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冤罪で悪役令嬢になりましたが、幸せになることを行使したいと思います!  作者: 佐古鳥 うの
番外編

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とある男爵令嬢の話・2

ざまぁ開始。

でも至るところに不快なものが散らばっています。ご注意ください。

 



「ちょっと!食事はまだ?!お風呂は?!使用人に香油と化粧道具を用意するようにってちゃんと伝えた?!さっき頼んだ紅茶もまだ来てないわよ!!」


「随分と粗野で我が儘なご令嬢だな。いや婦人か」



 開かないドアを蹴りながら叫ぶと、ドアの向こう側から聞き慣れない落ち着いた声が聞こえた。


 ドアの鍵が開けられ、素早く入ってきた兵士らがセイラを捕まえると無理矢理椅子に座らせ、後ろ手に手鎖をかけた。

 まさか尋問?と先日まで行われた苦行を思い浮かべ抗議しようと口を開くと、どう見ても尋問官には見えない人物がドアを潜り部屋に入ってきた。


 値踏みするようにセイラを見つめるのは品のいい貴族だった。

 しかも見るからにいい身なりで顔も整っていて少しくすんだ金髪が壮年の色気を感じさせた。



「うわ、本当にそっくりだな」



 開口一番にそういった紳士は苦笑というか気まずい顔でセイラを眺めた。誰と比べて言っているのだろう?


「はじめまして()()()()()。私はシームレスという者だ」

「シームレス、様?」


 どこかで聞き覚えがあったがすぐには思い出せなかった。そして記憶を呼び起こす前にもう一人の登場人物に目を奪われた。


 やだ格好いい!深いダークブラウンの髪は地味だが前世で見慣れているから親近感が湧いた。

 切れ長の目も冷たさがあって興味をそそられる。執事のお仕着せを纏っているからシームレスの従者なのかもしれない。


 地味だけど妙に目を惹かれる美しさがあって二人共なんでゲームに出てなかったんだろう?そう思った。



 ぼう、とぼんやり眺めているとシームレスと目が合いドキリとした。彼らは尋問官ではないがセイラに質問がありここに来たらしい。


「ねぇ。ラヴィエル様って知ってます?わたしの未来の旦那様な………のお義父様なんですけど」


 危うく旦那様と言いそうになったわ。いけないいけない。わたしにはユバがいるのに。

 いつかそうなるとしてもラヴィエルとは秘密の関係ってことにしておかないと。世間から息子の嫁を寝取ったと顰蹙を買ってしまうわ!


 そんなことを妄想しているとは知らないシームレス達は訝しがったが彼がどうしたのか?と問い返された。



「わたしがここに閉じ込められてから一度も会いに来てくれないんです。ユバもそう。……あ、ユバはラヴィエル様の息子なんですけど。


 仕事で忙しいのかもしれないけど未来の奥さんに寂しい想いをさせちゃダメじゃないですか!

 ユバなんかわたしの婚約者なのに手紙もプレゼントひとつも贈ってこないんです。これって怒っていいことですよね?」


 婚約者に対しても未来の幼妻に対しても義娘にしても失礼極まりないことだわ!これは後でたくさんご奉仕とお詫びのプレゼントを貰わなくちゃいけないわね。


「さあ。私にはわかりかねるな」と折角答えてくれたシームレスを無視してセイラはプンスカと怒った。

 そしてセイラの暴走は誰も会いに来てくれない原因である人物に向いた。


 きっとここに閉じ込めたのもわたしにユバやラヴィエルを近づかせないようにしたのもきっとあの女のせいよ!断言できる!

 わたしの若さと美しさに嫉妬したんだわ!これだからババアは嫌いなのよ!



「ラヴィエル様もユバもきっとあの年増の使用人のせいでここに来れないんだわ!」


「年増の使用人?」


「そうなんです!使用人には過ぎた豪華なドレス着て我が物顔で卒業パーティーに来ていたんです!()()()()()()()()()!あれ絶対ラヴィエル様に我が儘言って買わせたんですよ!


 しかもセンスも悪くて!これっぽっちも似合ってないんです!!使用人って言ったら地味なドレスを着てご主人様を引き立てるものじゃないですか!


 あの使用人、年増のくせにその辺のことまったくわかってないみたいで、めちゃくちゃ悪目立ちしてたんです!

 卒業生であるわたしのドレスよりも目立つものを着るなんておかしくないですか?!


 しかもしかも!あれだけのドレスを着てたのにろくに白粉も塗ってなかったんですよ!あのババ…皺だらけなのに!白くもない肌が丸見えだったんです!



