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冤罪で悪役令嬢になりましたが、幸せになることを行使したいと思います!  作者: 佐古鳥 うの
本編

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13/51

13・パーティーへのお誘い

誤字報告ありがとうございます。

 



 私がラヴィエル・マカオン・セバージュと出会ったのは、バミヤンと婚約する以前、卒業が間近になった頃だった。


 大伯母と学院卒業後どうするか、行儀見習いでピイエイド家に入っていたカインと共に大伯母の元で修行をしようか、そんなことを相談していた。



 両親にそのことがいえず、かといってその頃はもう入婿を迎えられるような状況でもなかったし、サルベラを縛る婚約者もいなかった。

 どちらが正しいかはサルベラにはわからなかったが、その時はどこでもいいから逃げたい、その一心だった。



 家も自分も上手くいかせる方法が思いつかないまま鬱屈した日々を過ごしていると、ある日突然ラヴィが現れた。

 彼は丁度ベグリンデール家と取引しても問題ないか査定していた時期だったらしい。そのついでに大伯母を介して話を聞いていたサルベラの様子を見に来たという。




『え!卒業パーティーに出るドレスがない?』



 雑談と商会の話を少々、隣国の話を多めにしたところで卒業式の話になった。

 式は全員参加だがその後のパーティーは特に出席をとらない自由参加なので絶対というわけではない。


『学生の思い出は卒業パーティーまでじゃないのかい?』


 と驚くラヴィに世代の差かな?などと失礼にも考えていた。



『今はそこまで楽しみにしている人は限られていると思います。

 特に財政が芳しくない下位貴族はドレスをそれだけのために用意するのが困難で、お古や使いまわしもそれ相応の手直しをしないと周りから嘲笑されるとか』


 昔聞いたことだが今も変わっていないだろう。なにせ今年はあの完璧主義な公爵令嬢がいる。

 卒業パーティーに雑草や野花レベルのドレスがあったら自分の素晴らしい門出を汚したといって許さないだろう。


 あそこは気に入らない者を多人数で囲んでは笑い者にする。下手な衣装しか用意できないなら行かない方が身のためなのだ。


『それにパートナーがいない人も居心地が悪いので近年は自由参加なのです』

『ふぅん。私達の頃とはまったく違うんだね。今の方が気楽でいいけど……サルベラは本当はどう思っているのかな?』


『え?』


『しがらみも煩わしさも全部なくて、ただの学生だったらどうしてた?』



 なんで、そんなことを聞くのだろう。と思った。もしかしてサルベラが学院でどうしているのか知っているのだろうか。

 そう思ったら胃の辺りが冷えて震えたが頭を振った。


 これは雑談の延長だ。他意はない。そう思って口を開いた。



『そう、ですね。最後の記念に誰かとダンスくらいは踊ったかもしれません』



 そんなことできるはずもない夢の話だが、気づいたらそう答えていた。


 その答えを聞いたラヴィは多分嬉しそうな顔をしていたのだと思う。その時サルベラは俯いていて彼の顔を見ることはなかった。




 そんな話をしたことを思い出したのは卒業式当日だった。

 前日に大伯母の名前で届けられたドレスは王宮のパーティーに出ても恥ずかしくない、素敵なドレスだった。


 しかもサルベラの年齢にあい、子爵家が持っていてもおかしくない程度に品がある大人しめなドレスでもあった。


 いつもの大伯母なら最後くらい見返してやりなさい、といわんばかりにサルベラが気後れするような高価なドレスを贈ってくれそうだが、このドレスは目立ちたくないサルベラの心を配慮する色と作りになっていた。



