蘇り
――あれ?なんだか苦しい
息ができない。ここは水の中か・・・・・・水の中!!?
慌てて、水面を目指して上昇する。
なんとか身体を陸に乗せる事が出来た。
「ゲホッッ、ゲホッ、ケホ、、、オエェ、、はぁ、、はぁ・・・」
大量の水を体内から放出して、空いたスペースに必死に空気を掻き込む。
「はあ、はあ、、、はー、、、何だったんだ一体・・・」
呼吸が安定してきて、思考ができるようになってきた。
(死んだよな?俺・・・確実に死んだ・・はず・・でも生きてる?)
仰向けになりながら、太陽に向かって呟く。
「訳が分かんねー・・・」
体調が回復しきったのを感じて、上半身を起こす。
視界に映るのは、鼻ぐらいまで伸びた金髪の前髪。真っ裸の自分の身体と、さっきまで沈んでいた少し濁った川に、俺が濡らした地面。川の奥には森が見える、人の姿はない。
なんとか、下半身を隠したいのだが、とてつもない違和感に気付いく、どう見ても赤ん坊の身体ではない。たぶん4~6歳ぐらいまで成長している。上半身も同様だ。
少し痩せこけて見えるが、痛む所もない。左手には、赤ん坊の時にもあった黒い痣がまだあったが、身体に欠損は無い。それ以上に安堵したのは――
「よかった。ちゃんと男の身体だ」
当然のように思っていたが、新しい身体の性別が、男だという確証は無かった。
とりあえず下半身を隠す物と、何か食べ物が欲しい。
辺りを見渡しても、森と川だけで、下を隠せるような物は見当たらない。仕方なく、森の中へ全裸のまま入る事にした。
中に入ると、木々の間から木漏れ日が漏れていて、歩くのには丁度いい光量だ。地面は、芝生のような草が生えていて、素足でも歩ける。見たこともない植物がいくつか生えているが、下半身を隠せるような大きい葉を付けている物はなかった。歩きながら殺された時の事を思い出していた。
(なんで殺されたんだ?自分の子供じゃなかったのか?そうじゃなくても、赤ん坊を川に投げ捨てるなんて、普通しないだろう。)
(死ぬ前は、病気なのか・・と考えていたが、今考えると、病気だったとしても殺す必要はないし、あいつらの様子が急に変わった事を考えれば、やはり原因はこの左手の痣のせいだろう・・)
「今後は、左手を人に見せない方がいいかもな・・・」
考えながらも歩き続けると、森を抜けて草原に出た。
こんな綺麗な景色、今まで見たことがない。とても解放感があって、思わず走り出した。
「すっげー、超気持ちいい!ははっ」
裸足で感じる草の感触がとても気持ちがいい。ずっとこの上に居たいぐらいに。
走り続けると、一本の木が見えてきた。走るスピードを上げて根本まで近づく。
3メートルくらいの木だ。沢山の緑の葉っぱを付けている。見上げると、小さいが、赤い実を付けているのがわかった。幼児の慣れない身体で、木に登り、必死に小さい手を伸ばして、なんとか実を採ることができた。
(木登りなんて小学生以来だけど、身体が小さいとこんなに難しいんだな・・)
全く見たことがない果実だ。形はナスみたいで、色と感触はリンゴのようだ。食べて平気なのか分からないが、もう我慢できないくらい腹が減っている。
思いっ切り、噛り付いた。シャリっという音がどこか懐かしさを覚える。
「おい・・しい・・・」
食べた事のない味だが、とても甘く、食感もリンゴに似ていて、おいしい。
夢中で、何度も齧り続けた。・・なせだろう。おいしくて、お腹も満たされていくのに涙が止まらなかった。今まで張りつめていた心が、少し和らいだせいか。幼児の身体になったせいだろうか、それとも、ただおいしくて泣いたのだろうか、訳も分からず、泣きながら赤い実を頬張り続けた。
――そんな時だった。
一人の男が話し掛けてきたのは ――




