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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第四章 聖女の真実
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青い花

ジュリが二人の元に戻って来ると、ただならぬ雰囲気に首を傾げた。


「どうしたの?」


シグナはミカを見据えたまま答えず、ミカが先にジュリを見て笑った。


「何でもないよ。ただシグナを見てると苛々して…」

「苛々?ミカが?」


ミカはどちらかというと嫌いな相手に喧嘩を売るというより、徹底的に関わらないようするタイプだと思っていたから、その言葉に違和感を覚えた。


そういえばミカとシグナは初対面で魔闘してたっけ


同じ水属性だからかなとも思ったが、そうでもない気がする。シグナは誰とも打ち解けようとはしないのでまだわかるが、ミカは他の生徒とは当たり障りなく話している。


…シグナが特別気になるのかな?


嫌いに近い感情もその人物に興味があるから生まれるもので、どうでもいい相手には関心すらないのが普通だ。極端に言えば好きも嫌いも、とても近しい感情だと思っている。


ジュリが考えている間に、シグナも興がそがれたのかミカから視線を外した。


「ジュリ、ちょっと来て」


そう言いながらジュリの承諾も得ずに、ひょいと持ち上げられてミカから少し距離をとって降ろされた。ギリギリ話し声が聞こえない範囲だろうか、ミカはひらひら手を振っているのが見えた。


「えっ?なになに?」

「あれは何?」

「あれって…もしかしてミカ?」


あれ呼ばわりしたので何の事だろうと見ても、シグナの指さす方向にはミカしかいない。詳しく聞くと先ほど二人で会話していたらしく、それについての事だった。


「何を話していたの?」

「ジュリの幼い頃の…」


そこまで言ってシグナがはっとして黙った。ジュリの記憶のない頃の事を意識的に避けているので、あまり話したくないのかもしれない。


きつい記憶だって言ってたっけ…。でもそろそろ話してくれてもいいのにな


しかしなぜそれをミカと話していたのか不思議だった。あの村に貴族が来たことはないはずだし、聞いた事もない。何よりジュリが幼いという事は年下であるミカもそれ以上に幼いという事だ。


幼い貴族が平民に会うなどまずないと言っていい。知りえるはずのない関係に共通の話題などないはずなのだが…。


シグナはミカと何の話をしたのかな?


その時教室の扉が開いて、他属性の男子生徒達が入ってきた。


「何だお前ら」


それはこっちの台詞である。先に居たジュリ達を見下したように見る男子生徒達は、この教室に花を探しに来たようだ。


ジュリ達の見た目からして、低学年に見られているのかもしれない。


「ここは僕たちが探すから、お前らはどこか別の所にいけよ」


かなり一方的な命令を言えるのは、それなりに位の高い貴族なのだろうなと思った。特に争いたくもなかったのでジュリは大人しく従おうとした。


何だか冷たい空気を感じてシグナを見上げると、今にも水で吹っ飛ばしそうな顔をしていた。


ひっ


「シグナ…?暴れたら駄目だよ?」

「暴れない。一瞬で終わるよ」


必死でシグナを止めようと抱き着くと、邪魔だよと押しのけられそうになる。


「そうだよ、精霊の魔法じゃ広範囲すぎてめちゃくちゃになるよ」

「ミカ…!」


ミカの同意を得られたと思って、シグナを抑えるのを手伝って欲しいと言おうとした。


「だから僕がやるね」


は?


「渦潮」

「ちょっ」


ジュリが止める間もなく、渦のような水が少年たちを巻き込んでぐるぐると回転する。これは溺れるんじゃないだろうかと不安になった。


荒っぽい荒っぽい!


まさかシグナを止めている間にミカが切れるとは思わなかった。あわあわしながらミカを止めに入ると、大丈夫だよと笑顔が返って来た。何が!?


