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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第四章 聖女の真実
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創作魔術

二か月の空白期間の遅れを取り戻すのはやはり大変だった。何より今の授業と並行してやらなければならないのが苦しい。カレンに習った授業内容を聞くと、座学が異様に多くて次に選択、そして実技だった。


「座学多くない?」

「確かに最終学年に詰め込んでるように見えるな」


難しい単語や覚える事も多くて、今から試験が嫌になりそうだ。


選択…はいいとして、実技はまた呪術の訓練か。これはシグナと出来るかな…


三年生の時に魔術師には耐性必須と昇級試験にまで出たくらいだ。よほど重要なのだろうなと思うと同時に、あの憑依の訓練はもう嫌だなあとも思った。シグナ以外は気持ちが悪いんだよね…。


実技は後半に詰め込まれているらしく、最初の二か月は座学中心だったようだ。


良かったような…そうでもないような…


教科書の山を見ながら、しばらく放課後は勉強三昧だなとジュリはため息をついた。



そして今日は最後に実技が入っており、珍しく講師は師長ではない。魔術師コースだけが教室に残っていると、ゆっくりと扉を開けて入って来たのはミハエルだった。


「は~い、授業を始めるよ~」


相変わらず小柄な女性で、先生と言われないと学生で通用しそうな容姿をしている。


「今日は創作魔術について学ぶよ~その名の通り、四属性以外のものを術式で人工的に編み出す技術だね。この魔術はどのコースでも習うけど、実際に作ってみるのは魔術師コースだけなので頑張ろうね~」


そういえばミハエル先生は、創作魔術に興味を持って騎士から魔術師に転向したんだよね


「まず創作魔術は、派生と複合の二種類に分かれるの。例えば氷属性は水属性の影響を強く受け継ぐ派生魔術で、これは属性の少ない人でも割合簡単に習得できたりするかな。水属性の精霊は普通に使えたりするものも多いんじゃないかと思うよ~」


ふむふむと授業を聞きながら、ジュリは筆記用具を走らせた。


「どちらかというと複合魔術の方が魔術師特有のものかな~?本人の魔力のイメージと契約精霊の特色で大きく変化したりするのよね~水と土の術式を組み合わせたら命の属性、そして雷の属性などが出来るけど、四属性以外のものを生み出すと精霊たちはあまりいい顔をしないので、慎重にしなければいけないのよね…」


師長が前に雷の魔術は使っていた気がする。あれは複合魔術なのか


「貴方たちには既存の物でもいいし、出来れば新しい術式を作って欲しいのよね~」


嬉しそうにふふふと笑うとミハエルは、どこか魔術の研究熱心な時の師長を彷彿とさせた。


ジュリは四属性なので、それこそ術式の幅はかなり広がるだろう。しかし悲しい事に創作のセンスがあまりないようで、全く思いつかなかった。


うう~ん…


横を見ると既に術式を描いていたカルロの陣が赤く光り、ひゅっと小さな風に煽られた炎が舞った。周りで巻き込まれた数名の生徒の叫び声と同時に、突如カルロの頭上から水が降って来て炎を鎮火した。


「ぎゃっ」

「わっ!カルロ!?」


びしょ濡れになったカルロが何故かジュリを睨んでくる。いや、私のせいじゃないんだけど…


「も~魔術はどうしたいかを明確にイメージしないと、適当にやった所で成功するわけないのよ~?」


どうやら水の魔術を使って炎を消したのはミハエルだったようで、生徒たちに危険がないように動向を見守っていたらしい。


そういえば以前シグナと魔術の訓練をしてた時、そんな事言われたような?


