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冤罪で悪役令嬢になりましたが、幸せになることを行使したいと思います!  作者: 佐古鳥 うの
番外編

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自由を望むバミヤン・3

屑共の宴。続いてます。

 



 それから機嫌が直ったソルティオは勧められるままに酒を飲み、酔った勢いで聞かれたことをペラペラと喋りだした。


 どうやらバミヤンが鉱山にいた間に小規模だが戦争があったらしい。

 ユーザニイア王家と懇意にしているマカオン商会が、セバージュの妻が此方の王命によって命まで奪われたとその報復で宣戦布告をしてきたらしい。


 エリザベルが常々『弱腰外交』と揶揄していた国王は期待に応えるようにスコラッティ公爵家に責任転嫁して被害を最小限に抑えようとした。

 国家間の大規模な戦争は免れたが、智将と謳われた宰相のスコラッティ公爵家を生け贄にしたことで王家の支持率が右肩下がりになっているという。


「何より痛手だったのはエリザベル様が戦火に晒されてお亡くなりになったことだよな」

「エリザ様が?!」


 殺されるどころか暗躍した者を返り討ちにしそうなあのエリザベルが紛争に巻き込まれて死んだ?何かの間違いでは?と思った。



「だ、だが、エリザ様はシームレス殿下の妻だろう?なぜ巻き込まれて」

「そのシームレスが離縁を言い渡したんだ」

「はあ?!」


 思わず叫んだがソルティオもボルトマンも淡々と話すので、なんでそんな冷静なんだと憤った。

 最大勢力であるスコラッティ公爵家の愛娘が亡くなったんだぞ?!もっと死を悼むべきじゃないのか?


 その恩恵を私達はずっと受けていただろう?シームレス殿下とてエリザベルがいなければ国王にさえなれない気弱な方だ。なぜ見捨てるようなことをする?



 まあ確かに王子との結婚は政略で、エリザベルは王妃になるための道具としか王子を見ていなかったが、表の顔は良き婚約者を演じていた。

 それは完璧で、お子様な第一王子では気づけるはずもない。

 それにエリザベルは王子の子供を産んだはずだ。それを聞けば、産みはしたが王家と血は繋がっていないと返された。


 そういえば、王子がエリザベルに婚約破棄をしようとした卒業パーティーの次の月、王子にとっては夏季休暇中に仲直りと謝罪を兼ねて旅行をしたと言っていた。

 傷ついたエリザベルのため王子は誠心誠意尽くしたらしい。


 だが後日スコラッティ公爵領の避暑地に遊びに行った時、王子がとてつもなく閨が下手くそだったと嘆いていた。

 薬を盛ったというし毒はともかくその手のものは慣れていなかったのだろう。

 初めては特に理性をコントロールするのが難しいと聞いているので薬を盛りすぎたのでは?と当時考えていた。



 そうとは知らない王子は留学した後もエリザベルを気遣う手紙を送っていたしプレゼントも欠かしていない。

 愛がなくともできる行為だが、真面目で温和な王子が我が子でないと看破することも、そしてエリザベルと離縁することも意外すぎた。


 エリザベルは王妃の座を本気で狙っていたのは間違いない。そんなエリザベルがそんなヘマをするとは思えなかった。


(……いや、そんなことはないか)



 最後まではしないが体の関係を持った男はバミヤンを含めて何人かいた。

 留学でいなくなった王子からの解放と苦い記憶となった初体験を上書きしたい欲求に駆られ負けたのかもしれない。


 何でも完璧にしたいエリザベルは閨も相応しい記憶に塗り替えたのだろう。そのお陰で王宮から追われたらしいが。

 それでも簡単に死ぬような女には思えなかった。



「バミヤンもエリザベル様がいたから王宮で仕事ができたんだろう?あの頃は良かったよな。傘下にいるだけで同格ですら私に言い返す奴はいなかったし。

 まあ今はスコラッティ公爵家傘下の貴族は生きた心地がしないからその前に出て行ったお前はラッキーだったがな」

「……そんなに酷いのか?……ですか?」


 酔っぱらっても言葉遣いが気になるのか以前通りに喋ろうとしたら舌打ちをされた。


「チッ……今じゃスコラッティ元公爵の靴を舐めていた痴れ者として今まで見下してきた下級貴族からも白い目を向けられる毎日だ」



 戦火に晒されながらも生き残った公爵は両目を失い、争いを起こした責任を取る形で宰相の職を辞退しているとのことだ。

 次に宰相になったのは第二王子派のベルタード公爵で、恐らくそこの娘が第二王子の婚約者になるのでは?という話だ。まだ決まってはいないらしい。


「今じゃ第二王子派とベルタード公爵傘下の奴らが王宮を仕切っていて息苦しいったらないと兄上がいっていた。そのうち厄介払いに僻地へと追いやられるだろうよ」

「それはいけない!才能あるローンプレイ伯爵家を追いやっては後々王家は笑い者になるでしょうな!」


「ああ。その通りだ!まったく私に跡を継がせていればこんなことにはならなかったものを……!

