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冤罪で悪役令嬢になりましたが、幸せになることを行使したいと思います!  作者: 佐古鳥 うの
本編

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18/51

18・閑話 (卒業パーティー)

 



 バミヤンと初めて出会ったのは卒業パーティーの時だった。


 庭園の隅で一人泣いていたところを声をかけられ、優しい言葉と一緒にハンカチをくれた。

 初対面だが理由は聞かれなかった。


 彼の顔をやっと見たサルベラはこんな綺麗な顔がこの世にあるのかと思った。OBらしいが、誰かのパートナーで来たのだろうか。


 そんな彼が『やっとこっちを見てくれた』とあからさまにホッとするので、サルベラは落ち着かなくなり真っ赤になった目を隠すように俯き逸らした。




 ◇◇◇




 この王国には貴族専門の学校があり特別な理由がない限りはすべての令息令嬢が通っていた。

 それに倣うようにサルベラも通っていたが最終学年で思ってもみないことが起こった。


 仕方ないことだが平等を謳う学校でも高位と下位の身分差別はあった。

 下位貴族はなるべく諍いを起こさないように大人しく過ごしていたが、その下位貴族が多く集う場にこの国の王子がやってきたのだ。


 ひとつ下に王家が入学したというのは聞いていたがこんな近くで拝観できるとは思ってもみなかった。


 王子は下位貴族が学校でどういうことを学んで過ごしているのか気になり聞きたいのだという。その話し相手にサルベラが抜擢されたのだ。


 とても緊張したが有難い経験だった。





 それがいけなかったらしい。





 次の日には『王子を誑かした子爵令嬢』としてサルベラが苛められるようになった。選抜したのは教師だし誑かすほど深い話もしていない。

 むしろその噂が王子を貶めてるとしか思えなかったが刺激に餓えている令息令嬢はこぞって噂を広めサルベラをいたぶった。


 恐ろしくなったサルベラは教師に訴えたが噂は終息するどころか更に燃え広がり悪化した。

 手書きで作られた貴重な教科書を無惨な姿で投げ捨てられ、インクを溢されたせいで服や私物をダメにされ、利き手まで傷つけられてはまともに勉強することはできない。



 この頃には苛めている相手が高位貴族の令嬢達だとわかった。

 逆らうことはできないからと両親に退学を申し出たがあと数ヶ月で卒業なのだから我慢しろといわれた。


 卒業すると貴族としての箔がつくのだ。娘のためを想ってのことだろうが不満が残った。

 両親は心配してくれていたが、娘よりも高位貴族…しかも公爵令嬢に目をつけられたことを気にしていたようだった。



 手紙で何度も公爵令嬢のご機嫌をとるよう、頭を下げて謝るようにと繰り返し送られてきた。そんなことをすればサルベラが王子を誑かしていたと認めるようなものなのに。


 それだけ両親は公爵家に恐れを抱いているという事実でもあった。両親は公爵家に何度も詫び状を送ったそうだが返信はなかったらしい。


 元々火のない所に煙を立てられた噂だ。公爵家の対応の方が正解だろう。

 下手に動いて不興を買うのもいただけないし、かといって言葉の裏を汲み取りながら応酬するには技術が圧倒的に足りない。



 両親は学院で学んでいるのだからそれくらい出来るだろうと急かしてくるが、子爵と男爵の両親から生まれた娘が、成績だって下位貴族にしては上、というくらいの令嬢が、悪意を持ってサルベラを見下す高位貴族と一人で戦えだなんて無理がありすぎる。

 そんなことをして成功するのは芝居の世界くらいだ。


 せめて対話できるならサルベラにももう少し可能性があっただろうが、こちらから話しかけることは爵位でできず、周りも協力するどころか不敬だと突っぱねられ追いやられるだけだった。


