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冤罪で悪役令嬢になりましたが、幸せになることを行使したいと思います!  作者: 佐古鳥 うの
本編

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20/51

20・謁見の間での断罪 (前)

人によっては不快かもしれません。

 



 連れて来られたのは謁見の間だった。王や王妃は勿論、第一王子や他の貴族もズラリと並んでいる。

 式典か会議か?と思ったがそんな知らせは一切聞いていない。


 そしてこの刺すような空気がピリピリしていてどこかおかしい。特にこちらを見る表情に違和感に似た不安を覚えた。




「お、お父様?!」



 玉座の前には王子がいて、彼の足元には両膝を突いて項垂れるエリザベルの父親がいる。宰相である父がなぜ?!そう思いながらも嫌な予感がして直ぐ様駆け寄った。



「殿下!こんなのあんまりですわ!!()()()()()()()()()衆目の中で我が父を辱しめるなんて!陛下も王妃様もなぜお止めにならないの?!」


 状況は呑み込めていないが、父が今()()()()()()立場にいることは理解できた。


 しかし宰相である父に瑕疵など思いつかなくて、これはただの冗談だと、たちの悪い悪戯だと決め込んだエリザベルはいかにも被害者ぶって第一王子や陛下夫妻を責めた。



 しかしいつもなら何か言いたげな顔をしてるのに眉尻を下げて「なんでもない」と引き下がる意気地無しの王子が、今日に限っては暗く、永久の闇に沈んだような目でこちらを見ている。