 そもそも、あのバカシームレスが悪いんだよ!国王にならずして何が王子だ!あんな愚物にヘコヘコと頭を下げていたのかと思うと自分が情けなくて涙が出る!」


 まったくその通りです!と調子のいいことをいって同意するボルトマンに白々しい目を向けた。



 ここが片田舎の子爵領なので使用人達に聞かれても特に問題にならないだろうが、不敬罪もいいところだ。


 しかもおかしいおかしいと思っていたが、やはり跡を継いでいたのはソルティオの兄ではないか!跡を継げないのに何が伯爵だ!お前こそ平民予備軍じゃないか!!と憤った。


 学生の頃から裏で王子をバカにしてきたソルティオだがこの四男こそが愚物だというのに何をいうか。


 学院時代、入婿先を探す仮定で伯爵よりも上だからと婚約者がいる令嬢にまで声をかけていたことを思い出した。

 未だに結婚をしていないところを見ると、伯爵以下は愛人程度の価値しかないと友人内で話していたことが外に漏れ敬遠されたのだろう。



 よく口が回る男だ、と旨いが味がしない酒を呷るとソルティオが据わった目で話しかけてきた。


「バミヤンお前、サルベラ・ピイエリドを覚えてるか?エリザベル様の逆鱗に触れて社交界にいれなくなったっていう」

「あ、ああ……」


 覚えるかもなにも忘れるはずがない。

 だが元妻というには趣味が悪いと言われそうで言えずにいたらボルトマンがしっかりバラした。

 笑われるかと思い身構えたがソルティオは神妙な顔でバミヤンらを見た。



「あの女、生きてるぞ」

「?!それは本当ですか?!」



 驚くボルトマンに聞けばサルベラはバミヤンと離縁した後、あのセバージュと結婚したらしい。

 バミヤンはそっちの方に驚いた。サルベラとセバージュが夫婦だなんて寝耳に水だ。


 しかもその後王命により強制的に結婚が無効となり、嗜虐趣味で有名な伯爵家へと嫁がされたという。

 あそこの家は辺境にあるので滅多に社交界に出てこないが、三代揃って毎回連れてくる夫人が違うと有名だった。



 白い肌と真っ赤な口紅は多少顔立ちが見劣りしていても映えるので人目を惹く。

 そして夫を立てるように物静かで、口を開いても伯爵一家をべた褒めする言葉しか言わない。ある意味男の理想的な妻だ。


 そして社交界に来ると伯爵一家は必ず何人かお持ち帰りをしている。

 それは未亡人やメイドだったり、傷物で結婚は絶望的な令嬢だったりと様々だが連れて行かれた女達は二度と故郷に戻ることはないらしい。


 実際はどうかは知らないが、噂通りなら逃げ出すことができない監獄のような場所で、一家の嗜虐趣味に付き合わされ、死んでもおかしくない環境に居たことになる。



 サルベラの遺体は公開されないまま葬儀をしたらしい。

 死んだはずの人間がまたセバージュの隣にこっそり戻ってきているとしたら、これは両国間を震撼させる醜聞となるだろう。


 王命の結婚を仕向けたのは恐らくエリザベルだろうが、それを逆手に取られたということだろうか。


 私と離縁したことに気がついたのか、セバージュがサルベラを囲っていることに気がついたのかどちらが先かはわからないが、エリザベルならサルベラを再び陥れることを考えるはずだ。


 エリザベルにとってサルベラは都合のいい玩具でしかない。これと決めた玩具は飽きるか壊れるまで弄ぶのがエリザベルだ。



 公爵家にいる使用人も王子やお気に入りの男に所用で近づいただけで、肉体的にも精神的にも追い詰めていた。

 バミヤンが知っているだけでも()()()()()()()()