 弁明の機会も与えられず、イジメもなくならないまま過ごしていると、やっと地獄から解放される日がやってきた。




 ◇◇◇




 卒業パーティーの日。婚約者もいない私は一人でいた。

 普通ならフリーの男性をパートナーに誘うのだが男女から苛められ無視されていたサルベラには声をかける切っ掛けすらなかった。



 会場の隅の方で大人しくしていると、突然王子が壇上に上がり公爵令嬢に婚約破棄を突きつけた。

 サルベラを苛めていた公爵令嬢は王子の婚約者だったのだ。


 公爵令嬢の醜い所業に王子は辟易し王子妃になる資格なしと告げた。こんな公の場で宣言するのはどうかと思ったが、弱者を守ろうとするその姿勢には好感が持てた。


 だがそれもこの後の公爵令嬢の言葉で一変する。



『殿下……そこまでピイエリド子爵令嬢を守りたいのですね。わたくしはこんなにも愛しているのに』


 あたかも王子がサルベラに好意を持っているかのような言い回しで、公爵令嬢は浮気をされた可哀想な令嬢を演じた。


 王子はサルベラの名前を出さずに他にも複数苛めていたことを述べたはずだが、公爵令嬢はサルベラの名前を堂々とあげ、私は注目の的となった。



 割れた人垣の向こうには王子がいる。お互い顔は見たが公爵令嬢のいう恋愛感情はそこになかった。

 公爵令嬢は政略結婚でも王子に心を傾けており、自分以外に心を向けて相手にしてもらえないことを悲しんでいる。


 しかも人目を避けてサルベラが自分に会いに来ては不躾な態度で王子とこんなことがあった、あんなことがあったと自慢しては『殿下はあなたのことなんて興味ないみたいよ!』と嘲笑するという。

 それを見た友人達が怒って追い払ってくれたがまったく懲りてないとか。



 一瞬誰のことを言っているのかわからなかった。私は彼女に何をしたのだというのだろう。

 公爵令嬢の話を鵜呑みにした人達が一斉にサルベラを睨みつける。破棄を突きつけた王子も動揺した顔でこちらを見てきた。


 頼りない顔色に苛立ちが募った。やる気がないのなら最初から巻き込まないでほしかった。悔し紛れに睨めば、ハッと我に返った王子がイジメの話を持ち出した。



 私物の破壊や傷跡が残る程の行為はどう説明するのか、とやや自信なさげに詰め寄る王子。そんな弱腰ではやり返されるだけなのに。


 その予想は当たってしまい、公爵令嬢はけろりと『それは彼女の自作自演ですわ』と平然と述べた。


 そんなはずはない。公爵令嬢と直接話したこともなければ近づくこともできなかった。

 それに彼女といつも行動を共にしている令嬢らや公爵家の派閥にいる令息達から妨害とイジメを受けていた。ただ苛めるだけではなく目の前で嘲笑うまでがセットなので顔も覚えている。


