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冤罪で悪役令嬢になりましたが、幸せになることを行使したいと思います!  作者: 佐古鳥 うの
番外編

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自由を望むバミヤン・4

一部不快なシーンと暴力シーンがあります。ご注意ください。

 



 だが、飲みの席の与太話はそこで終わらなかった。

 ソルティオとボルトマンがスコラッティ公爵派閥の残党に声をかけ仲間を集めだしたのだ。粛清を受け不満を持った者達が次々とバミヤンの邸兼娼館に集まりだした。


 これでは娼婦に会いに来た無関係な貴族にも迷惑がかかる。

 他の場所でやってくれと言ったが頭に血が上った傲岸不遜な者達は聞く耳を持たず、集会場所として利用するようになってしまった。


 これではもうまともな営業なんてできないと踏んだバミヤンは、ボルトマンのお気に入り以外の高級娼婦を全員解雇した。


 それがボルトマンにバレた時は殴られる程憤慨されたが、これ以上借金を作るわけにもいかなかった。

 高級娼婦のお陰でホールイン子爵の負債が返済できる目処がついたバミヤンは逃げるつもりでいた。



 恐らく未だにボルトマンは保釈金を払っていないだろうし、そんな話をしたことも忘れているだろう。


 そもそも脱走者が裏道を使って支払う金額だ。負債だらけのボルトマン侯爵家にそんな余分な金があるとは思えない。

 運良くこのままバレなければ、ナリアと落ち合い子供と三人で国外逃亡をすることも可能だろう。



 どうせなら無謀な策略を巡らしセバージュにやり返そうとしているボルトマン達の動きに合わせて逃げ出そう、そう考えていた。


 しかし。



「はあ?私に確認してこいだと?!」



 最近傭兵崩れや裏稼業をしていそうな表情の暗い奴らが出入りし始め、いよいよもって彼らの計画に不安を感じ始めた頃、会議室に使っている豪奢な応接室に呼び出された。


 モクモクとたちこめる白い煙は豪奢な部屋を隠し、この部屋に似つかわしくない格好とむさ苦しい面々が顔をつき合わせて煙草をふかしていた。

 こういう光景は場末の飲み屋の片隅でやってるのがお似合いなのに、こんな派手派手しい場所でやられると緊迫感が薄れる。


 閑古鳥が鳴いてボルトマンが意気揚々と娼婦を侍らせていた頃の方がまだマシだな。そんなことを考えていた時に告げられた話だった。


 バミヤンがくだらないと切り捨てた言葉をソルティオとボルトマンは本気で考えていたのだ。



「現セバージュの妻がサルベラ・ピイエリドかどうか、バミヤンに確認させる。もし本人なら国に連れ戻し、陛下の前で皆を謀った罪を告白させるのだ」


「連れ戻すって、サルベラをか?」


「当たり前だ!あの女は王家に嘘をついた。本物なら国家反逆の罪で捕らえられる!」


「シームレス殿下を廃嫡させ、我々にとって尊いエリザベル王子妃があの女達の策略によって離縁させられ、戦火に焼かれ惨殺されたのだぞ!!許してなるものかっ」


「宰相でもあるスコラッティ公爵を貶めたのも許すな!!これは立派な侵略行為だ!あのマカオン商会ごと消し去るべきだ!!」


「そうだ!そうだ!!」



 バンバンとテーブルを叩きヒートアップしていく者達にバミヤンは苦痛に顔を歪めた。



 実はこの面子、そして集会の参加者はあの謁見の間にいなかった面々である。

 唯一ソルティオの兄のシュガット・ローンプレイ伯爵はいたが、あの日以降塞ぎ込み、仕事も左遷され、現在家族とほとんど話をしていないためソルティオは事情をほぼ聞いていなかった。



 王室もシームレス付き侍女フェリカの件に箝口令を敷いたため、出回ったのはスコラッティ公爵の免職とエリザベル免責の離縁、セバージュの妻を亡き者にした伯爵家の解体、その王命を出したエリザベルの責任追及とそれを許した王家に罰金刑の請求……といったもので、彼らが話している内容のほとんどが妄想であり自分達に都合のいい解釈でしかなかった。



 当たっていることといえばサルベラの生存だが、裏づけをとる気もなければ、意図を深読みすることもなく、思い込みで話しているので『なぜその結果に至ったのか』という経緯(こたえ)に辿り着くことはないだろう。


