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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第三章 隣国の皇子
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最終学年へ

学院祭も終わると、今年度の行事や授業はほぼ終了したと言ってもいい。一、二年生は帰省の準備を始めているが、三年生は卒業式に参加するべく全員残っていた。


「三年生も結構やる事あるんだね」


花の手配や催しの企画などを在校生がやるらしく、希望して組み分けされる。ジュリは用紙に書かれた項目にざっと目を通した。


「でも何で三年生だけなんだろうね…?」

「元々は代表者のみで、後は保護者や学院関係者だけのものだったみたいだ。けれどいつの間にか三年生全体で送り出すものになったらしい」

「ほう…?」

「まあ、三年生は選択授業なんかは四年生と合同だからな。仲良くなる奴らも多いから、自然と参加希望者が増えて行ったんじゃないか?」


カレンとカルロの説明を聞きながら、そんな伝統があるのかとふんわり聞いていた。魔術師コースは実践が多い為、力の差がある上級生とはあまり接していない。反対に騎士などは人数も少ないからか、顔を合わせる機会も多かったようだ。


私は何にしようかなあ…


三年生は全員参加らしく、特に希望がない者は無難に花係になっている。ジュリは四年生に少し関わりのある聖女候補のリズがいるので、何かしたいなと思った。


贈り物…あっ手作りのお菓子がある


「お菓子作りに参加しようかな」

「お前あわよくば残り物を狙ってるだけだろ。やめとけ、お前に菓子作りの才能はない」


カルロの指摘にむっとしながら、何で分かるのと反論した。


「回復薬すら作れない奴がまともなもん作れると思ってんのか?卒業式に死人を出す気か」

「ちょっ…!それは一年生の時のでしょ!?大分マシになったんだからね」


喧嘩する二人を見ながら、カレンが割り込んで止めた。


「わかった、私がジュリと同じ組になろう。どうせ大人数で作るのだから失敗はしないだろうけどな」



希望通りジュリとカレンはお菓子作りを担当する事になった。貴族のお嬢様達は自分たちで何かを作るという事をあまりしないらしく、競争率も高くなかった。比較的下位の爵位の子達の方が、調理経験があるようだ。


「じゃあ始めるわよ」


何故か薬学のミルゲイが指揮をとっているのに、ジュリは首を傾げた。食堂にいる調理師の誰かが教えてくれるものだと思っていた。


しかも何か不思議な形をした薬草やらが並んでいる。お菓子だよね…?


「あれは幸運を呼ぶと言われる花、あっちは願いが叶うと言われる果実だな。要は縁起物ってやつだろう」

「へえ、それを使うんだね」


作り方の紙が配られて、見た感じ焼き菓子を作るようだった。そしてミルゲイが適当に説明を終えると、後は勝手にしてちょうだいと寝た。あいかわらず過ぎる。


そして瓶の中に入った果実を取ろうとすると、それはいきなり跳ねてジュリの頭を体当たりしてきた。


「ぎゃっ」


小さいのでそこまで痛くはないが、それはぴょんぴょん跳ねながら口もないのにけけけけと笑っている。


けけけけって…


「あっそうそう!魔術で捕まえてもいいけど、器材壊したら退場よ」


ミルゲイがぱっと起きてそんな事を言うと、次の瞬間にはもう寝ていた。


それはもう魔術禁止って事では?


魔術を使えば器材どころか、調理台が吹っ飛びそうだ。


回復薬を作る時も飛び回る豆を扱うのに苦労したのを思い出した。ミルゲイ先生の薬草って何でこんな変なものが多いの!?


生徒たちは諦めて、息を切らしながら果実を集めて行った。



それから数日後、卒業式は静かに厳かに始まった。書授与、来賓紹介などこの時点でジュリはとても眠くなり頭が船を漕ぎだした。


やや意識を失っていたように思えたが、いきなりわあっと溢れ出した生徒たちの歓声に覚醒した。


「え!?なになに」


目の前には沢山の精霊や剣舞をしている卒業生たちがいた。何だか仮面舞踏会のような解放感に溢れた雰囲気に、何が起ったのかとジュリは目を瞬かせた。


「卒業生による披露の場だ。今まで習った事を惜しげなく学院側に見せて、感謝の意を捧げると言う…のは建前で、まあ騒ぎたい祭りの催しだな」


だよね?学院の偉い人避難してるし…


ただこんなに沢山の精霊たちを見る事はあまりないので、すごく新鮮だった。そのうち雨のような透明な粒が降ってきたが、それは水ではなく固形物だった。


手に取ると水晶のように透明な石でキラキラと光っており、ジュリはバラバラと降ってくるものをぽかんと見上げていたら思わず口の中にヒットした。


「…!!…!?何これ甘い!飴なの?」


無限飴に目を輝かせながら、この魔術覚えたいなあと心底思った。各々が使える魔術を駆使して、多少派手なものはあるが攻撃性は殆どないもので、在校生らを楽しませてくれた。


