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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第四章 聖女の真実
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白い森

次の日は予定通り、ジュリは森に行く準備をして師長たちとの待ち合わせ場所に急いだ。急に決まったので今日は平日であり、他の生徒達は授業をしている。


皆は教室で授業をしているのに、一人だけ静かな廊下を歩いていると、なんだか特別な気分になってくる。カレンやカルロが頑張って来いと送り出してくれたのが、嬉しかったなと顔を緩ませた。


頑張って来るね


今回は中庭ではなく門の前に集合だったが、すでにレオと呼ばれる騎士と師長が雑談していた。


「おはようございます、遅くなってすみません」

「いいえ、時間通りですよ。僕らは事前準備で少し早めに着いたのです」


師長はいつも長めのローブに生徒の制服と似たような物を着ているが、今日はローブの下に動きやすいような軽装備をしていた。レオの方も昨日とは変わって、騎士として鎧姿にマントが映えていた。


えらく重装備…?


二、三年生の時は師長は普通の格好をしていたと思ったが…やはり何かあるのだろうか。


「今日はレオが天馬に乗せてくれるようですよ」


そう言われてレオの後ろを見ると、確かに馬のようなものがいた。しかしその姿は見慣れた馬のものではなく、後ろに翼が生えている。


え?馬が飛ぶの…!?


これはレオが飼い慣らした魔獣であると説明を受ける。騎士は自分達が乗りやすい魔獣をそれぞれで捕まえるらしい。


「天馬は比較的温厚な性格だから大丈夫だ」


ジュリの手を取ると紳士的に馬に乗せてくれた。いきなり視界が高くなって鬣にしがみ付いたが、それに気づいてか、レオが後ろに飛び乗るとそのままジュリの身体を優しく支えてくれた。


「えーと、僕は乗せてくれないので?」

「大人が二人も乗れるか。お前はどうにでもなるだろう」


ええ~と文句言いながら、渋々陣の紙にやばい絵を描きあげるとそれが具現化した。しかし師長は絵が壊滅的に下手くそな為、乗り物らしきそれが何だかわからなかった。


もしかして生き物ですかと聞くと、レオと同じような馬にしたつもりですがと低い声が返ってきた。馬…?


そしてしばらく空の旅を楽しむと、何だか二年生の時を思い出した。


あの時はジェイク先輩がいてくれたな


ふふっと懐かしんでいると、師長から鈴のような物が渡された。けれどそれは振っても叩いても音がしない。


「…?」

「それは魔力を込めて振ると、僕に聞こえます。もし精霊と契約を交わしたら必ず鳴らしてください」


へえ!じゃあこれは師長呼び出しベルなんだな


ジュリの持っている精霊の召喚用のペンダントと似たような物かなと、小さな鈴をちょんちょんといじった。


そしてふと、師長を見て気になる事を尋ねてみる。


「あの、精霊と契約は絶対しなきゃいけないんでしょうか?必ず出会えるとは言えないんですよね?学院の決まり事だと知ってはいるのですが…」


聖女候補は四属性の精霊と契約しなければいけないと、二年生の頃に説明を受けていた。


「まあ、出会えないモノとは契約できませんからね。その場合は仕方ないと思いますし…けれど、貴方はきっと契約できると思いますよ」

「なぜでしょう?」

「出会うべくして出会うものだからです。精霊達の能力もきっと貴方が必要だと思っているものの一部なはずです」


厳正の精霊であるランは偽りを見抜き真実と向き合う力を、心眼のカズラは相手を理解して深く寄り添う心を、どちらもジュリは持っていない憧れているものだった。


じゃあシグナも何か私に足りないもののひとつなのかな


シグナに関しては水の高位精霊だとしかわかっていない。本人が言いたくないならそれでいいかと思っていたし、シグナは能力なんて抜きにしてもすでにジュリにとって欠かせない人物のひとりだ。