 そりゃ隣にラヴィエル様がいたらどんなに頑張ってお化粧してもたかが知れてるし、元が元だから残念なことには代わりないんですけど、それにしたって酷いと思いません?

 あれだけいいドレス買って貰ったのにノーメイクだなんて!!ラヴィエル様への冒涜ですよ!


 何であんなババア……じゃなかった、おば……うーんと、年増の使用人を連れてたのかしら?

 ほうれい線とか目尻の皺とかシミとか絶対あるのにそれを隠さないなんて!考えただけで鳥肌立つわ!!女の自覚ないのかしら?!



 わたし美容に物凄く気を遣ってるからああいう空気の読めない、自分を不細工だって認められない人を見ると虫酸が走るんです!

 ラヴィエル様の隣にいるべき人間はわたしみたいな隣に並んでも見劣りしない、若くて徹底して自分を磨いている美しい令嬢だと思うんです!わたしみたいな!!


 誰だってくすんだ肌とシミ顔を晒してる人より綺麗にお化粧して完璧に整ってるわたしみたいな人を連れて歩きたいって思いますよね?

 男の人ってみーんな若くて綺麗な女の子好きですもん。


 あんなババ……人を奥さんだなんて。そんな嘘をついてまで連れて歩く必要なんてないのに。ラヴィエル様とならいつでもわたしが隣を歩いてさしあげ」



 さしあげるのに、と言いきる前にバキッという音が聞こえ言葉を呑み込んだ。

 視線をずらせば質素な木で作られた机の椅子の背凭れが折れている。それを掴んでいるのは従者だった。


 セイラの視線に気づいたのかこっちを見てきたのでドキリとする。

 一目惚れされたらどうしよう、と思っていたが物凄い剣幕で睨まれ慌てて逸らした。


 え、なになになに?!超睨まれたんだけど!殺気?みたいなの感じて寒気止まらないんだけど!何で怒ってるの?



「そ、そうだ!あなたのお名前は?わたしはサリー・スコ……セバージュっていうの!あなたとも仲良くなりたいなぁ!よろしくね!」



 年上で前世のわたしの好みのタイプだから愛想良く挨拶したが、従者の彼は無視をした。

 貴族のわたしの言葉を無視?!ありえないんだけど!小娘だと思ってバカにしてるのね!!


「ちょっと!」と声を荒げれば、シームレスが凪いだ態度で質問を始めた。



「え、待ってよ!あの人わたしに失礼な態度をとったんだよ?!貴族のわたしが挨拶したんだからお礼と賛美を返すのは当たり前でしょう?!」


「私に失礼な態度をとっているのはあなただが?私が許可もしていないのにペラペラと喋っていただろう?


 仮にも学園を卒業したのだからもう少し淑女らしい態度や喋り方はできないのか?まさか学園に通っておいてマナーの勉強をしなかったなんてこと、言わないだろうね?」


「それはした……しました、けど」



 したが適当に聞き流していた。だって自然体の方がユバ達も可愛い、綺麗、そのままの君が好きだって言ってくれたもの。

 それにわたしは元が素晴らしいから座って微笑むだけで誰も何も言わなかった。教師にだって怒られたことなかったわ。


 あれ?そういえば王子達もどうしてわたしに会いに来ないのだろう?

 気になってシームレスに問いかけたが無視された。



「私が今さっき言ったことをもう忘れたのか?」


「だって気になるんだものしょうがないじゃない!誰も会いに来てくれないし寂しいんだもの!ぐすっ意地悪しないで知ってるなら教えてよぉ!!」


 もっとわたしに優しくして!


 ヒステリックに叫べば背凭れが壊れた椅子がけたたましい音を立てて壁にぶつかった。

 落ちた椅子は砕けたように壊れていて泣こうとした声を呑み込んだ。

 視線を前に戻せば従者と目が合いギクリとした。怖い。なんなの?


