことを思い出す
そして反対の方に目を向ける。
「あれが東門、…確か西門から行けって言ってたな…うし、行くか。」
瞬間大通りを突風が吹いた。
周りの人間は何事かと目を向けるが、そこに俺の姿はもう無かった。
西門へたどり着くと門兵に話しかける。
「おい。」
「はい?あっ!貴方は!!」
若い門兵は声をかけられ振り返ると喜色満面と言った顔で俺に歩み寄ってきた。
「リューゴ殿ですね!?東門のイワン兵長から話は伺っておりました!あ!申し遅れました俺はガッツと言います!!」
「イワン…?」
「東門で門兵の総指揮に当たっておられる方です!」
「あぁ…アイツか。」
「あの騎士王殿と互角とか!いやぁすごいなぁ!!」
とガッツが憧れの存在に焦がれる子供のようにはしゃいでいると横から不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「ケッどこまでがホントなんだかね。」
そちらに視線を向けるともう1人の若い門兵が壁によりかかって俺を睨みつけていた。
「おい!ヒールス!!失礼だぞ!!」
ガッツは怒鳴るがお構い無しにヒールスとやらは続ける。
「噂がどれだけ独り歩きしてるか知らねーがあの騎士王様と引き分けられる人間がいるわけねーだろ?」
もしかしてコイツ…
「おめェ…アーサーのファンか?」
俺がそう言うとヒールスは顔を真っ赤にして喚き出した。
「なっ!?んなわけねーだろ!!!あんな優しくて強ぇだけのお人好しのファン!?ふざけんな!!!!」
ぶん殴ってやろうかと思ってたがそういうことか…
ガッツが横から補足するように小声で言ってくる。
「ヒールスは兵舎の机の中にアーサー殿の活躍した記事を切り抜いて保管してるんですよ」
「おぉい!!ガッツ何バラして…てかなんで知ってんだぁ!!!!!」
「まぁいい…おい、ここからラージア高原までどのくらいかかる。」
「道なりに馬車で1週間といったところですね。」
「そうか…なら今日中で間に合うな。」
俺がそう言うと門兵2人は疑問符を浮かべる。
「あァ…そうだ、アーサーに免じて今回は殴らねェでおいてやる。だが、ケンカ売る相手は選べよガキ。」
そう言ってデコピンで門の一部を抉った。
ヒールスは真っ青になり、ガッツは目をキラキラさせていた。
そして次の瞬間、俺はちょっと本気で駆け出した。
「おい、ヒールス!見ろよこれ!」
「な、なんだよ……ッ!?」
後日知るが、俺が駆け出した時に門の石床に俺の足跡がそれはもうハッキリと残っていたらしい。
俺の足のサイズは45センチとかなりデカい、故にそこは後に「鬼の足跡」と名付けられ、観光名所として名を馳せることになるのを俺も門兵2人もまだ知らない。




