第10話 静と動の受付嬢
ギルドカウンターには受付嬢が2人並んでいる。
片方は切れ長の目に黒髪をロールアップで束ねたクール系の女だ、顔とスタイルが良い。
もう片方はピンクのツインテールを揺らし人懐っこい笑顔と明るい性格で冒険者達にフランクに接しているようだ、こちらも顔とスタイルが良い。
そしてこの2人に共通して俺はあることに気付いた。
「(コイツら…かなり強ぇ。)」
立ち姿の重心の置き方?とかなんかそう言うのがヤベェ。
確かに冒険者は荒事稼業、ギルド内のゴタゴタの解決も職員の仕事のうちか…と考えているとクール系受付嬢が俺を見ながらカウンターへ促した。
「お待ちの方、どうぞ。」
「おう、冒険者登録をしてェ。」
「かしこまりました、簡易身分証をお持ちのようですのでお預かり致します。」
受付嬢は俺の首から下がってる木札を見てそう言う。
素直に従い、木札を渡す。
受付嬢は俺から木札を受け取るとそれを手に取り少しだけジッと見つめる。
「……随分傷んでいますね。」
「悪ぃな、ついさっき強ぇのとやってきたからよ。」
「そうですか、ではこちらの書類の必要事項に御記入を。」
「あァ〜…俺ァ山育ちでよ…」
「!失礼しました、では口頭で仰って下さい。こちらで書き込みます。」
テキパキと進めていく受付嬢。
態度も至って冷静、だが適度な距離感。
隣のフレンドリーな受付嬢よりこっちのが楽そうだ。
そんな風に考えていると隣の受付嬢が暇になったのか割って入ってきた。
「あー!!君さっきミーナとお話してた巨人くんじゃーん!!」
「あァ?巨人?」
「見た目のまんまだよ!大っきいから巨人くん!あたしエレノア!!見ての通り看板受付嬢でーっす!!仲良くしよ!よろしくね!」
「……ああ。」
「うわっ露骨に嫌そうな顔しないでよ!」
「エレノア、貴女の席は向こうでしょう。」
「もー!固いよクロエー!!」
「今は勤務中です。」
「ホント固いわね…それより!巨人く「リューゴだ。」リューゴくんはさ!結局ミーナちゃんの依頼どうしたの?」
「あ?普通に達成したぜ。」
「……マジ?」
「おう。」
「ミュルズ針樹林の調査および未知のモンスターの討伐だったよね?」
「おう。」
「えっ、モンスターの討伐証明できるもの何かある?」
エレノアはやけに神妙な顔であれこれ聞いてくる。
俺は手に持っていた鱗をギルドカウンターに無造作に置く。
「!!これは…」
その鱗を見て真っ先に反応を示したのはクロエの方だった。
カウンターの下から百科事典のような分厚さでかなりの大きさがある本を取り出してパラパラ捲る。
「……ありました、この龍の鱗のようですね。」
クロエが指を差すそのページには俺が見た銀龍シルヴァリオンの絵が描かれていた。
「うわ、ほんとだ…リューゴくん、この龍倒したの…!?」
「殺しちゃいねェ…アイツ自身人間に被害を出すようには見えなかったからな。」
そういや結局なんであの森に住み着いたのか聞くのを忘れていたな。
そう思ったが、まぁいいかと頭の隅に追いやる。
「これは冒険者登録するに当たって協議が必要ですね。一応証拠として鱗を1枚お預かり致しますね。明日には会議の結果をお知らせします。当ギルドが提携している宿をご紹介致しますので今日はそちらでお休み下さい。宿のフロントでこちらのカードを受付にお渡し下さい。」
説明を受けてクロエからカードを受け取る。
「分かった、世話になる。(思ったよりしっかりしたカードだな…クレジットカードみてぇだ。)」
カードと残りの銀龍の鱗を受け取りギルドを出る。
もうすっかり日は沈んでいながらも流石王都と言うべきか通りは明るく人の通りもままある。
「とりあえず…鱗を売ってその金でメシだな。」
俺はそう呟いて質屋的な店を探すために歩き出した。
ークロエsideー
とても大柄な方でした。
立ち姿で分かる程の強者、彼は間違いなく大成すると私は確信した。
「ねーねークロエ。」
「何?」
「リューゴくんのことだけどさぁ…」
「分かってるわ、彼が本当にこの銀龍を降したのならもうそれは偉業のレベルね。」
「でもリューゴくんならできそうなんだよねぇ〜〜…」
そう言って頭を悩ませるエレノア。
だが彼女の気持ちは分かる。
銀龍シルヴァリオン、かつては守護龍として崇められていた四大龍王の一体。
「生ける伝説とも呼べる存在を打ち倒したのならもうSランク以外無いでしょうね。」
「でも上がそれ認めると思う…?」
「有り得ないわね。ギルドの規定では原則として階級はEからスタート、仮に飛び級スタートでもDからだもの。そもそも四大龍王の一体を降した、なんて信じてもらえるはずが無いわ。」
「リューゴくん大丈夫かな…?」
「きっと大丈夫よ、彼ならDランクからスタートできるはずだわ。」
「ヴッ…そうだけどさぁ…」
「それに、実力に合ったランクを設けるならすぐに駆け足でランクが上がっていくはずよ。」
「それもそっか、はーあなんか変に構えて損しちゃった。」
「むしろ、これから有名になるであろう冒険者の活躍を身近で見れるんだから役得ね。」
「えー!意外!!クロエでもそういうこと思うんだ!?」
「フフ、私もまだまだね…」
私は彼が出ていったギルドの入口を見て、これから名を馳せていくであろう大きな背中を思い出して心を踊らせた。
ーside outー
俺は銀龍の鱗を売って金にするために質屋のようなものを探していたが、喋ったり人間になれたりするドラゴンだ。
きっと良い素材に違いねェ、そう踏んだ俺はこいつを使って武器を作りたくなった。
「つってもな…武器の善し悪しなんて素人目に分かるもんか…?」
手に持つ龍鱗を見ながら頭を悩ませる。
ぼったくられたらぶん殴って作らせよう、そう開き直って武器屋を探すため顔を上げふと横を見ると『ガーランド武具店』とボロボロの看板を掲げた古臭い武器屋があった。