 そう思いながらもこれ以上話し続けたら自分もあの椅子のようになるような気がして不承不承、シームレスの質問に答えることにした。



 質問の内容はこうだ。男爵に拾われる前どこでどういう風に生活していたかを聞かれた。

 前世を思い出したのが男爵に拾われる直前で記憶が曖昧な部分もあったが概ね記憶どおりに答えられたと思う。


 とはいってもまったくつまらない話だ。戦争だかの影響で野盗が増えたり、村が維持できなくなって田畑を捨てることになったりして住みかが転々となっただけの話だ。

 その途中、両親は流行り病で亡くなり孤児院に入った。


 孤児院は貧乏だったけどいい人達でちゃんと面倒をみてくれたし、男爵家に移るまでわたしを性的な目で見ることなく育ててくれた。


「それで、聖女の力があると言ったのはあなたですか?養父の男爵ですか?」

「?……お義父様ですけど」


 質問の意図がわからなくて首を傾げればシームレスは悩むように顎に指をかけ、それから従者を見て内緒話を始めた。



「……やはりエリザベルを見て男爵が彼女にも力があると勘違いをしたのかもしれない」

「男爵はユーザニイアの民ですよ?」

「噂は大きくなる一方だったからね。聞きつけて物見遊山に見に行っていてもおかしくはない。あの中に男爵もいたのだろう」


 頭をつきあわせヒソヒソと話していたが聞こえた内容はよくわからなかった。


「では次の質問だ。聖女には未来が見える者もいるらしい。

 あなたは学園に在学中、何の前触れもなく特に親しくなかった頃から王子達の先回りをしては待ち伏せをしたり、本人しか知りえない情報を知っていたそうだね。それは聖女の力によるもので良いのかな?」


「えっ?と……はい。そうですね」


 そのエリザベルって人も聖女なのかしら?


 さすがにゲームでプレイしてたから知ってます、なんて言えないし。言ったらきっと気持ち悪い目で見られるだろうから言わないけど、関係ない人から見たらそう思うのか。

 わたしがやられたらダッシュで逃げるけど、主人公で美しいわたしだから許されたのね。やっぱ外見って大事だわ。



 この世界がゲームだってことは知らないみたいだし、聖女の力だと勘違いしてるならいいか。そう思って頷いた。

 そしたらシームレスが従者に目配せをした。

 え、わたし、その怖い人と話すことなんてないわよ?


「あなたが見た未来に魔王や魔族は出てきたか?」

「………」

「おい、」


「わたしはあなたとなんか話したくありませーん」


 さっきから脅すように睨んでくるんだもん。挨拶もできないくせに質問には答えろとかそんな失礼な奴に誰が教えるかっての。

 べーっと舌を出してそっぽを向けば従者は苛立ちを露にこっちを睨んだ。


 怖いけど喋りたくないもん。そもそもわたしは聖女だし主人公なのに!

 モブのクセに生意気なのよ。ちゃんとわたしをお姫様として扱ってくれなきゃ返事もしてやらないんだから。



 つん、可愛く顔を背けていると溜め息を吐いたシームレスが口を開いた。


「大事なことなんだ。魔族が襲ってきたり魔王と戦ったりする未来はあったかい?もしあるならあなただって危険だろう?そうなった時に守れる術を考えなくてはならないんだ」


 あ~そういうこと。

 確かに襲われたらたまったもんじゃないわね。わたしは傷を癒すくらいしかできないし。


 ゲームではお祈りで闇を払う、みたいなこともできたけど、闇って夜でしょ?夜は寝るものだし払ったらダメじゃない?と思ってやってない。


 まあ、それ以前に激弱なモンスターとも会ってないから、―――戦闘イベントが発生しても行かなかったから―――知らないけど。



「あ!だったらわたし、ラヴィエル様に守ってもらいたいな!だって勇者なんでしょう?勇者はお姫様を守るって相場は決まってるものね!」


 わたしを守るラヴィエルの姿を想像してニヤニヤした。

 やだ、めちゃくちゃ格好いい!さすがわたしの旦那様!!



「ということは、魔王は現れるのかい?」


「え?ううーん。わたしがやったゲー……見た夢には出てなかったけど……あ!あのオバサンがそうじゃない?!やだどうしよう!あのオバサン倒さなきゃ!」


 思い出した歪な化物に椅子から立ち上がろうとしたが手鎖のせいで無理だったのと後ろの騎士に押さえつけられ身動きがとれなかった。


 そうだ。卒業パーティーであの使用人みたいな偽妻のババアがわたしを襲ったのだ。気絶して記憶が曖昧だけど確かあのババアが化物だったはず。


 ラヴィエルは強いけどユバは固まってたから怪我とかしてるかもしれない。だからわたしに会いに来ないのかしら?

 王子達も王宮が崩壊したから怪我をして来れないなかも。だったらお見舞いに行ってあげなきゃ!


 一応聖女の力もあるし、―――ちょっと威力が弱い気もするけど―――キスの一つや二つしてあげたらきっと元気になるはず!

 だってみんな好感度MAXで、わたし以外目に入らないくらいわたしのことが大好きだもの!









読んでいただきありがとうございます。

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