 マカオン商会とユーザニイア、そして自国の王家が示し合わせたものだと知っていれば考え直す者もいただろうが、生憎まともに会話ができる人間はここにはいなかった。




 都合のいい夢ばかりを語る、ある意味夢想論者達に囲まれたバミヤンは逃げることができずホールイン子爵領から連れ出された。

 辿り着いた場所は自国とユーザニイアに隣接する近国だった。


 話ではマカオン商会がこの近国で活発に商売をしているらしい。これは我々への侮辱行為だとボルトマン達が嘆いていた。


 どう考えてもやっかみでしかないがこの事もボルトマン達の活動源になっているのだろう。巻き込まれる方はたまったものじゃない。


 情報でサルベラがやってくるという市場に到着したバミヤンはやる気なさげに待っていた。

 考えていることがあるとすればどうやってこの場を逃げきりナリアを迎えに行くかだ。


 今もエリザベルが死んだとは到底思えないが、元々火遊びで互いが結婚するまでの関係だ。


 それにエリザベルが生きていたら助けに来ないバミヤンではなく、手元に置ける他の男に心を移しているだろう。


 今更サルベラを捕まえてセバージュをやり込めたところで気分以外の利益がないのだ。


 離縁されたエリザベルは生き返らないし、スコラッティ公爵が返り咲くこともない。


 ましてやバミヤンが昔のように伯爵家長男として、ナリアとなんの問題もなく幸せに暮らしていけるなどありえないのだ。


 せめて見張りさえいなければ逃げ出すのに、と後ろに控えているボルトマンとソルティオに溜め息を吐くと遠くで一台の馬車が止まった。


 買い物客の邪魔にならないように離れた場所に停まったのだろう。掲げられた紋章は揚羽蝶だった。

 セバージュ家だ、と声をかけてくるボルトマンにわかってる!と苛立たしげに返した。


 ようは本物でも別人だといえばいいだけだ。サルベラなんかを娶るセバージュの趣味は解らないが、手を出したら最後、ただで済まないのはあの一回で十分理解できた。


 歯があった窪んだ所を舌でなぞり眉をひそめると従者に付き添われてやってきた女性が見えた。


 市場で動いても邪魔にならないボリュームを抑えたスカートと、上下お揃いの控えめな色合い。落ち着いたデザインは気品があった。

 帽子を被っているが髪色はサルベラと同じでドキリとする。背丈も体型も同じに見えた。



「あっ……」



 女性が市場に入っていく。従者がずれたお陰で全身が見えた。そして見えた顔に心臓が大きく跳ねる。

 緩やかだが髪を纏めあげ、隠す気もない顔はバミヤンの心を貫いた。


 一言でいってしまえば美しかった。あの頃の幼さも、田舎臭さも、拙い化粧もすべてが洗礼されたように見えた。

 ナリアもエリザベルも美しかったがある意味子供だった。今のサルベラは大人の色気があり、目を惹き付けられる何かを感じる。


 目が合い、微笑まれただけで恋に落ちてしまいそうな、危うい感覚だった。


 何があったらここまで変わるんだ?と口元のホクロを確認し視線をあげるとバチン、と目が合った。



 あ、と思った時には顔が熱くなっていた。しかし目が合ったはずのサルベラはバミヤンを見ると顔を強張らせサッと市場へと逃げて行ってしまった。

 それを見て胸が締めつけられ切なくなる。やはりサルベラだったんだ。そう考えているといきなり肩を引かれ現実に戻された。



「おい!聞いているのか?!どうだった?あれはサルベラ・ピイエリドだったのか?!」

「……あれは、」


 視界に入ってきたむさ苦しい男達に無意識に眉間に皺ができた。



「違う。似ているがサルベラではない!」



 反芻しようとした記憶が汚されたみたいで無性に腹が立った。だから思わず声を荒げてしまったが否定したことでボルトマンはガッカリしていた。


 これで帰れる、そう思ったがここまで来て何もせずおめおめと帰れるものか!!と騒ぎ立てた者達のせいで長引きそうだった。


