表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冤罪で悪役令嬢になりましたが、幸せになることを行使したいと思います!  作者: 佐古鳥 うの
番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/51

自由を望むバミヤン・2

屑は屑を呼ぶ。

一部不快なシーンがあります。ご注意ください。

 



 それからしばらくは仕事漬けの毎日だった。

 元々継ぐ予定だった伯爵領の三分の一しかない子爵領は面倒をみる分には楽だがまったく利益が出なかった。

 しかも前の当主が負債を作っていてそれをどうにかするところから始めなくてはならなかった。


 下位のくせに借金なんか作ってないで真面目にコツコツと働いていればよかったものを!なんで私が代わりに返済しなきゃならないんだ!!と憤慨していた。



「娼館、ですか?」


 偽名と身分を用意してくれたのは有り難いがこれではセバージュに仕返しする前に倒れてしまう!と師匠に飲みながら訴えるとそんな提案をされた。


「農業はまあまあだが如何せんここは何もない。これじゃ人も増えないし栄えもしない。寂れてるから金も稼げない。そうだろう?」

「それで娼館ですか。確かに飲み屋もろくにないですからね。もう少しランクの高い酒が飲みたいものです」


「娼館なら需要はあるし伝手もある。なんなら暇な日は手解きの授業料として娼婦の相手をしてやればいい」

「ですが宣伝はどうするんですか?始めてもここは旅人もあまり通らない田舎ですよ?」


「だからいいんじゃないか!隠れ家っぽくて!!今住んでるお前の邸を改築して高級娼館として貴族達を招待するんだよ!!名案だろう?」


「ええ?!私の家をですか?!」



 今住んでいる邸はベグリンデール家のタウンハウスの半分くらいの大きさだ。

 いかにも田舎臭く、素朴で古くさい。ナリアが見たら卒倒すること請け合いだ。だがバミヤンは今の家をそこまで悪くないと思っていた。


 確かに古くさいが趣きがあって、住み心地が良いのだ。なんとなく感じる家の暖かさは鉱山生活で忘れかけていた安心感なのかもしれない。

 そんな愛着が湧いている邸を改築して娼館にするなんてとてもじゃないが承認できなかった。


 しかし師匠は殊の外乗り気で最後には押しきられてしまい、自分のプライベートエリア以外なら、という条件で承諾した。





「な、な、なんだこりゃあ~!!!!」


 そうして出来上がったものにバミヤンは叫んだ。バミヤンの生活スペースは、確かに内装は無事だったが外観はコテコテのロココ建築で見るからにド派手に様変わりしていた。


 前は景観に馴染む風合いだったが、全部に眩い白を使ってるせいで風景から飛び出したかのような、そこだけ異物が混じってるとしかいえない姿に変えられていた。


 しかも目立つどころか悪目立ちしていていかにも娼館です!怪しいです!と宣言していて痛々しい。王都ならまだしもこんな田舎には不釣り合いだ。

 目立つのも宣伝としてはわからなくないがこれでは下品過ぎる。こんな邸に足を運ぶ貴族などいるのだろうか?