しばらくすると少年たちが倒れてぴくりとも動かなくなった。かろうじて生きている事を確認すると、、ミカに向き直った。


「何でこんなことするの?」

「だって僕たちが先に居たのに、あれはないでしょ。ジュリだってムカつかなかった?」

「いい気はしなかったけど…大事にしたくなかったし」


ジュリがごにょごにょと反論すると、今度はシグナから詰め寄られた。


「そいつがやらなかったら僕がしてたよ」


ええ…?


二人の気の短さに驚きながらも、変な所で気が合うなあと大きなため息をついた。もう出来れば戦闘はしたくなかったので、他の生徒に会いませんようにと別の場所に向かった。


次の場所に入るとやや日は傾き暗くなっていた。せめて一本くらいは見つけて、水属性のグループに貢献したい。


「見つからないねえ」

「他属性に既に取られたってのもあるかもね」


あ~


ミカと話していると、自分の名を呼ぶシグナの声が聞こえてきた。


「ジュリ」

「え?」


シグナの手の中には小さな籠があって、その中に仄かに輝く白い花束があった。


「これが白月花…?」

「部屋が暗くなってたから光っているのが見えたんだ」


そういうシグナが指さす場所は天井近くの柱の陰だった。


あんな所、取れなくない?


ジュリが首を傾げていると、ミカが元々魔術や精霊ありきの場所に隠しているかもねと言った。再び籠の中の花を見ると、月の光のような優しい灯に穏やかな気持ちになる。


「綺麗な花だねえ」


ミカが気に入った?と聞いてきたので、大きく頷くとふふっと笑われた。


ひとつ手に取ると、それは白色からすうっと青い色に変わった。


「あっそうか。属性の色に変わるんだったね」

「魔力を吸い上げてるのかな?不思議だよね」


ミカも同じように花を手に取ると、青色に変わるのを繁々と見ていた。しかしシグナが手に取ると、白月花は白いままだった。


「あれ?シグナが触っても色が変わらないんだね。水の精霊なのに」

「精霊だからじゃない?これは人間の属性にしか反応しないのかも」


不思議そうに見るジュリに、ミカが横から説明してくれる。


「それか、これは憶測だけど」

「うん…?」


じっと花を見ながら何かを言いかけたミカだったが、一度ジュリを見て黙った。そしてやっぱり気のせいかもと笑って続きを話すのをやめ、別の話題を振ってきた。


「はい、ジュリ」


ミカの魔力に染まった白月花を差し出されて、ジュリは目を見開いた。


「え…?あ、え…と…これは水属性の所に持っていかなきゃだよね?」

「どうせ水属性は最下位だし、一本くらいなくなってもそんなに変わらないよ」


ええ…これって恋愛イベントのやつだよね?


もらってもいいものか悩んだが、せっかくジュリにと贈ってくれる気持ちを断るのは悪い気がした。おずおずと青色の花を手に取ると、満足そうにミカが笑った。


「あ、ありがと」

「うん」


ミカは特にジュリの花を欲しいとは言わない。好意的な態度でいてくれるが、いまいち何かを求めているようには感じないのが不思議だった。少し照れるジュリを見ながら、対抗するようにシグナが白い花をジュリの前に差し出した。


「え?シグナ?」

「気に入ったんでしょ?」


ミカのだけ貰ってシグナのを受け取らないと、きっと拗ねるのは容易に想像がついた。シグナはこれが恋愛イベントだとは知らないから、深い意味はないんだろうけど。


シグナから花を手渡されると、花は白色からジュリの属性の青色に変化した。精霊の魔力には染まらない花を見て、シグナが少しだけ残念そうな顔をした。ミカと対等に渡り合いたかったのかもしれない。


「シグナからもらったんだからこれがいい、嬉しいよ?」


ジュリが二輪の花を大事そうに両手で包むと、シグナがやっと笑ってくれた。



結局残りの花は水属性のグループに献上したが、やはり最下位だった。けれどジュリはミカとシグナに綺麗な花をもらえて嬉しかった。


閉会式の挨拶を疲れた頭で聞きながら、そういえばミカはシグナと何を話していたのか聞きそびれたなと思った。

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