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冤罪で悪役令嬢になりましたが、幸せになることを行使したいと思います!  作者: 佐古鳥 うの
番外編

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自由を望むバミヤン・5

バミヤン最終回です。

 



 領主館に侵入しセバージュ夫妻を襲った賊はすべて夜明け前に捕縛された。


 元々傭兵崩れ以外は騒ぐだけの木偶の坊だった。それでもまだ使えたのはソルティオと僅か数人だけ。その数人も居合わせた領民達にやり返され逃げ惑っていたという。


 命を落としたのはソルティオと傭兵崩れの三人のみだったらしい。真実を明らかにするためなら例え刺し違えても!などと大口を叩いていた者もいたはずだが、口だけだったようだ。


 貴族も傭兵崩れもすべて『平民』が徒党を組んだとして警備隊に引き渡された。


 それを聞いた貴族らは皆憤慨していたが、『近国に侵入するような慮外者はこの国にいない』と自国の王に見捨てられたと知った時は膝から崩れ落ちた。



 仲良く平民落ちした者達は無害な領民を危険に晒しただけでなく、賓客であるセバージュ侯爵夫妻を襲ったとして全員処刑が言い渡された。


 これは主に近国の民でないことと、ボルトマンらの国王から早期解決という名の死刑執行の許可が出ていたのだと思われる。


 また、パワーバランス的に近国よりも隣国ユーザニイアの方が上で、マカオン商会を敵に回したくないという近国の思惑が全員の処刑に繋がったのだろう。



 その処刑方法だが、自分は貴族だと訴えていた者には石打ち刑、他は絞首刑が課せられた。


 侯爵だと訴えていたダンジェル・ボルトマンは仲間達の裏切りにより主犯格として近国では最も厳しい鋸引きに処せられた。

 その死体、首は朽ち果てるまで晒された後、墓石がない場所に人知れず埋められた。



 国外の人間に残虐なことをしたとして近国は諸外国からは非難を受けたが、自国と隣国からはなんの声明も上がらなかったという。





 ◇◇◇





 眩しい日差しに目を細め、額に手をあて影を作ると遠くを見た。自国にはなかった海に感慨深い気持ちになる。


「ビクス。あまりはしゃぐと後が辛いわよ」

「ああ。わかってる」


 引き摺る足を気遣いながら杖をつき歩いていると後ろからそんな声がかかり笑みを作った。



 あの日、目覚めたらベッドにいた。誰かが見つけ介抱してくれたらしい。ベッドを貸してくれた領主も領民でないのはすぐにわかったが、警備隊に引き渡さなかったそうだ。


 自分が作ったわけではない借金も、煩わしい貴族の付き合いも何もかもなくなったバミヤンは自由になっていた。


 しばらくその事実が受け止められなくてぼんやりしていたが、理解するとなんともいえない感情が込み上がり涙が流れ落ちた。



 被害に遭ったサルベラ達はボルトマン達を警備隊に引き渡したと同時に去ったらしい。何か言伝を貰っていないか密かに期待したが何もなかった。


 捕まらず生き残ったバミヤンは動けるようになると壊された領主館の門や塀の修理を手伝った。

 職人達に比べたら拙い技術だったが、ボルトマンに子爵邸を改築された時なんとか自分の部屋周りは戻そうと自力で直したことがあってその経験が少し役に立ったと思う。



 それから何だかんだと滞在期間が延びていき、ある日強風による建物の倒壊に巻き込まれ長旅ができない脚になった。



「船かあ。あれは帝国に行く船だったか?船があればこの脚も気にしなくてすむかもな」

「あら、やっとここを出ていく気になったの?」


