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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第四章 聖女の真実
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小さな精霊達

師長から話を聞いて数日、ジュリは一人精霊を呼び出す為の陣が描かれたペンダントを握りしめて、中庭にいた。


今日は来てくれるかな…


審判から何度呼んでも、ジュリが契約した精霊たちは応えてくれなかった。師長から消耗した魔力を補うまでは、実体を保てないからだろうと教えてもらったが、人間よりも膨大な魔力を持っている精霊がこんな事になるなんて、聖女の試練は思いのほか凄まじいものだったらしい。


それでもジュリは毎日シグナに会いたくて呼びかけていた。最後の別れ方が気になって、出来れば早く話したかったからだ。


シグナはなあ…意外と根暗なんだよね。ひとりで考えて暴走しちゃうし…


ふふっと心の中で笑ってペンダントを取り出すと、ローブにつけているバッジが目に入った。


これ、師長に聞き忘れたな


黒い蕾が見えるバッジをじっと見ながら、それでも話を聞いた後なら思い当たる事はあった。


「闇属性…」


闇属性の陣は四属性の陣を全て出した後、最後に描くのだと教えてもらった。他の四属性よりかなり複雑で、ジュリはまだ覚えていない。


人に見られて問い詰められたら言い訳が思いつかない為、一応バッジを外してポケットの中に仕舞う。そういえば師長もバッジをしていなかったなと改めて気づいた。


そしてペンダントに集中して魔力を注ぐ。しばらくして何も変化がなかったので、今日もダメかと寮に戻りかけた。


しかしなぜか制服のスカートを引っぱられ、驚いて振り向いた。


「ん?」


そこには三人の子供がいた。ジュリも子供だがそれよりもさらに幼い背丈で、ジュリを見上げている。


え?え?待って…


混乱したのは、その顔ぶれに見覚えがあったからだ。一人は女の子であと二人は男の子、薄い赤色の髪の子供が不安そうに見つめていた。


「…わかりませんか?」

「まさか」


赤い髪の子供の横にいる、白い髪はよく覚えている。滅多にない髪色をした一番最後に契約したジュリの精霊にそっくりだった。


「え~!?可愛いんだけど!!みんな、どうしたのその姿?」


むぎゅっとランとオトを抱きしめようとしたが、オトにはさっと避けられてしまった。


「扉を開くのに魔力を取られ過ぎたのよね~未だにこんな小さな身体でしか会えないの」


小さなカズラは幼い子供とも思えない仕草で首を傾げた。


そっか、まだ魔力が万全にもどってないんだ


隣国に居た時にシグナの身体が縮んだのを見ていたので、納得がいった。


「みんなそれでも会いに来てくれたんだね」

「お前がしつこく呼ぶからな」

「おい、何だその言いぐさは」

「あら、私達も会いたかったのよね」


オトの言葉に過剰に反応したランが喧嘩し出すのを抱っこして止めた。村の弟たちを思い出して、思わずお姉ちゃん気分だ。


「聖女の事とか色々あったけど、とりあえず、またみんなに会えて嬉しいよ」

「だって貴方なら大丈夫だと思ってたもの」


ふふっと笑う小さなカズラになでなでされながら、ふと一人足りない事に気づいた。


「…シグナは?」


ジュリの言葉にオトが池の方を指さすと、遠くに後ろを向いて座っている小さな子供がいた。


何であんなところにいるの?


シグナの方へ駆けていくと、少し手前で立ち止まって名前を呼んだ。


「シグナ?」


けれど小さな背中はこちらを振り向いてもくれない。


「シグナってば」


思わず後ろから手を回して抱き上げると、一瞬抵抗したがすぐに諦めたのか、だらりと身体の力を抜いた。


シグナに会えたら色々聞きたいこともあったが、最初に言う言葉はずっと決めていた。


「シグナのせいじゃないよ?」


昔から何よりもジュリの心配をしてくれてるのを知ってるので、自己嫌悪に陥ってるだろうなと思った。最初に契約したのが高位精霊のシグナじゃなければ、審判は受けなかったかもしれない。


けれど師長が教えてくれた精霊と会うのが必然ならば、結局同じ運命だったんじゃないかとも思った。


「…僕のせいだよ。やっぱり止めるべきだった、学院に来るのも、精霊を集めるのも」

「もー!本人がいいって言ってるのに!結果的に何もなかったんだからいいじゃない」


頑固なシグナを説得するのはとても時間がかかる。ジュリは口を尖らせて言葉を続けた。


「じゃあもし、もう一度最初からやり直せるとしたら、シグナは私と契約しない?契約しなければよかったと思う?」


やっとシグナがこちらを向いてくれて、じっと目が合う。


「思わない」


そこは即答されて、ジュリはほっとしながらシグナに笑いかけた。


「僕はジュリから大事な事を教えてもらった、これはもう僕の大切な一部だ。けれど同時に大事な物を君から奪った」

「え…?」


ジュリが持っているもので、シグナが欲しいものなんてあるのだろうか。


「それは…忘れてる記憶に関係ある?」


シグナが忘却を冠する魔物だという事は、すでに知っている。けれど言いたくなかったから言わなかったのだろうし、そこは今更問い詰める事でもない。


しばらく考えた後に、シグナは至極真面目にジュリに聞いてきた。


「ジュリは好きな人できた?一番大事な人は誰?」

「ええ!?今そんな話の流れじゃなかったよね!?」


いきなりなんなの!?


