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冤罪で悪役令嬢になりましたが、幸せになることを行使したいと思います!  作者: 佐古鳥 うの
番外編

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ユバルイン・セバージュの悪夢・3

本日は1話のみ更新です。

一部不快、もしくは暴力的なシーンがあります。

 



「僕はしてはいけないことをしました」


 セバージュ家の家訓として母を傷つけてはならない、というものがある。家族同士や社交界に出ていれば多少の傷は受けるが今回のようなことは絶対に許されないものだった。


 だというのに僕はそれを忘れ母を傷つけ周りを危険に晒した。

 父やカイン達が守ってくれなければ、あの場にいた王家を含んだ大勢の貴族達が生き埋めになっていたかもしれない。


 自分もまたそうなっていたかも、と想像し震えた。



 けれど、でも、僕なりに考えたつもりだった。セイラだって両親に会うまでは普通の恋人だった。

 それが会った途端父に異様な執着を示し母を蔑ろにした。それが理解できなくて拳を作り俯くと父が身動ぎ足を組み換えた。



「大人しく謹慎していたからな。気になっているだろうしセイラ・スコティッシュについて話してやろう」

「せ、セイラはどうなったんですか?」


 自宅謹慎になり、外部の情報はすべてシャットアウトされていた。昔から仲が良かったカインには今回のことで距離を置かれ、弟や妹とも会えないままでいる。


 そのため本当に何も知らず、気絶したまま連れ去られたセイラの記憶しかないユバルインは不安で仕方なかった。



「元気にはしている。毎日飽きもせず牢屋で自分は無罪だと喚いてるそうだ」

「ろ、牢屋?!」


「貴族牢だと自分の立場を理解しないだろうということで一般牢よりは綺麗めなところに入れている。

 貴族牢よりは不便だが平民だった彼女なら出入りが出来ない安い宿屋くらいのものだろう。


 侯爵家でありマカオン商会の代表である私の妻に泥を塗ったんだ。牢に入るのは当然の処置だと思うが?

 まさか今すぐ釈放し、結婚を許してほしいなどと浅はかなことを言うつもりはないよな?」


 じりっと肌が焼けるような凍てつく視線にしどろもどろになりながらも頭を垂れた。父の怒りは尤もだ。


 脳裏でなぜあんなことを言ったんだ、と思い浮かぶ美女に問いかけたが笑顔からは何も返ってこなかった。



「その、それで、セイラは今どんな状況なのですか?」


 正直確認することすら躊躇させられる父のプレッシャーに喉を鳴らしながらなんとか言葉を口にした。一体、セイラはどうしているんだろう?


「今は裏付けをとっているところだ。取り調べに対して娘は要領を得ない言葉を羅列しているらしい。

『げぇむ』がどうの『こうかんど』がどうの、『うらるーと』だのと自分にしかわからない単語で捲し立て、取り調べをしている者達に多大な迷惑をかけているそうだ」


「そんな、あのセイラが……?」



 僕の知るセイラは理知的でなんでも答えを知っている心優しい女性だった。

 それがなぜ?と困惑していると父が少し呆れた顔でセイラの言っている意味がわかるかと問われた。それに首を振って否定すると「だろうな」と父が淡々と返した。


「恐らく中身は異世界人なのだろう。いつ入り込んだのか、元々なのかはわからないが……いや、だからあの髪色だったのか?」

「異世界人、ですか?ご先祖様のような」


「断言は出来ないがその可能性は高い。異世界人は突飛な能力を持っている者が多い。強すぎる特殊能力だったり、未来を覗く能力だったり。

 お前が彼女を出来た娘だと思っているなら未来を知っていたのだろうな。だからお前達の心の隙間を埋めるような甘言を囁き、まんまと取り入った」


「そんな!セイラを悪く言うのはやめてください!!」



 カチンときて声を荒げたが、父は何の反応もなくただじっと僕を見つめた。それが恐ろしく怖くなりすごすごと座り直した。


「随分と絆されたものだな。王子や側近達の婚約が悉く白紙にされたというのに、自分が選ばれたからいい気になっているのか?」

「そんな!婚約破棄……いえ、解消は、王子や他の者達が自ら望んだ結果です!なのでセイラは関係ありません!