懐かしいなと思いながら思い出に浸っていたら、さらにミハエルは言葉を続ける。


「属性を合わせるのってとても難しいの。四属性はそれぞれ独立した力の均衡を保っているでしょ?相性もあるのかもしれないけれど、そうね…精霊同士がそこまで仲を深めないのを見たらわかるんじゃないかしら~」


ジュリは自身の精霊たちを思い浮かべながら、確かに精霊は孤高な生き物な気がした。その最たるものは一番身近なシグナで、特に火の精霊のランとは相性最悪だった。


同属性なら仲が良かったりするのかな?いないからわからないけど…


「創作魔術は自分が魔術師としてどう在りたいかをわかりやすく示すものだと思うの」

「どう在りたいか…?」

「魔術は人を害する事も癒す事もできる、それは使い方次第でしょ?創作魔術も誰に向けて何のために使うのかで、作りたいものは変わるんじゃない?」


誰かの為に…?


ふと考えこんだジュリを見ながら、ミハエルはふふっと笑った。


「これは私からの最終試験の課題になるので、各自考えておいてね」


そうして時間内に完成させることは誰も出来なかったようで、ミハエルの創作魔術の授業は説明のみで終わった。



放課後は勉強をするために図書室にでも行こうかと、ジュリは机の中の教科書を漁った。


…あれ?何これ


ペンなどがなくなる嫌がらせは未だにあったが、走り書きのような紙が入ってたのは初めてだった。紙には少し遠い資料準備室の名前が書いてある。


どういう事?


よく分からずに無視しようと思ったが、準備をしている時に気づいた。何冊か教科書が足りない。


ええ…?勉強出来ないんだけど!


もしかしてこの紙に書かれている場所に取りに来いという事だろうか?今までのちまちまとした嫌がらせを見ていると、特別何か危害を加えてくるとは思わないがちょっとした危険も感じた。


けど教科書って買いなおすと高いんだろうな


金と身の安全を計りにかけて、取りに行くことにした。お金大事。


一応カレンに置手紙を書いたものを机に入れて、目的の場所に急いだ。校舎の端の方にある準備室で、今の時間帯は少しだけ薄暗い。


おそるおそる部屋の中に入ると、奥の方の床に無造作に教科書が放り出されていた。


あった…!


急いで取りに入ると、後ろの方で扉が閉まる音が聞こえた。


「えっ…!?」

「カイル様に近寄るからそうなるのよ」


声の聞こえた方を振り返って扉の方に手をかけると、固く閉ざされて開かない。同時に誰かの走り去る音で、やっと今の状況がつかめた。


「もしかして閉じ込められた…?」

「そうみたいだね」


何故か部屋の中からジュリの声に答える声が聞こえて、驚いて飛び上がった。カルロなら絶対失神しているはずだ。


「だ…誰!?」


ジュリの前に姿を現したのは、笑みをたたえたミカだった。


「ミ…カ?え?何でこんな所にいるの?」

「僕はまあ、サボりかな?ここは一人で寝てても見つからないんだよね。ジュリこそ何でこんな所にいるの?」


サボったり出来るんだ…


勉強しなければと必死なジュリにとっては目から鱗で、自由な彼が少しだけ羨ましいなと思った。


ジュリは嫌がらせの事でここに呼び出されたことなどを説明すると、ミカは眠たそうな顔で扉に手をかけた。


「本当だ、開かない。貴族だから平民虐めなんて…つまらないことをするよね」

「ミカも貴族だけど、そういう差別をしないよね」

「差別なんて自分に自信がない奴が、相手を見下したくてするものさ。自身の地位をひけらかした所で、所詮同じ人間でしかないのにね」


確かにジュリの周りの貴族たちもそんな事はしないが、嫌がらせが続くとジュリの態度が間違っていたのではないかと感じてくる。


さっきの声はカイルの名前を出してたよね?やっぱり見られていたのかな


嫌がらせが始まったのは、以前カイルと貴族街に行ってからだ。学院に通う貴族たちは、普通なら平民であるジュリが親しく話せる間柄ではない。貴族に平民が気安く声をかけて仲睦まじくしているのを、厭う人間も多いことは知っていた。


少し悲し気に目を伏せるジュリを見ながら、ミカが隣に座るように声をかけてきた。


「ちょうどいいや、僕ジュリとゆっくり話してみたかったんだよね」

「何を?」

「恋愛について」


えっ!?


にこにこしながら見てくるミカを見据えながら、何が始まるのとジュリは目を丸くして彼の隣に座った。


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