マハド
法世紀211年6月8日14時38分
それは今まで感じた事の無い程大きな力。
王族であるこの私以上の魔力を持つ人間はほとんど存在しない。その私を遥かに上回る魔力だった。
発生源から私までかなりの距離があるのにも関わらず、一瞬にして場所が特定できる程の規模だ。
近くに掛けてあった。軍服を羽織り、姿鏡の前で身形を整える。
色白でとても端正な顔立ちだ。髪は、青色が少し入った黒髪を中央で分けて耳が隠れるくらいの長さで合わせている。白と黒を基調とした軍服がスラリとしたスタイルの良さを際立たせている。
一通り確認し終えると、城の中庭に向かった。
魔力で身体を包み、浮かび上がった。
「マハド様、何処へ行かれるのですか?」部下が飛び立とうとする私に問いかける。
「今からシェラマルガまで行く、近くの兵を街に集めろ」
何故ですか、と聞きたそうな顔をする兵士、だが私の機嫌を損ねる事はしない。
「承りました」頭を下げながら答える。
兵士が頭を上げる頃には、マハドはそこに居なかった。
そこまで大きな川ではない。幅は20メートルくらいで、水深は3メートル前後だ。
確実にこの川の底から莫大な魔力を感じた。近くには森と川だけ、魔力の痕跡は残っていない。
だが、14~16センチくらいの足跡が一つだけあった。川のすぐ傍から森の方へと続いている。警戒しながら足跡を辿ったが、森の地面には若草が生えていて、足跡を追えなくなった。だがそのまま直進した。明確な理由があった訳ではないが、足の大きさから考えて子供だ。子供が一人で森の中を徘徊するとは考えづらい。そう思ったからだ。
真っすぐ歩き続けると草原に出た。特に目に付くモノは見当たらない。
これだけ開けた場所なら、上から探した方が効率がいい。身体を魔力で包み、30メートル程上昇する。
3キロ程進んだ先に街が見える。あれがシェラマルガ街だろう。他に目立つモノを探すと、すぐ近くにポツンと一本の木があるのが見えた。
下降しながら近づていくと、地面にジュリンガの実の食べカスが落ちているのが分かった。
近くに着地して、魔力で持ち上げて確認してみると、まったく痛んでいない。最近食べられた物だというのが確認できた。
他に何か手がかりがないか辺りを調べると、木の表面に白い紙が貼りつけてあるのが見えた。
近くに紙を引き寄せて、何が書いてあるか確認する。
「見つけたぞ・・・・・・悪魔」
マハドは大きな笑みを浮かべたまま、シェラマルガにある男の家まで飛び立った。
扉を開けると、料理の匂いが鼻腔をくすぐる。
「おかえりなさい、今日はかなり早いのね」
女が背中を見せたまま話かけてくる。
「こんなに早く帰ってくると思ってなかったから、晩御飯まだできてないわよ?」
そう言いながら振り返った女の表情が一気に強張っていく。
「えっ・・・マハド様?・・どうしてこんな所に、、、っ?」
動揺が隠せないようだ。
「お前の夫は今どこにいる?」
冷たい声で問いかける。
「えっ・・い、いまは西の森の方に出ていると思いますが・・」
緊張で舌が上手く回らない。だがゆっくりと娘が寝ている寝室のドアへと身体を寄せる。
「そうか、ではついてこい」
マハドは出口の方に身体を向けて歩き始める。家から出ると同時に、3人の憲兵が家の中に入ってくる。
女は取り押さえられ、背中で腕を手錠で縛られる。女は抵抗しながら叫んだ。
「なぜですか、な、なぜこんな事するのですか、私は神に誓って何もしていません!娘がいるんです!こんな事はやめてください、お願いします!マハド様!」
「ママぁ・・?」
女の後ろのドアから、白い子供用のワンピースを着た赤茶髪の女の子が目を擦りながら出てくる。
「サーシャ出てきちゃダメ!早く逃げなさいっ!!早く!!!!!」
必死に暴れて、なんとか娘だけでも逃がそうとする。だが無情にも冷たい声が響いた。
「連れていけ」
そう言うとマハドは西門に向けて平然と歩き始めた。後ろで叫ぶ女の声を全く気にしていないかのように。
西門に向かいながら近くを歩く憲兵に命令する。
「街の人間全員を中央の噴水前に集めろ」
了承の返事をすると憲兵は街の中へと消えていった。その直後マハドは空へ飛び上がった。
日が沈み始め、辺りを夕日が包み始めた時
――――悪魔の子を背負った男をマハドが見つけた。