 僕は……セイラを本気で愛しているからそれが通じただけで……結婚だって本気で」


「一斉に高位貴族らが確約もなく有用な婚約を破棄すること自体が異常だというのに、純愛を貫いたとでも、称えられるとでも思っているのならそれは大きな勘違いだ。

 お前達は一族の恥さらしと揶揄されて当然のことをしたのだぞ」


「………」

「だが、それでも愛を貫きたいというならそうしてもいい。結婚を許可しよう」

「ほ、本当ですか?」



 予想外の答えに驚き父を見ると、とてもじゃないが祝福してる顔ではなかった。無表情に、息子を見ている顔ではなく、興味のない他人を見ているような目だった。


 あんなことがあったがやはりセイラと結婚したくて期待を顔に出してしまったから余計にバツが悪い気がした。


「ああ、構わない。だがそのためにはいくつか条件がある」

「じょ、条件……?」


「あの小娘と結婚するというなら、その時はお前の貴族籍を抜き、サリーや下の子供達からお前の記憶を消す。

 私と顔が似てなければそのまま放逐しても良かったのだが遺伝してしまったからな。私達の血縁だとわからないように顔を焼き子供も出来ないように玉も潰す。


 ああ、逃げられないように小娘の目も祖父と同じように潰してやるから安心しろ。それで隣の国でひっそり暮らせばいい」


 淡々と、本当に淡々と、記載された文章を読むような、そんな抑揚のない言葉が父の口から発せられユバルインは血の気を失った。



 こんな父は初めてだ。父が怒ったところは見たことがある。叱られたことだってあった。けれどそれとは違う、それ以上の恐ろしさがユバルインを襲った。


 まだ激昂してる方が良かった。まだ殴られる方が良かった。これだけ似ているのに赤の他人のような素振りで、子供に与える罰としては残虐過ぎて震えと汗が止まらない。



「な、んで、そこまで?………僕はただ」


「結婚したいのだろう?これが最低条件だ。何一つ譲歩はしない。

 当然だろう?あの小娘がサリーになんと言ったと思う?男爵家の聖女がどれ程偉い?どんな功績をあげた?何かひとつでも国に貢献したか?


 聖女なのだから当然教会に通っているのだろう?何人救った?どんな話をした?どういう人間と関わった?貴族は何人だ?平民は?