 動く間は絶対に辞めさせないし、なんなら自分の専属にして徹底的に潰していくのだ。

 そんな苛烈な女にサルベラが狙われたのは不憫としかいえないだろう。



「本当にサルベラが生きているのか?」

「前にユーザニイアにお忍びで遊びに行った時に見ただけだがそれでもわかったぞ。あの口元のホクロは間違いない。

 だが結婚までしたお前なら見たら確実にわかるんじゃないか?」


 死んだと聞かされても実感はなかったが、ソルティオらの目を見てゴクリと喉を鳴らした。


 私達はそれぞれセバージュに恨みを持っている。その確認次第では今度こそ戦争が起こるかもしれない。そう思ったら肌が粟立った。



「バミヤン。お前、あの女を抱いたか?」

「は?サルベラをか??抱くわけないだろ!!」


 あんな貧相な女!と以前の感覚で叫んでしまったが、なぜか同意よりも残念なものを見る目で見られた。


「もしあの女が死んだはずのサルベラ・ピイエリドなら惜しいことをしたな」

「は?お前、何をいって……」

「見ればわかるが抱かなかったことを後悔するくらいにはいい女になってるぞ。……いや、今がいいんだから今抱けばいいのか?」


「そ、その前に憂き目に遭った我々の報復としてセバージュを陥れる方が先ではないですか?」

「なら死んだはずの元妻が生きていること、それこそが問題だろう。

 我々は騙されたのだ。陛下にまで嘘をつくなど言語道断!!こんなことがまかり通ってはならない!!断固陳情し粛清すべきだ!!」

「っ?!そうです!その通りです!!」



「あの男のせいで矜持を傷つけられ、家を失い親しい友人を失った。家が残ってもパーティーに出れなくなった者もいる。


 我々の恨みを思い知らせるためにまずはセバージュが溺愛しているというあの女をもう一度奪い、凌辱して誰かの子種を宿してから返してやればいい。

 マカオン商会を恨んでる貴族は多いぞ。その全員に犯させれば我々がどれだけ怒っているかもわかるだろう?


 妻が性奴隷になったのはお前のせいだ、とでもいってやれば私達を驚異に思い、恐れ、詫びの印に商売の利権を寄越すかもしれないじゃないか!」



 大分酔っているので戯れ言だろうが、対峙した印象を知っているバミヤンからすればそんなことはありえない、と思った。


 嫁ぎ先からどうやって救ったかはわからないが、死んだから報復したのと、死んだことにして報復するのとでは意味が変わってくる。



 恐らくどこかで王命の出所がエリザベルと知って王子が離縁をつきつけ、この国で一番権力を持っていたスコラッティ公爵家に戻し一家の命を差し出したことで手打ちにしてもらったのだろう。


 尻尾切りで王家の被害も減らしたかったに違いない。

 そのお陰で自国内からの突き上げが酷いみたいだが、セバージュを、マカオン商会を、ユーザニイアを敵に回すよりはマシだと思ったのだろう。



 これがもしサルベラが本当に死んでいたらこの程度ではすまない気もした。

 サルベラの顔に痣を作っただけで歯が抜けるほど殴られ、殺さんばかりに首を絞められたのだ。国と国の戦争になっていてもおかしくないと思ってしまう。



 それにあの高級娼婦にいわれたのだ。

 仮面舞踏会で貴族らに娼館を宣伝していたら貴族の一人が高級娼婦のネックレスに気がついた。

 その色は隣国ユーザニイアが産出している色でデザインも隣国のものだった。


 その話で二人が盛り上がり、そのまま商談成立したがその後娼婦を叱ったのだ。

 その時の私はセバージュを思い出すからそれを排除したくて口を出したのだが、彼女は聞く耳を持たなかった。



『いいものをわたしが選んでわたしが身につけるの。わたしに似合うものがたまたまこれだっただけに過ぎないわ。それをオーナーであってもあなたに否定される筋合いはありません』

『なんだと?!』


『噂通り浅はかで堪え性がない方ね。一応言っておきますがわたしの顔も体も商売道具ですからもし手を出せば即刻契約を打ち切りますわ』

『う、ぐ……』

『そうそう。我慢を覚えるのも大人への一歩です。それでもうひとつ忠告があります』


『……なんだ』

『嫌いでも構いませんがマカオン商会を表立って敵に回すのだけはお止めなさい。これは警告でもありますわ』

『お前!やはりあのセバージュの回し者』


『短慮でバカを見るのはあなたよ。わたしはあくまで噂を集めた結果を言っているのです。マカオン商会に逆らえば必ず後悔します。

 あなただって大変な目に遭っているでしょう?でも命は助かった。あなたの妹さんも相当酷いことをしたようですけど修道院に入るだけで済んでいる。


 彼が本気を出せば戦争を起こすことも、あなた方兄妹を此の世から消すことだって簡単に出来てしまうんです。それだけの権力を持っているのがマカオン商会なのです』



 この時は半信半疑だったが、エリザベルやスコラッティ公爵を表舞台から消した今は実感せざるをえない。

 サルベラに血を見せたくないという理由だけでバミヤンは助かったのだ。


 それがもし、再びサルベラに危害を加えれば……そこにバミヤンが関わっていると知られれば、今度こそ命がないかもしれない。


 ゾッとするような氷の瞳を思い出しぶるりと震えた。



 いけ好かないセバージュは大嫌いだが命を投げ売るほど無謀でも忠義もなかったバミヤンはソルティオらの話を適当に聞き流した。


 仮に正義が此方にあったとしてもこの争いはすでに終結していたし、ことを荒立てれば此方が裁かれるかもしれない。

 サルベラの生死よりもナリアとその子供を引き取り守る方が先決だと考えた。








読んでいただきありがとうございます。

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