 中に入ると外に負けじとキラキラとしたシャンデリアがお出迎えして真っ赤な絨毯は高級感あふれんばかりにふかふかだった。



「やあバミヤン!私達の娼館ができたぞ!!」

「あの、もしかして部屋もここのような感じなのですか?」

「ああ勿論だ!貴族を呼ぶには見映えが大事だからな!」


 大事だがこのきらびやかな設計は、ナリアの買い込みと追加料金で見たあの数字を連想させて顔が引きつる。

 恐ろしいことにバミヤンは共同経営者に仕立て上げられてしまっているのだ。


 逃げるに逃げられない。後で請求書を確認しなくては……と顔色悪くしていると奥の方から女達がきゃあきゃあとやってきた。


 彼女達を高級娼婦として雇うつもりらしい。顔も美人、化粧も良く似合い、ドレスも高級感があって確かに金がとれるなと思った。思ったが……。



「それじゃ私はこの子達の〝味見〟をしてくるよ。客になにかあってはことだからね」

「は?」


 何を思ったか師匠は両側にいる娼婦の腰に手を回し、他数人の娼婦と共に背を向け当たり前のように笑ってウインクをした。

 驚いたバミヤンは思わず引き留めたが「お前も混ざりたいのか?」という問いに我に返って断った。


 楽しげに去っていく師匠にバミヤンは拳を震わせながら赤い絨毯を睨み付けるしかなかった。




 ◇◇◇




 そして程なくして開店したが、案の定客は来なかった。そうでなくとも領民には気味悪がられ領地の経営にも支障が出てきている。

 一人でも二人でも客が来れば、その文句も黙らせられるのだがまったく人が来ないのだ。


 しかし手元に来る請求書は減らずむしろ紙も金額も増えるばかりでバミヤンは急いで部屋を出た。



 向かった先は上客用に作ったらしいスイートルームだ。ノックもなくドアを開け放ったバミヤンは目を瞪った。

 ここはどこの王宮だ?贅沢をふんだんに使った部屋がここに凝縮している。


 建築は王宮を手掛けた超有名なデザイナーでそこに住むのかと最初こそ期待で胸を膨らませたが請求書を見て目が飛び出そうになった。


 だからこそこの部屋が凄いのはわかるのだが、数人の娼婦が乗っても余るくらい大きな寝台にいる、ど真ん中でギシギシやってる男に怒りが沸いた。


「ちょっと話があるんですが!」

「あぁ?ちょっと待て……!!」


 苛立ちと焦りの声に仕方なく口をつぐめば「おうっおうっ」と気色悪く喘ぐ声を聞いてしまい顔を歪めた。耳が腐りそうだ。



「はぁ~……お前も最中に邪魔されたくないだろう?母上ではないのだから空気くらい読めよな。

 んで?お前も混ざりたくなったのか?この童顔巨乳のロリっ子が好みなんだよなぁ?」

「え~?本当ですかぁ?ユリア嬉しい!お礼にご奉仕しちゃおうかしら~」


 一通り落ち着くまで待ったが頭痛が止まらない。師匠は相変わらず真ん中に寝そべり両側に女を侍らせている。タバコを持ってない方の手では女達をまさぐっていた。


 お前が主人かよ!ふざけるな!!確かに上位だが、共同経営者ならばある程度は協力すべきだ。それなのにバミヤンは事務に追われ、師匠はここで娼婦達と一日中楽しいことをするだけ。



