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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第三章 隣国の皇子
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選択授業

勉強の遅れも取り戻し、今日からまた魔術師の仲間と一緒に授業に出れることになった。


「あれ?」

「どうした?」


ジュリの不思議そうな声にカレンが近く寄って尋ねてくる。


「う…ん、教科書が足りなくて…。寮に忘れて来たかな」

「もう取りに帰っている時間はないだろ?」


変だなとは思いながらも、ジュリは頷いて教室に急いだ。教室に入るとやや注目されて、カルロの陰にすっと隠れた。


他国に連れ去られ、事件に巻き込まれた当事者として、おもしろおかしく言われているのは予想の範囲内だったが、好奇心から見てくる者、特に興味ない者、ひそひそと陰口らしきものを言う者など様々でやはり居た堪れない。


「うう…」

「今だけだろ、気にしなきゃいいんだよ。どうせ話しかけてこないんだから」


しかし席に着くと後ろから自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。そしてどんっと机の上に果物やお菓子が入ったバスケットが置かれる。


「ジュリちゃん、授業復帰おめでと~」

「アルス?え?」


美味しそうなお菓子に目を輝かせながら、アルスとバスケットを交互に見る。何でもお見舞い兼、先日自分の代わりにカイルと一緒に貴族街に行ってくれたお礼だそうだ。


「ちょっと最近体調崩す事が多くてね、歳かなあ」

「そうなんだ、大丈夫なの?」


そういいつつもお菓子が気になるジュリを見ながら、アルスはふふっと笑った。


「そうそう、兄と会ったんだってね?元気にしてた?騎士団に入ってからは僕も会ってなくてさ」

「ああ!うん、助けてもらったからお礼を言いたかったんだけど、騎士団ってそう会える方じゃないんだね。とっても強い方だったよ」


ライもかなりの武術の使い手だと思っていたが、アルスの兄の方が上に見えた。騎士団っていうくらいだからみんな強いんだろうけど、あの剣技は素人目から見てもすごかった。


「騎士団長と副団長の次くらいには強いんじゃないかな?第一分隊の隊長だから…」

「へえ、じゃあ未来の副団長なのかな?」

「え?うーん、どうかな…」


あれ?


何となく気まずそうに目を逸らすアルスを見ながら、聞いちゃいけない事だったのかなと思った。そんなおかしな事を言ったかな…


カイルの父親が団長だからカイルもそれに憧れてて…?それでアルスはカイルの側にって言ってたから多分騎士になるんだよね…ん?


兵士は実力主義な部分が大きいのは聞いていたが、騎士は殆ど貴族なので実力と同じくらい身分も考慮されるのだと思う。アルスの父が副団長なら、息子がなる可能性も高いような気もする。けれどそれはどちらなのだろう…?


事情はわからないが、あまり詳しく言いたくなさそうだったのでそれ以上聞くのはやめておいた。


そして休んでいる間の必要書類などが渡された。選択授業の希望用紙もあって、ジュリはそれに目を通した。


うわ、結構多い


ざっと見ても二十種類弱あって、半分くらいは何を学ぶかよくわからない。ただすでに高学年の授業なので、進路に結び付くものが多いように見えた。


建築魔術と修復、医療魔術と薬学…


「うーん、どれにしよう…ねえ、カルロは何にしたの?」

「魔術道具の開発技術。俺は魔術を扱うのそんなうまくないし、作る方がまだ向いてる気がするんだよ。しかも売れるしな」


ああ、カルロは商人だもんね


正直自分の進路が不透明なジュリは、これというものを選べない。魔術に関する事は学びたいが、得意と言うわけでもない。


精霊学…はちょっと見てみたいかなあ


「選択授業はひとつじゃなくてもいいらしい。私もふたつとっているし」


真剣に悩んでいるジュリにカレンが助言してくれたが、ものすごい勢いで首を振った。


「それって選んだ分だけ試験も増えるんだよね?無理無理やめとく!」

「おっ前、勉強苦手だもんなー」


ははっと笑うカルロを見ながら、自分だって人の事いえないくせにと口を尖らせる。そして午前の魔術の授業で師長がやってくると、ジュリと目が合いにっこりと微笑まれた。よくわからずに、にへらと変な顔で返すと、ジュリの持っている用紙を指さした。


「貴方は選択授業で必ず、古代魔術と神話の歴史をとってもらいます」


え!?強制!?なんで?


