優しい男
ここ、グアランバー王国はとても自然豊かな国で、国の大部分を森や山が占める。
私が住む、シェラマルガもとても自然に恵まれた街だ。今日も森で多くの果実を採ることができた。
その帰り、木の上に小さな男の子の姿が見えた。
でも普通の子供ではない。服すら着ていないし、髪を切った事がないのか、かなりの長髪で、やせ細っている。歳は娘と同じくらいだろうか。
木の上で泣きながらジュリンガの実を食べている男の子の姿に、居た堪れなくなって声を掛けた。
「キミ大丈夫かい?こんな所でなにしてるの?」
金髪の男の子は、私に気付いて、慌てて涙を拭った。でも何か戸惑っている様子で、返事はしてくれなかった。
「キミ一人?お父さんと、お母さんは一緒じゃないのかい?」
返事をしようとする素振りはあるのだが、慌てふためくだけで返事をしてくれない。
もう一度ゆっくり話し掛けてみると、言葉に詰まったように「あーーー、えーーーっとーー」と、聴いた事の無い発音で声を出してくれた。
会話には応じようとしてくれているが、何を言っているのか分からない様子だ。
「とりあえず、降りてきてくれないか?裸では嫌だろう」
そう言いながら、背中に背負っていたカゴを置き、タオルを出した。
「これぐらいしか持っていないが、腰に巻けばパンツの代わりにはなるだろう」
ヒラヒラとタオルを振りながら、男の子の腰を指差して、巻くようにジェスチャーで伝えてみた。
男の子は、かなり警戒しているようで、木の裏に隠れてしまった。
そう見えたのだが、反対から降りたようで、ゆっくりと木の裏から出てきてくれた。
普段、娘にやっているように、ゆっくりとしゃがんで、目線を合わせて、恐怖心を与えないように注意を払ってタオルを渡した。
男の子は腰にタオルを巻き終えると、「アリガトウゴザイマス」と言って頭を下げた。
聴いた事の無い言葉だ。頭を下げる行為から見て、今の言葉には感謝の意味があるのだろう。だがこれで異国の子供なのは理解できた。
「言葉はわかるかな?キミはどこから来たんだい?」
やはり言葉は分からない様子だったが、イントネーションで何かを聞かれているのが分かったのか、男の子は首を横に振った。
困った事になった。言葉が通じないとなると、近くに保護者がいるのかどうかも分からないし、勝手に家に連れて帰る訳には行かない、でもこのまま一人にしておくのは不安だし・・・・うーん、どうしたものか。。。。
少し考えて、置手紙をする事にした。流石に、この子の親は文字を読めるだろうと考えたからだ。
日時と自分の住所、それと金髪で5歳くらいの男の子を家で預かっている事を書いて、木に張り付けた。
「これでよし!あとは・・・」
なんとか、家まで連れていくだけだ。
男の子の正面に、もう一度しゃがんで、背中を向けて、ここに乗るよう背中を叩いて見せた。
少し驚いている様子だったが、おんぶは知っているようで、背中におぶさってくれた。
それを確認してから、ゆっくりと立ち上がって、さっき置いたカゴを前に背負って歩き出した。
何か問いかけると、緊張させると思い、道中では何も話さないようにした。
その代わり、娘が好きな歌を歌いながら、ゆっくりと家路についた。
シェラマルガに着く頃には、夕日が空をオレンジ色に染めていて、背中から寝息が聴こえていた。
街全体は、高さ4メートル程の石の壁で囲まれていて、4つの門から出入りができる。特に検問などは無く、緊急時以外は人の出入りは自由だ。
いつものように西門に入ろうとした時、後ろから――――
「動けば殺す、そのままゆっくり跪け」
強い殺気が込められた言葉で、恐怖したのか、身体が震え出すのを感じた。――――