 だが、ここは他国。問題を起こせばそれこそ国を巻き込む大問題になる。


 せめて自国なら……と悩むボルトマン達に見切りをつけたバミヤンはその夜密かに逃げ出した。これ以上付き合ったところでろくな目に遭わないだろう、そう判断したからだ。



 しかし、思い残すことがある。

 サルベラだ。サルベラがあんなにも美しくなるなんて思ってもみなかった。

 バミヤンが知る女達とも違う。あの頃はここまで心が揺さぶられることはなかった。


 あんな女に育てたのがセバージュなのかと思うと負けた気がして腹立たしいが、その悔しさ以上にサルベラをもう一度見たい話したい。


 子爵になりボルトマンやソルティオと再会して、自分がどれだけサルベラに対して酷い態度をとってきたか身に染みたのだ。


 前はプライドが邪魔して何もできなかったが今なら謝ることもできる。

 これを逃したらもう近づくことも見かけることもない気がしてバミヤンは一人、宿泊に使っているという領主の邸へと向かった。


 染物業が盛んなここの領は職人が多く人口は少なめな町だった。


 そんなわけで領主の邸にもすぐ辿り着いた。建て直す前の子爵邸ほどのこじんまりした邸は人の出入りが多かった。

 どうやらマカオン商会との親睦会が開催されているらしい。



 しめた、と思ったバミヤンは手薄になっている北側の裏口から業者のフリをして潜入した。

 その後は客人のフリをしてサルベラを探した。見つけたサルベラは昼間とは違う、明るめのドレスを纏っていた。


 隣には勿論あの憎っくきセバージュがサルベラの腰に手を回して立っていて、朗らかに領主と会話をしている。


 前見た時よりも憎しみが募る想いに腹立たしさを感じたが、そのうちセバージュに耳打ちしたサルベラがその場を離れた。

 侍女を伴いつつセバージュから離れたのを確認したバミヤンはこっそり後をつけた。


 ガーデンパーティーのため人は庭に集中し、解放されている玄関ホールにもいたが、それ以外は関係者以外立入禁止区域だ。


 そこに入っていくサルベラをバミヤンは忌々しげに見て仕方なく待つことにした。ここなら戻ってきた時にサルベラを捕まえやすいだろう、そう思った。


 振る舞われていた酒を手に取りそれを飲みながらサルベラを待っていると門の方が騒がしくなった。



 なんだ?と目を凝らすと松明のような光達が此方に向かってくる。そのうち「敵襲だ!」と誰かが叫んでその場は騒然となった。


 悲鳴と逃げ惑う人々にバミヤンも驚く。その敵襲が誰か気づく前に目の前を明るめのドレスが横切った。

 見覚えのある髪にバミヤンも走り出す。サルベラは玄関ホールを横切るとそのまま邸を出て裏側へと向かっていった。


 その方向にあるのは厩戸で、馬で逃げるつもりか?!と目を瞪った。

 サルベラの趣味も特技も知る気がなかったバミヤンは今追いかけている彼女のことも何一つ知らない。

 そのことがバミヤンを妙に急かせ足を動かした。



「サルベラ!!待ってくれ私だ!」



 いった後で叫ばれないか不安になった。腕を掴むと、反動でバランスを崩したサルベラを地面に転ばせてしまった。

 それに気づき急いで起こそうと手を差しのべたが暗くてよく見えない。


 ここは丁度表側の光が届かない、月明かりしか見えない場所だった。形の外角だけが見え、サルベラがザリ、と後ろに下がる音がする。顔が見えなくて恐れているんだ。



「待ってくれ。敵じゃない。だがここは危険だからせめて邸に戻ろう」


 玄関がある表側からはまだ騒がしい声が聞こえる。怖くて逃げてきたのだろうがここにいる方がよっぽど危ないだろう。

 せめてセバージュがいればなんとかするだろう、と思ったがそれにはムッとした気持ちになった。


 なんであんな奴を気遣わなくてはならない?

 あいつが役に立たないからサルベラは怖がって離れたこんな場所に来てしまったんじゃないか?

 使用人すら探しに来ない体たらくだ。


 ……なら、私が貰ってもいいんじゃないか?