しかもそれは研究者希望なんかが選ぶようなものじゃないだろうか。神話には興味あるけど…


「別に他のをとるなと言ってるわけじゃないですよ?」


私にとっては言ってるのも同じなんですけど…


教師に言われたら断る事なんて出来ないので、渋々了承した。そして古代魔術の授業が選択用紙欄のどこにもない事に、気が付いていなかった。



選択授業は三年生と四年生が合同で習うようで、ジュリは初めて四年生の階にやってきた。


この教室でいいんだよね?


そろそろと扉を開けると、すでに着席している生徒は二人しかいなかった。


え?少なくない?


しかも二人とも知っている人物で、一人は同じ学年のシェリア、もう一人は以前会った四年生のリズだった。ジュリを入れて三人しかいないが、全員聖女候補なのは偶然とは思えない。


シェリアは目が合うとにこりと微笑んでくれて、リズも軽く頭を下げて挨拶してくれた。とりあえず近くの席に座ると、扉ががらりと開いて担当の魔術師が入ってきた。


「古代魔術の授業を担当するレヴィンです。よろしくお願いしますね」


うん、知ってた


つまり三人とも師長に強制的に授業に参加させられている可能性が高い。


聖女候補だから?でもカレンやカルロがいないのはおかしいよね?


そして師長から授業の説明を簡単に受ける。


「この授業で見聞きした事を他者に漏らさないようにして下さい。書き留める必要もありません」


え?授業なのに?どういう事?


不思議そうに首を傾げていると、他の二人がわかりましたと了承したので慌ててジュリも倣う。


そして師長と生徒三人だけの不気味な授業が始まった。


「まずここで学ぶ古代魔術とは、どんなものだと思いますか?」

「えっ…?」


いきなり当てられてジュリは一瞬戸惑った。そして昔、魔術師の道具屋で話したおじさんとの会話を思い出した。


「失われた魔術というやつでしょうか?」


師長の目が良く知ってましたねというように細められるのを見ながら、答えを待った。


「諸説ありますが、今は幻と呼ばれている失われた魔法とは少し違うものだと僕は考えています。実在はしているけれど、人間が使う魔術の域を超えているもの、でしょうか。何より四属性のどれにも該当しない力にあたります」


四属性以外…?


「それは属性があるのですか?四属性以外の?」


シェリアが質問すると、師長はありますと即答した。


「ここからは少しだけ神話のお話になりますが、まず四属性が生まれる前に属性は二種類でした。光と闇、相反するこの二つは交わる事はなく、お互いに衰退していきました。けれど光から水、土、炎、風の四つの属性が生まれ、今に続くと言われています」


光と闇…


「この二つが授業で学ばれなくなったのは、今は使える者がいないからと言われています。けれど記録には確かに残っているので実在はしているのです」

「光や闇は魔術では使えないものですよね?創作魔術でも術式には出来ないと言われていますが…」


今度はリズが質問すると師長は頷き、だから人間が使う魔術の域を超えているものと言われていますと回答した。


魔術で使えないのに、実在しているとどうやって示すのだろう?人間が使えないのだとしたら…?普段は使わない頭でぐるぐる考えていると、以前ライが言っていた言葉を思い出した。


“昔にあったとされるなら、もしかしてもっと別の似たような魔術、もしくは精霊がいたのかもしれませんね”


…精霊?


光と闇の精霊がいるかもしれないって事?でも属性がないと精霊とは契約できないんだよね…?


そして終業の鐘が鳴ると、今日はここまでにしましょうと最初の選択授業は終わった。何だかもやもやが残る授業だったが、一番気になる事は別にあった。


何故この授業に三人だけ呼ばれたのだろうか?それを知ってしまう事によくわからない不安を覚えて、ジュリは考えるのをやめて次の授業に急いだ。

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