まるでミカみたいに躊躇なく聞いてくるので、こちらが大げさに驚いてしまった。


「え?普通に話の続きだけど?ジュリに誰よりも大事だと思える人が出来たら教えてあげる」

「何それ…」


わけがわからなくて、ジュリはこの話題は終わりにした。


「そういえば私は闇属性を持ったらしいんだけど、闇の精霊と契約したのかな?何か魔力が変化したとかわかる?」


魔力に敏感な精霊ならわかるかなと思ったが、シグナは首を振った。


「わからない。ジュリと最後に別れた時、これが光属性かってのは嫌でも感じだけど…。あれが聖女というなら二度と会いたくはないね。恐怖よりもなぜか安堵を感じた、それがとても怖い」


安堵って…、四属性は光属性の眷属だからかな?


「そうね、まるで元々ひとつだったような感覚と言うのかしら。もし彼女が目の前に現れたら、私達四属性は光属性には抗えないでしょうね。私も初めてだったけれど、ああいう感じなのね…」


カズラがいつの間にかこちらにやってきて、ジュリ達の会話に加わった。


ああいう感じ…?


「カズラ姉さんはもしかして、聖女を見たことがあるの?」

「長く生きているからね。実際に間近で見たのは一度だけ」


そういえば約百年前に聖女が復活したとか言ってたっけ


「聖女ってどういう人なんだろう?私は夢の中で話した人が聖女だったと思うんだけど、ちゃんと言葉が通じたし、普通の人間みたいだった」


あの少女が聖女で国を滅ぼそうとしているなんて、全く感じさせなかった。もっと憎しみを込めて人間を見ている様なイメージだったけど違うようだ。


「さあ…どうなのかしら、ジュリは聖女と話をしたいの?」


言葉が通じるなら説得や理解ができないかなと思ったのだ。そんな気持ちを汲み取ったように、カズラが笑った。


「精霊と人間は話せるけれど、分かり合えるかは別じゃなくて?」

「…そうだね、人間同士だって、言葉が通じるのにいつだって争っているよね」


他人の言葉で簡単に心が変わるなら、きっと死んでから何百年もこの世に未練を残したりしないだろう。ジュリが考え込んでると、カズラが言葉を続けた。


「昔ね、私の契約者に四属性の娘と息子を持っていた女性がいたの。それなのに彼女は聖女を否定をしなかった。聖女は人間を愛した故に憎んだ、けれどそれは悪い事なのかしらって」

「え?」

「悋気や憎悪なんて人間が当たり前に持ってる感情でしょう?ただそれを昇華させる方法を知らなくて、彷徨っているのかもしれないってね」


聖女をそんな風に考えてる人もいたんだ


「息子の方は今も母親のように最前線で聖女と向き合っているわ」


それって…


そういえばカズラと師長は何故か知り合いだったらしいのを思い出した。そういう繋がりがあったんだ…


「カズラ姉さん、なんか私より人間の事わかってるっぽい」

「あら、私は貴方よりずっと長く人間と一緒にいるもの。でも新しい感情を教えてくれるのはいつも人間よ。だから私は人が好きなのよね。とても奥深いじゃない?」


シグナはガールズトークは興味ないようで、いつの間にか腕の中ですやすやと寝ていた。ふふっとジュリはシグナの髪を撫でながら、自分もそうありたいと思った。


わからないからそれで終わるのでなく、知りたいと歩み寄るような彼女の生き様が、とても素敵だなと思ったから。



精霊たちと別れて寮に戻ると、カレンが黙々と勉強をしていた。優秀な彼女が机に向かっている光景は、あまりみない。


「ただいま。カレンが勉強しているなんて珍しいね」


ジュリが声をかけると、不思議そうな顔でカレンが振り返った。


「卒業試験まであと少しだぞ?ジュリはしなくていいのか?」

「え!?試験!?あるの?」

「何でないと思うんだ?」


聖女のあれこれですっかり終わった気分になっていたが、ジュリは学生だったのを思い出した。


「ひえええ!?範囲どこからだっけ?」

「うん、試験前のいつものジュリだ。大丈夫だな」


何が!?


その日から徹夜続きの試験勉強が始まった。放置していたモルはすっかり主を忘れて野生に返り、ジュリは餌をあげるたびに指を噛まれた。


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