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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第三章 隣国の皇子
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昇級試験(三年生)

ジュリは放課後図書室で、新しい本を借りようとうろうろしていた。物語はそれなりに読破したので、歴史や神話についての書棚を見ていた。


そういえば光と闇って物語にもあまり出てこなかったな


やはり四属性がほとんどで、特に闇に関しての本は見ていない。光は聖女に関するものに比喩として用いられている事が多い印象だったが、聖女が光属性を使うと言う明確な言葉はなかった。


でも光が聖女なら、闇は…魔女かな


聖女と魔女は対比としてよく使われるからだ。魔女は物語の中でも暗い役を担っている。どちらも存在はしてないが人は善悪を付けたがるもので、聖女を悪だと言う人間がいないように、魔女を賛美する者もいない。


ジュリもずっと魔女だと蔑まれていたので、あまりいい印象を抱いていなかった。


光属性と闇属性は師長に聞けば、もっと詳しくわかるかもしれない。けれど知りたいと思うと同時に、知る事が怖いと思うのはなぜだろうか。


元々選択授業でしか習わないのだから、必須の知識ではないはず。なにより私はどちらも持ってないんだから


そんな事を思っていると、図書室には普段いないはずの珍しい人物がいた。


「カルロ?探し物?」

「まあ…」


カルロが自発的に本を読んでいる姿をあまり見ないので、少しだけ驚いた。そして何となくまだ頭に残っていた属性の疑問を口に出していた。


「ねえ、カルロは光…はっ」


“この授業で見聞きした事を他者に漏らさないようにして下さい”


そういえば、選択授業の内容は口止めされていたのだった。なんだよと聞いてくるカルロに、どう誤魔化そうかと頭をぐるぐる働かせた。が、無駄だった。


「ひっひひひひ」

「…何、気持ち悪い笑い方してんだよ」


こいつ頭大丈夫かみたいな不名誉をもらったが、上手く誤魔化されてくれたのでよしとしよう…


「それよりもうすぐ昇級試験だぞ、今年は術技大会が中止になったからこっちで稼がなきゃいけないからな」

「えっもう!?」


お前毎回同じ台詞言ってるなと突っ込まれながら、今年は実技が多かったのと先日まで個別授業だったのですっかり忘れていた。


そっか、だからカルロも図書室にいたのか


「そういや俺はやっとディオになったけど、お前はいつの間にかトリアになってんな。くそっ」


言われて自分のバッジを見ると、いつの間にか葉の形に変化していた。しばらく忙しくて気付かなかったけど、いつ変化したんだろう?


前の時もだけど、高位精霊との契約の時かな?


なら順調にいけば四人目の精霊との契約で、蕾であるテーセラに変化するのだろうか。しかしジュリ自身の魔術が特別上達したわけでもないので、そう思うのは都合がよすぎな気もした。


精霊を集めるのをシグナは嫌がってたけど、あれもよくわからないんだよね


とりあえず今は昇級試験だ。ジュリも試験範囲の確認をカルロとした後に、急いで寮に戻った。




三年生の昇級試験は師長が待ち構えていて、実技が先に行われるようだった。何故か師長がいるだけで皆不穏な空気に襲われた。


「皆さんには呪術に関しての試験を受けてもらいます」


そして師長が自身の精霊を呼び出した。青い陣の中から現れたのは、見た目はすらっとした女性のように見えた。


あれは水の精霊かな?


「彼女は主従契約とは別に、人に憑依する事が得意な精霊です。魔物の中には人間を操る事を得意とするものが一定数いますが、魔術師はそれに対する耐性が必須になります」


誰かが何故?という質問をすると、師長はゆっくり答えてくれた。


「魔術師が身体を操られると、魔術や契約精霊などその者が持っている力は全て使用する事が可能になります。ならば、どうなると思いますか?」


私が憑依された時も、シグナは水属性以外の属性も使えたよね?あれは確か、私の身体だからと言ってた


「…魔術師の同士討ちになっちゃうから?」

「ええ、かなりの被害が出るのは、学んでる貴方たちでもわかるでしょう。けれどどんなに優秀な魔術師でも高位精霊には敵いません。知恵を絞り、策を練っても五分でしょうね。だから高位精霊の契約者にこそ必要なものでしょう。特に聖女候補は…」


聖女候補は…?


