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冤罪で悪役令嬢になりましたが、幸せになることを行使したいと思います!  作者: 佐古鳥 うの
本編

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23/51

23・宣戦布告

 



 ショックで呆然としたが徐々に怒りが湧いてきて目をつり上げる。

 噛みつきたくて仕方がないラヴィエルに挑むように見上げたが、すぐに役割を思い出し気まずそうに視線を逸らし嘆息を吐いた。



「意見させていただくなら、ラヴィエル様はその方と離縁して良かったというしかありませんわ。

 ……その方はなんといいますか、少々手癖が悪く、不敬にもわたくしの夫や高位貴族の方々に色目を使い、時には体を使って口にできないようなおぞましいことをなさっていたといいますもの。


 そんな不名誉な噂がある方と侯爵であるラヴィエル様が結婚されては、家にも、ユーザニイアにも傷がつきましょう。

 拷問され挙げ句殺……されてしまったのは御愁傷様としかいえませんが、あなた様のお心を痛めるまでもありませんわ。これは因果応報。

 短くともラヴィエル様と過ごせた時間がその方にとっての救いとなりましょう」



 いけないいけない。もうこの世にあの女がいないのかと思ったら可笑しくなって嗤ってしまいそうになったわ。

 とるに足らない下位の者でもラヴィエルは気にしているようだから悲しそうな顔をしないと。


 ああ、飼っていたペットでも思い浮かべればいいかしら。人だと思うと癇に障って余計なことまで口にしてしまいそうだわ。



「隣国の国王のお怒りももっともです。マカオン商会を通してわたくしはユーザニイアとより良い関係を結んできたと自負しておりますわ。

 品を買い交流することでユーザニイアとの絆を強めるものと信じてきました。

 今回の件は不幸な事故でしたが、ラヴィエル様には国の本意ではないともうお分かりになったはず。


 わたくし共は今後もユーザニイアと友好な関係を続けていきたいのです。ですからどうか、其方の国王様に怒りの矛を収めるようお伝えいただけませんか?

 ユーザニイアを、陛下を騙り欺いた者は必ず捕らえ罪を償わせますわ。それが友好を示す証明になりませんか?」



 感情が昂った表情を堪えるように、目に涙を潤ませ真摯に訴えた。わたくしの美貌に加え、いつもは見せない弱々しい表情に誰もが心を締め付けられている。

 声にも緩急をつければ同性の心までも掴めるのだ。



 これで敵意はないということと、わたくしの無罪は確約できたはずだ。



 そして気づいたはずだ。わたくしが敬称をつけて線引きしたことを。内心焦って不安で仕方ないことだろう。

 エリザベルに見放されたら困るのはマカオン商会でありラヴィエルだ。


 マカオン商会にとってスコラッティ公爵家は手放してはいけない大切な顧客。スコラッティ家以上に金を出し支えてきた貴族はいないのだ。


 ラヴィエルはわたくしが惚れているから勝手なことができると思っているがそれは逆だ。

 懐の広いエリザベルがラヴィエルを自由にさせてやってるだけなのだ。


 胸に手を当て懇願するような身振りでしおらしくラヴィエルに問いかける。しかし目は挑発的で答えによってはマカオン商会を潰してやる、という視線をくれていた。



 ラヴィエル。あなたの自由時間はこれで終わりよ。わたくしをこれ以上焦らすのは許さないわ。


 あなたはわたくしのものになるべくして生まれてきた男なの。



 商会の仕事も、他の女……ましてやサルベラ・ピイエリドなんかに目を向けたことも全部無駄、許されないことだったのよ。

 あなたにとっては一時期の気の迷いであんな女と結婚……いいえ、雌豚を飼っていたかもしれないけれど、一瞬でもわたくしから目を離したことは万死に値するわ。


 これからはわたくしのために生き、わたくしのために身も心も砕いて、わたくしを慈しみ愛さなくてはいけない。それがあなたの使命なの。


 ユーザニイアも死んだバカな女のこともさっさと忘れて、誰を真に愛すべきか、仕えるべきか選ぶ時が来たのです。

 さあラヴィエル。大切で尊いわたくしが所望しているのです。わたくしの手を取りなさい!さあ!!




