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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第四章 聖女の真実
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花白祭

今年は二年に一度の術技大会がないので、その代わりに祭のつくイベントがあるはずだ。相変わらず事前に何があるのか知らされていない為、全く見当がつかない。


「今年は何があるんだろうねー」


ジュリが明るくカルロ達に話しかけると、何故か神妙な面持ちでそうだなと言われた。


「どうかした?」

「いや、お前さ…何か、大丈夫か?」


多分先日のカイルとの騒動を気遣ってくれてるんだろうなと思った。ジュリが皆の前ではっきりと拒絶をしたので、あれから嫌がらせもぱったりとやんだ。


嫌がらせがなくなった事をアルス経由でカイルにも伝えてもらったから、彼が無茶をする事はもうないだろう。あれからカイルとは話していない。


「何が?本当に何もないよ」


これは本当で、ジュリとカイルの間に決定的なものは何もなかった。ただ周りにそう思われていただけだ。


何も…


それでも友達を失ったようで少し寂しかった。少し目を伏せるジュリを見ながら、カルロはもう何も言わなかった。



担任が教室に入ってくると、唐突に今日は花白祭が始まると言われた。


「花白祭?」


説明を聞いていくと、学校中に散りばめられた花探しのようなイベントで、学年に関係なく得意属性別に分かれて花の数を競うというものだった。


「わかりやすけど、何で属性別なのかな?」

「白月花と言われる特殊な花を使うからだ。これは元々は白い花だが、魔力に反応して色が変わるらしい」


なるほど、だから属性別で色分けするのか


カレンが教えてくれるの聞きながら、ジュリの得意属性は水なので、カルロやカレンとは別のグループになる事に気づいた。今回は一人かなと思いながら口を尖らせる。


「そういえば今年も何か貰えるのかな?いつも優勝者に何かあるよね?」

「あると思うが、どうせ火属性に決まってるから関係ないかもな」

「何でわかるの?」


何と学年別でみても一番多い属性が火属性らしい。後の三属性は毎年同じくらいの比率だが、火属性は圧倒的に多いらしい。


「なんで!?」

「さあ?得意属性は自分で決められるものじゃないしな。一番スタンダートなんじゃないか?」


ええ~ずるい~


しかも今年は水属性が一番少ないと聞いて、始まる前から心が折れそうだ。


「う~でも頑張るよ!花見つけるのなら私でも出来そうだし」

「ジュリは何事も一生懸命だな」


イベントが面倒そうなカレンに言われて、ぐっと両手を握りしめながら頷いた。


だって学院に居られる時間は限られてるんだもの。せっかくなら楽しまなきゃ


「まあ皆、花探しよりも恋愛イベントの方を重要視してるんじゃないか?」


あ やっぱりあるんだ?


自分の魔力で染めた花を相手に贈るという、思いのほかオーソドックスなものだった。


「だがこれが難しい」

「そうなの?」

「花の数で競うんだぞ?皆が贈る為に花を確保したら、減ってしまうだろ?」


勝敗か恋愛か、何に重きを置いているかで生徒の間でも意見が分かれそうだ。周りを見ると女の子たちはどちらかというと恋愛派が多いようだった。


恋愛に夢中な少女たちは、学年行事を二倍楽しんでいるようでちょっと羨ましいなと思った。



最初に属性別に集まるらしく、ジュリはひとりで一階の空き教室に向かった。


ここだよね?


扉を開けると学年関係なく、様々なローブの色の人達が居た。黒いローブはジュリだけなので、入るとやや目立ち、人々の目線が気になった。


そっか、魔術師コースだけじゃなくて官僚も騎士もいるんだよね


ジュリは目立たないように隅の方で見回していると、やはり水属性は人数が少ないのがわかった。四学年が集まっているのに、一クラス分にも満たない。


それでも得意属性は生まれ持った資質なので仕方ない。それに火属性であるカイルと一緒にはならない事に少しだけ安心していた。やはりまだ顔を合わせるのは気まずい。


その内四年生の伯爵の位の男性が、先導者として皆をまとめ出した。こういう所で貴族の爵位は重要なんだなと、ぼ~と見ていた。


「僕たち水属性は一番人数も少ないので、まあ、気負わずにやろう。精霊の行使も他属性への妨害も許されているから、気を付けるように」


妨害?攻撃されたりするって事?