 なのにサルベラの意見は証拠にならず、逆にサルベラの自作自演を見たという証言者が現れてしまい、とうとう王子は黙ってしまった。



 証言が公爵派閥だけならまだ打破できたかもしれないが、派閥ではない下位貴族も多くいたので覆すことは不可能だと思ったのだろう。

 金で買われた可能性もあったが品行方正な王子はそこまで考えなかった。



『殿下のお心が私にないのでしたら仕方ありません。婚約破棄をお受けします。どうかピイエリド子爵令嬢とお幸せに』


『ま、待ってくれ!サルベラ嬢を想ったことは一度もない!そんな関係ではないんだ!勘違いしないでほしい』


『では、誰をお慕いしているのですか?』


『そ、れは、』


『わたくしではないのでしたらこれで』



『エリザベル!あなただ!私が真に愛しているのはエリザだけだ!!』



 背を向け去ろうとする公爵令嬢に王子は焦り引き留めた。

 その声は婚約破棄を宣言した時よりも大きく、彼の赤く染まった頬に王子の本心を垣間見た。

 ついでに舌の根も乾かないうちに簡単に破棄を撤回するバカな王子だということも認めてしまった。




 そして、扇子の隙間から見えた公爵令嬢の勝ち誇った笑みをサルベラは見逃さなかった。



『それは本当ですか?本当に、わたくしでよろしいの?』


『ああ。あなたしかいない。あなたの本心を見抜けなかった私を許してほしい。婚約破棄は撤回する。

 王子妃という地位を盾にサルベラ嬢を見せしめのように苛めているのだと聞かされて、居ても立っても居られなくなったのだ』


『まぁなんて恐ろしい……心ないことを仰る人がいるものですね』



 如何にも卑劣な、といわんばかりに眉を寄せる公爵令嬢に王子は苦笑して手を伸ばし彼女はその手を取った。



『エリザ。私の伴侶になってくれるか?』


『ええ。勿論ですわ』



 お互いにこやかに微笑み合い、

『紆余曲折あったが私達は結婚する!どうか皆も臣下として見守ってほしい』

 と婚約破棄の話などなかったかのように声を張り上げ幸せそうに見つめあった。


 令息令嬢達は歓声と拍手で喜びを露にし、音楽が始まると王子は公爵令嬢を連れてファーストダンスを踊った。それに続いて他のカップルも踊り出す。



 卒業生が沸き上がる中、サルベラだけが取り残されていた。

 震える手は拳を作り、きつすぎて真っ白になっている。扇子はギシギシと悲鳴をあげていた。


 サルベラを苛めていたことなどなかったかのように、サルベラなどいなかったかのような空気に怒りが湧き足早に会場を出た。




 イジメを突き詰め、謝らせるどころか辱しめられただけだった。


 王子とは一度しか会っていないから私のために動くなんてまったく想像していなかった。

 だから驚いたものの好感を感じたが、あんな肩透かしを見せられてはその好感も霧のように消え去ってしまう。


 そもそも、王子は自分の想いを確認したかったくらいで、私の名誉を回復したり救うなど最初から眼中になかったんじゃないかとさえ思った。



 どちらにしろ私は、王子と公爵令嬢が愛を深めるための踏み台になった。しかも手の傷も、心の傷すら自作自演だと決めつけられてしまった。


 冷たく、白々しい視線にきっともう貴族とは結婚できない、両親に申し訳が立たない、そう思って泣いた。





 ―――泣き止むまで待ったバミヤンは冷えて震える私の肩を擦り優しく微笑んだ。



『そういうどっちつかずで薄情な男はやめておいた方がいい。無駄に泣かされる羽目になるからな。

 同じ紳士として許せない行為だ。そんな奴と別れて正解だ。これからはもっと頼れる男を探した方がいい。例えば私みたいな、ね』


 勘違いしている部分を指摘したかったが初対面の相手にいうのも憚れ、曖昧に微笑んだ。そしたら可愛い可愛いと連呼し、べた褒めするのでサルベラはとても慌てた。


 苛められる前はクラスの友達として令息と話したり、パーティーで踊ったりしたが、こんな近い距離で褒めそやされるのは初めてなのだ。



 貴族令息らしくない、軽薄な男性のような距離感と素振りに頭の中の警報が鳴り響いたが、経験値がゼロに等しいほど初心なサルベラは無碍にせず愛想良く努めた。


 人間誰しも嫌われたくない感情があったし、すでにボロボロでこれ以上傷つきたくはないと防衛本能が強く出た。好意的に見てくれているならそれでいいじゃないか。

 社交辞令以上の意味はない、ただのリップサービスだと思えば素直に礼もいえた。




 そんな出逢いをして私を邸まで送り届けたバミヤンから程なくして婚約の打診が届いた。

 高成績で卒業し、マナー、性格共に好意を感じていた、という言葉で両親は大いに喜んだ。


 しかも相手は伯爵家嫡男。ベグリンデール家は領も資産も安定していると聞いて更に喜んでいた。


 一人娘だから出ていったら困るのでは?と不安になって聞いてみたら『養子を迎えるから問題ない。お前は自分の幸せを考えろ』といってくれた。


 エリザベル様の公爵家にやってもいないことで謝罪したり、サルベラの悪い噂を消すために教師や王家から目をかけてもらっている、と脚色をつけて噂を広めたり、なにかと空回りしている両親だが、その言葉だけは嬉しかった。



 喜び過ぎてサルベラに相談なく事後連絡で婚約を結んだと聞かされたのは困ったが、王子の側近であるバミヤンなら両親も安心するだろうと一先ず安堵した。


 上辺くらいの情報しか知らなかったから不安だったけど、政略結婚ではよくあることだ。

 これからよく知って足りないところは勉強したり手伝ってもらいながら互いに補いあっていければいい。



 伯爵夫人なんて夢みたい。

 バミヤンを支えられるように頑張らなくちゃ。


 まだ惹かれているくらいだけど、愛に変わって、いつかバミヤンにも愛してもらえたら嬉しいな。



 愛のある夫婦になれたらいいな。









読んでいただきありがとうございます。


次の話から視点と面子ががらりと変わります。

内容も全体的に重くなるのでご注意ください。

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