森が見えてきたので下を見下ろすと、以前来た時とは全く違う風景に驚いた。


「森が…白い?」


森と言っていいのか、木も草も土までも白い。同じ場所のはずなのになぜこうも訪れる人間によって違うのか摩訶不思議だった。


「僕も初めて見ますね。ただ聞いたことはありますよ、白い森に生きる魔物や魔獣も森と同化するために真っ白なのだとか。魔術師にとって影響があるのかはわかりません」


これは降りてみないとと、なぜかジュリよりもうきうきし出した師長を見ながら、ゆっくりと下降して行った。


精霊の森みたいに魔術が使えないとかじゃなければいいんだけどな


森の中に入ると自分たちが異質なほど、景色が白い。ほえーと見ていると師長が話しかけてきた。


「僕らは手助けは出来ませんので、どうぞ頑張ってくださいね。見つけられなくても日暮れには鈴を鳴らしてください」

「わかりました」


ぞろぞろ歩くのも大変だから、ジュリはペンダントに魔力を注いでとりあえずシグナを呼び出した。シグナは当たりの景色を見渡し、特に危険がないのを確認してジュリの手を握ってきた。


「ふふっ…」

「どうかした?ジュリ」

「だってシグナはいつも通り手を繋いでくれるから。人は成長すると子供の頃にしてた事をしなくなるんだって。大人の女性の手を取るのは…えっとエスコートって言うんだよ」


カルロに注意されたのを思い出したジュリは、何も変わらないシグナに少し安堵した。


「ジュリは大人じゃないでしょ」


まあ、うん、そうだけどさ


「ジュリが子供だろうと大人だろうと、ジュリである事に何も変わりはないよ」

「おばあちゃんになっても?」

「ジュリである限りどんな姿になっても関係ない」


うーん


シグナが人間だったら物語で見たような至上の告白の一文のようだ。けれどそんな深い意味はないんだろうな…


シグナ達が人間の考えを全て理解できないように、人間であるジュリもまた魔物達の考え方はわからない事も多い。けれど言葉を交わして共に育める感情は、かけがえのないものだとも思う。


出来ればずっと一緒にいようねという気持ちを込めて、ジュリはシグナの手をぎゅっと握った。


しばらく二人で歩いていくと、小さな生き物が動いているのを見つけた。けれど素早く草木に隠れて何の生物かまではわからない。


「なんか全部白ってのも目がおかしくなりそう」


ジュリはごしごし目を擦りながら、魔獣の気配に警戒した。


「僕らみたいなのは目立つだろうね。狙われるにしろ、逃げられるにしろ先手は取れないよね」


結構危険なのでは?と思い始めた頃、白い岩場に何か座っているのが見えた。逃げる気配もなく悠然と寛ぐ姿に、強さを感じる。


「魔獣?にしては大きいよね?」

「違う魔物だ。於菟だね、危険だから近づかないで」


真っ白い毛皮にこちらを見据える眼は深紅で、とても美しい獣だと思った。そして白い身体の前足に薄らと赤い色が混じっているのが見えた。


「ねえ、あの魔物怪我してる?確か精霊には肉体がないんだよね?」

「精霊でない限り魔物も肉体的な負傷はするよ、あの姿は本体だからね。精霊になると核と呼ばれる石が肉体の代わりになるんだ。それを包むように魔力でこの姿を作り出しているというか…」


そういえば佳夕の国で、精霊は死ぬと核になるとか聞いたのを思い出した。しかしこれはあまりいい記憶ではないので、ジュリは眉根を寄せた。


「魔物のままでも人間に姿を変える事はできるよ、カズラがそうだっただろ?まあ、魔力を使うから狩りをする場合以外にはあまりしないけど」


狩りって…人間…も入ってるのかな?


魔物達は人を惹きつける様な綺麗な姿をしてると思う。それはきっと人間を捕らえ、魔力を奪う為なのもあるのだろうけど、以前ミカが言っていたように人と関わりたいからというのも真実な気がした。


そうでなければ、きっとシグナは今ジュリの側にはいないと思うから。


白い獣の方に向き直って、治療できないかなと思った。幸いこの森では魔術は使えるようなので、ジュリにも医療魔術くらいは出来るはずだ。


「ねえシグナ、会話は出来るのかな」

「於菟は高位だから、人語は話せると思うけど…。ちょっと、何考えてるの」


怯えも威嚇もしない、平然とこちらを見ている魔物に、ジュリはじりじりと近寄って行った。

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