恒例のローブの交換なども同時に行われていたらしく、すでに誰か誰だかよくわからない。仲のいい友達や恋人と交換するんだっけ?


そんな中で唯一、目立つ黒いローブを見つけてジュリは近寄って行った。


「リズ先輩!卒業おめでとうございます」


リズはあまり騒ぎに参加できないのか、恋人のジゼルと一緒に端の方に避けていた。ジュリを見て微笑みながら、ありがとうと返してくれた。


「卒業式って思いのほかすごくてびっくりしました」

「私も初めて参加した時は驚きました…。でも去年はもっと酷かったような?火で講堂が焼けそうになってましたし」


火と聞いて何か頭を過ったが、まさかねとあまり考えないようにした。


「今回はあの銀髪の少年と一緒ではないんだな」


ジゼルの問いにジュリはふと考えた。そういえば前回二人に話しかけた時は、ライが一緒だった記憶がある。少しだけ寂しさも感じながらそうですねと返した。


出来るだけ話の方向性を変えようと、ジュリは別の話題を振った。


「そういえばリズ先輩、あれから選択授業には出ていませんよね?」

「ええ、四年生は昇級試験が卒業試験のようなものだから、それが終わったら全過程終了するんです。もちろん授業も出なくてよくなるし…」


試験と聞いてジュリはひやりとした。私は卒業できるんだろうか…


「それは、どのような…?」

「全員同じではないみたいですよ?ジゼルとは全く違うものだったから。私は聖女候補だからか師長が担当してくれました」


師長は聖女試験も担当していたし、聖女に関係するものには必ず携わっていたのであまり驚きはしなかった。


「特に普通の試験とそこまで変わりはなかったですけど、あ…そういえば、試験の最後に貴方は大丈夫でしょうと言われました」


どういう意味かと聞いても、リズもよくわからずに首を傾げていた。


「あと、精霊の契約を以後禁止されました。契約するには宮廷魔術師の許可が必要になるようです」

「え?」


学院外での精霊の契約は禁止されている?でも私は入学前からシグナと契約してたけど…それはいいの?知らなかったから?


正直学院の規則にはよくわからないものがある。元々何故、聖女候補は四属性の精霊と契約しなきゃいけないんだろうか?


「聖女候補は四属性だから、リズ先輩も四人の精霊と契約したんですよね?何か起きました?」

「何か…とは?」


あれ?


ジュリは自身の精霊が、他の精霊と契約する事に乗り気ではないと説明した。


「私はその、人語を話せる高位精霊と契約したのは四年生が初めてなんです。四年生は森への探索が可能になるからジゼルに手伝ってもらって…」

「じゃあリズ先輩は高位精霊はひとりしか契約してないって事ですか?」

「そうなりますね」


確かにカレンやカルロも特に高位精霊と契約していない。聖女候補は四属性の精霊との契約は必須でも、高位精霊と限定されているわけではない。


…あ


「リズ先輩は三年生も古代魔術の選択をとってました?」

「いいえ、今年に入って初めて呼ばれたんで驚いたんです。元々建築魔術をとってましたし」


そして少し雑談した後に、リズたちは同級生に誘われて去って言った。ジュリは手を振りながらひとつの仮説を立てていた。


選択授業に誘われたのは聖女候補である事が前提なのは間違いない。そして気になっていた三人の共通点はもしかしたら…。


高位精霊と契約しているから?


シェリアの高位精霊は魔闘で見せてもらったので間違いない。師長が言っていた素質とは、つまり高位精霊と契約している四属性にその可能性があるという事ではないだろうか?


なぜそれが結びつくのかまではわからなかったが、ジュリは来年最後の精霊と契約しなければいけない。そこで何が起るのかとても不安を覚えた。

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