第12話 ギルドマスター
死屍累々…正にその言葉が相応しい状況だった。
ヌイの連れてきたチンピラどもは1人として意識を保っている者はおらず、みな地に伏している。
「ひぃ!?な、なんで…」
「あ?おめェ、自分が伸されたのが本気で卑怯な罠にかかったからだとでも思ってんのか?」
「そうじゃなかったらBランクの俺が負けるわけがはぎゃっ」
イヌ野郎が何か言っていたが言い終わる前に俺の拳が顔にめり込み、またも珍妙な悲鳴を上げて吹き飛んでいく。
だが腐ってもBランク、鼻と口から血をダラダラと流しながらも神剣ティフォンとやらを構えて俺のことを睨む。
「ほぉ…前よりは気合い入れてきたわけか。」
俺が感心したように言うと、イヌ野郎は血管が切れんばかりに怒り狂う。
「舐めるなよ…!?俺はBランク…上位冒険者だぞ…!!冒険者ですらない貴様のような奴が見下して良いはずがないんだよおおおお!!!!!!」
イヌ野郎は神剣を構えて突っ込んでくる。
イノシシでももう少し頭を使うだろうに。
「芸がねぇ…これで終いだ。」
迎撃するために拳を構える、だが次の瞬間イヌ野郎の姿が霞のように空気に溶けて消えた。
「あァ?」
「アハハハハ!Bランクの俺が何の策もなく斬りかかるわけ、ないだろ!!!!!」
背中に衝撃が走る。
そしてイヌ野郎は剣を手から落とした。
「ぐぁっ!!な、なんだ…!?なんでそんなに硬い!?」
「魔力を纏った俺は並の剣じゃ傷もつけられねェよ。」
俺はゆっくり振り返る。
そしてニヤリと笑うと拳を振り上げる。
「おもしれェ芸を見せてもらった礼に拳骨だけで済ましてやるよ。」
ドゴンとイヌ野郎の頭からおよそ人体から出ないような音が出る、そしてそのまま白目を剥き泡を吹いて気絶した。
「…加減したとはいえ、頑丈さだけなら一級品だぜ。」
そうヌイに言って倒れ伏したヤツらを放置して路地裏を歩き続けると冒険者ギルドのマークが付いた宿の前に抜けた。
「お、ここか。」
宿を見つけたら急に疲れが出てきた気がする。
今日一日がかなり長く感じた。
宿に入った瞬間はギョッとされたが、クロエから貰ったカードを見せ無事部屋にたどり着く。
ベッドに顔からダイブすると俺の意識はすぐに心地良い闇に落ちた。
ークロエsideー
私はリューゴさんのことを伝えるべく冒険者ギルドの執務室でマスターに業務報告をしていた。
「──以上がリューゴさんのこの度の活躍のあらましです。」
「ねぇクロエ…その子が嘘をついたとは思わなかったの?」
「マスター、貴女の懸念は尤もですが私も冒険者ギルドの職員として人を見る目にそれなりの自負があります。」
確かに夢物語のように思えるが、彼は証拠を持ってきた。
銀龍の鱗が偶然落ちてましたなどと言う方が信じ難い。
「だよねぇ〜〜………どうしよ…」
そう言ってウンウン唸りながらマスターは頭を抱える。
王都プロスペアの冒険者ギルドを束ねるギルドマスター、ハービット・エウロペ。
見た目はかなり幼く、ボーイッシュな少女と言った感じ。
だが彼女はギルド経営をしていることから頭が良い、そして更に腕が立つ。
故に王都と言う栄えた街のギルドでマスターを務められている。
だが、この王都のギルドは昔が酷かったため今もその頃の煽りを受けて低迷している。
「銀龍の撃退なんてさぁ〜〜!!定例会議でなんて言えばいいのさぁ〜〜〜!!!!!」
はぁ…仕方ないですね。
「ハビー、落ち着いて。彼をこのギルドに所属させることができたら間違いなくこの街は安泰よ。」
そう言うと喚き声がピタッと止まる。
私とエレノアとハビーは仲がいい、勿論プライベートでも。
よく3人でギルドの買い出しに行ったりもする。
「クロエがそう言うなら頑張るよ…」
(´・ω・`)←こんな顔しながらも頑張る意志を見せてくるハビー。
「大変なのは分かるわ、だから私とエレノアもサポートする。あの大型ルーキーを獲得出来たら3人でお祝いしましょう。」
私がそう言うとハビーの暗かった雰囲気がパッと花が咲くように霧散した。
「うん!!ボク頑張る!!!!」
良くも悪くも単純明快、それが我らがギルドマスターだ。
ーside outー
「zzZ…zzZ…」
ドアのノックする音が響く。
「ンがッ!?」
俺はノックの音で飛び起き、のそのそとドアを開けに行く。
ドアを開くと宿屋の店主がいた。
「よう、お目覚めかい旦那。1階でクロエちゃんが待ってるぜ。」
「クロエ……?………ああ、受付嬢か。」
寝ぼける頭で何とか思い出す。
いったい何の用だと思いながら下に降りる。
1階では受付嬢の制服のまま上からコートを着込んだクロエがいた。
「おはようございます、リューゴさん……もしかして昨日宿に着いてそのままお休みになられましたか?」
「おう…」
「でしたら、シャワーを浴びて目を覚ましてから冒険者ギルドの方へいらしてください。お洋服の方はこちらが負担させていただきますので、こちらをどうぞ。」
クロエはそう言って俺に服の上下を渡して頭を下げて去って行った。
俺は去り行くクロエの背中をボーッと眺めていた。
その後部屋のシャワーを浴びて目を覚まし服を着ると、なんとサイズがちょうど良かった。
「オーダーメイドか…?まァいい、ギルドに行くか。」
ギルドの扉を開いて中に入る。
イヌ野郎が親の仇を見るような目で睨みつけてくる。
アイツも懲りねェなァ…
そんな視線も無視して俺はカウンターにいるクロエの元へ行く。
「よう、今朝は悪かったな。」
「いえ、こちらも朝方に不躾でしたから。」
クロエはクスッと笑う。
その光景にギルド内がどよめく。
『クロエさんが笑った…!?!?』
『ミーナたんに続きクロエたんまでも…』
『ギルドの華達がァーー!!!!』
俺はそんな声を無視して話を続ける。
「で、朝からなんの用だよ。俺のランクの話か?」
「ご明察です、ギルドマスターがお待ちですので2階の執務室の方へどうぞ。」
そう言って微笑むクロエ。
俺は2階に上がろうと階段に足をかけた所でクロエに獰猛な笑みを向ける。
「……なぁ、ギルドマスターは強ぇか?」
「このギルドでは最強ですよ。」
クロエは即答した。
なんの逡巡もなく答えてみせた。
「最高の答えだぜ。」
俺は意気揚々と執務室へ向かった。
ギルドマスターに挨拶するために。




