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第16話 女達の過去

ハービットとの試合が終わり、クロエとエレノアはハービットを医務室へ連れて行った。

俺は今ギルドの1階で動いた分を取り戻すかのようにメシをこれでもかと食らっていた。

コロシアムにいた面々は客席のヤツらも含めてみんなギルドに戻ってきている。

ウェイトレス達も前回のように料理をどんどん運んで空になった皿を次々片付けていく。

ここだけの話だが、手持ちの金が無い俺への先行投資ということで前回の分と今回の分はタダでいいらしい、気前が良くて助かるぜ。


「リューゴくん!」


メシを頬張りながら目線だけ向けると、エレノアがニコニコしながら立っている。

俺は目の前の皿にあるパエリアのようなものを全部かき込んでそれをエールで流し込む。


「んぐ、ゴクゴク…ぶはァー食った食った。…で、なんか用か?」


「さっきハビーが目を覚ましてね、ハビーが君に話があるらしいから医務室へ行ってあげてね。」


「……わかった、腹八分目って言うしな。」


そう言って俺は立ち上がってエレノアの後を付いて行った。

俺の座っていた場所にあるのは大量の空になった皿と肉や魚の骨のみ。

だが食事を見ていた全員はみな心の中で思っていた。


『あんだけ食って腹八分目かよ…』


医務室に続く廊下を歩いている途中でエレノアが懐かしむように話し出した。


「昔ね、私とクロエとハビーともう1人のメンバーでパーティを組んでたの。私とクロエはAランク、ハビーとそのもう1人はSランク。最強のパーティだなんて言われてさ、私達は順調そのものだったんだけど…」


そこまで言ってエレノアの表情に翳りが見えた。


「その時のこの王都冒険者ギルドは酷いものでさ、ランクに合わない依頼とかも平気で許可するわそもそも依頼の指定されたランクが間違ってるわでBランク以上の依頼を受けて生きて帰って来れる人が少なかったの。そんな状態でよく他のギルドにバレなかったなって思うでしょ?後になって分かったんだけどね、前ギルドマスターがギルドの資産に手をつけててバレないために報告書を改竄してたの。」


エレノアがそこまで話したところで俺は気付いた。

指定ランクそのものが間違っていたのだとしたら…


「おめェらと組んでたもう1人ってのは…」


「うん、死んじゃった…あの時はBランクの依頼を受けててね、でも蓋を開けてみればそれはSランクどころか冒険者ギルド全体で共有して対策を練らないといけないくらいの案件だったの。」


「……」


「その時のことがあって、私とクロエは冒険者を辞めて受付嬢に、そしてハビーはもう二度と私達と同じ思いをする人が出ないようにって…」


「ギルドマスターになったわけか…」


「うん、前ギルマスに一騎打ちの決闘を持ちかけて完膚無きまでにボコボコにしてたよ。」


そう言ってエレノアはクスクス笑う。

そんな話をしていると医務室に到着した。


「それじゃ、私とクロエは席外すから後はお2人でごゆっくり〜。」


そう言ってニヤリと笑ってエレノアは立ち去ろうとする。

俺はそのエレノアの背中に疑問をなげかけた。


「おい、なんでさっきの話を俺にしたんだ?」


するとエレノアは振り返ってから悪戯っぽく笑った。


「さぁね!何でだろうね!」


そう言って広間の方へ行ってしまった。

俺は考えても仕方ないと思い、医務室のドアを開ける。

クロエが俺を見ると頭を下げて椅子を立った。

そのままクロエが退室して俺と、ベッドで包帯を巻いて横になっているハービットだけになった。


「…まずは、おめでと。」


「…おう。」


「君のランクはボクの権限でCランクからになるよ、はいこれCランク冒険者証、大切にしておくれよ。」


「…おう。」


俺はCランク冒険者証を受け取っても立ち去らず、ハービットの次の言葉を待った。


「……エレノアからボクらの話を聞いたのかな?」


「……ああ。」


「そっか…ふふ、酷い話さ。前ギルマスは守るべきギルド所属の冒険者を使って危険な小銭稼ぎをして…結果ボクらに告発された。」


「…さっきエレノアになんで俺にそんな話をするのか聞いた。」


「答えてくれた?」


「いや、はぐらかされた。」


「それはね…君がボクらのパーティにいたもう1人のメンバー…ライオットに似てるからだと思うよ。」


「……くだらねェな。」


「ふふ、ホントにね。でも君は彼と比べるべくもなく強いから、正直安心したよ…ボクも、彼女達もね。」


「勝手に比べて勝手に心配して、勝手に安心して…しょうもねェヤツらだな。」


「つれないなぁ…美女3人からこんなに想われてるのに。」


「うるせェよ…さっさと治せ、そんでまた俺と戦え。心配するしねェは勝手だが、俺は死なねぇ…俺が最強だ。」


俺がそれだけ言い切って扉を開けて出ようとすると、ハービットが小さな声で言った。


「…ありがとう。」


「…フン。」


俺は鼻を鳴らして医務室から出ると扉の横にクロエが立っていた。


「盗み聞きたァいい度胸じゃねぇか…」


「すみません、ですが今のハビーの身の回りの世話を任されていますので。」


「…そういうことにしといてやる。」


「リューゴさん、ありがとうございます。」


「…何の真似だ?」


「貴方は強い、このギルドの誰よりも…ライオットは私達のパーティで最強でした。戦闘方法も貴方とよく似ている…でも死んでしまった。それがどうしても私達の心にしこりを残してしまっていたんです…でも、貴方の言葉に…何の根拠もありませんが本当に貴方なら死なないと思わせてくれる何かを感じました。そう思うだけで…私は…いや、私達は救われました…本当にありがとう。」


最後の最後でクロエは敬語をやめ、本当の意味で心からの礼を言ったのだと思った。


「くだらねェ……おい、ライオットってヤツの墓はどこだ。」


「…え?」


「場所だけ教えろ、気が向いたらなんか供えといてやる。」


「フフ…分かりました。」


クロエは少し目を潤ませて微笑んだ。

その後俺は食堂の親父から貰ったちょっと高めのブランデーを持って王都の外れにある小高い丘の上に来ていた。

そこには簡素だがしっかりとした作りの墓が立ててあった。


『その場所はライオットのお気に入りなんです。王都の全体が見渡せるって…』


クロエの言葉を思い出す。

そこは確かに絶景だった、王都だけじゃなく全てが小さく見えた。


「良い場所じゃねェか…なぁ、ライオット。」


俺はブランデーのコルク栓を指で開けると墓石にそれをかけた。


「今回はこの安酒で勘弁しろ…次来た時はおめェが飲んだこともねェ良いやつを用意して来てやる。」


半分ほどブランデーをかけて、残りをラッパ飲みする。

すると後ろから何者かの気配がした。


「!」


振り返っても誰もおらず、俺はそのまま帰ろうと歩き出した。


『彼女達を頼む。』


そんな声が後ろから聞こえた。

まったく…死人に口なしなんて言葉は異世界(ここ)じゃ使えねェな。

そんなことを思いながら、俺はブランデーを飲みながら王都まで歩いた。



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― 新着の感想 ―
[一言] ライオットォォォォォッ!! 良いやつだぁぁぁぁぁッ!! なんか、こう、胸が暖かくなる…というか、 心に暖かい光が灯るような、良い話ですね。 …こんな良作を考え付く作者さんスゲェな。 と、思…
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