 全然気づかなかったわ、と笑う彼女にそんなわけはない、と拗ねるように返した。一時期は下半身不随状態で寝たきりを覚悟しなくてはならなかった。


 今も杖がないと長い距離を歩けないがベッド生活を思えば、外を歩ける分かなりマシだろう。


 その使いものにならなかった時期にここの領民は何かと面倒を見てくれたのだ。

 今使っている杖も歩けるなら欲しいだろうと用意してくれ、買い物に行けないならと食べ物を分けてくれたり、見かければ声までかけてくれる。


 伯爵だった頃はそんな声も煩わしいとしか思わなかっただろう。そんな自分には勿体ないと思ったが、周りの優しさは面映くも有り難かった。



「妹の元に行きたいとは言わないのね」

「ああ。こんな姿だしな。行き着く前に力尽きるか、ナリアに幻滅されて追い出されるかくらいしか思いつかないな」


「……随分と薄情な兄なのね」


 興味なさげに紡がれた言葉にバミヤンは彼女に顔を向けた。あの頃は間違いなくナリアを愛していた。

 今も愛しているが形が徐々に変わってきて、両親がよく言っていた『家族愛』というやつがようやくわかってきたところだ。


 本当はボルトマン達から逃げ出した時、まとまった金があった。

 目覚めた時も持っていたし切り詰めればナリアの元に辿り着けたかもしれない。



 その時はナリアの我が儘にも優に応えられるくらいお金をたんまり持って格好よく現れたい。と思って先送りにしたが、今はナリアには会わない方がいいと無意識に気づいて戻らない選択をしたんじゃないかと考えている。


 不義の子にしかならない自分達の子供を安全に守りながら育てるのは難しい。そしてナリアの我が儘に応え続けることも多分無理だとわかっている。


 だとすれば多少無責任でも迎えに行かない方がナリアにとっても幸せなんじゃないだろうか、と足が思うように動かなくなって更に強く感じていた。



「私は元から薄情だよ。自分のことしか考えていないし自分が可愛いから酷い目に遭うのもごめんだ」


「あら、よくいる平民と同じじゃない。良かったわね。貴族らしさはあと一人称くらいよ」


「言葉遣いや服は……うーん。こう、オーラ的なものは貴族だろう?」



 人生の半分以上貴族としてやってきたのにもうなくなってるなんて心外だ!と胸を張って決めポーズをとると、彼女は淑女らしくなく大きな口を開けて笑った。


「ないわよ!ないない!子爵だった頃の方がまだ威厳があったわよ!!」

「くっ……子爵より劣るのか」


 なんとなく伯爵をイメージしていたため、思ったよりもダメージがあった。彼女は腹を押さえ涙を流しながら笑っている。あそこにいた頃はそんな顔見たこともなかった。



「あなたって本当ヘンテコな人よね。中身も外も平民になったのに思考とプライドは貴族なんだもの。息苦しくないの?」


「……」


「え、やだ。考え込まないでよ。別に悪いなんて言ってないわよ」


「……そうなのか?」


「そうよ。ただそうやって貴族じゃないのに貴族っぽくしているのがヘンテコだってみんなが噂してたことを教えてあげようって思っただけよ」


「ヘンテコ、だと……?!」


「もっと年をとったら貫禄が出て平民紳士になれるんじゃない?」


「今はダメなのか?」


「今はヒヨコにしか見えないわ。残念ね」



 平民紳士というのもおかしな名前だがいろいろショックが大きすぎてバミヤンは肩を落とした。地面を見つめるバミヤンを彼女は苦笑した、でも慈しみを持った目で見つめた。



 彼女が考えていたのは、バミヤンが貴族らしくあろうとするのは妹を想ってではないかと、いつかここを出ていくのではないかと思ったからだ。


 それ自体は好きにしたらいいと考えているが、ほんの少しだけ思うことは、折角ベッド生活から救ってやったというのに私に恩も返さず去ろうとするなんて許せないという気持ちだ。