 いや、見ているだけで何も映していない顔だ。

 欠落した表情にエリザベルはビクッと仰け反った。まるで人形ビスクドールを見ているような気分になり鳥肌が立った。


 王子に対して恐怖を感じたのはこれが初めてで、羞恥心で怒りを感じたがそれを口にする前に王子が先にこちらを、その後ろを見やった。



「それで、この者達は何をしていた?」

「っ!殿下!」


 なぜこのタイミングで?!と非難めいた声で叫んだがまったく視線が合わない。こんなに近いのにまるで聞こえないみたいだ。


 まずい。非常にまずい。ここには友人達の夫、親族もいる。貴族なら()()()()()()()()()()性癖をひとつやふたつ隠し持っているだろう。

 だがそれは男性の話であって、女性は『淑女』であることが求められている。今ここで詳らかにするのはまずいのだ。


 個人的に開いた茶会などは内密な話も多く、普通ならプライバシーの侵害ということで表立って聞いてくることはない。マナー違反だからだ。

 だが、夫であり王子である彼の命令なら喋らないわけにもいかない。


 ならばと目標を変え、エリザベル達を連れてきた騎士団隊長を睨み付けた。しかし彼はエリザベルと目を合わせた上で口を開いた。



「王子妃殿下、並びに側近のご内儀らはサロンにいらっしゃいました。皆様はご自分のスカートの中に奴隷を潜り込ませ、()()()()()()()()なっていました」


 それがどう意味するかわかった者は不快を露に顔を歪ませた。特に友人の夫らは第一王子の側近達だ。

 中には厳格な家柄もあり、射殺さんばかりに睨み付け友人達は震え、涙と共に崩れ落ちた。



「ふぅん。さすがは親子といったところか」

「で、殿下……?」


 泣き崩れた友人達を一瞥し興味をなくしたようにさっさと逸らした王子に驚愕する。エリザベルが知っている王子は純朴で性に対して潔癖なところがあった。


 それが『ふぅん』で片付けられてしまったことに言い知れぬ不安がエリザベルを襲った。


 そしてその不安は更に加速する。




「エリザベルも来たことだし、また最初からそれを読もうか。聞き逃した者にも聞こえるように大きな声で、一字一句逃さず喋るといい。

 スコラッティ公爵の声はよく通ると評判だったからね。よろしく頼むよ」


 端々に感じるトゲにこれは本当に自分が知るシームレス殿下か?と訝しんだ。


 視線を落とせば父が震えた手で紙を数枚握りしめている。ここからでは読めないが、滝のような汗を垂らし青い顔をしている父は恐らく窮地に立たされているのだろう。

 意を決した父が紙を掲げるのを見て無意識に息を飲んだ。



「○月○日。シームレス殿下付きの侍女が国庫に手をつけ、横領しそのまま姿を消す。

 民の血税に手をつけた罰として侍女の両親であるドゥルーフ子爵に返済する義務を課した。こん……


「婚約者である現騎士団隊長」……が指揮を執り探したが見かけた噂すら出てこなかった。

 しかし、それはおかしい。子爵令嬢とはいえ貴族の娘が誰にも見つからず、消えることはほぼ不可能」


 歯切れ悪く言い淀む父を初めて見た。

 その言葉を言いたくないというのは無意識下でわかったが、王子は容赦せず被せるように()()()()()()()ところを指摘するように喋っては父に続きを強制した。



「この意見に対してスコラッティ公爵は『そういう後ろ暗い輩と繋がっていたのだろう』と推測している。これは満場一致だったんですね?」


 割り込んだ王子は国王を見やった。王は気まずい顔で頷くがそれを不敬になりそうな粗野な態度で顔を背け、父に続きを促した。



「おかしいのは、それだけではない。侍女が横領できたという、事実だ。

 政務からも財政課からも離れていた離宮で、専属とはいえ、一介の侍女が、たとえ謀反を……


「謀反を企てたとしても一人で行動することは難しい。それこそ手引きした誰かがいて当然だがそのことを追及した者は誰もいなかった」


 ……そして疑問は、金額にも、及ぶ。裕福ではなかった子爵家だが人のものに手をつけるような、娘ではないと……

「公爵、」

 …他の同僚、同窓生からも証言がとれて、いる。その上、事件を起こした時期にはこ……」


「婚約者がいた。二人の評判はよく、結婚式も間近だった。そんな時期にまとまった金額が欲しいからと手を出すとは思えない。そう、それはあり得ないんだよ。公爵」



 隙間風が通ったかのような冷たい声に父が震えた。見下ろす瞳はやはり人形めいていて生気を感じない。しかし、父を責める声だけは静かな怒りを含んでいた。


「……で、殿下。それは」

「勘違い?いいや違うね。フェリカは婚約者も家族も愛していたが、僕のことも弟のように愛してくれた。

 仕事に誠実で結婚にも前向きだった。何一つ心配ごとなどなかったんだ。なんなら僕から祝儀を出すと話していたんだ。なのにどうして僕を裏切る必要があるんだ?」

「それはあの娘の策略で、子供である殿下は惑わされただけかと」


 吹き出す汗は止まらないみたいだがさっきよりは幾分か落ち着いた声で父が言い返した。しかし王子は父に対して声を荒げることなく報告書を読めと指示した。



「け、決定的だったのは、横領した、金額だ。明確な金額が書類に提示されて、いない。

 醜聞隠しの可能性があるが金額を正しく記載されているはずの正式な書面にも載っていなかった」


「これは僕も改めて確認したが書面ではわからなかった。そこで当時を知る者に聞いてみたが皆口を固く閉ざしたままなんだ。

 これは執務規定違反と言っていいだろう。金額を不明にしたことでフェリカが盗んだ金額はいくらでもつり上げられてしまう。


 国庫に触れたのならどんなに少額でも記載するのが職務のはずだ。その時の財政官もまだ現役のようだが父上。これは職務怠慢ではないでしょうか」



 チラリと財政担当の者が居たので顔を見れば真っ青になり震えていた。あれは公爵家傘下の者だ。


 国王の問いにしどろもどろに答えたが、答えになっておらず王妃が頭が痛そうに振っていた。

 誰も覚えていないだろうが、まずはその書類を確認するらしい。誰かが走って出ていった。


 この手のものは真実など出てくることはない。正義を振りかざしたところで無意味なのだ。

 とんだ茶番ね、と扇子を取り出し尚も読めと急かされる父を見やった。



「よってフェリカ・ドゥルーフ子爵令嬢が横領という罪を犯した、という事実は不確かではないかと思われる。……ふん!バカバカしい!罪を犯していないのならなぜ逃げた!なにもしていないなら既にここにいるはずだろう?!」