 請求書を見せ、客がいないのに新しいドレスや玩具、シーツを日に何度も替えて洗濯するということが増えているのはなぜかと聞いた。そしたら、


「ヤれば着替えたくもなるだろう?可愛いこいつらに新しいドレスを着せて何が悪い?全員を可愛がってやらなきゃこいつらも可哀想じゃないか」


 と近くにいた娼婦に汚いキスをした。吐きそうだ。


 ―――だんだんわかってきたぞ。師匠は無料(タダ)で娼婦と楽しみたいだけなんだ。企画を打ち出したがそれだけ。実現能力に欠け目先のものにすぐ乗り換える。


 今回の場合は娼館作りと娼婦集めまではやる気も伝手もあったが、娼婦を見て客よりも自分が楽しみたくなり他のことは放棄、もしくは先送りにしたのだ。



 今までも中途半端に手を出しその都度周りにポイ投げするから頓挫ないし失敗するということを繰り返しているのだろう。

 その証拠に実家から緊急の手紙が来ているのにまだ一度も帰っていない。


 あっちでもここと同じように事業に失敗してここに逃げてきたのだ。ホールイン子爵が抱えていた負債も師匠が作ったものかもしれない。


「ダンジェル・ボルトマン侯爵。戯れは止めてください。あなたが使い込んだ金額は一朝一夕では取り戻せないほどの大金に膨らんでいるんですよ?」


「なにをいってるんだ。私達は共同経営者なのだから一蓮托生だろう?大丈夫だ。すぐに客が来てがっぽがっぽと稼げる日が」

「これ以上戯言をいうなら侯爵家に連絡して迎えに来てもらいますよ」


 強制送還されたいのか?と聞けば師匠は……いや、ダンジェル・ボルトマンは急に大人しくなった。



 これはもう上も下も関係ない。自分が何とかしなくてはまた平民になってしまう。しかもナリアの時以上の負債を抱えてだ。

 どちらも自分が作ったものじゃないだけに腹が立つが、伴侶でもなんでもないボルトマンは首を絞めたいくらいには腹が立っていた。


 次に必要なのは宣伝だ。しかし未だ脱走したままになっているバミヤンはおいそれと社交界に顔出しできない。どこで知り合いに会うかはわからないのだ。

 だが、そこに行かなくては客も呼べない、ということでボルトマンを使って仮面舞踏会の招待状を用意させた。



 商品の宣伝のために高級娼婦を連れてパーティーに向かうと、パートナーは一人だというのに宣伝は派手な方がいいといってボルトマンは二人連れてきた。

 それだけでも腹が立つというのにボルトマンは両手の花を連れてバミヤンから離れていった。


 宣伝なのだからイチャイチャしたりどこかにシケこんでお楽しみするなよ、と釘を刺したが通じているかはわからなかった。


 私が憧れていた姿は幻だったのだな。と嘆息を吐いたバミヤンは娼婦を連れ見知りがいない、好色な貴族を探した。




 結果をいえば商談というか客寄せはうまくいった。自分にはどうやら交渉の才能があるらしい。それと連れていた高級娼婦がいい感じに話を持っていってくれたのだ。

 さすがは高級娼婦。高い給料をとるだけのことはある。と感心した。


 ポツポツと娼館に客が来はじめようやく事業が動き始めた頃、ボルトマンがまた面倒なことを考えていそうなニヤついた顔でバミヤンを飲みに誘ってきた。


 どうやら紹介したい男がいるらしい。ボルトマン自体はろくでもないが知り合いが多く顔がきくのは確かだ。

 不安だが一度会った方がいいかと目が眩むような豪奢に作られた応接室に入った。



「よおバミヤン。元気そうだな」

「お、お前は……」


 ボルトマンが紹介したいと連れてきた男は学院時代つるんでいた一つ下のローンプレイ伯爵四男ソルティオだった。

 あの頃はバミヤンの弟分として可愛がってやったが、バミヤンが『お前』といった途端奴の顔が歪んだ。


「……おい。私は伯爵だぞ。お前は子爵位じゃないか。敬意が足りないんじゃないか?」


 久しぶりの再会だというのに居丈高に見下してくるソルティオに驚き思わず「は?」と言い返したらボルトマンがバミヤンの頭を掴み無理矢理下げさせた。



「礼儀を知らない奴だな。常々私が言っているだろう?上位貴族を敬えと。

 お前は今は子爵位なのだからたとえ学生時代友人だったとしても、こうやって恭しく頭を下げるのがマナーだ」


「そうだぞ。私に不敬を働けば子爵風情など簡単に潰せるんだからな!よく覚えておけ!!ハッハッハ!!」


「……っ」


 もっと頭を下げろと更に手に力をこめてくるボルトマンにバミヤンは顔を真っ赤にして唇を噛み締めた。

 上位とはいえひとつしか違わないじゃないか。だというのに自分が公爵にでもなったかのように息巻くソルティオに拳がブルブルと震えた。



 今日はボルトマン侯爵の前だから我慢してやるが、次に会ったら見てろよ。と下げた頭の下でねめつけるように彼を睨みあげた。


 そんな出会い頭の挨拶だったのでバミヤンのテンションは既に地の底まで落ちていた。

 話したところでろくでもないか、しょうもないかのどちらかだ。時間の無駄でしかない。


 だというのにボルトマンとソルティオは話に花が咲き、酒も進んだ。ああ、この酒は高級だから上客用に隠していたものだ。それをわざわざ探しだし飲んでいる。

 ろくに働きもしない金食い虫を睨めば、酔ったソルティオが、バミヤンの地雷になるろくでもないことを言い出した。


「娼館で稼ぐならお前の妹は外せないだろう?!ナリアだっけか?ここにいるのか?いるなら私が……いない?バカかお前。

 お前の妹に心酔し毎夜己の息子を慰めていた男達が何人いたと思っているんだ!!


 どうせ妹も平民に落ちたんだろう?だったら体で稼ぐのが手っ取り早いじゃないか!!

 金の卵が近くにいるというのに……本っ当にバカだなお前は!そういうのを使えない愚物っていうんだよ!バカめ!


 いいか?今すぐナリアをここに呼んでこい!今すぐにだ!!そうしたら伯爵であるこの私が、ヒヒッ……手練手管を使って天国に連れてってや」


「まーまーまー!!ローンプレイ卿が並々ならぬ興味を持っているのはわかりました!ですが今日はもう遅いですし、今夜は私達と商談をする約束でしょう?

 ナリア嬢のことは検討しておきますので!ここは私の顔に免じてお許しくださいませんか?」


「ボルトマン卿!!!」


「黙れビクス・ホールイン子爵!お客様が望んでいるんだ!要望には応えるのが我々の使命だろう?それにお前もナリア嬢と共に暮らしたいといっていたではないか」



 だからナリアを娼婦にしろと?ふざけるな!!それとこれとでは話がまったく違う!ナリアを娼婦にしたいのではなく妻にしたいのだ!


 今にも爆発しそうな感情は、威圧するボルトマンの睨みとソルティオが客と言われたことでなんとか抑え込んだ。

 しかし不完全燃焼だったので勢い任せに立ち上がったバミヤンは二人を睨みつけながら苛立たしげに椅子に座った。


 目の前では機嫌を直すようにボルトマンがナリアではない娼婦をソルティオに勧めている。鼻の下を伸ばす屑に女なら誰でもいいのかと心の中で唾を吐いた。









読んでいただきありがとうございます。

サルベラに送られた釣書の残りを再利用。屑はダストボックスへ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