花を探すだけじゃないのかとちょっと心配になると、ぽんと肩を叩かれた。


「ジュリ」

「ミカ!そっか、ミカも水属性だよね」


知り合いを見つけてぱっと明るい表情になるジュリを見ながら、ミカはにこにこと話しかけてきた。


「うまくいった?」

「??何のこと?」

「あのカイルっていう騎士が好きだったんじゃないの?」

「!?」


シグナといい、なぜ皆にそう思われているのか不思議だった。同じことを言うミカに、首がちぎれそうなほど頭を振って否定した。


「カイルは友達!何もないよ?もう気軽に話せることもないかもしれないし…」

「あれ?そうなんだ?おかしいな」


何がおかしいの?


「それより花探し頑張ろ!」

「ああ、そうだね」


ミカの手を引いて校舎内をぐるぐると回り始めた。すれ違う他属性の子達とは特に何もないが、たまにどこからかものすごい音が聞こえたりする。生徒同士の魔闘が繰り広げられているのかもしれない。


校舎大丈夫なのかな…?


「思ったより広いね、人数多い方が有利っての分かる気がするよ」

「捜索と妨害で班分け出来るだろうしね」

「あ、人数が多い方がいいって事は精霊に手伝ってもらうのもありなんだよね?」


ジュリはペンダントに魔力を注いで三人の精霊を呼び出した。火の精霊のランだけ仰々しく跪いて現れるので顔が引きつってしまった。そろそろやめて…


三人に花探しを手伝って欲しいと伝えると、特に問題なく了承してくれた。


「そもそも白月花はどんな花なのですか?」


ランの問いにジュリも知らないと首を振った。


「白月花は月の夜に咲くと言われる、白くて小さな花よ。ぼんやり光っているから見ればわかると思うわ」


カズラは長く生きているだけあって、物知りなようだ。ジュリはお礼と共に、皆で別れて探す様に言うとシグナが声をあげた。


「僕はジュリと一緒じゃなきゃ嫌だよ。他の人間から攻撃されるかもしれないんでしょ?」

「ジュリの側には僕がいるから大丈夫だよ」


ジュリの右手をぎゅっと握るミカが答えると、シグナがすっと冷めた目でジュリの左手を掴んだ。


「人間なんて信用できるわけないよ。僕は絶対ジュリと一緒に行動するからね」


何これ?


両手をシグナとミカに繋がれて、傍から見たら仲良しなの?と言わんばかりの状況だ。それを見ていたカズラはふふっと笑い、ランは目を細めて理解できないと言うように眺めていた。


「なら三人で行動すればいいわ、私達の主をよろしくね」


シグナとミカ、そしてジュリの三人で花探しをする事が決定した。二人にもう喧嘩はしないように念押しすると、ミカは笑ったまま黙り、シグナは聞いているのかいないのかそっぽを向いた。


何でこういう時だけ気があうのかな


教室を回っていくが、なかなか花は見つからない。ジュリがごそごそと探していると、ミカがシグナに話しかけた。


「ねえ」

「…」

「おーい」


ミカが話しかけてもシグナは答えようとはしない。それに特に気分を害した様子ではなく、予想通りと言わんばかりにミカがふっと笑った。


「じゃあ質問を変えよう。君はもうジュリが言った願い事の意味を理解しているよね」

「は?」


何のことだと言わんばかりにミカを睨みながらシグナが目線を合わせると、ふと何かを思い出したのか怪訝な表情になった。


「…ジュリから聞いた?」


シグナが質問するとミカはまさかと首を振った。


「ジュリが思い出しているなら、君をシグナとは呼ばないでしょ」


それを聞いて今度こそシグナは臨戦態勢を取るように、少し距離をあけた。


「何なのお前?何が目的?」

「君と同じさ、ジュリを守るためにここにいる。これは本当だよ」


得体の知れない気味の悪さを感じながら、シグナは目の前の人物から目線を逸らさず睨み続けた。

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