 存在感がありながら見られても不快にならなそうなシンプルなドレスに、それを着て鏡の前でくるりと回りながらとても驚く。


 そしてあの一回でそこまで見抜き、用意したラヴィに感銘を受けたのだった。





 ◇◇◇





「パーティー、ですか?」


 書類から顔をあげると目の前のソファに座るラヴィがにっこりと頷いた。


「貴族のパーティーなんだけど、どうっしても行かなくちゃなんなくなってさ。それに出ないと他の爺様婆様に怒られるんだよね。

 本当面倒くさいんだけど俺商会の顔役だし、本当仕方ないんだけど出るしかなくてさ、」

「……本音が駄々漏れしてますね」



 隣国に来てからまだ数週間ほどだがパーティーに誘われたのは初めてだった。

 商会の手伝いはすでに始めていてやりがいも感じている。だから仕事の延長でマカオン商会の宣伝や交渉に行くためかな、と思った。


「本音をいうと行きたくないの。だってさぁ、貴族だよ貴族。遠回しな暗喩が多いこと多いこと。

 商売の話はいいけど甘い汁を啜ろうとか自分の娘はどうだとか、未亡人を愛人にどうだとか本っっ当に面倒くさい!

 まあこの顔だし、仕事として行くからには愛想笑いだってするよ?けど嫌なものは嫌じゃん?俺にだって癒しとかご褒美とか必要だと思わない?」


 本当に行きたくないんだなぁ。

 以前カインに『あの人、慣れてくると面倒くさくなりますよ』ていわれてたけどこういうことだったのか、と納得してしまった。


 うーん。ということは私はラヴィの壁役をやればいいのだろうか?迫ってくる女性から守る的な。………荷が重い気もしなくないけど。

 でもそれだけ信用してくれてるのかな、と思ったら胸が温かくなって頬が染まった。


 いやいやいや。今はラヴィの仕事の話だ。どうやったら気持ち良く仕事に専念してもらえるだろう。

 うんうんと考えているとラヴィが身を乗りだし、上目使いでサルベラを見上げてきた。



「だからさ。サリーが来てくれたら俺、仕事頑張れちゃうんだけど。パートナーとして一緒に行かないか?」



 大人の男性(やたらと見目がいい)に上目使いされて平常でいられる人間はどれくらいいるだろう。

 まっすぐ見つめられたサルベラは顔を真っ赤にすると為す術なく了承する言葉を返すしかできなかった。




 それからあっという間にラヴィと行くパーティーの当日になった。

 その間、ドレス決めやラヴィと共に隣国内を回ったりして充実していたが今日はどの仕事よりも緊張する気がした。




「愛が重い。怖い」



 邸の一室でドレスに着替えたサルベラは姿見を見て固まり、同じく見ていたカインが苦々しく入ってきたラヴィを睨んだ。


「うん!とっても似合ってる!さすが私のサリーだ。さながら星々を統べる夜の女王のようだね!

 ひとたび踊れば星が流星の如く流れ、キラキラと君を輝かせるだろうね」


「綺麗だよ?!確かにお嬢綺麗だけどキモい。マジでキモい!ここまでする必要ある?!」


 キレたカインにラヴィはどこがおかしいのかわからない顔で首を傾げた。



「おかしいでしょ!全身旦那様の色とか全方位に威嚇してるでしょうが!お嬢の身にもなってよ!」


「えええ~?だってそうしないとサリーに変な虫がつくかもしれないだろう?

 そういう虫がついたら息の根を止めるって決めてるから、サリーが心配しないようにわかりやすくしただけじゃないか」


「それにしたって盛りすぎだっていってるんです!ネックレスか髪飾りだけでいいでしょうが!ひとつだけで!

