表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/82

第11話 鍛冶師の矜恃

店の扉を開ける。

ドアベルは付いていない、その代わりにドア自体が悲鳴のような音を上げる。


「随分ボロいな…」


内心ハズレかと思いつつ店の中を見回す。

店番は無し、内装も外見と違わずボロボロ。

だが、並んでいる品はどれもが素人目に一級品だと見てわかる程だった。


「コイツはスゲェな…」


品々を見て回る。

メジャーな剣、槍、斧、そしてマニアックなものは鎌や鉤爪、果てには両剣まで。

そして様々な品の中で一際俺の目を引く物があった。

俺はそれを手に取る。

初めて握る武器なのにしっくりと手に馴染む。

すると店の奥から声が聞こえてきた。


「ほう…その鉄棍棒が気になるか。」


声の方に目を向けるとそこには大層な髭を蓄えた小柄なオッサンがいた。

この見た目に武具職人…もしかしてコイツは…


「…ドワーフか…?」


「応よ、ワシがこの店の主人、ガーランド・マルロだ。」


「おめェが店主か、ちょうどいい。この棍棒振らせろ。」


「そいつは構いやしねぇが…お前さん振れんのか?」


「あ?どういう意味だそりゃァ…」


「いや、その鉄棍棒の芯に使われてるのは最重量の金属、ロスニウムを使ってる上に芯以外の所も最高硬度の金属ウルツァイトを使って鍛造されてる。おふざけと興味本位で作った飾り武器なんだよそりゃ。」


俺はそれを聞いて尚更この鉄棍棒が欲しくなった。


「おい、コイツでこの棍をもっと強くできるか。」


そう言って銀龍の鱗を渡す。


「おいおい…こいつァたまげた…生ける伝説、銀の守護龍の鱗じゃねぇか…どうやって手に入れた!?」


「戦って勝った。」


俺は簡潔にそれだけ伝える。

ガーランドは目を見開いて口をパクパクさせている。


「おい、俺の質問に答えろ。銀龍の鱗を使ってこの棍をもっと強化できんのか?」


俺が再度訊ねるとガーランドは首肯した。


「ああ、俺ならやれる…いや、やってみせる。」


「気に入ったぜ、ならこの龍鱗を全ておめェに預ける。一月やる、俺とおめェ自身が納得できるモンを作って見せろ。」


それだけ言って俺は店を出ていった。

あの名匠が作る最強の金棒を想像して心躍らせながら。


ーガーランドsideー


ワシはしがない鍛冶師だ。

昔から鉄を打つのが好きだった。

出来上がった武器を褒められるのも悪い気はしねぇ。

だが長年鉄を打ち武器を作り、褒めそやされていくうちに相手の心情をある程度見抜けるようになっちまった。

それからは仕事が苦痛で仕方なかった。

来る客来る客みな嘘しかつかなかった。


『流石、王都一の鍛冶師だ。』


『やはり武器を頼むならガーランド殿の所だな。』


『ガーランドさんの武器になら命を預けられる。』


様々な美辞麗句を並べられた。

だが所詮、そんなものはまやかしだったんだ。


『フン、所詮は亜人種の打った武器か。』


『隣町にガーランドの武器を倍額で買ってくれる店がある。』


『アンタの武器がなまくらなせいで死にかけた!!!!』


みな簡単に手のひらを返す。

それからワシは鉄を打つのを辞めた。

店に並ぶ品を捨てるのも偲びなくて細々とボロ屋の店を続けていた。

そんなある日だ、かなり図体のデケェ野郎が店に入ってきた。

コイツも所詮世辞を振り撒くボンクラだろうとタカを括って店番には敢えて出なかった。

だがしばし観察しているとこの男は何も言わずじっくり店の商品を見た後に言った、いや言ってくれたのだ。


『コイツはスゲェな』と…


その一言だけでどれだけ報われたことかアイツは知る由もないだろう。

だがあのデカブツの言葉に飾り気は一切無く、心からの言葉だったのはワシじゃなくても分かったはずだ。

その後気付けばワシはソイツに声を掛け、武器の注文を受けていた。


「フンッ生意気な野郎だぜ。このワシに1ヶ月やるだァ?半月、いや1週間で仕上げてやらァ!!!!」


幸いなことにアイツは最高の素材を持ち込んでくれた。

今回の仕事はワシの人生で1番デケェ最高の仕事になるだろう。


「あの野郎の吠え面を拝むのが楽しみだぜ。」


ワシはそう言ってニヤリと笑って鉄を打った。


ーside outー


「結局武器ができるまでは素手だなァ…しかも売ろうと思ってた分まで全部渡しちまったぜ…」


ガーランドの店を後にした俺は若干の後悔をしながらギルド指定の宿まで歩いていた。


「まァあのジジイならとびきりのやつ拵えてくれるだろ。」


俺はそう思うことで納得した。

クロエから貰った地図を見ながら歩いていると俺はいつの間にか路地裏に入っていた。


「あァ〜?宿に行くのに路地裏なんて通るか普通…道間違えたか?」


立ち止まって地図と睨めっこしていると、後ろから聞き覚えのある声がした。


「はっ!お前自ら人通りの少ない場所に来てくれるとは好都合だ!」


「あ?」


後ろを向くと、そこには見覚えの……ない顔が立っていた。


「あァ?誰だおめェ…」


「なっ!?貴様ァ!!このBランク冒険者であるヌイ様の顔を忘れるとは何事だァ!!!!!」


「ヌイ…?」


必死に記憶を掘り起こす。

そして思い出す銀龍と戦う前にワンパンで伸したザコを。


「ああ!おめェあの時のザコか!ハッハハハハ!!顔変わってんじゃねェか!!!!」


そう俺が思い出せなかったのはヌイの鼻が低くなっていたのだ。

俺の拳を受けたからだと思うが。


「き、貴様ァ…!誰のせいだと…!!!!!」


ヌイは顔を真っ赤にして言葉にできないほど怒り狂っている。

そして指笛を吹くとヤツの後ろと俺の後ろからゾロゾロとチンピラ崩れの冒険者が現れた。


「お前にはここで消えてもらう、俺のために…そしてミーナのために!!」


「おめェまだあのチ…ミーナの追っかけしてんのか、いい加減見苦しいぜ?」


「黙れぇ!!!!お前さえ現れなければ!!お前さえいなければ全て順調だったんだァ!!!!あと少しでミーナも僕のものだったんだァ!!!!!!」


絶叫するように荒れ狂うヌイ。

俺は冷めた目でそれを見ている。


「お前が卑怯な手で俺を気絶させた後、何故か今までつるんでたヤツらはお前への復讐を断固として断りやがるし、ミーナも最近はずっとお前の話ばかり!!!!!絶対に許さない…!!あの時は罠にかかり攻撃すらできなかったが今回は違うぞ、この神剣ティフォンで貴様をバラバラにしてやる!!!!かかれ!お前らァ

!!!!!!!」


腰の剣を抜き、チンピラに合図を送るとチンピラどもの武器が俺に殺到する。

ヌイは勝ち誇ったように下卑た笑みを浮かべる。


「おやおやぁ?俺の出る幕もなかったかなこれはぁ??アハハハハハ!!!!!」


その瞬間、団子のようになっていたチンピラが全員吹き飛んだ。


「ハハハ…は?」


「おめェみてぇなのを俺の故郷じゃァかませ犬って言うんだぜ?なァ、イヌ野郎。」


俺はそう言って獰猛に笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