第13話 最強VS最強
執務室まで来ると俺はノックもせずにドアを開けた。
「よォ、邪魔するぜ。」
すると高級そうな椅子がくるりとこちらを向いた。
ミーナより少し年上くれぇのガキみてぇな女が座っている。
瞳は翡翠、髪は短めの白、胸もケツも控えめ、ホントにガキみてぇだ。
「……おめェがギルドマスターなのか?」
俺の声音が露骨に暗くなる。
その俺の落胆のしようを見てワタワタと手を振るギルマス。
「ちょっとちょっとぉ!!ボクを見た瞬間にそのガッカリのしようは何さー!!!!」
「いや…別に…ガッカリしてねェよ…」
「いや嘘下手過ぎか!!!!!子供でも分かる嘘つくのやめなー!?!?」
「冒険者ギルド最強って聞いてたからよ…」
別に人を見た目で判断しているわけではない。
だが、それでも…やはり見た目も相手を知るための重要なファクター足り得るのだ。
「こんな小さいナリした女の子はお呼びじゃないって?…なら、試してみる?」
その言葉を待ってたぜェ!!
「その言葉を待ってたぜェ!!」
そして試合は王都の観光名所のひとつでもあるコロシアムでやるらしい、どうやってそんなとこ貸し切ったのかと聞けば…
『ふふ、ボクは顔が広いのさっ☆あ、これ地図ね!』だとよ。
コロシアムでは主にモンスターVS人間、モンスターVSモンスター、人間VS人間、この三種類の試合形式で色々な戦いが繰り広げられているとギルマスが教えてくれた。
「試合は明日の正午…か。……それまで暇だなァ…」
ひとまず宿に戻りベッドに寝そべる。
そういや冒険者登録の話をしに行ったのに一対一の約束だけ取り付けて終わっちまったなァ…そんな事を考えていたらいつの間にか俺は眠りに落ちていた。
翌朝、俺は約束の時間前に目を覚ますとすぐにギルマスから貰った地図を頼りにコロシアムに向かった。
中に入り客席に出る、そのまま客席からコロシアムの闘技場内に飛び降りた。
「スンスン…ハッハハ、この闘技場内に染み付いた血の匂い…いかにもな闘技場だなァ。」
俺は上機嫌に笑う。
今度からは暇潰しにここを使うのもいいかも知れねぇな。
コロシアムをくまなく見て回っているとザワザワと入口の方に人が集まっているのに気づいた。
「あァ?今日は貸切じゃなかったのか…?」
すると人混みの中からミーナが抜け出てきた。
「リューゴさん!おはようございます!」
「おう…ん?なんでおめェもいやがる?ギルドの方は良いのか?」
「えっ!?リューゴさんご存知ないんですか!?リューゴさんとギルドマスターの試合はエキシビションマッチとしてチケット販売されてたんですよ!!私達ギルド食堂のウェイトレスは食堂のお弁当を出張販売です!なので今はギルドに仕事中の方達以外はほとんど人がいません。冒険者の方たちもほとんどここに来てますよ!!」
あの女狐…俺を担ぎやがった。
まさか興行にしやがるとは…食えねェヤツだ。
「そういうことか…」
そう言って俺は踵を返し、コロシアムの闘技場に戻っていく。
その時後ろからミーナが大声を出す。
「私!リューゴさんの応援しますからね!」
俺は少し驚いてミーナに振り返る。
そしてニヤリと笑った後、手を振りながら歩いて行った。
結局のところ…コロシアムの客席は満員になった。
俺は無名の冒険者…ってことはこの客入りは一重にギルドマスターのガキの人気ってことだ。
「これだけの人気に熱…期待が高まるってもんだなァ。」
闘技場の中で腕を組み、仁王立ちして待つ。
すると向かい側の入場ゲートからギルマスが出てきた。
「やーやーお待たせ!どうだい?かなりの盛況だろう?」
「…まぁな。」
ドヤ顔で言ってくるのには腹が立つが、コイツの経営手腕は素直にスゲェと思ったのも事実だ……絶対に本人には言わないが。
「フフフ…緊張してるのかい?大丈夫だよ、これはあくまでエキシビションマッチ。お互いのことを知るための試合さ!」
「ならとりあえずはおめェの本気を引き出すとこから始めるとするぜ。」
「できるかなぁ?」
ニヤニヤしながら言ってくる。
ムカつくが、確かに強ぇ…立ってるだけなのに隙がねぇ。
そうこうしているとエレノアが司会席に立ちマイクのようなものを取り出した"ようなもの"とはマイクの集音部に石のようなものがハマっているからだ。
恐らくマイクの役割を持つ魔道具かなんかなんだろう。
そしてエレノアの隣にはクロエも立っている。
「皆さんお待たせしましたぁ!!皆さん大注目のこのカード!!ギルドマスターハービット・エウロペ対リューゴくんの試合です!!司会は私!エレノアが務めさせてもらいます!そして審判はクロエにお願いしました!!
では選手の紹介から参りましょう!!
片や、ギルドマスターでありながら現役Sランク冒険者!そしてもう一方はかの生ける伝説銀龍の撃退を成し遂げた猛者!!期待が高まる組み合わせです!じゃあクロエあとはお願い!!」
そう言ってエレノアはマイクをクロエに渡して客先に引っ込む。
そしていつの間にか用意していたドリンクと弁当を手に完全に観客モードになっていた。
マイクを受け取ったクロエが進行していく。
「それでは、これよりハービット・エウロペ対リューゴさんのエキシビションマッチを始めます。」
「ちょっとー!なんでボクは呼び捨てなのにリューゴくんはさん付けなのさーー!!」
「………双方!準備はよろしいですか!」
「無視すんなコラー!!!!」
「俺ァいつでもいいぜ。」
「むぅ…釈然としない…けど!ボクもいつでもOKだよ!!」
「では…始めッ!!!!」
クロエが手を振り下ろす。
その瞬間、俺とギルマスは同時に動いた。
闘技場の中心で俺の拳とギルマスの蹴りがぶつかる。
コロシアム全体が揺れたのではないかと思う程の轟音と衝撃が走る。
「「!!」」
そしてギルマスの方が後退して距離を取った。
「…スゴいね君、私の蹴りを真正面から止められる人なんて数える程しかいないのに…素手で止められたのは初めてだよ。」
「そりゃこっちのセリフだ、俺の拳を脚で止めるたァな…面白くなってきやがったぜ。」
俺は笑う。
それに触発されたのかギルマス…ハービットも笑う。
お互いに友好的な笑みではないのは確かだ。
さァ…最高の宴にしようぜ。