「……フッ……はは!シームレス殿下!あなたはとんだ女狐を手元に置いていたのですね。気の毒な話だ」


「め、女狐、ですって……?!」


 カチン、ときて隠すのも忘れ怒りを露にすれば嘲笑われた。



「すべてが自分の思い通りになると思ってらっしゃる。まあ、公爵家に生まれ王子妃になったのだから不自由に思ったことなどほとんどなかったでしょう。

 だがそれだけだ。私にはあなたは最初から動く金貨にしか見えていないし、人とも思っていない」


「は、あぁ??」


 高貴で美しい公爵令嬢であり、世の中の女性が一度は夢に見た憧れの王子妃になったわたくしを、いずれは王妃、もしくはこの国を統べる未来の女王を掴まえて動く金貨などというラヴィエルにエリザベルは目を剥いた。



「私は爵位を持っているが平民と同じ目線、気持ちを知っている。その目から見ればあなたは人ではないんですよ。

 それはなぜか。あなたが自分以外、下位貴族、そして平民を見下しているからだ。そんな冷酷無比な方を同じ人だと思えるわけがない。

 だから私はあなたを喋る金貨だと思っているんです。金貨が商品を欲しがるのは当たり前ですからね」


 どこかでブフッと吹き出す声が聞こえ振り向き様に睨んだ。エリザベルを見た貴族らは顔を青くし、慌てて視線や顔を逸らした。



「それに話を逸らさないでもらいたいな。今は妻の話ではなく、あなた方の誰が不正を犯したかの確認だ。国王よ。封蝋は確認できただろう?どう思われる?」

「……一見は、儂の印に見えなくもないが、よく見れば息子夫妻に用意した印章に見える。だが押し方によって歪むことはよくあるぞ」


「ではもし意図的に形を変えた場合、どのような罪に問われますか?」

「もし仮に、そうだとするならば、儂を騙った罪になるので重い罪になるだろう。場合によっては処刑、毒杯もあり得る」



 なんですって?!思わず声になりかけ口を手で塞いだ。罪になるのはわかっていたが処刑や毒杯を飲むまでの罪になるとは思っていなかった。

 偽装したとしても王命には変わらず、せいぜい奉仕か罰金くらいだと思っていたのだ。


 未来の女王に対してなんて融通の利かない、と内心愚痴ているとラヴィエルが王や王妃、王子にも例の女に打診した記憶はあるかと問いただしていた。


 しかしそんな記憶はないと答え、ラヴィエルはエリザベルの父の前に立ち同じ質問をした。



「サルベラに王命を偽装して釣書を用意したのは公爵かな?」


「………私は、知りません」



 そう答えるしかない。幸か不幸か目を失ったお陰で表情が読み取れなくなりラヴィエルも諦めるしかなかった。



「ラヴィエル様、これでわかったでしょう?これは何かの間違いですわ。陛下も王妃様も、殿下やわたくしでもありませんわ。

 誰かが悪意をもってわたくし達にあらぬ疑いをかけ、両国間に亀裂を入れようとした者が他にいるのです!

 わたくしを裏切らないでくださいまし。どうかお願いですラヴィエル様……」



「だからそういう三文芝居はもういいといってるんだけどなぁ」



 え?と縋りつこうと手を伸ばしたがするりと躱され、そのままバランスを崩して転んでしまった。

 なぜ逃げるの?という羞恥心と、早く引き起こしなさいと手を出し見上げれば、無表情のラヴィエルが何を考えているのかわからない、されど美しい顔で見下ろしていた。


「王子妃殿下は場を掻き回し、自分の都合のいいようにいつも誘導しているようだが、そこに真実はどのくらい含まれているのだろうな?」

「ど、どういうことですの……?」



 意味深な言い方に訝しんだ。ラヴィエルが王子に目配せをすると王子はエリザベルの前に進み出た。


「あなたが仲のいい友人達と一時の歓びに現を抜かしていた頃、謁見の間ではユーザニイアの名代で来たセバージュ卿から我が国への経済制裁と全面戦争の申し出があったんだ」


「な、なんですって?!」



 衝撃で思わず声を張り上げた。聞こえていた友人らも短い悲鳴をあげている。

 なんてことだ。だからあのプライドの高い父が膝を突くほどのショックを受けたのだ。

 経済制裁?戦争?どちらも現実的ではないが笑って流せる話でもない。


 経済制裁なんて貴族界隈は致命傷になりうる。嗜好品や装飾品など、生活必需品以外の商品を多く取り扱いどの貴族もマカオン商会を使っているのだ。


 社交界のパーティーで毎回高位貴族はマカオン商会で買った何かしらを身に付けているのがステータスだったし、競って半年先や一、二年先まで取引をしている貴族もいる。

 それらが止められ白紙となれば下手をすると大多数の高位貴族が中古のドレスを着てパーティーに出ることになるのだ。

 貴族にとって見栄はとても大切だ。手直しの中古などエリザベルの立場で許されるはずがない。


 王家とてエリザベルの口利きで五年分をマカオン商会の商品を押さえているのだ。差し止められれば王家は公式の催しすらままならなくなる。

 その責任をとり他の物を用意するとなれば尋常ではない損害を受けるだろう。


 それだけマカオン商会はこの国になくてはならない商会になっていたのだ。




 なぜそのタイミングでくだらない死んだ娼婦?元侍女?どちらでもいいが、そんな話をしていたのだ?もっと話し合うべきことがあったでしょう?!