 せめて去るなら一言欲しいし、安全な時期に出て行ってほしい。


 あの脚では旅先で何かあったら確実に助からないからだ。

 妹のために命を無駄遣いするならここにいればいい。

 全部捨てて平民としてここに住めばいいのに、そう思っていた。



 日が暮れないうちに帰りましょう、という彼女の言葉に尻を叩かれたバミヤンは重い足取りで家路へと向かった。


「ターニャ」

「何よ」

「私は出ていかないぞ」


 歩調を合わせて歩いてくれていたから彼女の驚く顔がよく見えた。


「ここの者達にも、お前にも何も返せていない。それにナリアはああ見えてふてぶてしく人に取り入るのが上手いんだ」

「……あなたの妹なんて見たことないし。それにそれって褒めてるのかしら?」


 思い出し笑いをすればターニャが訝しげに首を傾げた。



「今あなたの国に聖女様がいるらしいわよ。行けばその怪我も治してもらえるんじゃない?」

「会えれば、だろう?まずあそこまで辿り着ける自信がない」

「馬車を乗り継げばいいじゃない」


「身分証もないのにか?直接いわれた訳ではないが、もし戻ればあの男に今度こそ絞め殺されるだろうな。

 さっきもいったが私は自分が可愛いし命も大事だ。あの男に差し出す命はないよ」


「知っていたけどあなた相当恨まれてるのね。あんな懐が深い人に殺されるかもしれないほど殺意を向けられるなんて相当よ?」


「あの男が懐が深いだと?!だったら私はあの海より広いということだな!!」


「あなたほど浅い人も早々いないでしょうけどね。そういう意味なら大海並に広くてもいいんじゃない?」


「んん……?」


「まあ、どちらでもいいでしょ!出ていかないなら今日の夕食を考えなくちゃ」


「ああ……今日も芋だったな」


「皮剥きの練習よ。できるまで芋料理から逃げられないわよ」



 己の指の怪我と思い出した芋三昧に足が重くなる。子爵の頃はボルトマンの我が儘だが伯爵だった頃並にいいものものを食べていたのだなと今更気づいたのだ。


 だったら食費も切り詰められたのに……と考えてしまい、頭を振った。もう関係ないのにこんなことをまだ考えてしまうなんて。

 随分悩まされていたからなぁ、と遠い目をしていたがふと、もうひとつ思い出した。



「お前、料理出来たんだな」

「何を当たり前なことを……娼婦になる前は普通に親の手伝いをしていたからある程度ならなんでもできるわ。まあ、あなたの家で食べるような豪華な食事は作れないけど」


「期待してないから気負わなくていいぞ」


 今はもう町に馴染むような格好と最低限の化粧しかしていないからわかる者も少ないがターニャはボルトマンが呼び寄せた高級娼婦の一人だった。


 解雇した中に彼女がいてもう二度と会わないだろうと思っていたが、故郷が近国なんだと再会した時に教えられ、初めて彼女の本名を知った。


 綺麗な手はなんの苦労も知らない手だと思っていた。あまりにも彼女を知らないので古傷(サルベラ)を思い出してしまい、居心地悪くなった。



 だが相手がターニャのせいか気兼ねない空気が良かったのか徐々に聞いて知っていけるようになった。



「……あなたって時々、ううん。結構な頻度で腹が立つ言い方するわよね」

「?そうか?自分では気づかないが」

「そういうところよ、そういうところ」


「?……まあ気にするな。貴族言葉だ」

「勝手に造語を作らないで」


「……お前は、口が減らないな。娼婦の頃はあんなに理知的で合理的だったのに」

「あれは仕事だからよ。廃業したから口も開けて笑うし芋料理だって作るわ」


「減らず口は困るがな。……まあ、一生芋料理を作らなきゃならないというわけでもないし、お前が作る料理ならある程度は我慢するよ」


「……え、」



「ここを出ていったらターニャが作る料理が食べられなくなるだろう?」



 以前自分一人で作った料理がこの世のものとは思えないほどに不味いか味がないかのどちらかしかなかった。

 だからターニャが作った温かい食事は今まで食べたどの料理よりも美味しかったのを覚えている。


 それが食べられなくなるのは惜しいと歩きながら考えているといつの間にか隣にいたターニャの姿がなくなっていた。



 どこだ?と振り返れば少し離れたところでターニャは顔を真っ赤にして固まっていた。








読んでいただきありがとうございます。


予定ではバミヤンを回収するつもりなかったのですがこうなりました。

ざまぁを期待されていた方がいましたら申し訳ない。


次回は数年後でサルベラに戻ります。

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