「公爵。まだ話は終わっていない。次の紙を読みなさい」


 報告はこれで終わりだと言わんばかりに横領した女を詰ったが王子は淡々と言葉を切り上げさせた。



「………結果報告。フェリカ・ドゥルーフは場末の娼館で働いていた。現在は病気を患い客が取れない状態である。店の者の話ではあと数ヵ月の命だろうとのことだった。

 稼いだ金額は体調を崩した際、以前いた娼館に吸われ追い出されている。国から派遣されている無料診察を受けているが、往診回数は人手不足のため限りなく少なく、匙を投げられた状態。


 彼女がドゥルーフ家と知る者はなく、亡くなれば他の身よりのない者達と一緒の墓に埋める予定とのこと。なぜ……


「なぜ逃げなかったのか?という問いには『もう帰る場所がないから』と答えた」


 備考。拷問などによる傷痣は完治しているが腕の骨折は後遺症有り。また……あ、足首の腱が切られて、いた……」


「どうした?公爵、お喋りが大好きな口が止まっているぞ」


「…………更に調べた結果、フェリカ・ドゥルーフは、貴族御用達の高級娼館ではなく、最初から貴族が通わない中級娼館に売られていた。

 これは身売りではなく、フェリカ・ドゥルーフを貴族と知らない者か、意図的に売られた可能性有……くだらんな。

 高級娼館に断られた可能性だってあるだろう?あんな女貴族相手には荷が重


「公爵。いい加減にしたまえ」


 ……うぐ。………しかし……しかし、フェリカ・ドゥルーフが中級娼館で商売を始めてから、幾度となく貴族が来訪し、フェリカ・ドゥルーフを指名していた。

 しょ、娼館に訪れていたのは、以下の……」



「以下の者達である。シュガット・ローンプレイ伯爵!イバール・ヘディング子爵!ホーザン・タンコスリン男爵!

 さっきは僕が調べたというのに()()()否定したけれど、証拠はもう父上に提出してありこの場で尋問することも認められている。


 その上で問いたいのだがイバール・ヘディング子爵!!」


 名を呼ばれた者達を見れば既に拘束されていて、三人共膝を突いた状態だった。青白い顔でビクッと肩を揺らした子爵が涙目で王子を見上げた。


「聞くところによるとあなたはフェリカの幼なじみだそうだね。学生時代も仲が良かったそうじゃないか。

 だというのに、なぜ娼館でフェリカを見た時、助けなかった?」

「ヒィ!!」



 カツカツと足音が響くように歩く。止まった先には子爵がいて王子の顔を見た途端震え上がった。


「助けずとも誰かに、婚約者である騎士団の隊長に告げることが出来たはずだ。なにせあなたは彼と同期で同じ騎士なのだから。

 ……それとも、婚約者である彼に嫉妬してフェリカを抱いたことで優越感にでも浸っていたのか?」


 屈みこみ、視線を合わせた王子は薄く笑みを浮かべたが目と声色は冷静とは程遠かった。

 彼の中では助けるのが当たり前なのだろう。だがエリザベルにはわかった。



 娼館に堕ち、どこぞの男の手垢がついた女を買うことはできても、それ以上してやる義理はないと最初から見放していたのだ。


 妻にしたところで家の醜聞になるし、愛人程度ならもっと都合のいい女がいる。下手に知っている分子供を産まれても面倒なだけだ。

 と、すれば、このまま秘密裏に逢瀬を繰り返し、共に育ち抱えてきた仄暗い想いをここで消化する方がよっぽど利に適っている、とでも思ったのだろう。



 幼なじみの女も自分に抱かれることによって子爵の偉大さに気づき、

『もっと早くに気づけば良かったわ。あなたの気持ちに気づけなくてごめんなさい。婚約者よりもよっぽど頼りがいがあって気持ちいいわ』。

 とかなんとか、自分勝手な妄想をして自分にのめりこんでいるとでも思っているのだろう。よくある話だ。








読んでいただきありがとうございます。

王子はとある件で闇落ちしました。

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