 国の命運がかかっているというのにもうこの世にいない女の話をするなんて、王子は本当に頭がどうにかなったのかもしれない。だから躊躇なく父の目も潰したのだ。

 王子は敵だと思った勘は間違いない。しかも王子ではなく国を滅ぼす罪人だ。



「だ、だが、正式決定にはまだ時間がかかるとも、話し合いの余地があるとも言っておったではないか」

「ええ。そのつもりでしたが、気が変わった」


「え?」



 ラヴィエルをどうにかする前に王子を亡き者にする必要が出てきたと夫を睨み付けていれば、王と話していたラヴィエルがくるりと振り返りエリザベルを真っ直ぐ見つめた。



「父親の罪をつまびらかにしたことで、聡明な王子妃殿下でも自分の罪に気づけるようにしたつもりだが……まだ認める気にならないか」

「な、何をいっていますの……?」


 は?何をいっている?そんな流れは一切なかったはずだ。釣書の件だって王か王子の責任が問われるだけのはず。わたくしに繋がる証拠はないのだから罪に問われるはずがない。


 それをささやかに顔に出せば盛大な溜め息を吐かれた。



「今いった経済制裁も、この国との全面戦争も、すべてがあなたが原因なんですよ。王子妃殿下。だからあなたをここに呼んだんだ」



「なん、で、すって?」



 再度の衝撃で言い返す言葉が出てこなかった。



「夫であるシームレス殿下がいっただろう?封蝋はあなたが押したものだと。あの釣書も父の公爵と共謀したものだ。

 そして、スコラッティ公爵が騎士団隊長の婚約者である侍女殿に手を出した切っ掛けもあなたのお願いが原因だと判明している」


「そ、んなわけ、ありません、わ……だって、罪が本当だというなら手枷をするでしょう?わたくしの手は自由だわ…!」


 知らない。そんな娼婦に身をやつすような愚鈍な侍女なんて知らない。



 確かに婚約者時代に邪魔な王家の使用人達を片っ端からクビに追いやったが、実際は自邸で気に食わない者達を執事や母の前で愚痴っていただけだ。

 あぁ、茶会で仲のいい友人にも喋った気がするけどこれは後で叱られたから一度きりのはず。

 だからエリザベルが直々に訴えた訳ではなく勝手に使用人達が自滅しただけの話だ。


 だけど、それがもし、その頃にはもう宰相をしていた父の采配だったのなら。



 チラリと我が父を見て喉を鳴らした。



 カツン、と王子の靴音が響き視線を戻す。さっきまでのどよめきが嘘のように静まり返っていた。


「あなたはもう覚えてないかもしれないが、茶会に来る度に僕や母達の目が届かないところで、若い使用人や口答えができない者を選んでは嫌がらせをしていたことはわかっているんだ。


 あの頃は子供だからと見逃したが、フェリカにあからさまな敵意を向けていたのは僕もわかっていた。

 だからフェリカをあなたに近づかせないように気を配っていたのだが、娘に甘い公爵のことを失念していたよ。

 そういうところがあなたを満足させられなかった要因のひとつなのだろうね」


「で、殿下……?」



 虚ろな瞳が寂しげに笑った。その意図が理解できなくて彼の名を呼んだが届くことはなかった。



「シームレス殿下はずっと王子妃殿下を信じておられましたよ。勿論スコラッティ公爵のこともです。

 あなたが使用人達を虐げようと、学生時代に個人をターゲットにして他の学生達を誘導・洗脳して嘘の噂をばら撒きイジメを実行させても、公の場で王子を辱しめ、とある女生徒の名誉を地の底にまで貶めても、あなたを信じ続けた」


「それは僕の最大の汚点です。あの時はフェリカと違って容易に知ることができたのに。

 裏づけをろくにとることもせず、権力を使うことも、彼女を守ってやれる仲間や従者をつけてやることも考えつかなかった」


「だが心を入れ替えたじゃないですか。殿下は王命の偽装を看破され、私達に協力することを申し出られた。

 この国にとってはあなたがしたことは裏切り行為かもしれませんが、その選択を私は高く評価しています」


「恐れ入ります。もし私が間違っていたとして、廃嫡やそれ以上の刑に服したとしても、弟がいますから。愚直な私よりはよき治世を築けるでしょう」



「シームレス……」



 心痛を露にする王妃に背筋が震えながらも理解した。



 ラヴィエルと王子は共謀しこの国を落とすつもりなのだ。王子のいっていた協力者はラヴィエル……マカオン商会のことだろう。あそこには膨大な情報が入っている。


 くだらない些事に取り憑かれた王子はそのくだらない、死んだ女のためにこの国を、エリザベルを売ったのだ。










読んでいただきありがとうございます。

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