 聖女の力は傷を癒すこと以外もできるとされている。何をしてきた?何を見てきた?それを見てどう感じた?どう考えた?これからどうあろうと思った?」


 矢継ぎ早に捲し立てられ、思考が追いつかない。父は本気で怒っていることしか考えつかなかった。


「まさか、他の令嬢と同じようにお喋りし、着飾り、パーティーに出て婚約者がいる令息達と代わる代わる踊るのが()()()()()だと言わないよな?」


「……それは、その、」


「そんな聖女たる者が、侯爵家の、しかもお前の母でもあるサリーに数々の暴言を吐いた訳だが、セバージュ侯爵家嫡子として、お前はどう思う?」



 言葉が上手く出てこない。図星を刺されて苦い顔にもなった。

 ショックで全部は覚えていないが父が言うようにセイラは母に無礼を働いた。それはわかっている。罰を受けることだって理解はする。


 だが父のいった内容は過激過ぎるのだ。

 そこまでする理由がわからない。

 それならいっそ処刑してくれた方が楽なのでは?と思えるほどだ。


 顔を焼き目を潰してどこかの村でひっそりとすごすなんて、どう考えてもまともな結婚生活ができるなんて思えない。


 セイラのあの笑顔が見られないなんてありえないし、顔を焼いた僕を愛してもらえるかはわからない。むしろ一緒に住むこと自体が罰に思えて仕方なかった。



「た、確かに、確かにセイラは母に失礼なことを言いました。でもそれは緊張のあまり何を喋ってるのかわからなくなってしまったのだと、思います。


 母上を侮辱するつもりはなかったはずです。本当のセイラはもっと落ち着いていて、大人びていて母上とも話が合う美しい女性なんです」


 あれはきっと見間違いだと信じたくて他に返す言葉がないか探したが、溜め息が聞こえビクッと肩が跳ねた。



「大人、な。確かに大人だな。聖女が編入するのだから構わないと思ったのだろうが、あの小娘は今年で二十二だ」

「えっ!」


 自分達よりは大人びていると思ったがそれは美意識の高さ故かと思っていた。セイラはユバルイン達よりも年下だからもっと頑張らないと、と健気な言葉をよく使っていた。


 年下なのにしっかりしている……だが僕達が守ってやらないと、なんてことを王子達と話していた。言及はしていないが誰もが〝年下〟の愛すべき聖女セイラと認識していた。


 それが嘘だった?いや、年上でもセイラほどの美しい女性はいない。でも、わざとではないかもしれないが自分達を騙していた。

 五歳もサバを読んでいたことよりも、嘘をつかれていたことにユバルインはショックを隠せなかった。



 放心状態のユバルインに父はセイラが年増といった使用人はいくつだと思う?とおもむろに聞いてきた。

 母を見て言ったのだから、母くらいの年齢の女性を言っているのかと思った。


 同じ年くらいの女性より母は若く見られがちだが、セイラからすればおばさんに見えるのかもしれない。そう考えて少しムッとした。


「今年で二十三だそうだ」

「ええっ?!」


 使用人とセイラは一歳しか違わないじゃないか!それなのに年増なんて言ってあそこまで嫌悪していたのか?



「小娘は自分の本当の年齢を誤魔化すために近しい年の者を嫌悪するようになったのだろうな。

 環境によっては実年齢よりも苦労が顔に出やすい者もいる。そんな者達をあの小娘は畏怖し自分の嘘のために他人を貶していたんだろう」

「そんな……」


 絶句しそうなくらいショックを受けた。父に言い返したかったが言葉が出てこない。セイラを信じたい以上に父の言葉がしっくりきてしまったのだ。


 美容を保つためにいろんな努力をしているのだと聞かされたことがある。ユバルインには半分もわからなかったが先進的で他の令嬢達も師事していた。

 セイラの美の情報はとても価値がありマカオン商会でも取り入れられればいいなと思ってもいた。


 気づけば学園では高位貴族の中心にセイラが立っていた。

 あの時はセイラが受け入れられことに安堵していたが、裏を返せば美を疎かにする者を排除するやり方だった。



 そんなセイラに対してユバルインの母サリーはもっともいい例だった。

 母は化粧をすることが他の夫人よりも少ない。公式ではちゃんとしているがそれ以外は自然体でいることが多いのだ。


 理由は簡単で化粧をする必要がないほど肌が健康的で綺麗だということ。父の望みで薄くしていることがあげられる。今回は父の願いを聞いたせいだろう。


 マカオン商会は新しい生地を入荷すると、宣伝の際ドレスを引き立てるためにわざとメイクを薄めにすることがあるのだ。それをセイラは手抜きと思ったのかもしれない。



 固執するあまり気づけず、僕も伝え忘れていたといえば「着飾ることが善だと思っている者にサリーの良さは伝わらないだろうな」と溜め息を吐かれた。


 母の同世代の夫人達は母の肌に羨望し、それより若い世代は母の肌を真似しようと躍起になっているというのに。

 社交界では母は美の先駆者の扱いだというのに。セイラは何も知らなかったのだろうか?



 そこでパーティーでは彼女を慕う令息達に始終囲まれ、令嬢達と話す機会がなかったことを思い出した。

 セイラも楽しそうにしていたし僕達と離れたがらなかったから、それがいじらしく可愛いとさえ思っていた。


 そんな自分達しか見えてなかった記憶にユバルインはぶるりと震えた。まるで自分達は道化のような錯覚に陥る。



「それで?その大人であるお前の年上の妻になるかもしれない者が、サリーを罵倒したあの小娘が貴族らしい大人の会話をする。今もそう思えるか?話が合うと思うか?」


「…………………お、思いません」


 そう、答えるのがやっとだった。



「ふむ。お前が結婚するつもりだといっているからこれは不要な話だが、もし結婚せずスコティッシュ男爵令嬢のまま罰することになれば男爵家は準貴族に降爵、令嬢は貴族籍を抜かれた上で平民として裁かれるだろう。

 聖女の力が有用であれば厳格な修道院、なければ処刑もありうる」

「処刑?!」


 そんな!と悲鳴混じりに叫んだが、父に睨まれ口をつぐんだ。

 処刑?セイラが?だって彼女は聖女で、美しくて、僕と結婚するとあんなに嬉しそうに話していたのに。そんな彼女が処刑される??


