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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第三章 隣国の皇子
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貴族街

「おーい」

「…え?」


そんな声にやっと気づいたジュリは後ろを振り向いた。カルロはずっと呼んでいたのにとちょっとお怒り気味にデコピンしてくる。痛い。


「最近ぼーっとしすぎだろ!そのうち池にでも嵌るぞ」


ライが居なくなってから何となくジュリの元気がないのをみんな知っていたので、どうしたとは聞かれない。変に心配されるよりはカルロのいつも通りの叱責の方が、心地よかった。


いけない、いけない


カルロやカレンも口にはもう出さないが、それぞれ思う事もあるだろう。ジュリだけ気を使われるわけにはいかない。


「はーい…で、何なの?」

「ああ、気晴らしに街に出ないかってカレンも一緒に」

「あっいいね!行きたい」


そう言ってカレンのいる所まで一緒に行こうとして、自然とカルロの手をとるとぱっと放された。


あれ?


「あのな、俺たちもう手を繋ぐような年齢じゃないだろ」

「え?そう…かな?」


そうなのと力強く返答して前を歩いていくカルロを見ながら、この前まで普通に手を繋いでいたと思うのに、寂しいなと思った。


シグナとは普通に繋ぐけどなあ…


まあシグナは何歳になっても繋いでくれそうだけど、なんて思いながらカレンの元に急いだ。窓際にいるカレンにカルロが話しかけると、付いてきているジュリを見て手招きされた。


「街のどこいくの?」

「基本的に治安や警備の関係上、学生は貴族街しか許されていない」


前にカルロと買い物行った時は市民街だったよね?ライがいたからかな


そんな事を思いながら、地図を見ていると飲食店の他に花のようなマークのついた場所が何個かある。ジュリがこれ何?と聞くとカレンが特に興味無さそうに教えてくれた。


「男女で訪れる人気の場所らしい。景色の良い場所や告白が成功するとか言われている所もあるな」


ああ、学院って恋愛イベントが絶対あるよね


そして三年生になると選択授業が増えるので、なかなか三人の予定が合わなかったりする。特に薬学の分野のカレンは忙しそうで、今日もこれからが課題に追われるらしい。


私はまだ選択授業決めてないんだよね…どうしようかなあ


日取りはその内決めるとして、その場は解散した。それからジュリはひとりで寮に戻ろうとすると、ミカが待っていた。


「わあ、なんか久しぶりだね」

「ふふ、大丈夫だってわかってたけど、ジュリが元気そうでよかった。僕たち生徒は他国について行くことは出来なかったからね。待ってるだけって落ち着かないもんだね」


ミカにも心配かけたようで、謝罪すると微笑まれた。


「そうだ、今度カルロ達と貴族街行くんだけどミカも一緒に行かない?」

「貴族街?ああ、もうそんな時期か」

「…?どういう事?」


何でもないと返されてさらに困惑した。ミカはたまにわけのわからない事を言ってはひとりで納得している。


「僕は二年生だから、まだ貴族街への外出許可はとれないよ。来年誘ってよ、喜んで受けるから」

「ああ、そっか。そうだよね。ミカはしっかりしてるし、よく話すから学年下だって忘れちゃうんだよね」


そしてそのまま別れて渡り廊下に差し掛かる部分で、門の近くで知り合いがうろうろしているのが見えた。


「カイル、何してるの?アルス達は一緒じゃないの?」


ジュリが声をかけると、カイルがばっと顔をあげて詰め寄ってきた。


「ジュリ!もう大丈夫なのか?君は無事だって聞いてたけど、授業にも全くでないからちょっと心配だったんだ」

「私は元気なんだけど、勉強が遅れててまだみんなと一緒に授業が受けれないの。もうちょっとで追いつくよ」


ほっとした顔に心配してくれたのかとお礼を言おうとしたら、先にカイルが口を開いた。必死な形相がちょっと怖い。


「それで!これから何か用事ある?」

「う、ううん…ないけど」


それを聞くと、とても分かりやすい嬉しそうな顔をしたカイルにジュリは口元が緩んだ。犬だったら大きな尻尾がぶんぶん動いているようだ。


「これから僕と貴族街に行ってくれないか?」

「えっ!?」


なんでと理由を問うと、行きながら話すと事務室で二人分の許可証をもらって、ものすごい速さで門を出てしまった。


ええ…!?


