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笑わない魔女は光の聖女に憧れる  作者: 悠里愁
第三章 隣国の皇子
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ライ

目を開けると暗闇のなかにぼんやりとした灯りが目に入った。ライが何かを持って周囲を照らしているのだと気付いた。


「ライ…?それ何?」

「ああ、気付きましたか?これは灯り代わりになる植物です。意外と明るいでしょう?」


明るさのわりに小さい物のようで、手に乗せている花のような実のような部分がぼんやりと光って松明の代わりになっている。


怪我はないですかと聞かれて、自分の身体を触ってみるが特に痛い所などはなさそうだった。上を見るとそれなりの深さを落ちたようで、怪我がないのは運が良かった。


「ここは…?」

「地下道です。皇族の緊急用の避難通路にもなりますが、侵入者対策に使われる事が殆どです。罠が張巡らされているので、余所者は入ったら生きて出られないでしょうね」


ひえっ


「僕が居るから大丈夫ですよ」


いつも通り穏やかに話しかけて手を伸ばしてくれるライに、多少の不信感が出たのか一瞬躊躇した。それを見て少し悲しそうに察して手を引っ込めた。


「元々貴方には何もするつもりありませんから。ちゃんと地上に案内します」


そして二人で暗闇の歩き続けた。本当に詳しいようで、こちらは右次は左と迷いなく進んでは、踏んではいけない場所、触ってはいけない壁などを忠告された。


必要最低限の会話に気まずくなって、ジュリはライに話しかけた。


「ね、聞いていい?ライってこの国で生まれたんだよね?」

「いいえ?」


いいえ!?師長が出生の記録がないって言ってたけどあれ本当なのかな


「僕の両親が国外逃亡したのは話しましたよね。二人は魔術師の国にやって来て、僕を産みました。その後すぐに国に連れ戻されましたが、子供に魔力があるという不思議な事が起こったんです。両親は生粋の佳夕の国の人間なのに」


そういえばライと最初に話した時に、魔術師はこの国でしか生まれないと言っていた。それはこれに繋がるのかと思った。


「父はそのせいで処刑されたといっても過言ではないんです。敵国に通じて手引きしたかもしれないと疑いを掛けられたのですから」


あの時ライは、魔力を持っていることが必ずしも幸せではないと言いながら、怒っているのかなと思った。けど今なら分かる気がする、きっと…哀しかったんだ


「でも変じゃない?何で隣国の両親を持つライが魔力を持ってたんだろう?血統じゃないって事になるよね」

「ええ、魔術師の国はもっと何かを隠していますよ。僕が間者として探っていてもわからない事の方が多かったですから。そのひとつが四属性の聖女候補です」


まさに自分の事だと思って、ジュリは顔をあげて続きに耳を傾けた。


「今でこそ優遇されている聖女候補ですが、何十年か前まではそうではなかったようです。四属性は学院に通う事すら出来ていなかった」


それどこかで聞いたなと思った。


「あっヴィオール、カレンのお祖父さんが言ってたよ。聖女試験を設けた人物がいるって…その頃の四属性の人達ってどうやって勉強してたのか不思議に思ったんだよね」

「僕が不思議に思ったのは四属性の貴族ではなく、平民の方でした」


平民?貴族が学院に通えないんだから、平民は絶対無理だよね


首を傾げながら考えていると、ライはこちらを見ずに淡々と話した。


「古いものでしたが、四属性の記録を国は廃棄しないだろう思いました。そして見つけました、大量の死亡記録が」

「え?」

「平民で四属性に認定された者は早い段階で皆亡くなっていました。十歳から遅くても十二歳の間に」


ジュリはあまりに驚いて、目を瞬くしか出来なかった。


「事故…とか?病気?平民はそういうので死ぬことも少なくはないけど」

「全員ですか?あまりに不自然だと思います。貴族には子供に人数制限がありますが、平民にはないのは…そういう事なのかもしれません」


ライは決定的な言葉は言わなかったが、国が関与している可能性が高いのはジュリでもわかった。


…なんで?


