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冤罪で悪役令嬢になりましたが、幸せになることを行使したいと思います!  作者: 佐古鳥 うの
番外編

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帝国から来た厄災・4

 



「この数週間、生きた心地がしなかったよ……」


 心の底から絞り出すような声に小さく笑って触り心地のよい銀色を撫でた。


 今日の仕事を終えた寝静まった時間、サルベラはラヴィと共に二人の寝室のベッドにいた。

 モスリンのシュミーズドレスを纏いもう寝るだけだったのだが、ポツポツと話をしていたらラヴィが甘えてきて膝の上に頭を乗せられてしまった。



 撫でて、と子供のようにぐりぐりと擦り付けてくる髪を撫でてやれば、張っていた肩が分かりやすく落ちた。


 フカフカな枕達を背凭れにして髪を撫でる。規則正しく動かしてるせいかラヴィの瞼が眠そうに瞬いた。



 この数週間、ラヴィは大変だった。

 まずは本当に不貞を働いていないか調査され、親族会議で説教され、カイン達使用人からも説教され、子供には遠巻きにされ、中でも娘には半ば本気で忘れ去られラヴィの心が折れた。


 調査の結果、白だとわかったのはつい昨日だ。それまでは寝室は別々だったし昨日はラヴィが仕事で家を空けていた。

 今日やっとちゃんと顔を合わせて一緒に寝れる。


「潔白だとちゃんとわかって良かったですね」


「本当にね。ユルバインには『黒だったらもう帰ってこなくていいと言うところでした』とか言われるし。我が子ながら言い返せなかったよ……」


「あの子は色々と察しがいい子ですから」


「子供の成長が早くて怖い……」



 娘なんてあんなに小さかったのに!と成長を喜んでいるのか、成長が見られなくて悲しんでいるのか不明だが、多分後者だろう。


 これからを見逃さないようにすればいいじゃないですか、と言ってやれば燭台の火に照らされたラヴィの瞳が此方をむず痒そうに見上げた。



「怖い想いをさせてごめんね」


「え?」


「本当は怖かっただろう?」



 伸ばされた手がサルベラの頬を優しく撫でる。それは労るように壊れ物のように触れ、すいた髪を一房器用に指に絡めると、毛先にキスをした。


「でも、ちゃんと助けに来てくれたわ」

「ギリギリだったけどね。お陰で致命傷は避けられた」


 少しでも遅れてたら離縁された上に俺が追い出された、と力なく笑うラヴィに大伯母達ならそうするだろうな、と思った。



「サリー。サルベラに戻りたいかい?」

「……いいえ。あなたにサリーと呼ばれる方が慣れてるもの」


 暗にサリュリーンみたいに勘違いされない名前がいいかと問われたが否と返した。

 だって変えたところで絶対誰かと被ってしまうもの。サルベラだって他の国に行けば一人はいるはずだわ、と肩を竦めた。



「そういえば、本当に帝国に行かなくてよろしいのですか?事後処理が相当大変だと聞いておりますが」


 今回ドラゴンが現れたのは帝国の端だった。そのため帝国から多く騎士や戦士を送り出したが、あと一歩及ばなかった。


 そこでラヴィや他の高位ランクの冒険者が呼ばれ、実は番だったドラゴンとも戦ったが予定どおり三ヶ月でカタはついた。



 だがその後処理が大変だった。

 ドラゴンによる町や村の被害は大きく、森林にも爪痕が深く残された。行き場がなくなった者達の中には盗賊に落ちたり、難民になって他の国に流れていく者も続出した。


 それは人だけではなく動物やモンスターもで、狭くなったりなくなってしまったテリトリーを確保すべくお互いが干渉しあい血で血を争う戦いになってしまったのだ。


 こんな過激な争いに発展したのはドラゴンが残した残余にあてられたのと、繁殖期にかかっていたからだと予想されている。



 ドラゴンの大きさ、戦ってきた期間と距離は広範囲に渡っている。この被害を同時に早期解決していくのはとても難しい問題だった。


 とりあえずひとつずつ確実に進めていたが、運がないことに帝国と仲の悪い蛮族が三つ攻めてきてそれとも戦う羽目になった。

 たちが悪いことに示しあわせたように離れた三ヵ所から同時に攻めてくるという戦法で帝国も手を焼いたようだ。


 ちなみにラヴィはこれらすべてを途中放棄して帰って来ている。



「まあ、彼らも弱くはないしまだこっちの冒険者達も残ってるみたいだからそこまで時間をかけずに終わるんじゃない?」


「あなたがいればもっと早く終わったでしょうに……」

「俺には守るべき家族がいますから」



 撫でられる感触を味わうように目を閉じる。かと思えばベッドに手をついている腕をそっと撫で、指で辿り、手を取ってラヴィの唇に押しつけた。じわりと頬に熱が集まる。



「それにやることはもう十分やったから、俺の出る幕はもうないよ」


