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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第四章 聖女の真実
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最後の精霊

ジュリは白い髪の間から覗く赤い目が綺麗だなと思った。白は魔術師の国では特別視されているので、あまり目にする事はない。こんなに綺麗な色なのに勿体ないなと改めて思った。


でも白くて赤目の動物いたよね…なんだっけな


可愛かったはずとひとりで顔を緩ませていると、何を考えていると突っ込みが入った。


「ううん、何でもない。それで…何を聞きたいの?」


白髪の青年はゆっくりと逸らしていた目線を合わせると、口を開いた。


「どんな気分だ?」

「え?」

「お前は善意で私を助けようとしたのだろう?それを結果的に騙される形になってどう思う?」


騙される?えっと、傷薬の為に薬草を取って来いっていったのはこの人だから、私が動けなくなったのもこの人のせいって事?


「憎いか?嘆くか?それとも許せるか?」


よくわからずにジュリが首を傾げると、目の前の魔物も怪訝そうな顔をした。何なのこのやりとり?


「…私はそもそも騙された何て思ってないよ?貴方を助けたかったのは頼まれたからじゃない、私の意思だもの。それに私に薬草の知識があればこんな事になってなかったわけだしね、カレン…私の友達ならきっと事前に気づいてたはずだし」


ジュリが言葉を紡いでいくたびに、なぜか目の前の青年の機嫌が悪くなっていく。なんで?


「ならばお前は、何の関りもない魔物の為に命を落としても本望だと?」

「ええ…?それはないかな。別に私は誰にでも命かけれる善人じゃないよ。けど目の前に転んだ人がいたら手を差し伸べてあげたいし、困ってる人がいたら手助けする。シグナには無鉄砲だと怒られるけど」

「それはなぜだ?」

「考えたことないけど、そうだなあ…人を見捨てた自分を責めたり後悔したくない、自分を嫌いになりたくないからかな。どんなに人から煙たがられても、自分だけは自分の味方でいてあげなきゃいけないんだって」


自分を好きになる努力をする事。昔、誰かにそう教えてもらった気がする。悲観する事に慣れて、ずっと忘れていたけれど


「この場所に精霊探しに来たのだって、ちゃんと自分で選んだんだよ」


だからそれで自分が死んだとしても、誰も恨んだり憎いんだりはしない


元々学院に来た発端は家族の為だったが、今はもう魔術師になる事を強制させられているとは思わない。なぜならこの場所でジュリは沢山の物を与えてもらったから。


だから魔術師になるうえで起こり得る、様々な覚悟はしていた。利点だけを受け取って欠点だけは受け入れないと言う事は当然出来ない。


「貴方はどうしてそんな事を聞くの?」


相変わらず不機嫌そうな青年は、姿こそ人外のそれだがとても人間らしい表情をしている。それはジュリを思って表情を変えるシグナを彷彿とさせた。


「もしかして人間の気持ちを知りたいの?」


魔物と人間はお互いに理解できない隔たりはある。けれど目の前の青年は人に近づきたいと思っているように感じた。


身体のだるさを感じながら、動かしにくい左手を握ったり開いたりしながら青年の言葉を待った。


「昔どんなに周りに裏切られても信念を曲げなかった人間がいた。バカすぎて最後まで理解できなかったがな」


息苦しさの中でジュリが大事な人?と聞くと、はっと鼻で笑われた。


うーん、この人結構口悪い?でも…


「その人の事好きだったんだね」


人間を好きになってくれた事が何だか嬉しくて、まだこの魔物と話をしていたいと思った。しかし目まで霞んできて、いよいよやばい。ジュリは近くに落ちていた枝で手の甲を傷つけた。


それを見ていた青年が愚かなと眉根を寄せた。


「ちょっと意識がなくなりそうだったから。最後までお話していたいもの」


じっと見ていた青年が両手を広げると、一瞬強い風が吹き抜けたように感じた。そして風がおさまると不思議な事に、息苦しさを含む身体の不調の他に、傷さえも無くなっていた。


…え?


「ばかめ。麻痺毒程度で死ぬわけなかろう、あそこに人を殺せるほどの草花は存在しない」


はー!?騙された?


「まあ子供程度なら効果の度合いによっては、肺の筋力が衰え呼吸もままならなかったかもしれんが」


あ、やっぱり死んでた?