なんでここで聖女候補が出てくるのか不思議だった。高位精霊との契約は、四属性に限らないよね…?


一、二年の昇級試験よりレベルがあがって、なかなか合格に達しない生徒も出てきた。授業の応用という形の試験に苦戦しているようだった。


「何度でも挑戦できるので、失敗しても大丈夫ですよ」


精霊を憑依させて、抵抗できればOKだそうだ。ジュリはシグナとの契約で憑依には慣れているが、慣れているからこそ不安があった。


いつも通りだと失敗するよね…?


今までにジュリが身体の主導権を握れることは一度もなかった。けれど試験は待ってはくれないので、受けなければいけない。


お願いしますと師長の前に行くと、にこりと微笑まれた。その顔が怖い…。


精霊がジュリの肩に手を置くと、シグナの時とは違って入ってくる感触が嫌と言う程わかる。冷たい様な、重い様な、何とも言えない不快な感覚だった。


うう気持ち悪い


何かに抵抗するかのように手がぶるぶると震えて、ジュリは立っていられなくなって膝をついた。自分の意思と関係なく動く身体に抗う。


やめてってば…出てって!


こころの中で叫ぶと、ふっといきなり身体が楽になった。目を開けるととても汗をかいていて、自分の両手が見えた。


手足を動かすとちゃんと感覚はある。何がどうなったのか、周りを見回すと師長の精霊らしき女性が佇んでいた。


えっと…?


「うん、まあいいでしょう。今度はダメージを受けないように出来るといいですね」


にこりと微笑む師長を見ながら、ジュリはしばらく呆けた。


終わった…?出来たの?


あれだけシグナと練習しても出来なかったのに、なぜいきなり出来たのだろうと首を傾げた。考える暇もなく、次は座学の試験なので暗記するために急いで教室に向かおうとした。


師長の前を通り過ぎる時に立ち止まると、彼も気づいて目線を合わせる。


「あの、選択授業なんですけど…。なぜ私が呼ばれたのですか?」


後からカレン達に古代魔術の選択などなかったと言われて気が付いた。やっぱりあれは、師長が事前に選んでいたのだと。


「あれ?言ってませんでしたっけ?」


言ってません~


「貴方達に光と闇の素質があるからですよ」

「え?」

「もっと詳しく言えば可能性がある、程度ですけどね。魔術師には最初から光と闇の属性を持って生まれてくる者はいません。あれは後天的に習得するものなのです。色々と条件はあるようですが」


なっ…


「光と闇についての質問は、また授業で伺います。あまり大っぴらに話す事でもないですから」

「あっ待って…、最後にひとつだけ…!その力は国にとってどう思われていますか?」


師長は口に手を当てて、意味ありげに目線を外した。ジュリは平民が大量に亡くなったことが頭を掠めて、不安を口にしたようなものだったのだが。


「そうですね…。原初の属性はとても偉大な力でしょう。けれど同時に存在してはいけないものとも言われています、四属性の均衡が崩れますから。特に片方はね」


片方…?光か闇のどちらかって事?


次の試験があったので、ジュリはそのまま急いで教室に向かった。けれど教えてもらった事がいつまでも頭の中を反芻していた。



座学の試験は集中できなかったのもあって、散々だった。実技でなんとか及第点をとったようなものだろうなと納得する点数だった。


横からカルロがのぞき見ながら、うわひどっとジュリの点数の感想を言っていた。うるさいな。


今年の学年一位もシェリアで、いつも通り称賛の拍手を送った。それを見ながらジュリは別の事で頭がいっぱいだった。


色々条件があると言ってたけど、三人に共通するものがあるって事だよね


勉強は雲泥の差があるとして、自分とシェリアの共通点なんて四属性くらいしか思い浮かばなかった。なぜこんなに光と闇が気になるのか、それは単にもう人の輪を外れたくないという気持ちが強かったのかもしれない。外れ者の孤独は村に居た時にずっと味わっていたから。


正直、人と違うものなんて欲しくないし、このまま平穏に卒業したいなと願っていた。

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