「サリュリーン様が呼んでいても?」


 至って平静なつもりで口にしたが、どんなに装っても嫉妬しているのは丸わかりの言葉の選択だった。

 自分で言っておいて急に恥ずかしくなったサルベラは顔を背け、髪を撫でていた手で顔を隠した。



 あの後ラヴィが返した転送装置を使って小隊と騎士、そして第三王女が帰っていった。

 すぐ駆けつけられたのはその装置のお陰らしく、所持している者の行きたい場所を思い浮かべるだけで行ける優れものだった。


 希少かつ存在個数が少ないものを緊急だからと使って来たらしい。

 そんなものを渡されていたラヴィは帝国からとても期待されていたのだろうが、ラヴィの逆鱗に触れたため、後は自分達でなんとかするしかなくなった。



 ちなみにラヴィがサルベラに送った手紙はやはり王女が隠し持っていた。子供の話も書いてあったのに都合よく解釈して自分のことだと思い込んだそうだ。


 周りが次々結婚し子を産む中、サリュリーン王女だけが何度も縁談をダメにしていたから気に病み、参ってしまったのだろう。


 後処理の目処がつくまでは長期療養として別宅に住むらしいが、末娘として甘やかしていたとして父親である帝王はサリュリーンの継承権を剥奪した。

 このまま嫁ぎ先が現れなければ、平民落ちか修道院入りは免れないだろうとのことだった。



「それこそ、どんな理由があっても行かないよ」


「……本当に?」


 膝にかかっていた重みがなくなり、ぎしりとベットが軋んだ。

 逸らした目だけを戻せば目線の高さでラヴィが見つめていてドキリと心臓が跳ねる。

 またじわりと集まる熱に耐えられず顔を枕に埋めた。


「本当だよ。サリーの許しがなきゃもうどこにも行かない。長期出張なんか絶対に行くもんか」


「大伯母達に言われても?」


「言われても。だってサリーが寂しがるだろう?」


 図星を刺されて顔をしかめる。そんなにわかりやすいだろうか。



「そんなことないわ」

「じゃあ俺が寂しいから離れたくない」


 布を擦る音が聞こえ体に重みがかかる。晒した首筋に柔らかい髪と肌が滑ってぶるりと震えた。

 耳元でサリー、と蕩けるような掠れた声が鼓膜を揺らす。耳の外核や耳朶、首筋、肩や鎖骨に唇が触れ、吐息が漏れた。


 顔にかかった髪を避け指で撫でつける感覚にすら熱を感じて閉じた瞼を開ければ、自分と似た、熱を帯びた瞳でラヴィが見下ろしていた。



「サリー、俺の名を呼んで?」


「……ラヴィ、」


「うん、」


「ラヴィエル……ん、」


「もっと、呼んで」



「ラヴィ」



 名を紡げば紡ぐほど、涙が込み上がってきてはらはらと零れ落ちた。その落ちる涙をラヴィは舐め取りながらもう一度唇を重ね合わせた。


 心のどこかで怒ってもしょうがないとか、私がみんなを守らなくてはと気負っていたらしい。

 無意識にラヴィを『旦那様』と呼んで八つ当たりをしていたようだ。悪いのはラヴィではないのに。



「機嫌治った?」


「うん。治ったわ」


「仲直りできた?」


「……ええ、多分」



 私もまだまだ子供ね、と照れ隠しな反応をすれば「多分かー」と苦笑された。



「ラヴィ、」


「ん?」


「好きよ」



 隣にゴロンと寝転がったラヴィを見て伝えれば、ぼんやり見返していた目が大きく見開かれた。

 そしてじわじわと顔が赤くなっていき、仕舞いには潤んだ目を隠すように手で顔を覆った。可愛い。



「うちの奥さんがカッコ可愛い」


「格好いいのはラヴィの方だと思うけど」


「俺もサリーみたく格好よく言いたい」



 十分格好いいと思うのだけれど。ラヴィの理想がよくわからなくて、でも少し可笑しくてフフッと笑い漏らせば指の隙間から見ていたラヴィが「尊い……」と漏らしていた。



「俺の気持ちが全部サリーに伝わればいいのに」

「……なら、ひとつずつ教えて?」


 顔を隠す手を取り、こちらを向かせるともう一度好き、と呟いた。顔が熱い。



「だから、わたくしを離さないで」



 最後はちゃんと繋ぎ止めてくれたけどそれでも怖かったの。

 だから抱き締めてほしい。慰めてほしい。背中をポンポンとしてほしい。頭も撫でてほしい。

 それから、優しくキスをしてほしい。


 全部を言葉にするには気持ちがいっぱいで、まるで少女みたいな感覚にへにゃりと笑みを作った。

 泣きそうな顔が映る瞳を細めたラヴィは手を伸ばすときつくサルベラを抱き締める。




「愛してるよサリー。俺の唯一で、帰るべき場所だ」



 高い体温と熱がこもった声にまた涙がこみ上げる。嬉しい、と返すように抱き返せばキスが降ってきて。


 スカイブルーの瞳に見守られながら私達は誓いのキスをした。







読んでいただきありがとうございます。

次回はまた更に時間が経過したお話を予定しております。

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