 婚約者でもないのにこんなことされたら逆に目を引いてお嬢が迷惑するっつーの!」


 どんだけ独占欲強いの!とカインが叫びサルベラは苦笑した。

 デザイン画やサイズあわせした時は水色がかった灰色のドレスだった。


 それもデザインのお陰で地味にならずにすんだが、出来上がったドレスを着たらほぼ銀色だった。


 角度によっては水色にも見えるし細部の装飾も黒に近い紫を使っているのでモダンでシックな淑女っぽく仕上がっているが、いかんせんラヴィ色が濃い。


 アクセサリーも統一してあるがすべてスカイブルーの宝石なので全身ラヴィ色といっても過言ではないのだ。

 そのラヴィもサルベラの色のボタンやスカーフ、ピンなどの小さな宝石に使っている。


 これじゃまるで婚約者…もしくは伴侶みたいじゃないか。



 理解した途端顔が真っ赤になり恥ずかしさのあまり手で顔を覆った。

 いやでも、これは仕事の一環で、私はラヴィの虫除けであって。心臓が煩くて口から出てしまいそうだ。



「サリー?大丈夫かい?」

「は、はい……ラヴィ様も素敵です」



 いった後に自分の色をつけてることを思い出し赤い部分を広げてしまった。バカ。私のバカ。


「ドレス、気に入らなかったかな?私はとても楽しみにしていたし、想像通り着こなしているサリーを見られてとても嬉しかったんだが」

「いいえ。わたくしも嬉しいです。以前贈っていただいたドレスも素敵でしたが、これも……ちょっと気後れしますが、素晴らしいドレスですわ」


 動揺しながらも隣に立つラヴィを見上げれば少し屈んでいたのかすぐ目の前に彼の顔があった。ポカンと驚く顔が可愛かったが目が合い固まってしまう。


 彼の瞳に動揺する自分の顔が見えた気がして慌てて逸らすと肩を引き寄せられ耳元にフフ、と笑う息がかかった。



「気づいていたんだ」

「ええ。なんとなくですけど……あの時もありがとうございました」

「どういたしまして。といいたいところだけどあの時は踊れなかったからね。今日は存分に踊ってもらおうかな」


 クスクスと心地よい声が鼓膜を震わせ、心臓の音が大きくなる。いや、でも私は。



「からかわないでください。わたくしは婚約者ではないのです。ですから」



 ラヴィ様も早く見合う伴侶を探してください。そういおうとして言葉に詰まった。

 誰かがラヴィの隣に立ち微笑むのかと思ったら急に体が冷えた。自分ではないことに恐怖を覚え目を瞪った。


 やだ。私、なんてことを考えてるんだろう。ラヴィとは仕事をする間柄でそれ以上の関係ではないし、求めてはいけない傷物なのに。


 昂った感情のせいでじわりと視界が歪んだ。



「おかしいな。ずっとアピールしてきたつもりだったんだが」

「段階守らないからそういうことになってるんじゃないですか?一周回って嘘臭いのでは?」

「ええっ?!さ、サリー?俺、サリーのことを大切に想ってるけど伝わってなかった?もしかして嫌な想いした?……って、わー!!カイン!サリーが泣いてる!!」


「はあ?!もうどいてください!旦那様が距離感ぶっ壊れてるからお嬢が戸惑ってるんですよ!

 まったく顔はいいくせにそういうところはボンクラなんだから」


「そこ、顔がいいこと関係あんの?!」



 あわあわと狼狽し困り果てているラヴィを見ていたら、なんだか自分が勝手に落ち込んでいることが些細なことに思えて吹き出した。

 ラヴィの顔がちょっと面白かったというのは内緒だ。


 情緒不安定なサルベラをラヴィ達は心配してくれたが今度こそ大丈夫、と頷いた。



「ちょっと昔を思い出してしまって……でももう大丈夫です」

「本当に?パーティーに出られそう?怖くないかい?俺がいるから。いつでも頼ってくれていいからね?」

「俺も控えてるんで、旦那様が使えなかったら俺のところまで逃げてきてください。旦那様ごと排除します」


「……待て。カイン?今俺のことも排除するっていった?」



 俺、主人なんですけど。ショックを受けた顔でカインと顔を見合わせるラヴィに内心ホッとしていた。見てほしいけどいざ見られると恥ずかしくなる。

 ラヴィが前を向いてその姿を見ているだけでいい。私はそれだけで満足なんだな、と改めて思った。










読んでいただきありがとうございます。

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