ジュリが表情をころころと変えていると、目の前の青年の傷が増えていることに気づいた。最初にあった腕の傷の他に手の甲から血が出ている。


え?あれって私がさっきつけた…


ジュリの傷は綺麗になくなっている。まるでその傷が青年に移ってしまったようだ。不思議そうにみているジュリに気づいたのか、青年が手の甲の血を拭った。


「貴方…今何したの?もしかして最初の傷もそうやって他人から受け負ったの…?」

「…そいつは人の痛みを知らなければ、本当の意味で信用されることはないと言っていた。人に全てを、命さえも与え続ける医師だった。けれど私は“略奪”を冠する魔物、奪う事しか出来ない」


だから?その人の意思を理解したくてこんなことしてるの?


能力的に、ジュリの傷を奪ってくれたのは彼だろう。けれど本来はそんな自虐的な使い方をするものじゃないはずだ。


多分、魔力を奪うとか…自分の為に使う物だよね?


「だからって自分を傷つけたりしちゃダメだよ。その医師の人だって貴方にそんな事望んでなかったんじゃないの?」

「詳しく話す気はない」


むかっ


「貴方の考えはわからないけど、その医師の人の気持ちはわかるよ。貴方人間を傷つけたりするのはダメって教え込まれたでしょう」

「なんだと?」


なぜわかる?というような顔でジュリを見てきたが、教えてあげないとそっぽ向いた。獣だとわからなかったが、人相だとジュリは少しだけわかる術を持ち合わせている。


人間の姿になってからよくわかった、青年は最初からジュリを傷つけようとする意志は全くなかった。それはきっと長く一緒にいた人間の影響だろう。


「私と契約してくれたら教えてあげるよ」


これは半分はったりだった。いくら同じ人間でも他人の気持ちなんて、詳しく話を聞かないとわかるはずはない。ただ彼がひとりで自分を傷つける為だけに、無暗にその力を使っていくのが嫌だったからだ。


本当はその医師の人と話せればいいんだけど、魔物の彼が昔って言うくらいだから、ずっと前に生きてた人なんだろうな…


自分の精霊になってくれれば、そんな事しなくていいんだよと言ってあげられる。もしかしたら知ってる人を探してあげられるかもしれない。


「…すでに三属性と契約しているな」

「え?わかるの?」


そういえば契約すれば魔力が混じるとか何とか聞いたような?


魔力に敏感な魔物にはそういうのがわかるのかもしれない。しばらく考えた後に、じっとジュリを見て言葉を続けた。


「お前はいいんだな?」

「うん?」


そう言うと手を出せと言われたので、両手を出すとそこに青年が流していた血が落ちてきた。


ぎゃっ


それは溶けこむ様にジュリの手の中ですうっと消えた。魔物の血も魔力が入ってるのかもしれないが、それを契約に使うのは心臓に悪い。


「私は試練受けてないけど、良かったの?」

「薬を作り、私の問いに答えたではないか。試練とは魔物が相手を試し、認める為の手段でしかない」




二人で話していると、シグナが師長やレオと一緒に帰って来た。


「ジュリ!大丈夫なの!?」


相手から庇うようにジュリの前に立つシグナに、経緯を説明する。


「…というわけで契約してもらったから、もう大丈夫だよ。師長を連れてきてもらって助かったよ、学院に帰らなくちゃね」


その言葉に何を言っていると、青年から言葉を挟まれた。


「いいのか、と聞いたな?四属性が揃ったなら、今からが本番だろう」

「え?」


何の事?と首を傾げていると、ジュリの側にランとカズラが現れた。ジュリは特に呼び出してはいない。


「二人とも何で?」


シグナは少し顔を伏せているように見えて、師長たちはやや遠くからこちらを伺っているが、何も言ってはこない。


なに…?


「審判の時だ、風属性の扉は“略奪”の於菟が」


ジュリの足元に緑色の光を放つ陣が浮かび上がった。それはいつか見た、精霊の使う魔法を象徴するかのような複雑で美しさを感じる陣だった。


「土属性の扉は“心眼”の天狐が。貴方ならきっと大丈夫よ」


ウインクしながら笑顔で話しかけてくるカズラを見つつ、足元には緑の陣に重なるように黄色の光を放つ陣が浮かび上がる。


「火属性の扉は“厳正”の鸞が…貴方を信じます」


さらに赤い光を放つ陣が重なり、最後に残ったシグナは言葉を発するのを躊躇っているようだった。


何が起っているのかわからずシグナを見るジュリに、悲しそうな視線がぶつかった。


「その時になればわかるって、こういう事なのか…」


シグナは黙っていたが、何かに抗えないようにゆっくりと口を開いた。


「水属性の扉は…“忘却”の蛟が」


青い陣が重なった時、四色の光は白い光に変わりジュリを包んだ。その光に視界を覆われながら、シグナが何か言っている声が聞こえた気がした。

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