貴族街は徒歩で行けるくらい近くにあるようで、二人はそのまま歩きながら道を進んだ。学院が少し遠のいたところで、呆然とするジュリにカイルがものすごい勢いで謝ってくれた。


「ごめん、本当に!アルスと来るはずだったんだけど、直前に用事が出来たとかで同行者に困ってたんだ。僕はそれほど友人も多いわけじゃないから」


同行者?ああ、そういえば二人以上じゃないと外出はできないんだっけ


「ディアスはいないの?」

「その…」


なんとディアスとシェリアは貴族街でデートをしているそうだ。しかしカイルが婚約者の立場なので、見られたら色々と面倒な事になるという。


「出来るだけ二人きりにはしてあげたいが、僕が学院にいると言い訳ができなくなるだろ?貴族街にいるなら、アルス達と一緒に来てはぐれたとも言えるし…」


なるほど


「毎回こうやって気を配ってあげてるんだね。カイルはシェリア様の婚約者だけど…その、カイルはいいの?」

「ん?僕は彼女に恋愛感情はないよ。それに二人が好きあってるのは小さい頃からずっと見ているからね。家同士の婚約はどうにも出来ないけど、友としては応援してあげたい。二人が幸せそうなのは嬉しいよ」


まるで自分の事のように嬉しそうに言うので、本当に優しい人なんだなとほんわかした。


…ん?


「ねえ、それって私とカイルが一緒にいるのもまずかったりしない?」


今気づいたというように、カイルがはっとしてジュリを見つめた。カイルはやっぱりどこか抜けている。


「私小さくて子供っぽいから、女って忘れられるんだよね。最悪妹でもいけるかも?」

「ジュリが女性だって事、忘れた事なんてないよ?」


にへっと変な顔で言うと、カイルが真顔で返してきたのでびっくりした。


「ううう、うん、そ、そっかあ…」


動揺して変な返しをしたジュリに首を傾げながらも、カイルが手を伸ばしてきた。手を取れって意味だと思うけど…


「友達にもう手を繋ぐ年齢じゃないって言われたから…」


しょんぼりして手を見つめているジュリに、カイルがははと笑った。


「これはエスコート。女性に男性が付き添う大人の挨拶だよ?」


ぱっと顔をあげたジュリの手をとって、案内するように貴族街に入って行った。いつもシグナとも友達とも手を繋いだりしてたのに、そんな事言われると変に意識してしまう。手が熱い…。


カイルは貴族街は何度か来た事あるようで、見える所から色々と説明してくれる。生活用品などは殆どなく、装飾品や飲食店が多いようだった。貴族用の娯楽街と言った雰囲気だろうか。


美味しそう…!


それでも食べ物大好きなジュリには十分興味をそそられるものが多く、目があちこち泳いでしまう。そして次に値段の高さに目が飛び出そうになった。


たかっ


けれど綺麗なお菓子から目を離せずにじっと見つめていると、カイルから何か欲しいものあるかと聞かれた。


「うーん、あんまり沢山お金持ってきてないから」

「何言ってるの?女性にお金を出させるわけないだろう?」


えっと顔をあげると、手短なものから次々と買ってはジュリに渡してきた。


ひえっそういえばカイルって貴族のお坊ちゃんだった!


「待って待って!有難いけどこんなに食べれないよ!勿体ないでしょ?」

「僕が食べるから!」


何だか楽しそうなカイルを止める術をしらず、ジュリはただ金はあるとこにはあるんだなあと思いながら見ていた。


丘の上の静かな場所で二人で買った物を食べながら、夕日を見ていた。高いだけあってやっぱり美味しい、もぐもぐ。


カイルは男性で騎士なのもあってか、有言実行でジュリの倍以上食べている。それを見ながらふと声にだして、聞いていた。


「カイルは結構位の高い貴族だから、こういう外で座ったりして食べないと思ってた」

「ええ?一緒に龍の湿地帯に行ったじゃないか?騎士は従軍したり過酷な状況になったりするからね、いつだって何だって食べるよ?」


そういえばそうだったかも


明るく言うカイルが、龍の湿地帯で体験した小さな子供のカイルに被るようで、何だか可愛く見えてくる。そしてジュリは小さな飴玉の瓶をとりながら、沢山の色の中から赤を選ぶとカイルに渡した。


「はい、カイルのだよ」


カイルは赤い飴玉を受け取りながら、じっとそれを持って口に運ぼうとしなかった。


「赤か…。僕は小さい事からずっとこの色が好きだった。けれど親の期待を裏切るのが怖くて、どうしても赤がいいって言えなかったのを思い出した。言えば良かったのに、どうしてしなかったんだろうな。成長して気付くものが増える度に、後悔する事が多い気がする」

「カイル…?」


忘れてと言われたが、ジュリは何となくその話に覚えがあった。ただ思い出を盗み見ましたとは言えずに、何と言おうか考えた。


「あのね、私の家族の言葉なんだけど、気付いた時から行動すればいいんだって。今日より若い日はないんだから後悔してる暇があったら今しろーって怒られるの」


ダメかな?という顔をしてジュリが首を傾げると、それを聞いたカイルが笑い出した。流石ジュリの家族だねと言われたが、それ一応褒められているんだよね…?


「ありがとうジュリ、楽しかったよ。ずっと君とこうやって話したかった気がする。何でかな?」


そして来た時と同じように手を差し出されたので、今度はちゃんとジュリも手を合わせた。夕日がとても綺麗でふたりの顔が赤く染まっているを見ながら、お互いを見つめた。


そしてここは男女に人気の夕日と夜景が綺麗に見える場所であり、この時二人を見ている人間がいるなんて全く気付いていなかった。

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