 何かの間違いでは?と口にしようとしたが父の圧力で上手く言葉にできなかった。



「重いと思うか?先程お前に課したことにも異議を唱えていたな」

「だって、これではまるで、僕達は罪人みたいでは」

「罪人になるのだから仕方ないだろう?お前は罪人の妻を娶るのだから」

「……え?」


 どういうことだ?と父を見れば、目を伏せそしてセイラの出自をどこまで聞いたかと問われた。


「孤児で教会で育ち聖女の力に目覚めたから男爵家に拾われたと……両親の話ですか?会いたいと言っていた記憶はないです。気にしていたとしても気丈に振る舞っていたのでは?」


「ならお前にその小娘が知らない本当の出自を教えてやろう」

「本当の?父上はセイラを知っていたのですか?!」



 そういえばさっきセイラの祖父と同じように、といっていた気がする。

 知っているのになぜ名を呼ぶことを拒否し、今も頑なにセイラを小娘というのか半分不安と、もう半分は憤りで詰め寄った。


 父は鬱陶しそうにしながらもユバルインに教えてくれた。


 セイラの母は隣の国の公爵令嬢だったそうだ。

 王子妃までのぼりつめたが王子との子ではない不義の子を宿し、罪人として裁かれたらしい。

 そしてその頃既に生まれていた不義の子セイラは身寄りのない孤児として王都から遠い、子のいない夫婦に預けられたはず、だった。



「見た時はさすがの私も驚いたよ。髪色以外すべてがそっくりそのまま、あの女と瓜二つだったのだからな。

 ピンクの髪色も異世界の者が混じった証と思えば納得だ。当時はいくら探しても父親が見つからなかったというしな。


 あの女の娘に罪はないが、罪人の娘には違いない。

 誰も教えなかったとはいえ、罪人の子である以上許可なくユーザニイアに入国することも、ましてや貴族になることも許されないことなんだ。

 それだけで罰を与えなくてはならない。あれはそういう娘なのだよ。


 そしてあの小娘は、狙いすましたかのようにお前や殿下が在学している学園に入り込んだ。本来なら既に卒業し編入も叶わない年齢のはずだったのにだ。


 今回の件を計画したのは間違いなくあの小娘だろう。異世界人の能力でなければ、高位貴族全員の婚約を解消破棄にまで持ち込めるはずがない。


 そして破棄が横行した時点では、あの小娘はお前達の誰も選んでいなかったんだろう。都合のいい言葉を吐き、誰とでも仲良くあろうとした。それが大量の破棄に繋がった。


 結果としてお前が選ばれたわけだが、これだけのことをしておいて平然としていられるあの小娘に誠実な愛があるとは到底考えられないな」



 誠実な愛がないといわれて憤ったがやはり言い返せなかった。今思えばあの婚約破棄は数が多過ぎた。セイラだって困っていたくらいだ。


 けれど僕達は止まらなかった。それが正しいと誰もが思ったし、セイラへの愛の証だと信じていた。



 しかし逆はどうだ?セイラは隔てなく優しくしてくれたが肝心な返事は避けていた。

 それは僕達に婚約者がいて下位から言うことができないからだと思っていた。だから選びやすいように破棄をした。


 その破棄には王家も絡んでいた。王子達もセイラを愛していた。

 セイラは僕を選んでくれたが王子達は本当に許してくれたのだろうか?いや、僕の選択はそれで良かったのか?


 いくらマカオン商会の、勇者の血を引く父の息子でも僕はユーザニイアの臣下だ。王家の婚約を破談にさせておいて臣下がのうのうとセイラと結婚していいのか?


 何も出来ないままセイラを手放し処刑なんてされたら僕の立場はなくなるのではないか?



 敬うべき人達を蔑ろにして愛を勝ち取ったとしても僕に罪がないとはいえないのではないか?



「あっ……」



 頭の中に浮かんだ『罪人』の文字が重くのし掛かった。









読んでいただきありがとうございます。

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