「それでもあの国に帰りますか?もし別の国に行きたいと言うのならお手伝いしますよ、今度は本気で」


最初からライはジュリを本気で誘拐する気はなかったのだろうなと思った。バッジのようなわかりやすい足跡を残して、しかも四属性は国が必ず取り戻しに来ると知っていただろう。


けれど今、彼は希望するなら逃亡を手助けすると言っている。


ジュリはじっとライの目を見て、ゆっくりと首を振った。


「ううん、帰るよ。私の居場所はあの国にしかないもの。ライも…」

「僕は無理ですよ、流石にもう僕の居場所はないです」

「でも、でもライは女王様の命令に従って、家族の為に…」


そう言いかけたジュリの言葉をライが手で遮った。


「僕は確かに大事なものを守るためだと言いましたが、それが家族の為だと一言でもいいましたか?」

「違うの?」


話の流れできっとそうだろうと思っていたが、ライは違いますときっぱりと否定した。


「僕は自分の存在意義の為に行動しています。全て自分で決めた僕ひとりのものです」


ジュリはなぜ?というようにライを見ると、彼は少しだけ笑って諭すように話を続けた。


「誰かの為にとはとても綺麗な言葉ですが、それは自身の覚悟を共有させてしまうものです…罪を犯したとしてもそれを誰かのせいにしてはいけない、誰かに業を背負わすような事をしてはいけないと思います。僕は自分で選んで、この生き方をしています。これは僕の覚悟であって、誰の物でもないのだから」


その言葉はライの孤独を際立たせるようで、聞いていてとても悲しかった。そしてきっと何を言ってもライは私達を選んではくれないのがわかった。


かなり道を上がって来たのか、進む先がぼんやり明るくなってきた。きっと出口はもう近いのだろう。


「ここからは真っすぐに進むだけで出口にでられますよ。お一人で行ってください」

「ライは…?」

「僕が一緒に居たらまた戦いになってしまいます。僕はそれほど精霊の武器化に興味もないので」


少し明るい場所で見るライは、所々傷だらけだった。ジュリが地下道に落ちて無傷だったのはきっと、彼が庇ってくれたのだ。


「ライ!ライは…本当に自分で選んでここにいるんだね?」


このまま別れたらきっともう会えなくなるのはわかってた。だからもう一度会えるかなどは聞く気はなかった。友達なのも変わらない、けれど何がライの幸せなのかだけがわからなかった。幸も不幸も他人が勝手に決められるものじゃないのをジュリはよく知っていた。


「…ええ、満足しています。さようなら、どうか気を付けて」


そしてライは来た道を引き返して、暗い闇の中に消えて行った。


「嘘つかないって言ったのに…」


最初からライは正体を偽っていた。けれど彼が嘘をつくのは、いつだって誰かの為だった。

あんな平気そうな顔を装って、最後までジュリに蟠りが残らないように嘘をつく。


それはきっともう、何を言っても戻れないのをわかってるから。




ジュリが地下道から登ってくると、シグナに勢いよく抱きしめられた。


「ジュリ…!良かった!気配が全然見つけられなくて驚いた」


地下道は侵入者用の罠があると言ってたので、当然魔力に関する罠もあっただろう。シグナが一緒に来たら大変だったかも?


「ライが助けてくれたんだよ」

「彼はどこに?」


師長が話に入って来たので、どこに行ったかわからないとだけ伝えた。このままライを追うのだろうかと心配したが、他国でそこまで大規模に動く事はないようで、じゃあ帰りましょうかと言われた。


「ここから?師長たちはどうやって来たんですか?」

「魔術で道を繋げました。これが結構時間がかかって大変だったんですよ。さすがに何人も魔術師がこの国の検問を通るのは不可能ですからね」


なるほど


師長の横には騎士の男性もいて、ジュリと目が合うと微笑まれた。


「無事でよかった。我々も君の落ちた穴に続こうとしたのだが、こいつが絶対無事に帰ってくるからと止めるものでな」


こいつと呼ばれた師長がのほほんとした顔で頷いた。


「貴方を庇っていたのが見えたので。どこか冷徹になり切れない様子でしたね。僕が彼ならもっと効率よく貴方を使いますよ」


ぞっとする事を言われてすすっと離れると、シグナが目線を合わせてジュリに怪我がないか確かめてきた。顔が間近に迫ると、はっとして先ほどのキスを思い出した。


「シグナ…!そういえばさっき、主従契約したよね!?」

「え?うん、両手塞がってたし、まあ殆ど承諾済みみたいなものだったしね」

「…それだけ?」


少しだけ顔を赤くしながら問いただしても、シグナがそれが?というように首を傾げていた。


そうだ、シグナは人間じゃなかった。ミカは同じだよって言ってたけど、人間と精霊じゃやっぱり感性が違うんじゃないかな…?


自分だけ意識するのもなんか嫌だったので、シグナは家族のようなものだと言い聞かせて自分を落ち着けた。

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