 サルベラは元々私の妻だった。王命が絡んだ政略だがサルベラは私に好意的だった。


 対してバミヤンの行動を思い返せばそんな思考にはならないのだが、美しくなったサルベラを見て急に惜しくなったバミヤンは自分を棚上げし、優しくすれば自分にもチャンスがあるのでは?と思ってしまった。



「サルベラ……お願いだ。私を信じてくれ。悪いようにはしないから……だからこの手を取ってくれ」



「やっぱりな」



 懇願に似た声色で手を差しのべれば、急に周りが明るくなり聞き覚えのある声に慌てて振り返った。

 そこにいたのは松明を持ったソルティオ達でバミヤンはぶわっと冷や汗が吹き出た。


 バミヤンが出ていく前は今後どうするか決めかねていたはずだった。なんでここに、と動揺を露にして聞けばソルティオは酔った時と同じように軽快に口を滑らせた。



「私はお前がサルベラだって気づいたからこそ違うって否定したんだとわかったんだよ。そして我々から逃げるつもりだということもな!」


「くっ……」


「だからわざとお前を泳がせたんだ。そうすればまたサルベラに会いたくなってここに来るだろうってな!道案内ご苦労様、バミヤン先輩」


「ソルティオ、貴様……っ」



 ニヤリと嗤ったソルティオはまっすぐ此方に歩いてくる。サルベラは恐怖で動くことも逃げることもできないみたいだった。

 せめて壁なら、と妨害に入ったが現役騎士には敵わず壁に叩きつけられた。



「うぐっ……逃げろ!逃げろサルベラ!!」


「逃がすかよ。この女は大罪人だ。国に戻ってたっぷりと罰を受けて貰う」



 そういって、ソルティオは悲鳴をあげるサルベラに馬乗りになりスカートを捲し上げようとした。



「!……せ、セバージュが来るぞ!!」


「ハハッ安心しろ。そいつはもう仲間と一緒に逃げた後だ。ボルトマン卿も追いかけてる。だから私達はコイツで遊べるわけだ」


「やめろ!やめてくれ!!」



 陰影の濃い顔でニタリと嗤ったソルティオにバミヤンは痛む体を押して間に入ろうとしたがその前に控えていた傭兵崩れに顔ごと地面に叩きつけられた。



「そいつは殺すなよ。この女が犯されるところを見せなくちゃならないからな」


「勿論俺達も楽しんでいいんだよなぁ?」


「私が楽しんだ後なら好きにしていい。くれぐれもヤりすぎて殺すなよ」


「ヒヒッわかってるよ」



 吐き気がする言葉の応酬に顔を歪めれば、「煩いな。そろそろ黙れよ」とソルティオがサルベラの頬を叩いた。その音の大きさにビクッと肩が跳ねる。



「おーおー、いい顔だなバミヤン。お前の愛人でも恋人でもない、バカにしていた元妻が犯されるのがそんなに悔しいか?


 私の言っていた通りいい女だろう?私は胸が好きなんだが、あー……これはいい。あー……侯爵夫人になると揉み心地もいいんだな。

 さすがシームレスや高位貴族達をたらしこんでいたことだけはある。……ククッこの先っぽを口に含めばどんな声で啼くんだろうなぁ?」


「ソルティオ、貴様……っ」


「ハッハッハッ怒っても無駄だバミヤン!この女は私が抱く!お前は指を咥えながら快楽に堕ちていくこの女を見て股間を濡らせばい」



 血管が切れそうなほど顔を真っ赤にしてソルティオを睨みあげると言葉が途切れた。

 瞬きの間にソルティオはごろんと地面に転がると、顔だけの生気のない瞳がバミヤンを見上げていた。


 そしてバミヤンを押さえ込んでいた傭兵崩れも次々に倒れ、振り返ったところでバミヤンも側頭部を強打された。

 痛みで気が遠くなる中、サルベラを逃がさなくては、と彼女がいる方を見やった。


 しかしそこにはソルティオの体が横たわっているだけで肝心のサルベラはいなかった。



「――ちょっと。もう少し早く助けてくれてもよかったんじゃない?どうするのよこれ。奥様に見られたらまた泣かれるじゃない」


「確かあともう一着予備があったはずだ。それに着替えてくれ」


「この頬のことよ!……まったく!後で時間外労働分と慰謝料!きちんと支払いなさいよ。アタシじゃなければあんたはクビどころか旦那様に殺されてたんだから!感謝しなさい!」


「……わかった」



 意識が遠ざかる中、そんな話し声が聞こえた気がした。


 声はサルベラに似てるのに話し方も言葉遣いも違くて、まったく別人に思えた。


 だが、その会話でなんとなくサルベラが無事な気がしてきて、ああ良かったと思いながら完全に意識を手放した。



 ◇◇◇







読んでいただきありがとうございます。

次はバミヤン編最終回です。

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